老人ホームのレクで、「せっかく準備したのに参加してくれない」「ポツンと座っている利用者を見ると、放置しているようで罪悪感がある」と悩んでいませんか?
「全員参加」を目指すあまり、現場が疲弊してしまうのは本末転倒です。無理に動かさなくても、その存在を肯定し、安心できる居場所を作るケア技術から始めてみましょう。
この記事を読むと分かること
- 参加しないことが許される根拠
- 見ているだけの人の肯定法
- 断られた時の返し技
- Inclusionというケア視点
- 家族への説明ロジック
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:「参加」のハードルを下げれば、利用者も職員も楽になる

現場では、「レクに参加しない=サービスを提供できていない」というプレッシャーを感じがちです。家族への報告や、他の職員の手前、「全員参加」を目指して必死に声をかけ、断られては疲弊してしまう。そんな葛藤を抱えている職員は少なくありません。しかし、専門的な認知症ケアの視点では、「無理に参加させない」ことが、むしろ推奨されるべき高度なケアであるとされています。
「活動(Doing)」より「存在(Being)」を認める
認知症ケアの指標となる「パーソン・センタード・ケア」において、トム・キットウッドは認知症をもつ人々の心理的ニーズの一つとして「Inclusion(共にあること)」を挙げています。これは、何か活動をすること(Doing)以前に、集団からはじき出されず、「そこにいてよい」と感じられること(Being)が重要であるという考え方です。
ケアの基本原則としても、一方的に何かを「してあげる」ケアから、「一緒に過ごす」ケアへの転換が求められています。無理にプログラムに参加させようとするのではなく、その場にいて「仲間として受け入れられている」という安心感を提供すること自体が、立派なケアの目的となります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
認知症をもつ人達の心理的ニーズ(Tom Kitwood)として、「INCLUSION 共にあること」が挙げられている。また、認知症の人のケアの基本原則として、「してあげる」ケアから「一緒に過ごす」ケアへの転換が示されている。
コミュニケーションは「する」ものではなく「在る」もの
「レクに参加しない人には、何か話しかけなければ」と焦る必要はありません。コミュニケーションとは、必ずしもスキルを使って相手に働きかけることだけを指すのではありません。
異なる人間がそこに複数存在するとき、特別なスキルを発揮しなくても、そこにいるだけで「在る」ものがコミュニケーションであると捉えることが大切だとされています。
無理に会話を引き出そうとしたり、活動を促したりしなくても、同じ空間で穏やかな時間を共有しているだけで、全人的な関わりは成立しています。沈黙や見守りも、重要なコミュニケーションの一つです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
コミュニケーションは「する」ものでなく「在る」ものとしてとらえることが大切である。必ずしも相手に働きかけたり、何かをしたりすることとは限らず、そこに複数の人がいるだけで「在る」ものがコミュニケーションである。
無理な誘導は「関係性」を壊すリスクがある
良かれと思ってしつこく誘う行為は、本人にとっては「怒られた」「プライドが傷ついた」という体験になりかねません。
認知症の人が示す「介護への抵抗」や「怒り」などのBPSD(行動・心理症状)は、不適切なケアによって引き起こされる側面があり、これを「作られたBPSD」と呼びます。こちらの都合でコントロールしようとすると、利用者の不快や不安を高め、知らず知らずのうちに人間関係を壊してしまいます。
本人が「やりたくない」という意思表示をした場合は、それを尊重し、無理強いしないことが、信頼関係を守るための鉄則です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
不適切なケアは、利用者の不快・不安・ストレスを高め、「作られたBPSD」を引き起こす。これは知らず知らずのうちに人間関係を壊していく。本人のプライドを傷つけない接し方が重要である。
この章のまとめ文章 「何もしないこと」への罪悪感を手放しましょう。参加を強要せず、ただ隣に座って「ここにいてくれて嬉しい」という態度を示すこと。それこそが、利用者の心を安定させ、その人らしさを支える「Inclusion」のケアなのです。
「誘い方」で変わる? レク現場のNG対応とOK対応の分かれ道

現場では、「参加しない=孤立」と捉えてしまい、焦って声をかけ続けてしまう場面がよく見られます。しかし、その熱心さが裏目に出ることも少なくありません。ここでは、よくある失敗パターンと、視点を変えることでうまくいく成功パターンを対比して解説します。
ケース1:良かれと思って「強要」し、怒らせてしまう(NG)
状況 輪の外で新聞を読んでいる利用者に、職員が「せっかく皆さんでやっているので、〇〇さんも一緒にやりましょう!」と何度も道具を手渡そうとする。
現場の困りごと
- 「子供だましなことはやらん!」「しつこい!」と怒鳴られ、その後のケアも拒否される。
- その場の空気が悪くなり、楽しんでいた他の利用者まで気まずくなってしまう。
よくある誤解
「恥ずかしがっているだけだから、背中を押せばやってくれるはず」「仲間外れにしてはいけない」という一方的な思い込みがあります。
押さえるべき視点:自尊心と「作られたBPSD」
拒否しているのにしつこく誘う行為は、本人の自尊心を傷つけ、「自分をコントロールしようとする不快な存在」として認識されてしまいます。その結果としての怒りは、不適切なケアによって「作られたBPSD」である可能性が高いです。意思を尊重し、「見ているだけでも大丈夫ですよ」と引く勇気が必要です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
不適切なケアは、利用者の不快・不安・ストレスを高め、「作られたBPSD」を引き起こす。知らず知らずのうちに人間関係を壊していく。自尊心を傷つけない接し方が重要である。
ケース2:「見ているだけ」を肯定し、安心感を作る(OK)
状況 レクには参加せず、少し離れた椅子に座って眺めている利用者。「やりたくない」と言われたため、無理に誘わずそのままにしている。
現場の工夫
- 放置しない: 完全に無視するのではなく、時折職員が隣に行き、「皆さんの歌声、元気ですね」「ここからだとよく見えますね」と感想を共有する。
- 目配せ: 遠くから目が合った時に、ニコッと笑いかけたり頷いたりする。
よくある誤解
「参加していない=サービス提供不足」と捉えがちですが、同じ空間で雰囲気を共有している時点で社会的な関わりは成立しています。
押さえるべき視点:Inclusion(共にあること)
活動(Doing)に参加していなくても、集団の一員として「そこにいてよい(Inclusion)」と感じられる関わりが、心の安定につながります。言葉を交わさなくても、同じ空間に「在る」こと自体をコミュニケーションとして捉えましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
認知症をもつ人達の心理的ニーズとして「INCLUSION(共にあること)」がある。コミュニケーションは「する」ものでなく「在る」ものとしてとらえ、そこに複数の人がいるだけでコミュニケーションであると捉えることが大切である。
ケース3:「お客様」ではなく「役割」をお願いする(OK)
状況 「こんな幼稚な遊びは嫌だ」とプライドが高く、輪に入ろうとしない元教員の男性利用者。
現場の工夫
- 参加者として誘わない: 「選手」としてではなく、「審判」や「点数係」、あるいは「見届け役」として席についてもらう。
- 相談する: 「なかなかうまくまとまらなくて…先生、知恵を貸してください」と下からお願いする形で声をかける。
よくある誤解
「とにかく同じことをさせなければ」と画一的な参加を求めがちですが、人にはそれぞれの得意分野や生活歴に基づいた「居心地の良い立ち位置」があります。
押さえるべき視点:役割と生活歴の尊重
「してもらう」立場ばかりでは自尊心が保てない方も、「誰かの役に立つ」「頼られる」という役割があれば、喜んでその場に参加してくれることがあります。過去の職業や得意だったことを活かせるポジションを用意することが、参加への鍵となります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
生活歴からその人の価値観を理解する。「役割、出番」を作ることや、得意だったこと・習慣で染みついた動作などの「身体で覚えた記憶の威力」を活用することが、その人の可能性を引き出す。
この章のまとめ文章 「参加しない人」を無理やり動かそうとするのではなく、「そのままでどう居場所を作るか」に視点を切り替えましょう。本人のプライドを守り、存在を認める関わりさえあれば、たとえ椅子に座っているだけでも、それは立派な「心のケア」になっています。
なぜ「見ているだけ」でもケアになるのか?

現場では、「利用者が何もしていない=放置=悪いこと」という図式で考えてしまいがちです。「リハビリにならない」「家族に申し訳ない」という焦りから、つい強い口調で参加を促してしまうこともあるでしょう。
しかし、認知症ケアの専門的な視点では、活動に参加すること(Doing)よりも、まずはその場に安心して居られること(Being)が最優先されます。ここでは、なぜ「見守り」が積極的なケアと言えるのか、その医学的・心理的な根拠を解説します。
心理的ニーズ「Inclusion(共にあること)」の重要性
認知症ケアの指標である「パーソン・センタード・ケア」では、認知症をもつ人の心理的ニーズの一つとして「Inclusion(共にあること)」が挙げられています。
これは、何かの活動をしているかどうかにかかわらず、集団からはじき出されず、「自分はここにいてよいのだ」と感じられる状態を指します。認知機能の低下により不安を感じやすい方にとって、誰かと一緒にいる安心感や、仲間として受け入れられている実感は、心の安定に不可欠な土台となります。
無理にレクに参加させようとしてプレッシャーを与えるよりも、輪の中に席を用意し、疎外感を与えないように配慮することの方が、優先度の高い心のケアなのです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
認知症をもつ人達の心理的ニーズ(Tom Kitwood)として、「INCLUSION 共にあること」が示されている。また、その人の「そのままの姿」を支えることがケアにおいて重要である。
コミュニケーションは「する」ものでなく「在る」もの
私たちはコミュニケーションを「話すこと」「聞くこと」といったスキルとして捉えがちです。そのため、会話がない状態を「関わりが不足している」と感じてしまいます。
しかし、エビデンスでは、コミュニケーションは何かを「する」ことだけではなく、そこに複数の人がいるだけで「在る」ものとして捉えるべきだとされています。
特別な言葉をかけなくても、同じ空間で穏やかな時間を共有し、時折目が合って微笑むだけで、十分な全人的かかわりは成立しています。「何かさせなければ」と焦る必要はありません。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
コミュニケーションは「する」ものでなく「在る」ものとしてとらえる。スキルを発揮しなくても、そこに複数の人がいるだけで「在る」ものがコミュニケーションであると捉えることが大切である。
「良かれと思って」がBPSDを悪化させる構造
「リハビリのために」という正義感で行う無理な誘導が、実は利用者を追い詰めている可能性があります。
認知症の人の行動・心理症状(BPSD)は、脳の病気だけが原因ではなく、不適切なケアや環境との相互作用によって引き起こされる側面があり、これを「作られたBPSD」と呼びます。
嫌がっているのにしつこく誘ったり、集団行動を強要したりすることは、本人にとって「不快」「不安」「ストレス」となり、それが防衛反応としての怒りや拒否につながります。ケアの目的は、活動させることではなく、本人が心地よく過ごせることです。
| 対応の方向性 | 利用者の心理・反応 | 結果 |
|---|---|---|
| 強引な誘導 (不適切なケア) | 不快・不安・ストレス 「やらされている」 | 作られたBPSD (怒り・拒否・不穏) |
| 意思の尊重 (Inclusion) | 安心・肯定感 「ここにいていい」 | 情緒の安定 (穏やかな生活) |
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
「作られた BPSD(行動・心理状態)」として、不適切なケアが利用者の不快・不安・ストレスを高め、人間関係を壊していく構造が示されている。
この章のまとめ文章 「参加しない」ことは、悪いことではありません。無理に動かすことよりも、その場にいることを肯定し、安心感を守ることの方が、認知症ケアとしてははるかに重要で価値のある支援なのです。
現場の「どうしよう?」に答える Q&A
ここでは、レクリエーションの現場で判断に迷うポイントについて、エビデンスに基づいた解決のヒントをQ&A形式でまとめます。
- Qご家族から「リハビリのために、無理にでも参加させてほしい」と要望がありました。どう説明すればいいですか?
- A
「無理強いは逆効果になり、ご本人のストレスを増やしてしまう」と説明しましょう。 ご家族は「参加しない=機能が低下する」と心配されていますが、嫌がることを無理強いされるストレスは、認知症の周辺症状(BPSD)を悪化させ、かえって生活の質を下げてしまいます。 「今は、無理に体を動かすことよりも、皆様の輪の中にいて『安心できる』と感じていただくことを最優先にしています。それも心の重要なリハビリなんですよ」と、「Inclusion(共にあること)」の価値を専門職として伝えましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
不適切なケアは「作られたBPSD」を引き起こし、人間関係を壊していく。本人の尊厳や「そのままの姿」を支えることが重要である。
- Qレクの間、ずっと寝てしまっている人がいます。起こして参加させた方がいいですか?
- A
無理に起こさず、そのままの場所で見守りましょう。 本人が心地よく眠っているのであれば、それを中断させることは不快感につながります。ケアの基本原則は「ゆったりと、楽しく」過ごすことです。 「寝ているから」と別室に隔離するのではなく、レクの雰囲気が感じられる場所にいてもらい、ふと目が覚めた時に寂しくないよう配慮することが、「その場にいること(Being)」を認めるケアになります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
認知症の人のケアの基本原則として、「ゆったりと、楽しく」「『してあげる』ケアから『一緒に過ごす』ケアへ」といった視点が示されている。
- Q「子供っぽい」と怒って参加しない方には、どう接すればいいですか?
- A
参加者としてではなく、「役割」をお願いする形で関わりましょう。 プライドが高い方にとって、風船バレーや童謡などは「馬鹿にされた」と感じる原因になります。無理に参加を促すと自尊心を傷つけてしまいます。 「皆さんの審判をお願いできませんか」「歌詞カードを配るのを手伝ってください」など、他者の役に立つ役割をお願いすることで、自尊心を満たしながらその場に留まってもらえることがあります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
自尊心を傷つけない接し方が重要である。また、身体で覚えた記憶(役割、出番)を活用することが、本人の可能性を引き出す。
この章のまとめ文章 迷ったときは、「それをすることが、ご本人にとって『安心』や『快』につながるか?」を基準にしましょう。活動の量(Doing)よりも、心の安定(Being)を守ることの方が、認知症ケアにおいては優先順位が高いのです。
まとめ:「参加」の呪縛を解き、一人ひとりの「居場所」を作る
「レクに参加してくれない」「盛り上げられない」と自分を責める必要はありません。記事で紹介したエビデンスが示す通り、認知症ケアにおいて最も大切なのは、活動(Doing)の量ではなく、その人がその場にいて安心できる(Being)環境を作ることです。
無理に身体を動かそうとして関係性を壊すよりも、「参加しない」という意思を尊重し、それでも「ここにいていいんだ」と感じてもらうこと。それが、結果として利用者の心を安定させ、BPSD(周辺症状)の予防にもつながる、プロフェッショナルなケアの形です。
明日からできる「小さな一歩」
いきなり全員の対応を変える必要はありません。まずは気になっているあの方へ、以下のどれか一つを試してみてください。
- 無理に誘わない勇気を持つ 拒否されたら「分かりました、見ているだけでも大丈夫ですよ」と笑顔で引き下がる。
- 時折「目配せ」をする 遠くから目が合った時に、ニコッと微笑んだり頷いたりして「気にかけている」サインを送る。
- 存在を肯定する声かけ 「〇〇さんがいてくれると安心します」「応援ありがとうございます」と、そこにいる価値を伝える。
「何もしない」のではなく、「居場所を守る」という視点を持つだけで、あなたのケアは大きく変わります。まずは肩の力を抜いて、利用者さんの隣に座ることから始めてみませんか。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が、毎日のケアに悩むあなたの心を少しでも軽くするヒントになれば幸いです。
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更新履歴
- 2025年12月13日:新規投稿


