浴室で吐いた!その時どうする?介護現場の嘔吐処理と感染対策

入浴介助中、利用者様が突然の嘔吐。「えっ、どうしよう!」と頭が真っ白になり、とっさにシャワーで洗い流したくなりませんか?

「感染対策として、適切に処理しましょう」 マニュアルにはそう書いてあっても、目の前には裸の利用者様、濡れて滑る床、湯気がこもる密閉空間……。 実際の現場では、通常の居室とは比べ物にならないほど対応が難しく、「マニュアル通りなんて無理!」と感じるのが本音ではないでしょうか。

しかし、ここで対応を間違えると、ノロウイルスなどの感染を一気に広げてしまう危険な瞬間でもあります。

この記事では、ガイドラインに基づき、浴室という過酷な環境でも実践できる「最低限守るべき嘔吐処理の鉄則」と、パニックにならずに動くための手順を解説します。

この記事を読むと分かること

  • 浴室で嘔吐があった際の、正しい「初動」と「避難手順」が分かります
  • 「とりあえずシャワーで流す」がなぜ危険なのか、感染拡大の理由を理解できます
  • 裸の利用者様をどう守るか、窒息防止や保温のポイントが分かります
  • ノロウイルスを想定した、適切な消毒薬の濃度と使い方が分かります

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 入浴中に嘔吐されたら、とりあえずシャワーで流してきれいにしようと思う
  • 裸の利用者様をどうやって避難させればいいか、イメージが湧かない
  • ノロウイルスかもしれない時、換気扇を回すべきか止めるべきか迷う
  • 嘔吐物の処理に、アルコールを使っていいのか自信がない
  • パニックになって、手袋やマスクをつけずに対応してしまいそうだ

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浴室パニックを防ぐ「初動の3ステップ」

女性の介護職員の画像

「うわっ、吐いた!」裸で無防備な状態での嘔吐は、誰でも動揺してしまうものです。足元は滑るし、手袋もすぐには着けられないかもしれません。そんな緊急事態に、分厚いマニュアルを思い出している余裕はありませんよね。

細かい手順は後回しにして、まずは「命を守る」ことと「被害を広げない」こと。この2点に絞った3つの動作だけを、身体で覚えておきましょう。

まずは「誤嚥・窒息」を防ぐ体位へ

感染対策の前に、最優先すべきは「人命救助」です。

特に高齢者の場合、吐いたものが気管に入り、窒息や誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高くなります。ガイドラインでも、「窒息しないよう横向きに寝かせます」と、体位管理の重要性が示されています。

慌てて抱き起こしたりせず、まずは顔を横に向けて、吐物が自然に口から出るように確保してください。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

ノロウイルス等による嘔吐時には、特に高齢者では嘔吐物を気道に詰まらせる危険があることから、「窒息しないよう横向きに寝かせます」といった体位管理が重要であるとされています。単なる感染対策だけでなく、誤嚥や窒息を防ぐ安全確保も介護現場の重要な視点として提示されています。

絶対に「シャワーで流さない」

「汚いから早く流したい!」という心理が働きますが、シャワーでお湯をかけるのは絶対にNGです。

勢いよくシャワーをかけると、床に飛び散った嘔吐物が細かな水しぶき(エアロゾル)となり、ウイルスを含んだまま浴室中に舞い上がってしまいます。これを吸い込むことで、その場にいる全員が感染するリスクがあります。

ガイドラインでは、消毒薬の噴霧も「吸引すると有害」などの理由で禁止されていますが、嘔吐物にシャワーを当てるのも同様に、ウイルスを拡散させる危険な行為です。「流さずに、拭き取る」が鉄則です。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

「なお、感染経路は一つだけとは限らず、例えばノロウイルスは、便や嘔吐物に多量に含まれ、乾燥してエアロゾル化した嘔吐物が感染源となる場合(塵埃感染)があります。」と記載され、ノロウイルスの多様な感染経路が示されています。

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

本手引きでは、消毒薬の取り扱いについて「機会を増やしてしまうため、噴霧はしないようにします。」と記載されています。消毒薬を噴霧すると、かえってエアロゾル化した病原体に触れる機会や吸入する機会が増えるおそれがあるため、噴霧による使用は避けるよう明確に注意喚起されています。

他者を「遠ざける」と「換気」

浴室は密閉空間になりがちです。近くに他の利用者様がいる場合は、すぐに離れた場所(脱衣所や浴槽の反対側など)へ避難誘導してください。

そして、ウイルスの濃度を下げるために「換気」を行います。窓があれば開け、換気扇を最大にします。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

嘔吐物や排泄物の処理は、「感染性胃腸炎(ノロウイルス等)も想定して、速やかにかつ入念に清掃をすることが重要です」とされる。近くの利用者を移動させ、換気を行い、マスクや使い捨てエプロン、使い捨て手袋等を着用して拭き取り、最後に0.02%の次亜塩素酸ナトリウム液で浸すように拭き、水拭きする手順が具体的に示されています。

パニックになっても、「横に向ける」「流さない」「人を逃がす」の3つだけは守ってください。これさえできれば、最悪の事態(窒息やクラスター)は防げます。


浴室特有の「NG行動」と「正解手順」

浴槽

浴室での嘔吐対応は、スピード勝負であると同時に、冷静さが求められます。「早くきれいにしなきゃ」という焦りが、かえって感染を広げてしまう最大の原因になります。

ここでは、浴室でやってしまいがちなNG行動と、感染拡大を防ぐための正しい手順を対比して解説します。

【NG行動】とっさに「お湯で流してしまう」

目の前に嘔吐物があると、手元にあるシャワーでジャーッと流したくなりますよね。排水溝に流してしまえば、見た目はきれいになるからです。

しかし、これは最悪のNG行動です。

  • ウイルスが舞い上がる:シャワーの水圧で嘔吐物が細かくなり、ウイルスを含んだ飛沫(エアロゾル)となって浴室全体に拡散します。
  • 死滅しない:ノロウイルスは熱に強く、通常のお湯(40℃程度)では死にません。排水溝や配管の中で生き残ります。

流すことは「解決」ではなく「拡散」です。まずは「流さない」と心に決めてください。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

「なお、感染経路は一つだけとは限らず、例えばノロウイルスは、便や嘔吐物に多量に含まれ、乾燥してエアロゾル化した嘔吐物が感染源となる場合(塵埃感染)があります。」と記載されており、物理的な拡散を防ぐ重要性が示されています。また、消毒薬の噴霧も「機会を増やしてしまうため、噴霧はしない」とされており、飛沫を発生させる行為のリスクが示唆されています。

【正解手順】ペーパーで覆い、次亜塩素酸で「浸す」

床に散乱した嘔吐物は、以下の手順で「封じ込め」ます。

  1. 覆う:ペーパータオルや新聞紙で、嘔吐物を静かに覆います(飛散防止)。
  2. 浸す:その上から、0.1%(1000ppm)次亜塩素酸ナトリウム液をひたひたになるまでかけます。
  3. 拭き取る:ペーパーごと「外側から内側へ」包み込むように拭き取ります。

その後、汚染されていた場所を再度0.1%次亜塩素酸ナトリウムで浸すように拭き(10分程度置くことが望ましい)、最後に水で洗い流します。

出典元の要点(要約)
厚生労働省

高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版

https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf

嘔吐物処理の手順として、「① 手袋・マスク・使い捨てのエプロンを着用します。」「④ ペーパータオルを外側からおさえて、嘔吐物を中央に集めるようにしてビニール袋に入れます。」と具体的な操作が示されています。また、床の消毒濃度については「便や吐物が付着した床等…には1000ppm(0.1%)の次亜塩素酸ナトリウム液を用います」と記載されています。

【利用者ケア】汚れた体は「拭き取る」か「静かに流す」

利用者様の体に嘔吐物がついている場合も、いきなりシャワーは厳禁です。

  • 固形物を取り除く:ペーパータオル等で、体に付いた汚れを静かに拭き取ります。
  • 静かに流す:汚れが大方取れてから、水ハネしないように弱い水流で静かに洗い流すか、清拭(体を拭く)で対応します。

その後、新しいタオルで包むようにして保温し、他の利用者と接触しないよう別室(または更衣室の隔離スペース)へ誘導します。使用したタオルは直ちにビニール袋で密閉します。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

入浴介助の項目では、「感染症にかかっている利用者については、原則、清拭で対応します」とされています。緊急時においても、感染を広げないために清拭等の手段を選択し、他の利用者への二次感染を防ぐ配慮が求められます。

「お湯で流す」は最大のタブーです。床も体も「まずは拭き取る」ことでウイルスの舞い上がりを防ぎます。冷静にペーパーで覆うことから始めましょう。


根拠を知れば怖くない!「なぜその対応が必要なのか」

女性の介護職員の画像

緊急時は頭が真っ白になりがちですが、「なぜそうするのか」という理由が頭の片隅にあれば、ふとした瞬間に正しい判断ができます。ここでは、浴室での対応を支える医学的な根拠を解説します。

なぜ「85℃」が必要なのか?(お湯では死なない)

「お風呂のお湯で流せば、熱で死ぬんじゃない?」と思うかもしれませんが、残念ながらノロウイルスは熱に非常に強いウイルスです。

ガイドラインでは、ノロウイルスを無力化するには「85℃以上で1分間以上の加熱」が必要とされています。

40℃前後の入浴温度では、ウイルスは死滅しません。お湯をかけても、ウイルスは温かいお湯に乗って浴室中に広がるだけです。だからこそ、物理的に「拭き取る」ことと、確実に効く「次亜塩素酸ナトリウム」が必要になるのです。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

ノロウイルスは冬季の感染性胃腸炎の主要な原因であり、85℃以上、1分間以上の加熱で死滅するとされています。通常の入浴温度では死滅しないため、熱による消毒効果は期待できません。

なぜ「アルコール」ではダメなのか?

「手元にあるアルコールじゃダメ?」 はい、残念ながらノロウイルスには効果がありません。

インフルエンザやコロナウイルスは「膜(エンベロープ)」を持っており、アルコールはその膜を壊して退治します。しかし、ノロウイルスはこの膜を持たない「鎧を着たようなウイルス」です。

一般的な消毒用アルコールは弾き返されてしまうため、その鎧を貫通して破壊できる「次亜塩素酸ナトリウム」が必要になります。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

日頃の予防法として、「ノロウイルスはアルコールによる消毒効果が弱いため、エタノール含有擦式消毒薬による手指消毒の有効性は低くなります。」と記載されています。そのため、嘔吐物処理には次亜塩素酸ナトリウムを用いる必要があります。

ノロウイルスは「熱」にも「アルコール」にも強い最強の敵です。だからこそ、自己流の対処は通用しません。「拭き取り」と「次亜塩素酸」だけが、あなたを守る武器になります。


現場の疑問を解決!浴室嘔吐のQ&A

女性の介護職員の画像

浴室での嘔吐は頻繁に起こることではないため、いざという時に判断に迷うことが多いものです。「お湯の中に吐かれたら?」「換気扇は?」など、現場で直面しやすい疑問に対し、ガイドラインの原則に基づいた回答をまとめました。

Q
浴槽の中に吐いてしまったらどうすればいいですか?
A

直ちに入浴を中止し、排水後に消毒を行います。

浴槽内で嘔吐があった場合、お湯全体がウイルスで汚染されています。

  1. 使用中止:他の利用者が入らないよう、直ちに入浴を中止します。
  2. 排水・洗浄:お湯を静かに抜き(飛散防止)、浴槽を洗剤で洗浄します。
  3. 消毒:次亜塩素酸ナトリウム液(0.05〜0.1%程度)で浴槽を清拭または浸漬消毒し、一定時間(10分程度)置いてから水で洗い流します。

循環式浴槽の場合は、配管内も汚染されている可能性があるため、高濃度塩素による循環洗浄などが必要になる場合があります。判断に迷う場合は、感染対策委員会や保健所に相談しましょう。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版

https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf

感染症の病原体で汚染された機械や器具、環境の消毒は、病原体の特徴に応じて適切かつ迅速に行い、汚染拡散を防止します。また、浴槽水が感染源となる可能性がある場合(レジオネラ症等の例)は、直ちに使用禁止とする対応が求められています。

厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

「汚染した患者環境,大型機器表面などは…適切な消毒薬を用いて清拭消毒する」と記載されています。嘔吐物で汚染された環境は、次亜塩素酸ナトリウム等を用いて確実に消毒する必要があります。

Q
換気扇は回していいですか?止めた方がいいですか?
A

ウイルスを外に出すため、換気扇は「回す」が正解です。

「換気扇を回すとウイルスが舞い上がるのでは?」と心配になるかもしれませんが、密閉空間にウイルス(エアロゾル)が滞留する方が危険です。

ガイドラインでは、空気感染やエアロゾル感染を予防するために**「適切な換気」**が推奨されています。窓があれば窓も開け、換気扇も回して、汚染された空気を速やかに屋外へ排出してください。

※ただし、消毒薬をスプレーで噴霧するのはNGです(換気とは異なります)。

出典元の要点(要約)

厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

「適切な換気を確保することで、空気感染やエアロゾル感染を予防することができます。」と明記されています。また、清掃後には再浮遊した微生物を除去するために十分に換気を行うことが推奨されています。

Q
処理した後の浴室は、すぐに次の人が使ってもいいですか?
A

消毒と換気が完了し、安全が確認できるまでは使用を控えます。

嘔吐物の拭き取りが終わっても、空気中にはしばらくウイルスが浮遊している可能性があります。

  1. 確実な消毒(次亜塩素酸ナトリウムでの清拭+水拭き)
  2. 十分な換気

この2つが完了するまでは、立ち入り禁止にするのが安全です。また、嘔吐した利用者様のケア(着替えや体調観察)も最優先されるため、その後の入浴スケジュールは一旦中止または変更(清拭への切り替えなど)を検討しましょう。

出典元の要点(要約)

厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

処理後は「次亜塩素酸ナトリウム液を使用した後は窓をあけて、換気をします」と記載されており、薬剤の影響や感染源の除去のために換気時間を設ける手順が示されています。


まとめ:浴室パニックを乗り越え、利用者と自分を守ろう

浴室での嘔吐は、誰もが動揺する緊急事態です。しかし、そこで「流してしまう」か「踏みとどまって拭き取る」か、その一瞬の判断が、施設全体を巻き込むクラスターになるかどうかの分かれ道になります。

最後に、今回の記事のポイントを振り返り、もしもの時に備えましょう。

今日から心に刻む!浴室嘔吐の鉄則3ヶ条

  • 流さない:シャワーで流すとウイルスが舞い上がります。まずはペーパーで覆いましょう。
  • 換気する:窓と換気扇を使い、汚染された空気を外に出します。
  • 装備する:自分を守るため、手袋・マスク・エプロンを適切に着用します。

これらを頭の片隅に置いておくだけで、いざという時の動きが全く違ったものになります。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

「機会を増やしてしまうため、噴霧はしないようにします。」と記載されており、物理的な拡散を防ぐことが重要です。また、「適切な換気を確保することで、空気感染やエアロゾル感染を予防することができます」とされ、換気の重要性が強調されています。

あなたの「冷静さ」が、利用者の命を守る

裸の利用者を前にして焦る気持ちは痛いほど分かります。ですが、あなたが深呼吸をして冷静に対処することが、その利用者様の誤嚥を防ぎ、他の利用者様への感染を防ぐ最強の盾になります。

「完璧」を目指す必要はありません。「広げない」ことだけを意識して、勇気ある初動対応をお願いします。

出典元の要点(要約)
厚生労働省

高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版

https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf

「職員一人ひとりが自ら考え、感染対策を実践することが求められています。」とあり、現場職員の判断と行動が感染対策の要であることが示されています。

浴室での嘔吐は「流さず、覆って、換気する」。この鉄則を守るだけで、感染リスクは劇的に下がります。あなたの冷静な判断が、施設全体の安全を守ります。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。 この記事が、いつ起こるかわからない緊急事態への「お守り」となり、現場の皆様の不安を少しでも和らげることができれば幸いです。



更新履歴

  • 2025年11月27日:新規投稿

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