誤薬をしてしまった夜、自己嫌悪で眠れず「介護職を辞めたい」とまで思い詰めていませんか。
何度も確認したはずなのに起きてしまったミス、上司からの「たるんでいる」という精神論の叱責、そして「損害賠償を請求されるのではないか」という漠然とした恐怖。
本来は余裕を持って一人ひとりに向き合いたいのに、現場はワンオペ夜勤や業務過多で、物理的に安全確認の時間すら取れないのが現実ではないでしょうか。
すべてを解決するのは難しくても、まずは「自分を責め続けても事故は減らない」という事実と、あなたを守るためのルールだけは押さえておきましょう。
この記事を読むと分かること
- 誤薬事故は組織の責任という真実
- 反省文ではない報告書の書き方
- 個人を守る国のガイドライン
- 辞める前に知るべき自己防衛策
- ミスの再発を防ぐ脳の仕組み
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:誤薬で辞める必要はない。「事故は組織で防ぐ」が国の結論

現場では「プロなら間違えるな」「命を預かっている自覚を持て」と厳しい言葉を投げかけられることがあります。しかし、ギリギリの人員配置で、次々と鳴るナースコールに応対しながら、たった一人で数十人分の薬を完璧に管理することは、現実的に可能でしょうか。「気をつける」という個人の努力だけで防げる段階は、とっくに超えているのが今の介護現場の実情です。
事故防止は「個人の心がけ」ではなく「組織の義務」
もし職場が「お前の確認不足だ」とあなた個人を責め立てているなら、それは国のルールと矛盾しています。 厚生労働省は、事故防止を個人の注意力に依存させるのではなく、組織全体で取り組むべきシステムの問題と定義しています。
実際、令和3年度の報酬改定では、事故発生防止のための指針整備や委員会開催などの組織的な措置を講じていない施設に対し、利用者の基本報酬を減額するという非常に厳しいペナルティが新設されました。 これは裏を返せば、「事故を防ぐための体制を作らないことは、施設の経営責任である」と国が断言しているに等しいのです。あなたが一人で責任を背負い込んで辞める必要は、どこにもありません。
出典元の要点(要約)
厚生労働省 老健局
介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf
令和3年度の改定により、事故発生防止措置が講じられていない施設に対し、基準を満たすまで入所者全員の基本報酬を減算する仕組みが導入された。
報告書の目的は「反省」ではなく「分析」
「始末書のような報告書を何度も書き直させられるのが辛い」という悩みもよく聞かれますが、これも本来の目的から逸脱しています。 ガイドラインにおいて、事故報告書は個人の反省文ではなく、「なぜ起きたか」を客観的に収集・分析するためのデータと位置づけられています。
国が求めているのは、あなたを萎縮させることではなく、全国の事例を集約して「どうすれば防げるか」という安全対策のノウハウを共有することです。 「次は気をつけます」という精神論ではなく、物理的にミスが起きない手順や環境を作るための材料として報告書は存在します。書くことを恐れる必要はありません。
出典元の要点(要約)
厚生労働省 老健局
介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf
事故報告様式の標準化により全国の情報を収集・分析し安全対策を共有することで、事故予防の強化とサービスの質向上を目指している。
このように、誤薬などの事故対応において、個人を過度に責める根拠は公的なルール上存在しません。 もし今の職場が、ガイドラインを無視してあなた個人の責任を追及し続けるのであれば、それはあなたの資質の問題ではなく、組織のガバナンスの問題です。 「自分が悪いから辞める」のではなく、「守られるべきルールが守られていない」という事実を認識し、まずは過剰な自責の念を下ろしてください。
「うちの現場と同じ」と思いませんか?誤薬を生む典型パターン

現場では「安全第一」というスローガンが掲げられる一方で、実際の業務は「時間内に終わらせること」が最優先されがちです。 「人は足りない、でもミスは許さない」という矛盾した環境で、多くの介護士があなたと同じように悩み、自分を責め続けています。 ここでは、個人の不注意として処理されがちな事例の裏にある、構造的な問題を見ていきましょう。
「反省文」と化したヒヤリハット報告書
「たるんでいるからミスをするんだ」「もっと危機感を持て」と上司に叱責され、報告書の再発防止策欄に「指差し確認を徹底する」「以後、気を引き締める」といった精神論を書かされるケースが後を絶ちません。 しかし、このような「個人の反省」を強いる対応は、実は国のガイドラインが目指す方向性とは真逆です。
厚生労働省のガイドラインにおいて、事故報告書の目的は個人の処罰や反省ではなく、「なぜ起きたか」という事実の収集と分析にあると明記されています。 本来求められているのは、精神論ではなく「誰がやっても間違えない仕組み(ハード面の対策)」を共有することであり、あなた一人に「反省文」を書かせて終わらせることは、組織としての責任放棄に近いのです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省 老健局
介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf
事故報告様式の標準化により全国の情報を収集・分析し安全対策を共有することで、事故予防の強化とサービスの質向上を目指している。
ワンオペ夜勤での「孤独な抱え込み」
夜勤中、ナースコールが重なる多忙な時間帯に、たった一人で数十人分の配薬を行い、誤薬してしまう事例です。 本来なら応援を呼びたい場面でも、「他の職員も休めていない」「迷惑をかけたくない」という遠慮から言い出せず、一人で業務を完結させようとしてパンクしてしまうのです。
研究によると、このような「業務を一人で抱え込み、助けを求められない状況」こそが、介護職員の精神的余裕を奪い、苛立ちや焦りを生む悪循環の入り口であることが分かっています。 また、疲労やストレスで脳の「認知資源」が枯渇している状態では、どんなに本人が「気をつけよう」と努力しても、注意力を正常に保つことは生理的に困難です。
出典元の要点(要約)
帝京科学大学医療科学部医療福祉学科
介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス―修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
「“自然に乱れる介護”とは‘利用者との関わりのなかで,自然に声がけが乱暴になったり,利用者への対応が乱暴になってしまうこと’である.」「諸種の苛立ちが重なり,自分の中にたまり,つい利用者への対応の場面で,声を荒げてしまったり,スピーチロックをしてしまったりと,自然と自分の介護が乱れていくということである.」「“苛立つ自分への嫌悪・否定”とは‘利用者にイライラしてしまった自分に対して嫌悪感を抱いたり,援助者としての自分を否定したりして,自分の負担になること’である.」「業務を他職員に手伝ってもらいたいと思っていても,他職員の負担のことを考えると助けを求められない.結果的には業務を一人で抱え込み,苦しんでしまい,苛立ちやすくなるという悪循環があった.」「『次の人に迷惑をかけるよなっていう感覚はやっぱりあるので,どうにか自分の中で収めたい』」
日本心理学会
怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja
再評価は主観的な怒りを鎮めるための最も有効な方略の1つであるが、即時的な怒りの減少量は気晴らしに劣り、生理的ストレス状態のような個人の認知資源が限られた状況において有効性が減じる。
利用者への恐怖心と「援助者としての自信喪失」
一度の誤薬をきっかけに、「自分は利用者を殺してしまうかもしれない」という恐怖心が芽生え、利用者の前に立つだけで動悸がしたり、手が震えたりするようになるケースです。 これは単なる「弱さ」ではなく、過度な精神的負担がもたらす深刻なサインです。
研究では、このような自分への嫌悪感や自信の喪失は、「援助者としての自分を否定」する心理につながり、結果としてケアの質の低下や、最終的には「人材流出(離職)」を引き起こす要因になると指摘されています。 「辞めたい」と感じるのは、あなたが無責任だからではなく、精神的な負担が限界を超え、これ以上自分を保てないという防衛反応なのです。
出典元の要点(要約)
帝京科学大学医療科学部医療福祉学科
介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス―修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
「“自然に乱れる介護”とは‘利用者との関わりのなかで,自然に声がけが乱暴になったり,利用者への対応が乱暴になってしまうこと’である.」「諸種の苛立ちが重なり,自分の中にたまり,つい利用者への対応の場面で,声を荒げてしまったり,スピーチロックをしてしまったりと,自然と自分の介護が乱れていくということである.」「“苛立つ自分への嫌悪・否定”とは‘利用者にイライラしてしまった自分に対して嫌悪感を抱いたり,援助者としての自分を否定したりして,自分の負担になること’である.」「業務を他職員に手伝ってもらいたいと思っていても,他職員の負担のことを考えると助けを求められない.結果的には業務を一人で抱え込み,苦しんでしまい,苛立ちやすくなるという悪循環があった.」「『次の人に迷惑をかけるよなっていう感覚はやっぱりあるので,どうにか自分の中で収めたい』」
日本看護科学会
介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja
介護施設の認知症ケア実践者(Formal caregiver)の精神的負担を軽減することは非常に重要である。負担軽減によって、ケアの質向上や人材流出の防止を図る必要性が今後ますます高まると予想される。
これらの事例から分かるように、誤薬事故やそれに伴う「辞めたい」という感情は、個人の資質だけで説明できるものではありません。 「ガイドラインの趣旨と異なる精神論の指導」や「一人で抱え込む業務構造」、そして「精神的負担の蓄積」といった背景が、あなたを追い詰めている大きな要因なのです。
なぜ「気をつける」だけでは誤薬はなくならないのか

現場では「確認不足だ」「気が緩んでいる」と精神論で片付けられがちですが、実際には休憩も取れず、鳴り止まないコールの対応に追われる中で、冷静な判断力を保つこと自体が困難です。 「人手が足りない中で、これ以上どう気をつければいいのか」という無力感は、決してあなただけの甘えではありません。 ここでは、個人の努力ではどうにもならない身体的な限界と組織の構造的な責任について解説します。
脳の仕組みとして「注意」には限界がある
「もっと冷静になろう」「イライラしてはいけない」と自分を律しようとしても、疲れている時ほど上手くいかない経験はありませんか。 これはあなたの性格のせいではなく、脳のエネルギーである「認知資源」が枯渇していることが原因です。 研究において、感情や行動を制御するには多くの認知資源が必要であり、ストレスや疲労で資源が限られた状況では、その機能が十分に働かないことが分かっています。
つまり、夜勤明けや連勤で疲弊しきった状態で「ミスをするな」と強いるのは、ガス欠の車に「走れ」と命令するのと同じことです。 生理的に限界を迎えている脳に対し、精神論で注意を促しても、事故を防ぐ効果は薄いどころか、さらなるストレスで認知資源を消耗させる悪循環に陥ります。
出典元の要点(要約)
日本心理学会怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja
再評価は主観的な怒りを鎮めるための最も有効な方略の1つであるが、即時的な怒りの減少量は気晴らしに劣り、生理的ストレス状態のような個人の認知資源が限られた状況において有効性が減じる。
事故は「組織」が防ぐものと定義されている
もし事故が起きた時、施設側が「個人の不注意」として処理しようとするなら、それは国の定めたルールを無視しています。 介護保険制度には「安全管理体制未実施減算」という仕組みがあり、事故発生防止のための委員会や指針、研修などの措置を講じていない施設は、介護報酬が減らされます。 これは、事故防止が個人の心がけではなく、施設運営としての義務であることを明確に示しています。
国は「事故が起きないような体制(システム)を作ること」を施設に求めており、その責任を果たしていない組織が、現場の職員個人に責任を押し付けることは筋が通りません。 あなたが背負っている重圧の多くは、本来であれば組織がシステムとして負担すべきものなのです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省 老健局介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf
令和3年度の改定により、事故発生防止措置が講じられていない施設に対し、基準を満たすまで入所者全員の基本報酬を減算する仕組みが導入された。
「孤立」が判断力を奪うプロセス
ミスが起きる背景には、必ず「助けを求められない環境」があります。 忙しそうな同僚を見て「申し訳なくて頼めない」と遠慮し、業務を一人で抱え込んでしまう。 この心理状態が続くと、職員は苦しみ、次第に利用者への対応が雑になったり、確認作業が疎かになったりする「自然に乱れる介護」へとつながっていきます。
このプロセスは個人の資質ではなく、構造的な問題として研究で明らかにされています。 「次の人に迷惑をかけるから自分でなんとかしよう」という責任感の強さが、皮肉にも孤立と焦りを生み、正常な判断力を奪う引き金となっているのです。
出典元の要点(要約)
帝京科学大学医療科学部医療福祉学科介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス―修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
業務を他職員に手伝ってもらいたいと思っていても、他職員の負担のことを考えると助けを求められない。結果的には業務を一人で抱え込み、苦しんでしまい、苛立ちやすくなるという悪循環があった。「次の人に迷惑をかけるよなっていう感覚はやっぱりあるので、どうにか自分の中で収めたい」
このように、誤薬をはじめとする事故は、個人の不注意だけで発生するものではありません。 認知資源の枯渇、組織的な安全管理の欠如、そして業務の抱え込みによる孤立といった要因が重なった結果であり、あなた一人を責めることに合理的な理由はないのです。
疑問を整理して、不安を解消するQ&A
現場で働く中で抱えがちな「責任」や「処遇」に関する不安について、厚生労働省のガイドラインや学術研究に基づいて回答します。根拠を知ることで、漠然とした恐怖を整理しましょう。
- Q誤薬などの事故を起こした場合、個人で損害賠償の対応をしなければなりませんか?
- A
原則として、施設(組織)としての対応が基本となります。 ガイドラインでは、事故発生時の対応マニュアルに「賠償すべきかどうかの説明」や「保険会社への連絡」といった手順を定めるよう求めており、これらは組織として行うべき業務フローに位置づけられています。個人が単独で判断・対応するものではありません。
出典元の要点(要約)
厚生労働省 老健局
介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf
事故発生時の対応として、利用者・家族への連絡、損害賠償の具体的な説明、市町村への報告、保険会社への連絡などを組織的に行う必要がある。
- Qミスをしてしまう私は、介護職に向いていないのでしょうか?
- A
一概にそうとは言えません。 心理学の研究によれば、ストレスや疲労で脳の「認知資源(エネルギー)」が枯渇している状態では、誰でも注意力が維持できなくなります。また、業務を一人で抱え込む環境が、焦りやケアの乱れを誘発することも分かっています。ミスは個人の資質だけでなく、環境や生理的な限界によっても引き起こされます。
出典元の要点(要約)
日本心理学会
怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja
生理的ストレス状態のような個人の認知資源が限られた状況においては、感情制御の有効性が減じる。
帝京科学大学医療科学部医療福祉学科
介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス―修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
業務を他職員に手伝ってもらいたいと思っていても助けを求められず、結果的に業務を一人で抱え込み、苦しんでしまい、苛立ちやすくなるという悪循環がある。
- Q事故報告書には、反省の言葉をたくさん書くべきですか?
- A
いいえ、個人の心情よりも「事実」と「原因」の客観的な記録が優先されます。 国のガイドラインでは、事故報告書の目的を個人の処罰や反省ではなく、全国的な「情報の収集・分析」にあると定義しています。精神論ではなく、具体的な事実を記録・共有することこそが、本来求められている役割です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省 老健局
介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf
事故報告様式の標準化により全国の情報を収集・分析し安全対策を共有することで、事故予防の強化とサービスの質向上を目指している。
このように、事故はあなた一人の責任ではなく、組織のシステムや環境と深く関わっています。正しい知識を持つことで、過度な自責の念から自分を守り、落ち着いて次の行動を考えましょう。
自分を責めるのをやめて、まずは「ルール」を確認しましょう
誤薬をしてしまった事実は消せませんが、その責任のすべてをあなたが背負う必要は、法律的にも医学的にもありません。 明日、出勤したら一度だけ、職場の「事故発生時の対応マニュアル」や「指針」に目を通してみてください。 そこに書かれているのは「個人の反省」でしょうか、それとも国のガイドラインに沿った「組織的な再発防止策」でしょうか。
もし、あなたの職場がガイドラインを無視し、個人の吊るし上げや精神論での指導に終始しているのであれば、その環境から離れることは「逃げ」ではありません。 ルールを守らない組織から、自分自身の身と専門職としての誇りを守るための「正当な避難」です。 事故は組織がシステムで防ぐものであるという原則を忘れず、ご自身を大切にしてください。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2025年12月25日:新規投稿


