感染対策のための消毒作業は、忙しい業務の合間に行うことが多く、「このやり方で本当に合っているのかな?」と迷いやすい場面です。
現場で「昔からのやり方」「自己流」で続けられている習慣の中には、厚生労働省などのガイドラインとは異なる方法も含まれています。
この記事では、公的なエビデンスに基づき、現場でよく見られる消毒のNG行動と、その理由を整理しました。
消毒の「やっていいこと・いけないこと」を確認し、日々のケアの安全性を高めるためのヒントとして活用してください。
この記事を読むと分かること
- 厚生労働省などのガイドラインに基づいた、推奨される消毒方法が分かります
- 現場で注意が必要な行動と、その理由を事実に基づいて理解できます
- アルコールと次亜塩素酸ナトリウムの、場面に応じた使い分けが分かります
- 嘔吐物処理など、緊急時に推奨される具体的な手順を理解できます
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
最初に知っておきたい!感染対策の「大原則」

毎日、食事介助や排泄介助にと走り回る中で、目に見えないウイルスや細菌と戦うのは本当に大変ですよね。でも、複雑に思える感染対策も、実は「3つの基本」さえ押さえておけば、忙しい現場でも迷わずに判断できるようになります。
3つの合言葉「持ち込まない・持ち出さない・拡げない」
感染対策において最も大切なのは、そもそもウイルスを施設内に入れない、そして広げないことです。厚生労働省が発行する「感染対策の基礎知識」では、高齢者施設における感染制御の基本として、以下の3つを徹底することを掲げています。
- 病原体を持ち込まない
- 病原体を持ち出さない
- 病原体を拡げない
具体的には、手洗いや換気、マスクの着用といった日々の行動が、この3つのどれに当てはまるかを意識することが重要です。特に、施設の外からウイルスが入り込まないようにする「水際対策」と、万が一入り込んだとしても施設内で広げないための「感染経路の遮断」が、集団感染を防ぐための大きな柱となります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
感染対策の基礎知識|1 感染対策の原則
https://www.mhlw.go.jp/content/000501120.pdf
この資料は、感染症は「①病原体(感染源)②感染経路 ③宿主」の3つの要因がそろって成立すると説明し、感染対策ではこの3要因のうち一つでも断つことが重要とする。そのうえで、病原体を「1|持ち込まない 2|持ち出さない 3|拡げない」が基本と整理し、「高齢者施設における感染制御の基本」として「感染経路の遮断」を強調している。介護施設の職員が、自身の行動や手指衛生、環境整備をどこに効かせているのか理解するための枠組みとなる内容である。
汗以外はすべて感染源とみなす「標準予防策」
「あの利用者さんは元気そうだから、手袋なしでも大丈夫かな」と思ったことはありませんか? 実は、それが一番の落とし穴です。
厚生労働省の「介護現場における感染対策の手引き」では、利用者の感染症の診断がついているかどうかにかかわらず、血液・体液・排泄物などはすべて感染源として扱うよう定めています。これを「標準予防策(スタンダード・プリコーション)」と呼びます。
具体的には、以下のものに触れる可能性があるときは、必ず手袋などの防護具を使用します。
| 対象となるもの | 具体例 |
| 体液・分泌物 | 唾液、痰、鼻水、涙、血液 |
| 排泄物 | 便、尿、嘔吐物 |
| 皮膚・粘膜 | 傷口、発疹、口の中、目の粘膜 |
「相手が誰であっても、ケアの内容に応じて防御する」という姿勢が、あなた自身と他の利用者さんを守ることにつながります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局
介護現場における感染対策の手引き(第3版)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
手引きは、介護現場での基本として「標準予防策(Standard Precautions、スタンダード・プリコーション)」を解説し、「血液、体液、汗を除く分泌物、排泄物、損傷した皮膚、粘膜等の湿性生体物質」はすべて感染の可能性があるとみなすとする。「血液等の体液・嘔吐物・糞便等には感染性の病原体が含まれていることが多く」ケア時には手袋・マスク・ゴーグル等の適切な個人防護具の使用と「手袋を外した後は手洗いを丁寧に行うこと」が基本であると繰り返し強調する。特に介護分野では、「嘔吐物、排泄物の処理や発疹や傷のある皮膚に触る際に注意が必要」とし、日常ケアそのものが感染予防の重要な場面であることを示している。
消毒の前に!まずは「洗浄」と「乾燥」が命
忙しいと、つい汚れた場所にいきなり消毒スプレーをかけたくなりますが、実はこれでは効果が半減してしまいます。
厚生労働省の「高齢者介護施設における感染対策マニュアル」では、消毒薬による消毒よりも、まずは目に見える埃や汚れを除去することを優先するよう示しています。なぜなら、有機物(汚れ)が残っていると消毒薬のパワーが落ちてしまうからです。
- 洗浄(清掃):水拭きや洗剤で汚れを落とす
- 乾燥:しっかり乾かす(菌は湿気を好みます)
- 消毒:必要に応じて、清潔な状態で消毒する
この順番を守るだけで、環境の清潔度は格段に上がります。「まずはきれいに拭き取る」ことから始めましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
施設内の衛生管理では、まず施設内の環境の清潔を保つことが重要ですとされ、日常的な整理整頓と清掃の意義が示される。そのうえで、消毒薬による消毒よりも目に見える埃や汚れを除去し、居心地の良い、住みやすい環境づくりを優先しますと述べられ、過度な消毒よりも「きれいに保つこと」が基本とされている。また、手洗い場やうがい場、汚物処理室といった感染対策に必要な施設や設備を入所者や職員が利用しやすい形態で整備することが大切ですとされ、職員が感染対策を実行しやすい環境設計の重要性が示される。
ここまでの「基本原則」を押さえた上で、次からは実際の現場でよく見かける「実は逆効果だった消毒方法」について、具体的なNG事例を見ていきましょう。意外とやってしまっていることがあるかもしれません。
現場でよく見る「NG消毒」5選!そのやり方、実は逆効果かも?

知識としては分かっていても、忙しい現場ではつい「自己流」や「昔からの慣習」で続けてしまっている消毒方法があるかもしれません。ここでは、厚生労働省のガイドライン等で明確に「推奨されない」とされている、代表的な5つのNG行動を紹介します。これらを見直すだけで、施設の安全性は大きく向上します。
NG行動① 空間やモノへの「消毒液スプレー噴霧」
掃除の仕上げや嘔吐物の処理時に、消毒液をスプレーで「シュッ」と吹きかけていませんか? 実は、これは厚生労働省が明確に「行わないでください」と注意喚起している行動です。
スプレー噴霧には以下のリスクがあります。
- ウイルスが舞い上がり、周囲に拡散してしまう
- 消毒液を吸い込んでしまい、職員や利用者の健康を害する
- 消毒液がムラになり、十分な効果が得られない
消毒の基本は、ペーパータオルや布に消毒液を含ませて「拭き取る(清拭)」ことです。スプレーボトルを使う場合も、対象物に直接吹きかけるのではなく、まず布に吹きかけてから拭くようにしましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局
介護現場における感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
本手引きは、消毒薬の選択について「ノロウイルスに対しては、アルコール消毒では十分な効果が得られないため、次亜塩素酸ナトリウム等を用いる必要があります」と明記し、病原体ごとに適切な薬剤を選ぶ必要性を示している。また「消毒薬の効果に影響する3要素として、『濃度』『温度』『時間』が重要です」と述べ、適正濃度・20℃以上の温度・一定の接触時間(作用時間)を守ることを求める。さらに、消毒薬の噴霧は3要素を満たさず「吸引すると有害であるため、行わないでください」とし、噴霧ではなく拭き取りでの消毒を徹底する立場を示している。
NG行動② 手袋をしたまま「あちこち触る」
「手袋をしているから私は感染しない、清潔だ」と安心して、一つの手袋でテーブルを拭いた後、そのままドアノブを触ったり、他の利用者介助に入ったりしていませんか?
手袋はあくまで「自分の手を守るため」のものです。汚染された場所を触った手袋の表面には、ウイルスや細菌がびっしりと付着しています。その手で他の場所に触れることは、ウイルスを塗り広げているのと同じです。
- 1つのケアが終わるごとに手袋を捨てる
- 手袋を外した後は、必ず手指衛生(手洗い・消毒)を行う
この原則を徹底しましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局
介護現場における感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
本手引きは、実際の場面として「テーブル等の清掃をしている時」に呼び出されて「トイレの付き添い」を行うケースを挙げています。このとき「手袋を着けているため『清潔』だと思ってしまいます」が、「汚れたテーブルや手摺り等」を触っていた手袋の表面は汚染されており、そのまま利用者の陰部や口元に触れると病原体を運んでしまう危険性があります。そのため「必ず手袋を外し、手指衛生を行ってから、利用者のケアに移ることが大切です」とされており、手袋の「つけっぱなし」が逆にリスクになることを示す重要なエビデンスです。
NG行動③ 液体石けんの「継ぎ足し補充」
手洗い場の液体石けんが少なくなったとき、残った液の上に新しい石けんを注ぎ足していませんか?
これを繰り返すと、ボトルの底に古い石けんが残り続け、容器の中で緑膿菌などの細菌が繁殖する原因になります。せっかく手を洗っているのに、汚染された石けんを使っていては意味がありません。
- 液体石けんは使い切る
- 空になった容器は、洗って完全に「乾燥」させてから詰め替える
- 可能であれば、使い捨てのカートリッジ式を使用する
この運用ルールを施設内で統一することが重要です。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本環境感染学会
高齢者介護施設における感染対策 学習内容
https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/4-6_01.pdf
手洗いに関して資料は、「液体石けんを用い、容器への継ぎ足しは行わない」とし、ポンプボトルへの“つぎ足し”を避けるよう明記しています。洗浄後は「手は、ペーパータオルで拭く」ことが推奨され、「自動水栓が望ましい」とされています。共用の固形石けんや共用タオルを避け、ディスペンサー式の液体石けんとペーパータオルを基本とすることが、介護施設における標準的な手洗い環境として示されています。
NG行動④ 濡れたままの手や場所への「アルコール消毒」
手洗いの直後、まだ手が濡れている状態でアルコール消毒をしたり、水拭きした直後の濡れたテーブルにアルコールをかけたりしていませんか?
消毒薬には、効果を発揮するために必要な「濃度」があります。水分が残っている場所にアルコールを使うと、水で薄まって濃度が下がり、十分な殺菌効果が得られません。
- 手洗い後は、ペーパータオルで水分をしっかり拭き取ってから消毒する
- テーブルなどの清掃時は、水拭き後に乾燥させてから(または水分を除去してから)アルコールで清拭する
「水分は大敵」と覚えておいてください。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(付録5:消毒法について)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
付録5では、速乾性手指消毒薬を用いる「擦式法(ラビング法)」について、「手が汚れているときには無効であることに注意します」と明確に指摘し、可視的な汚れがある場合には「スクラブ法を使用します」としている。つまり、嘔吐物や便が付着した場面では、いきなりアルコールでこするのではなく、まず石けんと流水での洗浄(スクラブ法)を行い、その上で状況に応じてラビング法を使うという、手指衛生の基本的な切り分けを示している。
NG行動⑤ ノロウイルス疑い時の「アルコールのみ」の対応
嘔吐物や下痢便の処理をした後、いつもの癖でアルコール消毒だけで済ませていませんか?
一般的な消毒用アルコールは、インフルエンザやコロナウイルスには有効ですが、ノロウイルスには効果が不十分です。ノロウイルスは非常に強い抵抗力を持っているため、専用の対策が必要です。
嘔吐物や下痢など「胃腸炎」が疑われる場合は、必ず「次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)」を使用してください。
- 日常の消毒:アルコールでOK
- 嘔吐・排泄物・ノロ疑い:次亜塩素酸ナトリウムが必須
この使い分けが、集団感染を防ぐ鍵となります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局
介護現場における感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
本手引きは、消毒薬の選択について「消毒薬と病原微生物の組み合わせによっては効果が期待できない場合もあります」とし、特に「消毒抵抗性が強いノロウイルス」にはアルコール消毒が不十分であることを明示している。そのため「次亜塩素酸ナトリウム等を用いる必要があります」と具体的に指示し、さらに器具などを浸漬消毒した後は「消毒薬が残存しないよう十分にすすぎます」と、リネンや器具に薬剤を残さない配慮も求めている。
いかがでしたか?これらは決して珍しいことではなく、多くの現場で見受けられる光景です。しかし、小さな手順の違いが感染拡大の引き金になることもあります。今日から一つずつでも「正しい手順」に切り替えていくことが、利用者様とあなた自身を守ることにつながります。
根拠を知ればもう迷わない!「なぜ?」を解明

マニュアル通りに動くのは大切ですが、忙しい現場では「なぜそうするのか」という理由まで考える余裕がないこともありますよね。しかし、理由を知っておくと、イレギュラーな場面でも迷わずに正しい判断ができるようになります。ここでは、現場の「なぜ?」をウイルスの特徴や感染の仕組みから紐解きます。
なぜ「アルコール」と「次亜塩素酸」を使い分ける必要があるの?
「全部アルコールで消毒できれば楽なのに……」と思ったことはありませんか? 使い分けが必要な理由は、相手(ウイルス)の「身体のつくり」が違うからです。
ウイルスには、脂質の膜(エンベロープ)を持っているタイプと、持っていないタイプがいます。
- 膜があるウイルス(インフルエンザ、新型コロナなど)
- アルコールはこの「膜」を壊すことができるため、効果があります。
- 膜がないウイルス(ノロウイルスなど)
- 非常に硬い殻(カプシド)で守られており、アルコールの攻撃が効きにくい性質があります。そのため、より強力な攻撃力を持つ「次亜塩素酸ナトリウム」が必要になります。
「相手にバリア(膜)があるかないか」で武器(消毒液)を変える必要がある、とイメージしてください。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(付録5:消毒法について)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
「消毒薬の抗微生物スペクトル18と適用対象」として、表に「消毒用エタノール」「次亜塩素酸ナトリウム」等を掲げる。「消毒用エタノール」は「細菌 ◎」「結核菌 ◎」「芽胞 ×」「真菌 ◎」「ウイルス ◎※」「手指 ◎」「環境 ○」とされる。「注※)ノロウイルスなどについては、あまり効果がない。」と追記し、ノロへの限界を示す。
なぜ「高頻度接触面」を狙い撃ちするの?
「床も壁も全部消毒しなきゃ!」と焦る必要はありません。なぜなら、ウイルスは足が生えて勝手に移動するわけではなく、人の「手」にくっついて移動するからです。
感染対策で最も効率的なのは、ウイルスが乗り換えを行う「中継地点(ハブ)」を叩くことです。それが、多くの人が触れる「高頻度接触面」です。
- 手すり
- ドアノブ
- スイッチ
- 蛇口のレバー
これらは、誰かの手についたウイルスが付着し、次に触った人の手に移る場所です。ここさえしっかり消毒しておけば、感染の連鎖(ドミノ倒し)を効果的に止めることができます。逆に、人があまり触らない床や壁の上の方は、水拭きなどの清掃で十分な場合がほとんどです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局
介護現場における感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
接触感染について、本手引きは「感染している人との接触や汚染された物との接触による感染。」と定義し、「汚染された物(ドアノブ、手すり、食器、器具等)を介して伝播がおこる間接接触感染がある」と具体例を挙げる。介護施設では多くの利用者が同じ「手すり、ドアノブ、食器、器具等」を触れるため、ここが病原体のハブになりやすいと位置づけられる。そのため環境面の対策として、「接触が多い共用設備(手すり、ドアノブ、パソコンのキーボード等)の消毒を行う」ことが推奨され、日常の清掃・消毒計画に高頻度接触部位を組み込むことが介護現場の接触感染対策の核となる。
なぜ「手袋を外した後」に手洗いが必要なの?
「汚いものを触るときに手袋をしたから、手は汚れていないはず」と思いがちですが、実はそうではありません。
手袋をしていても、以下の理由で手は汚染されていると考えます。
- ピンホール(目に見えない小さな穴):手袋には製造上の微細な穴が開いていることがあり、そこからウイルスが入り込みます。
- 着脱時の汚染:手袋を外す瞬間、汚れた表面がどうしても手首や指先に触れてしまいます。
手袋は「第二の皮膚」ではなく、あくまで「汚染される前提のバリア」です。「手袋を外す=手が汚れる」と考え、必ずセットで手指衛生を行いましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
感染対策の基礎知識|2 標準予防策
https://www.mhlw.go.jp/content/000501120.pdf
標準予防策の説明では、感染源となり得るものとして「嘔吐物、排泄物(便・尿等)、創傷皮膚、粘膜等」や「血液、体液、分泌物(喀痰・膿等)」が列挙され、介護職が日常的に触れる対象の多くが含まれています。また、「感染性廃棄物を取り扱うとき」も「手袋の着用」が求められており、廃棄物処理がそのまま感染対策であることが分かります。さらに「手袋等を外した時は必ず手指消毒を行うこと」と明示され、手袋はあくまで補助であり、外した後の手指衛生が不可欠であるという考え方が示されています。
理由がわかると、無駄な動きがなくなり、本当に必要な対策が見えてきます。「なんとなく」ではなく「意味のある」消毒をすることで、限られた時間の中で最大の防御効果を発揮しましょう。次は、現場からよく寄せられる「これってどうなの?」という疑問に答えるFAQです。
よくある質問 Q&A

マニュアルには書いてあっても、いざその場になると「これでいいんだっけ?」と迷うこと、ありますよね。判断に迷う時間を減らすために、現場の介護士さんからよく寄せられる疑問に、ガイドラインに基づいた「正解」をQ&A形式でお答えします。
- Q床や壁も毎日消毒する必要がありますか?
- A
基本的には「水拭き」で十分です。
「感染対策=すべてを消毒薬で拭くこと」ではありません。厚生労働省の手引きでは、床や壁、ドアなどの一般的な環境は「水拭き」を基本としています。
ただし、以下の場合は消毒が必要です。
- 高頻度接触面(ドアノブ、手すり、スイッチなど):多くの人が触れる場所は、状況に応じて消毒用エタノール等で消毒することが望ましいです。
- 汚染があった時:血液や嘔吐物などが付着した場合は、その都度適切な消毒薬(次亜塩素酸ナトリウムなど)で処理します。
「全部やらなきゃ」と気負わず、人が触るところを重点的にケアしましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局
介護現場における感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
清掃・環境消毒について手引きは、「床、壁、ドア等は水拭きしますが、多くの人の手が触れるドアノブ、手すり、ボタン、スイッチ等は、状況や場所に応じての消毒(消毒用エタノール等でよい)が望ましいです」とし、高頻度接触面での「消毒用エタノール」の活用を勧める。一方、「ノロウイルス感染症発生時は 0.02%~0.1%(200ppm~1000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム液を使用し、消毒後の腐食を回避するため水拭きする等」と記載し、病原体によって「その病原体に応じた清掃や消毒」を切り替えることが必要と示す。つまり日常はアルコール中心、ノロ流行時などは次亜塩素酸ナトリウムを使い分ける施設内の環境管理が求められている。
- Q嘔吐物の処理で、一番気をつけることは何ですか?
- A
慌てて拭く前に、まず「換気」と「防護具」です。
利用者が嘔吐した際、親切心ですぐに駆け寄って拭きたくなりますが、それは危険です。嘔吐物はウイルスを含んだ飛沫(エアロゾル)となり、周囲に漂っている可能性があります。
まずは窓を開けて換気を行い、ウイルスの密度を下げてください。そして、必ず以下の装備を整えてから処理を開始します。
- マスク
- 使い捨てエプロン(またはガウン)
- 使い捨て手袋
- (可能であれば)ゴーグル、靴カバー
「自分の身を守る準備」が、結果的に感染拡大を防ぐ最短ルートになります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局
介護現場における感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
嘔吐物・排泄物処理では、「感染性胃腸炎(ノロウイルス等)も想定して、速やかにかつ入念に清掃をすることが重要です」と強調される。処理者は「マスク、使い捨てエプロン(長袖ガウン)、使い捨て手袋を着用(できればゴーグル、靴カバーも着用)」し、ペーパータオルや使い捨て雑巾で外側から内側へ静かに拭き取る。その後「最後に次亜塩素酸ナトリウム液(0.02%)で浸すように拭き取り、その後に水拭きします」とされ、ノロウイルスを想定した濃度の次亜塩素酸ナトリウムでの処理と仕上げの水拭きまでが一連の手順となる。介護施設は嘔吐物処理キットを整備し、この手順を職員全員で共有することが求められる。
- Q消毒用アルコールは、濡れた手や場所に使ってもいいですか?
- A
効果が薄まるため、水分を拭き取ってから使用してください。
手洗いの直後や、テーブルを水拭きした直後など、対象が濡れている状態でアルコールを使うと、水分で濃度が薄まってしまいます。消毒薬が効果を発揮するには、適切な濃度が維持されていることが条件です。
- 手指:ペーパータオルで水分を完全に拭き取ってから、すり込みます。
- 環境:水拭き後は乾燥させるか、水分を除去してからアルコール清拭を行います。
また、目に見える汚れ(手についた食べこぼし等)がある場合は、アルコールよりも「流水と石けんでの手洗い」を優先してください。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(付録5:消毒法について)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
付録5では、速乾性手指消毒薬を用いる「擦式法(ラビング法)」について、「手が汚れているときには無効であることに注意します」と明確に指摘し、可視的な汚れがある場合には「スクラブ法を使用します」としている。つまり、嘔吐物や便が付着した場面では、いきなりアルコールでこするのではなく、まず石けんと流水での洗浄(スクラブ法)を行い、その上で状況に応じてラビング法を使うという、手指衛生の基本的な切り分けを示している。
- Q家庭用のハイターを使う場合、濃さはどうすればいいですか?
- A
「直接かける」か「拭く」かで濃度が変わります。
市販の塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム濃度約5%のもの)を使用する場合、用途に合わせて以下の2種類の濃度を使い分ける必要があります。
- 0.1%(1000ppm):嘔吐物や便を直接処理するとき
- (目安:500mlペットボトルの水 + 漂白剤キャップ約2杯)
- 0.02%(200ppm):トイレのドアノブや手すり等の環境消毒
- (目安:500mlペットボトルの水 + 漂白剤キャップ半分弱)
「嘔吐物そのもの」には濃い液、「場所の消毒」には薄い液、と覚えておきましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(付録5:消毒法について)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
同じく付録5の表では、次亜塩素酸ナトリウムの用途別濃度として、「○便や吐物が付着した床等」には「1000ppm(0.1%)」を、「○食器等の漬け置き」や「○トイレの便座やドアノブ、手すり、床等」には「200ppm(0.02%)」を使うことが示されている。さらに、「500mlのペットボトル1本の水に◯ml」「5Lの水に◯ml」といった具体的な希釈方法が記載されており、介護現場で職員が直感的に必要な濃度の消毒液を作れるようになっている。
- 0.1%(1000ppm):嘔吐物や便を直接処理するとき
疑問は解消されましたか? 「これはどうだったかな?」と迷ったときは、自己流で判断せず、必ずこうした基準に立ち返ることが大切です。最後に、これまでの内容をまとめます。
まとめ:正しい消毒は、あなたと利用者を守る「盾」になる
毎日忙しい業務の中で、感染対策まで完璧にこなすのは本当に大変なことです。しかし、間違った消毒は手間がかかるだけでなく、逆に感染リスクを増やしてしまうこともあります。今回ご紹介した内容を振り返り、今日からできる「3つの見直し」で、より安全なケア環境を作っていきましょう。
今日から実践!3つの見直しポイント
記事の中で解説したNG行動を避けるために、明日からの業務では以下の3点を意識してみてください。
- 「噴霧」ではなく「拭き取り」を
- 空間やモノへのスプレーは避け、ペーパータオル等で確実に拭き取ります。
- 「継ぎ足し」をやめる
- 石けんは使い切り、容器は洗浄・乾燥させてから詰め替えます。
- 「使い分け」を徹底する
- 日常はアルコール、嘔吐物やノロ疑いは次亜塩素酸ナトリウムを選びます。
これらは決して難しいことではなく、知っていればすぐに実践できることばかりです。
迷ったときは「標準予防策」に立ち返る
もし現場で判断に迷うことがあったら、「汗以外の湿ったものはすべて感染源」という標準予防策(スタンダード・プリコーション)の原則を思い出してください。
- 「汚れていそうなら手袋をする」
- 「手袋を外したら必ず手を洗う」
- 「みんなが触る場所(高頻度接触面)をきれいにする」
この基本動作の積み重ねこそが、利用者様の生活を守り、そしてあなた自身の健康とご家族を守る最強の「盾」となります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
マニュアルでは、高齢者介護施設は「生活の場」でもあるが、感染対策に関する基本事項は同じですとされ、病院と同様に標準予防策・感染経路別予防策を基盤としながらも、生活空間としての特性を踏まえた応用が必要であることが分かる。
感染対策に「これくらいでいいや」はありません。あなたのその手洗いが、その手袋交換が、利用者の命を確かに守っています。正しい知識を武器に、自信を持って日々のケアにあたってください。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。この記事が、日々現場で奮闘されている皆様の不安を少しでも解消し、明日からの業務の助けになれば幸いです。
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更新履歴
- 2025年11月20日:新規投稿


