1.塗り絵の説明
今回は、木や低い柵に囲まれた公園にある、昔ながらの滑り台を描きました。階段や手すり、滑る面を大きく見せ、細かい模様を増やしすぎない構図にしています。高齢者施設やデイサービスで、個別の余暇活動にも少人数のレクリエーションにも使いやすい塗り絵です。
滑り台の絵からは、ご自身が遊んだ頃のことだけでなく、学校の休み時間、近所の公園、子どもたちを見守った時間など、さまざまな話題が生まれます。一方で、遊具の有無や遊んだ場所は地域や年代によって異なります。「昔は滑り台で遊びましたよね」と決めつけず、本人が話したことを起点に会話を広げます。
塗ることより会話を楽しみたい人や、絵を眺めるだけにしたい人がいてもかまいません。作品の完成ではなく、その人が無理なく過ごせる時間を大切にします。
2.画像


着色画像の代替テキスト:公園の滑り台を淡い青、赤、緑、茶色などで柔らかく塗った着色見本
色見本と同じ色に塗る必要はありません。本人が選んだ色や好きな色を大切にしてください。
3.塗り絵を始めるときの声かけ
- 「今日は公園の滑り台の絵があります。よかったら見てみませんか?」
- 「滑り台と木がありますね。気になるところはありますか?」
- 「塗ってみたいところがあれば、どこからでも始められますよ」
- 「使ってみたい色はありますか? こちらから選べますよ」
- 「塗らずに、この絵を見ながらお話しするだけでも大丈夫ですよ」
4.塗り絵中の声かけ
- 「滑り台は何色にしてみましょうか?」
- 「木の葉にも、いろいろな緑が使えそうですね」
- 「滑り台の周りには、どんな音が聞こえてきそうですか?」
- 「公園に行ったとき、滑り台以外には何がありましたか?」
- 「ご自身が遊んだ場面と、誰かが遊ぶのを見ていた場面では、どちらが浮かびますか?」
- 「この絵の公園に一つ足すなら、何があるとよさそうですか?」
- 「空や地面は、今のまま白く残してもきれいですし、色を付けてもいいですね」
会話が出たときは、答えを急いで次の質問へ進めず、その人の言葉を一度受け止めます。
利用者さん:
「学校に滑り台があったよ」
介護士:
「学校にあったのですね。休み時間によく行く場所だったのでしょうか」
さらに話が続きそうなら、
「一緒に遊んでいたのは、どんな人たちでしたか?」
と、その人が話した「学校」や「休み時間」を手がかりに広げます。
利用者さん:
「私は滑り台では遊ばなかったよ」
介護士:
「そうだったのですね。よく遊んでいた場所や遊びは、ほかにありましたか?」
滑り台で転んだことや、子どものけがなどを思い出す場合もあります。そのときは明るい話に戻そうと急がず、「それは心配でしたね」「痛い思いをされたのですね」と受け止め、本人の様子に合わせて話題や活動を変えます。
5.介護士が知っておきたいポイント
- 色を訂正しない
滑り台が青や紫でも問題ありません。「本物はこの色」と直さず、本人が選んだ色を尊重します。 - 完成を急がせない
滑り台だけ、木だけなど、一部分で終えてもかまいません。続きを別の日に行う選択肢も伝えます。 - 本人のペースを尊重する
職員が空白を次々に指示するのではなく、どこを塗るか、いつ休むかを本人が決められるようにします。 - 「覚えていますか?」を繰り返さない
思い出せるかを試すような聞き方ではなく、「どんな色が合いそうですか」「何があると楽しそうですか」など、今の絵から答えられる声かけも交えます。 - 昔の暮らしを決めつけない
公園や遊具が身近でなかった地域もあります。きょうだい、子ども、孫がいることも前提にしません。本人が出した場所や人物だけを手がかりにします。 - 疲れの様子を見る
手が止まる、姿勢が崩れる、返事が少なくなるなどの変化があれば、休憩や終了を提案します。 - 色鉛筆を持ちにくそうではないかを見る
太めの色鉛筆や握りやすい補助具を用意し、必要に応じて紙が動かないよう固定します。本人の了承なく手を取って動かさないようにします。 - 絵が見えにくそうではないかを見る
まぶしさや影を避け、見やすい位置と明るさを整えます。色の選択肢を少なく並べる方法もありますが、職員側で勝手に色を限定しないようにします。 - 会話だけになっても問題ない
滑り台をきっかけに話が続くなら、塗り絵を止めて聞く時間にしてかまいません。回想を引き出すことや作品を仕上げることを目標にしすぎないようにします。 - 楽しい記憶だけを求めない
遊具の絵が、転倒やけが、子育て中の心配などにつながることもあります。否定したり、美しい思い出に言い換えたりせず、表情や声の調子を見ながら関わります。
6.滑り台にまつわる年代別の出来事・暮らし
滑り台の思い出は、住んでいた地域、学校、公園の整備状況によって大きく異なります。以下は「その年代なら誰もが同じ経験をした」という説明ではなく、会話の入口として使うための背景です。
昭和20年代(1945〜1954年)
戦後の生活環境が整っていく途中で、子どもの遊び場や遊具の状況には大きな地域差がありました。学校の校庭や寺社の境内、空き地、路地、原っぱなどで遊んだ人もいます。滑り台が身近でなかった可能性も考え、「滑り台で遊びましたか」だけでなく、「どんな場所で遊ぶことが多かったですか」と尋ねると、その人自身の暮らしに沿った話になりやすくなります。
昭和30年代(1955〜1964年)
昭和31年(1956年)には都市公園法が制定されました。現在の同法施行令でも、滑り台はブランコやシーソー、砂場などとともに遊戯施設の一つとして位置づけられています。ただし、法律ができた年から全国の身近な場所に同じ遊具がそろったわけではありません。「初めて滑り台を見たのは、学校、公園、それとも別の場所でしたか」と、場所を限定せずに聞くことが大切です。
参考:国土交通省「都市公園における遊具の安全確保に関する指針(改訂第2版)」
昭和40年代(1965〜1974年)
住宅地や町並みが変わるなかで、公園や学校の遊具を身近に感じた人がいる一方、川原、山、田畑の周辺などで遊ぶことのほうが多かった人もいます。滑り台の形や色を当ててもらうより、「遊びに行くときは誰と出かけましたか」「学校が終わるとどこに集まりましたか」と尋ねると、放課後や近所づきあいの話へ広がることがあります。
昭和50年代(1975〜1984年)
この年代の記憶は、自分が遊んだ子ども時代とは限りません。子どもを公園へ連れて行ったこと、地域の子どもを見守ったこと、学校や保育の仕事で遊具に触れたことを話す人もいます。「ご自身で滑りましたか」と一つに絞らず、「この頃、滑り台を見るのはどんな場所でしたか」と聞くと、さまざまな立場からの記憶を話しやすくなります。
平成14年(2002年)以降
国土交通省は平成14年(2002年)に、都市公園の遊具に関する安全確保の基本的な考え方を示す指針をまとめ、その後も改訂しました。現在の公園では、遊具の点検、周囲の安全領域、地面の衝撃緩和、利用年齢などへの配慮が重視されています。昔と今の滑り台を比べ、「材質や色が変わりましたね」「以前あった遊具が新しくなったことはありますか」と話すきっかけにもできます。
なお、国土交通省の指針では、滑り台は子ども自身が滑り降りる「滑降系」の遊具として整理されています。また、金属製の滑り台は夏の直射日光で表面が熱くなることがあるとされています。利用者さんから「夏は熱かった」という話が出たときは、その言葉を否定せず、当時の季節や公園の様子を聞いてみてもよいでしょう。
年代の情報を職員が一方的に説明するのではなく、本人の話を理解するための補助として使います。内容が資料と違っていても、その場で訂正を優先せず、「その地域ではそうだったのですね」と、その人が経験した暮らしを大切にします。
