「その湿疹、もしかして……」 利用者様が体をポリポリとかいている姿を見て、背筋が凍るような思いをしたことはありませんか?
特に小さなお子様や高齢のご家族がいる職員さんにとって、「ダニを家に持ち帰ってしまうかもしれない」という不安は、計り知れないストレスだと思います。
でも、過度に怖がる必要はありません。実は、疥癬の原因となるヒゼンダニには「熱に弱く、肌から離れると長く生きられない」という明確な弱点があるからです。
敵の正体を正しく知れば、過剰な消毒や恐怖心に振り回されることなく、あなた自身の生活もしっかりと守ることができます。
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「ダニは50℃の熱で死滅する」「手洗いで物理的に落ちる」といったエビデンスを知ることで、見えない恐怖が解消されます。職場での適切な処置と、家庭に持ち込まないための具体的な防衛術を自信を持って実践できるようになります。
結論:「熱」が最大の武器。種類を見極めて対応する

「疥癬」と聞くと、得体の知れない恐怖を感じるかもしれません。しかし、相手はウイルスのような目に見えない微粒子ではなく、あくまで「ダニ」という生物です。
生物としての「明確な弱点(熱)」と「感染力の違い(病型)」を知っていれば、過剰に怯えることなく、冷静に対処することができます。ここでは、エビデンスに基づいた「怖がらなくていい理由」と「守るべきライン」を解説します。
敵(ヒゼンダニ)の弱点は「50℃以上の熱」
疥癬の原因となるヒゼンダニは、熱に非常に弱いという致命的な弱点を持っています。マニュアルでは、「50℃、10分間の熱で死滅する」と明記されています。
つまり、特別な消毒薬を使わなくても、熱湯や乾燥機の「熱」を利用することで、衣類やリネンについたダニを確実に無力化できます。この「熱」こそが、あなたと施設を守る最強の武器になります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
疥癬虫は、皮膚から離れると比較的短時間で死滅します。また、熱にも弱く、50℃、10分間の熱で死滅するとされています。
「通常疥癬」と「角化型(ノルウェー)疥癬」は別物
疥癬には感染力が弱い「通常疥癬」と、極めて強い「角化型疥癬(ノルウェー疥癬)」の2種類があります。この2つは、対応レベルが全く異なります。
- 通常疥癬:ダニの数は少ない(数匹〜数十匹程度)。長時間の接触で感染する。
- 角化型疥癬:ダニが多数(100万〜200万匹)。感染力が強く、短時間の接触や衣類、寝具を介しても感染し、集団感染の原因となる。
目の前の利用者様がどちらのタイプかによって対応を変えることが、現場の負担を減らすカギです。医師の診断を確認し、通常疥癬であれば過剰な防備は不要です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
疥癬の病型には通常の疥癬と、その重症型の角化型疥癬(通称「ノルウェー疥癬」)があります。(中略)角化型疥癬は、ダニの数が100万~200万匹と多数で感染力が強いため、短時間の接触や、衣類、寝具を介しても感染し、施設内集団感染の原因となることがあります。
基本は「接触予防策」。手袋とガウンで身を守る
どちらのタイプであっても、基本は「素手で触らない」ことです。 ケア時には必ず手袋を着用し、皮膚が直接触れないようにします。特に感染力の強い角化型の場合は、さらに使い捨てガウン(エプロン)を使用して、あなたの衣服にダニが付着するのを防ぎます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
素手で皮膚を触らないよう手袋を着用します。また、無防備に患者に接触しないことが重要です。疥癬の場合は、施設内集団発生することがあり、接触感染予防策が必要です。
相手が見えないからこそ恐怖は膨らみますが、相手は「熱」と「物理的な遮断」に弱い生物です。種類に応じた装備と対応を知っていれば、過剰に怯える必要はありません。まずは冷静に、敵の正体を見極めることから始めましょう。
よくある事例:現場でやりがちな「NG行動」と対策

「疥癬は怖い」という意識が強すぎると、現場では必要以上の対策をとってしまったり、逆に重要なポイントを見逃してしまったりすることがあります。ここでは、現場でよく見かける間違いと、エビデンスに基づいた正しい対応について解説します。
NG事例① 全ての衣類を廃棄・別洗いしてしまう
「ダニがついているかもしれないから」と、利用者の衣類を捨てたり、強力な薬剤に漬け込んだりしていませんか? 実は、そこまでする必要はありません。
対策:ヒゼンダニは熱に弱いため、洗濯後の「乾燥機(50℃以上で10分間以上)」や「熱湯消毒(80℃以上の熱水洗濯など)」が最も有効かつ確実な処理方法です。特別な殺虫剤を使わなくても、通常の洗濯と「熱処理」を組み合わせることで、ダニを死滅させることができます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
疥癬虫は、皮膚から離れると比較的短時間で死滅します。また、熱にも弱く、50℃、10分間の熱で死滅するとされています。
厚生労働省老健局
介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
「リネン・衣類」の処理方法として「熱水洗濯機(80℃10分間)」が示されている。「洗浄後乾燥させる」とされ、洗浄と乾燥の両方が重要であることが記載されている。
NG事例② 「通常型」と「角化型」を区別せず過剰防衛する
「疥癬が出たから全員ガウン着用! 個室隔離!」と、すべてのケースで最大級の対策をとっていませんか? これでは現場が疲弊してしまいます。
対策:感染力が非常に強い「角化型(ノルウェー疥癬)」の場合は徹底的な対策が必要ですが、ダニの数が少ない「通常疥癬」であれば、過剰な対応は不要です。医師の診断を確認し、病型に応じた適切な予防策(手袋の着用など)を講じることが、継続可能なケアにつながります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
疥癬の病型には通常の疥癬と、その重症型の角化型疥癬(通称「ノルウェー疥癬」)があります。(中略)角化型疥癬は、ダニの数が100万~200万匹と多数で感染力が強いため、短時間の接触や、衣類、寝具を介しても感染し、施設内集団感染の原因となることがあります。
厚生労働省
高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
素手で皮膚を触らないよう手袋を着用します。また、無防備に患者に接触しないことが重要です。疥癬の場合は、施設内集団発生することがあり、接触感染予防策が必要です。
NG事例③ 制服や衣類を「そのまま自宅に持ち帰る」
「忙しいから家で洗おう」と、ケアに使用した制服や利用者の衣類をそのまま持ち帰っていませんか? これは家庭にダニを持ち込むリスクを高める行動です。
対策:マニュアルでは、「当日着た衣服は、介護施設・事業所で洗濯をする」「自宅への持ち帰りはやめる」ことが推奨されています。施設内で洗濯・乾燥まで完了させることで、家庭への持ち込みを確実に防ぎましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
当日着た衣服は、介護施設・事業所で洗濯をします。自宅への持ち帰りはやめましょう。
「怖いから全部やる」のではなく、「熱を加える」「持ち帰らない」といった急所を押さえることが、賢い疥癬対策です。エビデンスに基づいた「やらない勇気」と「守るべきルール」を持つことで、自分自身と家族を守りながら、落ち着いて業務にあたることができます。
理由:なぜ「熱」と「接触対策」で防げるのか

マニュアル通りに対応していても、「本当にこれで大丈夫なの?」と不安になることがあるかもしれません。しかし、その対応策には生物学的な「根拠」があります。ここでは、なぜ熱処理や手袋だけで防げるのか、その理由を解説します。
感染経路は「接触」がメインだから
疥癬は、ダニが寄生している人の肌に直接触れたり、ダニがついた衣類や寝具を使ったりすることでうつる「接触感染」です。
インフルエンザのように咳やくしゃみで飛ぶ(飛沫感染)わけではなく、空気中を漂う(空気感染)ことも基本的にはありません。そのため、肌と肌が触れないように手袋やガウンで「物理的に遮断」すれば、感染のリスクは劇的に下がります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
感染経路として、接触感染(経口感染を含む)、飛沫感染、空気感染、血液媒介感染が示されています。(中略)疥癬の場合は、施設内集団発生することがあり、接触感染予防策が必要です。
厚生労働省老健局
介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
接触感染の説明では、「接触感染の多くは、汚れた手で眼、鼻、口、傷口等を触ることで病原体が体内に侵入して感染が成立する」と記載されている。また、「感染しているヒトに直接触れること(握手等)で伝播がおこる直接接触感染と、汚染された物(ドアノブ、手すり、食器、器具等)を介して伝播がおこる間接接触感染がある」と整理されている。
ダニは人の肌から離れると長く生きられないから
ヒゼンダニは人の皮膚から離れると、乾燥に弱く、比較的短時間で死滅するという性質があります。また、前述の通り「熱にも弱い」ため、環境中や衣類に残ったダニも、適切な清掃と熱処理で確実に減らすことができます。
そのため、ケアの後に手洗いをし、衣類を交換・洗濯(乾燥)すれば、ダニを家に持ち帰って繁殖させてしまう心配はほとんどありません。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
疥癬虫は、皮膚から離れると比較的短時間で死滅します。また、熱にも弱く、50℃、10分間の熱で死滅するとされています。
「見えないから怖い」のではなく、「見えなくても弱点は決まっている」と捉え直しましょう。熱と物理的遮断というシンプルな対策こそが、最強の防衛策なのです。
FAQ:現場の疑問に答える
対応に迷いやすいポイントについて、ガイドラインの視点からQ&A形式で解説します。自己判断で悩む前に、ここでの基準を確認しておきましょう。
- Q入浴の順番はどうすればいいですか?
- A
感染拡大を防ぐため、疥癬の利用者(特に角化型)は「最後」に入浴してもらうのが原則です。入浴後は浴槽やマットを入念に清掃・交換します。通常疥癬の場合は、症状のある部位をタオルで覆うなどの配慮があれば、必ずしも最後でなくても良い場合がありますが、施設のルールと医師の指示を確認してください。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局
介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
入浴介助の中で、感染の疑いがある利用者については、原則清拭が望ましいとしつつ、「入浴する場合には、他の利用者への二次感染を防ぐため、入浴の順番を最後にすることや、他の利用者と接触しないように注意します」とされている 。
- Q洗濯物はどうやって洗えばいいですか?
- A
50℃以上のお湯に10分以上浸すか、洗濯後に高温の乾燥機を使用することでダニを死滅させることができます。角化型疥癬の場合は、ビニール袋に入れて運び、他の洗濯物と混ぜずに単独で扱うことが推奨されます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月) https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
当日着た衣服は、介護施設・事業所で洗濯をします。自宅への持ち帰りはやめましょう。(※職員の対応として記載)また、熱にも弱く、50℃、10分間の熱で死滅するとされています。
- Q疥癬と診断されたら、入所は断るべきですか?
- A
原則として、「入所前に治療を済ませてもらう」ことが推奨されています。治療を開始し、医師から感染力がなくなったと判断されれば、受け入れは可能です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局 介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
「疥癬(かいせん)の感染が認められ介護施設に入所する場合には、原則として、入所前に治療を済ませてもらうようにします。」と明記されている。
迷ったときは「熱処理」と「接触回避」の原則に立ち返りましょう。そして判断に困るケースは、自己判断せず医師や看護職員に相談することが、あなた自身を守ることにもつながります。
まとめ:知識は「見えない恐怖」を消す最強の防具
疥癬は、ヒゼンダニという「虫」が原因であるため、生理的な嫌悪感や恐怖を感じやすい感染症です。しかし、相手は得体の知れない怪物ではありません。「熱に弱い」「肌から離れれば死ぬ」という性質を持った、対処可能な生物です。
正しく恐れ、ガイドラインに基づいた「熱処理」と「接触対策」を行うことで、利用者様のケアとあなた自身の生活の両方を、確実に守ることができます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
疥癬は、ダニの一種であるヒゼンダニ(疥癬虫)が皮膚に寄生することで発生する皮膚病です。(中略)疥癬虫は、皮膚から離れると比較的短時間で死滅します。また、熱にも弱く、50℃、10分間の熱で死滅するとされています。
「感染したらどうしよう」と不安に思うのは、あなたが真剣に仕事に向き合っている証拠です。その不安を「知識」で自信に変えてください。正しい知識があれば、あなたはもう過剰に怯えることなく、プロとして冷静なケアを提供できるはずです。
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更新履歴
- 2025年11月29日:新規投稿


