資産を守ることを優先する後見人の判断に、本人の楽しみが制限されていませんか。
通帳の数字だけでは見えない、現場の「本音」が届かないもどかしさは切実です。
ですが現在の指針は、財産保全よりも本人の意思尊重を重視する運用へ転換する必要があります。 理想と限界の間で、現実的に本人を守るための視点をお伝えします。
この記事を読むと分かること
- 後見制度の最新運用基準
- 本人中心の意思決定支援
- 後見人を動かす伝え方
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:成年後見制度の重要な目的の一つは「財産保全」から「本人の意思尊重と身上保護」へ転換する必要があります

現場では、「本人が楽しみにしていることにお金を使いたいのに、後見人が認めてくれない」といった声がよく聞かれます。
日々のケアで本人の笑顔を引き出そうと人員不足の中で奮闘していることもあり、制度の壁に直面したときの無力感は計り知れません。
しかし、現在の成年後見制度は、現場のこうした葛藤に応え、本人の生活を豊かにする方向へ舵を切ることが目標とされています。
財産を守るだけでなく「本人の意思と生活」を守る制度へ
成年後見制度といえば、これまでは通帳の管理など財産保全が主な役割だと認識されがちでした。
そのため、本人のための出費であっても、資産が減ることを理由に後見人から却下されるケースがあり、現場の支援者はジレンマを抱えてきました。
しかし現在の制度運用では、利用者がメリットを実感できるように改善することが目標とされています。 単にお金を守るだけでなく、身上保護(本人の生活や健康を維持するための福祉的な支援)を重視することが求められています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
2017年3月24日に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画において、成年後見制度の利用者がメリットを実感できる制度・運用への改善が目標とされており、後見人等が本人の特性に応じた適切な配慮を行うことができるよう、意思決定支援の在り方についての指針策定が求められました。2000年の制度発足以来、財産保全が重視され、本人の意思尊重や身上保護等の福祉的な観点が十分でない課題が指摘されてきたため、今後はこれらの観点を重視した運用にする必要があります。
支援者の価値観ではなく「本人中心」の判断を
現場では、つい「これがこの人のためだ」と支援者側の価値観で物事を進めてしまうことがあります。
これを防ぐために強調されているのが、本人中心主義という考え方です。 意思決定の中心には原則として「本人」を置かなければなりません。
| 支援の基準 | 支援者側の都合や個人的な価値観を押し付けない。 |
|---|---|
| 最優先事項 | 本人の意向を最優先に考え、意思を尊重する。 |
| チームの役割 | 関係者全員で「本人中心」の考え方を共有し、理解を深める。 |
出典元の要点(要約)
厚生労働省意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
民法858条等において後見人等が本人の意思を尊重することが求められていますが、実務では本人の判断能力低下を理由に、後見人等自身の価値観で権限を行使する事例がありました。本人に関わる支援者らが「意思決定の中心に本人を置く」という本人中心主義を実現するための共通理解を深めるため、最高裁判所や厚生労働省等で構成される意思決定支援ワーキング・グループでの検討を経て本ガイドラインが策定されました。
具体的な「身上保護」とは本人の生活を実現すること
重視されるようになった身上保護とは、具体的に何を指すのでしょうか。 本人が表明した意思を、実際の生活の中で実現するための事務支援を指します。
| 意思の尊重 | 「自宅で暮らし続けたい」という本人の希望を尊重する。 |
|---|---|
| 環境の整備 | 在宅生活を継続するために必要な、リフォーム契約等を行う。 |
| 生活の質 | 本人のQOL(生活の質)を高めるための適切な出費を認める。 |
出典元の要点(要約)
厚生労働省意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
形成・表明された意思をどのように実現するかという意思実現支援は、本ガイドラインにおける意思決定支援の定義には直接含まれませんが、後見人等による身上保護の一環として実践されることが期待されます。例えば、生活の本拠について検討する場面で、在宅生活の継続という意思が示された場合、自宅のリフォーム契約締結など必要な事務を行うことが求められます。
現在の成年後見制度は、単なる財産保全から、本人の意思を尊重し生活を豊かにする「身上保護」へ目的を転換する必要があります。後見人は支援者の価値観ではなく、本人の意思を実現する役割が求められています。
成年後見人は何もしてくれない?現場で起こるすれ違いの典型パターン

現場では、「後見人はお金の出し入れを制限するだけで、本人の生活の質には無関心に見える」といったもどかしさがよく生じます。
制度のデメリットばかりが目についてしまう、典型的な「すれ違い」のパターンを整理しましょう。
本人が拒否しているのに、保護を名目とした「施設入所」を進めようとする
安全確保を理由に、本人が希望する在宅生活ではなく施設入所を主導してしまうケースです。
| 状況 | 本人は在宅を希望しているが、後見人等がリスク回避のために施設入所を決定しようとしている。 |
|---|---|
| 困りごと | 現場の介護職が、本人の意思に反する無理な説得に加担させられ、強い葛藤を抱く。 |
| よくある誤解 | 「本人の安全を守るためなら、本人の意思を無視して施設に入れても仕方がない」という考え。 |
| 押さえるべき視点 | 十分な検討をせずに施設利用を選択することは、本人の意思を尊重しない問題とされています。 |
出典元の要点(要約)
厚生労働省意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
後見人等が本人の意思を尊重せずに行動してしまう典型的な例として、本人が在宅での地域生活を希望しているにもかかわらず、支援者らが十分な検討をせずに施設等の利用を選択し、本人の保護という名目の下で本人を説得してしまうケースが挙げられます。
本人の楽しみのための「自宅リフォームや買い物」を許可しない
本人が快適に暮らすためのリフォームや、生活を豊かにするための自費サービスの導入を後見人が却下してしまうケースです。
| 状況 | 本人のQOL(生活の質)を上げるための提案が、資産保護を理由に断られる。 |
|---|---|
| 困りごと | 本人の生活が豊かにならず、「後見人を入れても何もしてくれない」と感じてしまう。 |
| よくある誤解 | 「後見人の最大の仕事は、財産を1円でも多く残すことである」という思い込み。 |
| 押さえるべき視点 | 本人の意思を実現するための出費は、後見人が実践すべき身上保護の一環とされています。 |
出典元の要点(要約)
厚生労働省意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
形成・表明された意思をどのように実現するかという意思実現支援は、本ガイドラインにおける意思決定支援の定義には直接含まれませんが、後見人等による身上保護の一環として実践されることが期待されます。例えば、生活の本拠について検討する場面で、在宅生活の継続という意思が示された場合、自宅のリフォーム契約締結など必要な事務を行うことが求められます。
後見人が現場に来ず、書面や通帳の数字だけで判断を下す
専門職後見人が本人と会わず、書類上の報告だけで事務的に判断を下してしまうケースです。
| 状況 | 後見人が本人と面会せず、通帳の数字や提出された書面のみで物事を決定している。 |
|---|---|
| 困りごと | 現場が本人の細やかな変化や希望を伝えても響かず、連携や信頼関係が築けない。 |
| よくある誤解 | 「後見人はお金の専門家だから、介護現場の様子まで直接見る必要はない」という誤解。 |
| 押さえるべき視点 | 後見人には、定期的な面談や日常生活の観察を通じて本人との信頼関係を構築することが重要です。 |
出典元の要点(要約)
厚生労働省意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
後見人等は、定期的な面談や日常生活の観察等を通じて積極的にコミュニケーションを図り、本人が安心して自分の意思を伝えることができるような信頼関係を構築しておくことが重要です。後見人等がどのような存在であるかを本人に正しく認識してもらうことで、本人が安心して支援を受けることができるようになります。
現場で感じる「何もしてくれない」という不満は、後見人が本来果たすべき役割が十分に機能していないことで生じる場合があります。すれ違いを防ぐには、ガイドラインが求める後見人の正しい役割を知ることが重要です。
なぜ現場の「本人のため」は却下される?制度と現場の構造的なすれ違い

現場では、「本人が楽しみにしている外食を提案しても、後見人からは『無駄遣い』と言われてしまう」といった声がよく聞かれます。
なぜこのような「すれ違い」が起きてしまうのか、根本的な原因を紐解きます。
「本人の喜び」よりも「客観的な正しさ」が優先されやすいから
支援者や後見人が「一般的に考えてこれがこの人のためだ」という客観的な正しさで物事を決めてしまう傾向があります。
現場の介護職は本人の主観的な喜びを大切にしたいと考えますが、後見人の「安全第一・節約優先」という論理に押し切られやすくなります。
ガイドラインでは、この第三者の価値観の押し付けを否定し、本人の意向や価値観を最大限尊重するよう求めています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
本ガイドラインにおける最善の利益とは、本人の意向・感情・価値観を最大限尊重することを前提に他の要素も考慮するという考え方であり、「こうするのが本人のためだ。」と第三者の価値観で決める客観的・社会的利益を重視した考え方は採用していません。
専門職後見人は、選任直後は「本人のことを一番知らない人」だから
専門職後見人は、選任された段階では本人の歴史や好みを把握できていません。
| 現場の支援者 | 表情の変化から「今やりたいこと」を汲み取っている。 |
|---|---|
| 専門職後見人 | 情報量が少なく、書類上の事実だけで判断せざるを得ない。 |
本人のことを一番知らない人が法的な決定権を持つ構造が、摩擦を生む一因となっています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
専門職後見人の場合は、選任された時点では本人に関する情報量が親族や介護サービス事業者と比べて圧倒的に少ないことを自覚し、意識的に本人と話をしたり、本人のことを知ろうと努めることが重要です。
職種によって「本人のため」の解釈がバラバラだから
医療・介護・法律など職種ごとの職業倫理の違いにより、「意思を尊重する」基準が異なります。
| 介護職の視点 | 本人の今の笑顔や生活の質(QOL)を最優先したい。 |
|---|---|
| 後見人の視点 | 本人の将来の生活基盤や財産を守ることを最優先したい。 |
これを防ぎ、同じ方向を向くための共通認識を持つことが重要です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
意思決定支援をする支援者側の共通理解が乏しい場合、適切な支援が行われなかったり、本人の意思を都合よく解釈した事実上の代行決定が行われたりするおそれがあります。後見人等を含めた支援者は、職業倫理や価値観の違いによる対立を防ぎ、本人の意思決定を尊重する基本的姿勢を身につけるため、ガイドラインの読み合わせや研修等により共通認識を得ておくことが重要です。
現場と後見人のすれ違いは、「客観的正しさの優先」「情報量の差」「職業倫理の違い」という要因から生じることがあります。これらを理解することが、本人中心の支援を再構築するための第一歩となります。
成年後見制度の「身上保護」に関する、現場の小さな迷いへの回答
現場で後見人とやり取りをする中で迷いやすいポイントを、ガイドラインの基準をもとに解説します。
- Qどうしても本人の意思が確認できない場合、後見人の判断で勝手に決めてよいのでしょうか?
- A後見人の個人的な価値観だけで決めることは推奨されていません。 意思決定支援を尽くしても困難な場合は、これまでの生活史や価値観から「本人ならどう考えるか」という推定意思を探り、それに基づき行動することが基本です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
意思決定支援を踏まえた後後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
意思決定支援が尽くされても本人の意思決定や意思確認が困難な場合には代行決定に移行しますが、その場合であっても、後見人等はまずは明確な根拠に基づき合理的に推定される本人の意思(推定意思)に基づき行動することを基本とします。
- Q本人の希望通りにすると、健康上の重大な危険がある場合でも止められないのでしょうか?
- A本人にとって見過ごすことができない重大な影響が生じる場合は、止めることが許容されます。 法的保護の観点から、本人の最善の利益に基づいた代行決定を行うことが認められています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
意思決定支援の結果として本人が意思を示した場合や意思推定ができた場合であっても、その意思をそのまま実現させてしまうと本人にとって見過ごすことができない重大な影響が生じるような場合には、法的保護の観点から「最善の利益」に基づいた代行決定を行うことが許容されます。
- Q一度、後見人によって代行決定されたら、もう本人は自分で決められないのでしょうか?
- A代行決定されても、次の機会には再び「本人には決める能力がある」という前提に戻って支援をやり直すことが定められています。 一度の代行決定が、その後の多くの判断において本人の能力を否定する理由にはなりません。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
第7原則では、一度代行決定が行われた場合でも、次の意思決定の場面では第1原則に戻り意思決定能力の推定から始めることが定められています。
本人の意思が確認できない場合は「推定意思」を探ることが基本であり、安全と対立する場合は「最善の利益」による代行決定が許容されます。常に本人の意思決定能力を信じ、その都度支援をやり直す姿勢が求められています。
まとめ:成年後見制度を味方につけ、本人の「今」を支えるパートナーへ
成年後見制度は、単にお金を守るためのものではなく、本人の意思と生活を支えるための仕組みへと改善が求められています。現場で感じる「制度の壁」は、情報量や役割の違いから生まれる構造的なものです。あなたが抱く「もっとこうしてあげたい」という願いは、決して間違っていません。
明日からの現場でできる最初の一歩は、本人の小さな喜びやこだわりを「記録」として残すことです。その積み重ねこそが、後見人が本人の推定意思を汲み取り、身上保護としての支出や支援を判断するための有力な根拠となります。
一人で抱え込まず、記録という事実を共有することで、後見人を本人の豊かな暮らしを実現する強力なパートナーに変えていきましょう。
最後までご覧いただきありがとうございます。
この記事が、日々現場で奮闘する皆様の不安を少しでも和らげる一助となれば幸いです。関連コンテンツ
更新履歴
- 2026年5月22日:新規投稿






