介護現場では、寄り添いたいのに寄り添えない日があります。コールが重なり、排泄介助、食事介助、記録、家族対応まで抱えていると、利用者の話をゆっくり聞く余裕は残りません。
その状態で「もっと寄り添って」と言われると、雑にしたいわけではないのに責められているように感じます。認知症の利用者に急いで介助へ入った結果、拒否が強まり、やり直しや二人対応になってしまうこともあります。
この記事では、寄り添う介護と生産性向上は対立しないという視点で整理します。個人がもっと頑張る話ではなく、拒否が出やすい場面と効いた声かけをチームで共有し、介護士が利用者に向き合える余白を作るための考え方です。
この記事を読むと分かること
- 寄り添いの考え方
- 生産性向上の意味
- 拒否が強まる理由
- チーム共有の一歩
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
寄り添う介護と生産性向上は、どちらか一方ではない

寄り添いと生産性向上は対立ではなく、混乱ややり直しを減らす循環として考えます。
寄り添う介護は、利用者の話を何十分も聞くことだけではありません。介助前に「これから上着を替えますね」と伝える、いきなり触れずに表情を見る、拒否が出たら一度止まる。こうした短い関わりが、後から大きく荒れないための準備になることがあります。
一方で、その短い関わりさえできないほど現場が詰まっているなら、記録、申し送り、役割分担、物品探し、二重入力を見直す必要があります。寄り添いを個人の優しさに任せるのではなく、チームで再現できる行動に変えることが大切です。
生産性向上は人を減らす話ではなく介護の価値を高める話
現場で「生産性向上」と聞くと、もっと早く動け、人を減らすためではないか、と受け取られることがあります。そこを間違えると、介護士には仕事を増やされるだけの言葉に聞こえます。
ガイドラインでは、生産性向上を介護の価値を高める取り組みとして示しています。人材育成、チームケアの質、情報共有の効率化が含まれるため、単なる時短ではありません。生まれた余白を、利用者対応、職員の休憩、OJT、申し送りの改善に戻してこそ意味があります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
介護サービスの生産性向上を「介護の価値を高めること」と定義しています。
寄り添いは長時間の傾聴だけではなく介助前の整え方
忙しい勤務帯では、利用者の話を長く聞けないことがあります。だからといって、寄り添いをあきらめる必要はありません。大切なのは、介助へ入る前の混乱を減らすことです。
認知症の利用者には、誰に何をされるのかが分かりにくい場面があります。そこで、名前を呼ぶ、短く伝える、一つずつ声をかける。こうした関わりは、時間を大量に使う特別なケアではなく、本人の不安を下げるための下準備です。
出典元の要点(要約)
株式会社穴吹カレッジサービス
認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
名前を呼んでから話しかける
生まれた余白を利用者対応とチーム育成へ戻す
生産性向上の目的を「早く終わらせること」だけにすると、現場はさらに疲れます。目的は、削った時間を別の仕事で埋めることではなく、利用者と職員に必要な場所へ戻すことです。
たとえば、記録の重複を減らした時間を、拒否が強い利用者の声かけ共有に使う。物品探しを減らした分、休憩を確保する。申し送りの抜けを減らし、新人が同じ失敗を繰り返さないようにする。これが、寄り添いと生産性向上を循環させる考え方です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
利用者に向き合う時間を増やしたり
寄り添う介護と生産性向上は、どちらかを選ぶものではありません。短い声かけで混乱を減らし、業務の見直しでその声かけができる余白を作ることが、現場を回しやすくします。
よくある事例:寄り添いたいのに寄り添えない場面

現場で苦しいのは、介護士が冷たいから寄り添えないわけではないことです。本人も丁寧に関わりたい。それでも、フロア全体を回す責任があるため、一人に長く止まれない日があります。
ここでは、寄り添いが崩れやすい場面を整理します。責めるためではなく、どこをチームで直せばよいか見えるようにするためです。
コールと介助が重なり声かけが短くなる
排泄介助中に別のコールが鳴り、食事介助も残り、記録も終わっていない。そんな勤務帯では、利用者の一言に丁寧に返す余裕がなくなります。
本当は「寒くないですか」「少し待ってくださいね」と言いたいのに、口から出るのは「早くしましょう」「今やります」だけになる。あとで振り返ると、もっと違う声かけができたはずだと思い、自分を責めることもあります。
出典元の要点(要約)
日本社会福祉学会
介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
やりたいけどできない
説明不足のまま触れて拒否が強くなる
忙しいからと、いきなり更衣や排泄介助へ入ると、本人は何をされるのか分からず怖くなることがあります。職員は急いで終わらせるつもりでも、本人にとっては突然体に触れられた体験になります。
その結果、手を払う、体を固くする、怒る、動かなくなる。介助は一度で終わらず、時間を置く、人を替える、二人対応になる。早く終わらせるための対応が、後工程を増やすことがあります。
出典元の要点(要約)
株式会社穴吹カレッジサービス
認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
一つひとつの動作に対して声かけをする
記録と申し送りが弱く同じ混乱が繰り返される
ある職員は「朝いきなり更衣に入ると拒否が強い」と知っている。別の職員は知らず、同じように拒否を受ける。これが続くと、利用者も職員も疲れていきます。
効いた声かけや崩れた場面が共有されないと、寄り添いは個人技のままです。できる職員だけがうまく対応し、忙しい日や新人が入った日には崩れます。記録と申し送りは、職員を縛るためではなく、うまくいった関わりを再現するために使います。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
利用者に関する申し送り事項の共有に漏れがある
暴言や強い拒否を一人で抱えてしまう
暴言や強い拒否が続くと、介護士の心は削られます。認知症だから仕方ない、介護士だから耐えるべき、という空気だけでは危険です。
BPSDが背景にある可能性を見ながら、職員の安全も同時に守る必要があります。受けた言動、起きた場面、直前の介助、本人の状態を記録し、上長や事業所内で共有します。一人で抱えないことは、職員を守るだけでなく、利用者への関わりを見直す入口にもなります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護現場におけるハラスメント対策マニュアル
https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947524.pdf
職員が一人で問題を抱え込まず
寄り添えない場面は、個人の気持ちだけでは解決しません。コールの集中、説明不足、申し送りの抜け、強い拒否を見える化し、同じ混乱を繰り返さない仕組みに変えることが必要です。
理由:なぜ寄り添いと生産性向上はつながるのか

寄り添う介護は、ただ優しい言葉を増やすことではありません。利用者の不安、職員の焦り、記録や申し送りの抜けが重なると、現場は同じところでつまずきます。
生産性向上は、そのつまずきを見えるようにして、やり直しや混乱を減らすために使えます。ここでは、寄り添いと生産性向上がつながる理由を整理します。
寄り添えない原因が見えないと個人の優しさに戻ってしまう
「もっと寄り添って」と言うだけでは、現場は変わりません。どの時間帯にコールが集中するのか、どの介助で拒否が出やすいのか、誰に業務が偏っているのかが見えないままでは、結局は個人の頑張りに戻ります。
まず見るのは、職員の性格ではなく業務の流れです。朝の更衣、夕食前のコール、排泄誘導、記録の二重入力など、詰まりやすい場面を一つ選びます。全部を変えるのではなく、崩れやすい一点から始める方が現実的です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
誰が、どのような業務に、どの程度の時間をかけているか
急ぐほど不安や自尊心の傷つきを見落としやすい
忙しいと、職員は正しいことを短く言いがちです。「立ってください」「トイレです」「着替えます」。内容は間違っていなくても、本人の不安には届かないことがあります。
認知症の利用者は、周囲の変化や分からなさで不安を抱えやすくなります。説明が本人に届かないまま急ぐと、怖い、嫌だ、何をされるのか分からないという反応が出ます。そこで押し切ると、介護への抵抗として次回以降にも残ることがあります。
出典元の要点(要約)
株式会社穴吹カレッジサービス
認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
介護への抵抗
うまくいった声かけを共有するとチームの再現性が上がる
寄り添いをチームで作るには、抽象的な言葉を小さな行動へ分けます。いきなり触れない。最初に一言説明する。拒否が出たら一度止まる。本人が選べる場面を残す。急がせる前に安心させる。
共有する内容も、長い記録でなくて構いません。「朝いきなり更衣に入ると拒否が強い」「排泄前に雑談を入れると動きやすい」「急かすと不穏になる」。この程度の短い情報でも、次の職員の関わり方は変わります。
| 見る場面 | 共有する内容 | 戻す先 |
|---|---|---|
| 拒否が出た介助 | 直前の声かけと本人の反応 | 申し送り |
| 落ち着いた介助 | 効いた声かけや待つ時間 | 記録 |
| 業務が詰まる時間 | コール、記録、役割の重なり | 役割分担 |
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
課題の原因は何か
職員の怒りを個人責任にすると悪循環が残る
暴言や拒否が続けば、感情を切らないと働けない日もあります。そこで「介護士なのだから優しくして当然」とだけ言うと、職員は本音を出せなくなります。
怒りを肯定するのではなく、怒りが出やすい状態を減らすことが大切です。休憩が取れない、同じ拒否が共有されない、記録が増える、二人対応が続く。こうした環境をそのままにして、職員だけに優しさを求めると、利用者にも職員にもよくありません。
出典元の要点(要約)
日本社会福祉学会
介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
環境整備や教育
家族対応は普段の説明と引き上げ基準で軽くする
家族から「ちゃんと見てください」と言われると、現場職員は強く責められたように感じます。家族にも不安があり、職員にも限界があります。その場で職員が全部受け止める構造にしないことが必要です。
普段から、拒否がある介助、認知症の進行、転倒リスク、施設として行っている対応を短く共有します。説明が必要な範囲、管理者へ引き上げる基準、記録に残す内容を決めておくと、家族対応も個人の受け止め方だけに寄りにくくなります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護現場におけるハラスメント対策マニュアル
https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947524.pdf
組織として対応
寄り添いと生産性向上がつながる理由は、どちらも「現場の混乱を減らす」ために使えるからです。拒否が起きる場面、効いた声かけ、業務の詰まりを共有すれば、寄り添いは個人技からチームの行動へ変わります。
寄り添う介護と生産性向上でよくある質問
- Q寄り添う介護は時間がかかるだけですか?
- A
寄り添う介護は、長時間話を聞くことだけではありません。介助前に名前を呼ぶ、これから行うことを短く伝える、拒否が出たら一度止まる。こうした関わりで、本人の不安が下がり、結果としてやり直しが減ることがあります。
ただし、すべてを個人の気づきに任せると続きません。効いた声かけを申し送りや記録で共有し、忙しい日でも再現できる形にすることが大切です。
出典元の要点(要約)
株式会社穴吹カレッジサービス
認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
短文でわかりやすい表現を使う
Q生産性向上は仕事を増やす話ですか?A本来は、仕事を増やすためではありません。記録の重複、申し送りの抜け、物品探し、役割のあいまいさを見直し、利用者に向き合う時間や職員の休憩、OJTへ戻すための取り組みです。
現場に説明するときは、「早く動くため」だけでなく、「介護の価値を高めるため」「チームで同じケアをしやすくするため」と伝える必要があります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
チームケアの質の向上
Q認知症の暴言や拒否は我慢するしかありませんか?A我慢だけで抱える必要はありません。BPSDが背景にある可能性を見ながら、職員の安全を守る対応も同時に必要です。何が起きたか、どの介助の前後か、本人の状態はどうだったかを共有し、上長や事業所内で対応を検討します。
認知症だから仕方ない、介護士だから耐えるべき、という方向に寄せすぎると危険です。本人へのケアと職員の安全を分けず、組織として扱います。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護現場におけるハラスメント対策マニュアル
https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947524.pdf
BPSDである可能性を前提にしたケア
Q明日から何を始めればいいですか?Aまずは、拒否が出やすい介助を一つだけ選びます。更衣、排泄誘導、食事介助、入浴前の声かけなど、現場で困りやすい場面を絞ります。
次に、崩れた声かけと落ち着いた関わりを短く共有します。「急かすと不穏」「先に説明すると動きやすい」「選択肢を出すと拒否が軽い」のように、次の職員が使える形にします。全部を変えようとせず、一つの場面から始めます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
優先的に解決すべき課題
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まとめ:拒否が出やすい介助を一つだけ共有する
寄り添う介護は、生産性の敵ではありません。むしろ、拒否、不穏、やり直し、職員間のピリつき、家族対応のこじれといった見えにくいロスを減らし、現場を回しやすくする可能性があります。
一方で、寄り添うためには余白が必要です。記録、申し送り、役割分担、情報共有を見直し、介護士が利用者に向き合える状態をチームで作る必要があります。
つまり、「寄り添うから生産性が上がる」だけでも、「生産性を上げれば寄り添える」だけでもありません。現場では、その二つを小さく循環させることが大切です。
最初から全部を変えなくて構いません。まずは拒否が出やすい介助を一つ選び、どんな声かけで崩れたか、どんな関わりで落ち着いたかをチームで共有してください。そこから、寄り添える状態は少しずつ作れます。
最後までご覧いただきありがとうございます。
更新履歴
- 2025年11月16日:新規投稿
- 2026年2月22日:最新情報に基づき加筆・修正
- 2026年5月21日:内容を全面的にリライト








