介護現場で、特定の先輩や上司との関係に「怖い」「辛い」と感じながらも、日々懸命に業務にあたっている方はいませんか。
「これは厳しい指導だから」「自分ができないからだ」と自分に言い聞かせ、我慢してしまうこともあるかもしれません。
この記事は、そうした葛藤を抱える介護士の方へ、公的な調査データ(エビデンス)に基づき、その行為が「指導」か「パワーハラスメント」かを見分ける客観的な基準と、なぜ我慢が「不要」なのかを法的な理由(=事業主の義務)から解説します。
この記事を読むと分かること
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:その我慢は「根性」ではなく深刻な「健康被害」です

もしあなたが「根性で耐えている」のなら、それは非常に危険な状態かもしれません。公的な研究データは、職場のハラスメントが精神論ではなく、深刻な「健康被害」であり、「月70時間のサービス残業」に匹敵するほどの悪影響を与えることを示しています。
「月70時間残業」に相当すると試算した研究データ
日本産業衛生学会が発行する「労働安全衛生研究(JOSH)」に掲載された実証分析では、職場のハラスメントがメンタルヘルスに与える悪影響の大きさを、サービス残業が与える効果に換算した場合、「月あたり約70時間に相当する」と示されています。これは、過労死ラインにも迫る可能性のある極めて深刻な負荷が、あなたの心身にかかっていることを意味します。
出典元の要点(要約)
労働安全衛生研究所
職場のハラスメントがメンタルヘルスや組織に与える影響-中小企業従業者パネルデータを用いた実証分析-
https://www.jstage.jst.go.jp/article/josh/advpub/0/advpub_JOSH-2021-0021-GE/_pdf
ハラスメントの影響は、健康影響の大きさを長時間労働に換算すると「約70時間」に相当する規模。現場での威圧的叱責や人格攻撃の抑止は、労働時間対策に匹敵する健康投資である。
ハラスメントはメンタルヘルスを悪化させる
同研究では、「職場のハラスメントは労働者のメンタルヘルスを悪化させる可能性が示唆された」と結論付けられています。もしあなたが「自分が弱いからだ」と感じていたとしても、データは「ハラスメントという外部環境」が、客観的に健康を害する要因となっていることを示しています。それはあなたの「我慢不足」の問題ではありません。
出典元の要点(要約)
労働安全衛生研究所
職場のハラスメントがメンタルヘルスや組織に与える影響-中小企業従業者パネルデータを用いた実証分析-
https://www.jstage.jst.go.jp/article/josh/advpub/0/advpub_JOSH-2021-0021-GE/_pdf
兵庫県の中小企業で事業主―従業者のマッチングパネルを用い、ハラスメント曝露とメンタルヘルスの関連を検証。「メンタルヘルスを悪化させる可能性」を示し、職場要因として無視できない効果量であることを報告している。タイプ別対応の実装が、従業員の健康保持と組織の持続性の観点から必要であることを統計的に裏づける。
ハラスメントは「離職意向」を明確に高める
ハラスメントの影響は健康面だけではありません。この「労働安全衛生研究(JOSH)」の実証分析は、「職場のハラスメントは、労働者の離職意向を高めることが示唆された」とも指摘しています。あなたが「辞めたい」と感じるのは、甘えや我慢不足ではなく、健康被害をもたらす環境に対する自然かつ合理的な反応であると、研究データも裏付けています。
出典元の要点(要約)
労働安全衛生研究所
職場のハラスメントがメンタルヘルスや組織に与える影響-中小企業従業者パネルデータを用いた実証分析-
https://www.jstage.jst.go.jp/article/josh/advpub/0/advpub_JOSH-2021-0021-GE/_pdf
ハラスメントは健康影響だけでなく「離職意向」を高める。人員が薄い介護現場では、威圧的・非傾聴・過大要求などの行動パターンを早期に是正しないと、離職や欠員の連鎖を招く。制度的対応(相談・記録・措置・再発防止)が離職抑制に直結する。
これらの公的なエビデンス(証拠)が示すように、あなたが耐えている「辛さ」は、客観的に見て「危険」なレベルの健康リスクです。それは「根性」で乗り越えるべきものではなく、ご自身の健康を守るために「対処」すべき問題です。
よくある事例:「指導」と「パワハラ」の境界線

介護現場で「お局」やベテラン職員から受ける行為が、「厳しい指導」なのか、それとも「パワハラ」なのか。その境界線は曖昧に感じられることが多いですが、厚生労働省は公的な定義によって、その境界線を明確に示しています。
事例1:「精神的な攻撃」(人格否定、威圧的叱責)
「こんなこともできないの?」「本当に頭が悪い」。これらは「適正な業務指示」 ではなく、厚生労働省が「精神的な攻撃」の例として挙げる「人格を否定するような言動」 です。また、他の職員の前で大声で威圧的に叱責する行為も、業務の範囲を逸脱し、パワハラに当たり得るとされています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
リーフレット「2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000683138.pdf
「精神的な攻撃」の該当例として、人格否定、長時間叱責、面前での威圧的叱責等が明示。該当する言動の具体像をタイプ別に照合し、速やかに遮断・記録・エスカレーションする運用が求められる。
事例2:「人間関係からの切り離し」(集団での無視)
「お局」が中心となり、挨拶を返さない、カンファレンスに意図的に呼ばない、情報共有をしない、といった行為です。厚生労働省は、このような「人間関係からの切り離し」 をパワハラの一類型と定義しています。特に「優越的な関係」とは上司から部下だけでなく、「同僚又は部下からの集団による行為」 も含まれるため、集団での無視はパワハラに該当する可能性が明確に示されています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
職場におけるハラスメント対策パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf
優越的関係は、上位者からに限らず“集団からの行為”も含みうる。抵抗困難性や関係性を踏まえた評価が必要で、見かけの上下関係に限定しない。現場では、同調圧力・集団での無視や囲い込みなども評価対象となる。この記事では、個人の“性格”に帰すだけでなく、集団ダイナミクスを視野に入れた対応(面談・記録・第三者関与)の重要性を示す根拠として用いる。
事例3:「過大な要求」(仕事の押し付け)
新人や特定の職員にだけ、認知症の困難事例の対応や、重介護者の移乗介助といった、身体的・精神的に負荷の高い業務を意図的に集中させる行為です。これは、厚生労働省が定義する「過大な要求」(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害) に該当し得る、不公平な業務配分です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
職場におけるハラスメント対策パンフレット(行為類型の明確化)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf
パワハラの典型例として、身体的攻撃、精神的攻撃、孤立化、業務上不必要・不相当な過大要求や過小な要求、個の侵害が示される。記事では各タイプに対する現場対処(言動停止要求の文言例、即時エスカレーション基準、配置換え検討)を、評価基準と紐づけて提示する。
これらの事例は、あなたの「我慢不足」や「スキルの問題」ではなく、「指導」の範囲を逸脱した可能性のある客観的な問題です。ご自身の状況を、これらの公的な定義に照らし合わせてみることが重要です。
よくある質問(FAQ)

ここでは、「お局」やベテラン職員からの威圧的な言動に悩み、「我慢するしかない」と感じている介護士の方が抱えがちな疑問について、公的なデータ(エビデンス)に基づき回答します。ご自身の状況を客観的に見つめ直すためにお役立てください。
- Q相談したら「告げ口だ」と報復されそうで怖い。
- A
その不安こそが、組織が解決すべき問題です。厚生労働省は、法律(労働施策総合推進法)に基づき、ハラスメントの相談をしたこと、または事実確認に協力したことなどを理由に、事業主が労働者に対して解雇や降格、減給といった「不利益な取扱いをしてはならない」と明確に禁止しています。報復は違法行為です。安全な相談体制を整備することは事業主の義務 であり、あなたは保護される権利があります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
職場におけるハラスメント対策パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf
相談や協力を理由にした解雇・降格等の「不利益取扱い」は禁止。この記事では、相談を促す安全網の条件(守秘・記録・二重窓口・報復防止)を明示し、現場の萎縮を避けながら問題行動の早期是正へつなげる。
- Q上司も「お局」の味方で、相談する場所がない。
- A
直属の上司が機能していない場合でも、諦める必要はありません。厚生労働省は、事業主の義務として「相談窓口をあらかじめ定め」「労働者に周知すること」を求めています。これには、人事部やコンプライアンス窓口、社会保険労務士などの「外部窓口」も含まれます。就業規則や社内イントラ、掲示物などを確認し、直属の上司とは異なる、正式な相談ルートを探してください。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
職場におけるハラスメント対策パンフレット(相談体制の設計)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf
相談体制は単線ではなく複線化し、性別や立場の異なる担当者を配置する。社内に言い出しづらい場合に備え、社会保険労務士等の外部窓口も案内し、匿名・仮名での受付やメール/書面など記録化しやすい導線を整える。ポスター掲示や入職時オリエンでの周知を定例化し、利用ハードルを下げる。
- Q具体的に、今すぐ何をすればいいですか?
- A
まずは「記録の整備」を開始してください。厚生労働省も、相談対応や事実確認の前提として「記録」を推奨しています。「いつ、どこで、誰に(目撃者は誰か)、何を言われた(された)か」「その結果、どう感じたか(業務にどんな支障が出たか)」を、できるだけ客観的に、具体的に記録することが重要です。感情的に訴えるのではなく、その「客観的な事実」が、あなたを守り、問題を正当に報告するための最強の証拠となります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
職場におけるハラスメント対策パンフレット(記録の整備)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf
相談受付日、経緯、関係者聴取、判断根拠、措置内容、フォローアップ計画を記録することが推奨される。記事では、実務テンプレート(受付票、ヒアリングシート、判断メモ、措置記録、再発防止計画)を提示し、属人的運用を防ぐ。記録は後日の検証と再発防止の要である。
これらの客観的な定義や法的な義務を知ることは、あなたが「我慢不足」なのではなく、不当な環境に置かれている可能性を客観視するために役立ちます。ご自身の健康と権利を守るための行動を検討してください。
まとめ
この記事では、職場の「お局」やベテラン職員による威圧的な言動を「我慢」し、ご自身を責めている介護士の方へ、公的な調査データ(エビデンス)に基づき、その行為が「パワハラ」に該当する可能性と、我慢が不要な法的な理由を解説しました。ご自身の健康とキャリアを守るため、重要なポイントを振り返ります。
「人格否定」や「集団での無視」は「指導」ではない
厚生労働省は、「適正な指導」 と「パワハラ」を明確に区別しています。業務の範囲を超えた「人格を否定するような言動」 や、お局・ベテランを中心とした「同僚又は部下からの集団による行為」(無視や仲間外し) は、指導の範囲を逸脱した「パワハラ」に該当し得ます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
職場におけるハラスメント対策パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf
「人格を否定する」言動は、必要性・相当性の範囲を明らかに逸脱しており、パワーハラスメントに当たり得ると明記される。威圧的な理詰め・面前での人格攻撃・侮辱などは、当該事実と態様の総合評価により該当性が判断される。記事では、タイプ別対応の根拠として、“人格否定の回避”“事実の限定”“感情的反応を避ける”という基本姿勢の理由付けに使える。
厚生労働省
職場におけるハラスメント対策パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf
優越的関係は、上位者からに限らず“集団からの行為”も含みうる。抵抗困難性や関係性を踏まえた評価が必要で、見かけの上下関係に限定しない。現場では、同調圧力・集団での無視や囲い込みなども評価対象となる。この記事では、個人の“性格”に帰すだけでなく、集団ダイナミクスを視野に入れた対応(面談・記録・第三者関与)の重要性を示す根拠として用いる。
我慢は深刻な「健康被害」にあたる
我慢は美徳ではありません。労働安全衛生研究所の研究では、ハラスメントのストレスは「メンタルヘルスを悪化」させ、その影響は「月70時間のサービス残業に相当する」 とも分析されています。それは「根性」の問題ではなく、客観的な「健康被害」です。
出典元の要点(要約)
労働安全衛生研究所
職場のハラスメントがメンタルヘルスや組織に与える影響-中小企業従業者パネルデータを用いた実証分析-
https://www.jstage.jst.go.jp/article/josh/advpub/0/advpub_JOSH-2021-0021-GE/_pdf
ハラスメントの影響は、健康影響の大きさを長時間労働に換算すると「約70時間」に相当する規模。現場での威圧的叱責や人格攻撃の抑止は、労働時間対策に匹敵する健康投資である。
労働安全衛生研究所
職場のハラスメントがメンタルヘルスや組織に与える影響-中小企業従業者パネルデータを用いた実証分析-
https://www.jstage.jst.go.jp/article/josh/advpub/0/advpub_JOSH-2021-0021-GE/_pdf
本実証分析は、ハラスメント曝露がメンタルヘルス悪化と関連することを示し、現場のリスク管理対象であることを明確化する。介護現場での威圧・侮辱・過大な要求などの言動は、健康面の不調や業務能力の低下を通じて、離職意向の上昇や組織影響へ連鎖しうるため、制度化された一次・二次対応の整備が必要となる。
対策は「事業主の義務」。我慢せず「記録」と「相談」を
パワハラ防止措置は「全ての事業主の義務」です。あなたが我慢するのではなく、組織が対処すべき問題です。また、介護労働安定センターの調査でも、介護職の退職理由の第1位は「人間関係」 です。「指導かパワハラか」を一人で悩まず、まずは客観的な「記録」 を取り、信頼できる「相談窓口」 に相談してください。
出典元の要点(要約)
厚生労働省 雇用環境・均等局
職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要(令和5年度)
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001259093.pdf
法改正により、中小事業主を含む「全ての事業主」が防止措置義務の対象であることが明示されている。記事では、現場のタイプ別対応(威圧、非傾聴、他責等)を“任意”ではなく“義務に基づく運用”として正当化する根拠とし、相談体制・事実確認・行為者措置・再発防止の一体運用を促す。
介護労働安定センター
令和3年度「介護労働実態調査」結果の概要
https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/2022r01_chousa_kekka_gaiyou_0822.pdf
退職理由で「人間関係」が収入を上回る。現場のタイプ別対応(威圧・理詰め・他責など)を制度化することが、離職抑制のボトルネック解消につながる。
もし今、あなたが「辞めたい」と深く悩んでいるなら、それは決して「甘え」ではありません。この記事で示した公的データを参考に、ご自身の状況を客観的に見つめ直し、将来後悔しないための判断基準としてお役立ていただけたら幸いです。
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更新履歴
- 2025年11月22日:新規投稿


