毎日一生懸命レクリエーションを準備しても、「やりたくない」「子供だましだ」と背を向けられてしまうと、徒労感を感じてしまいますよね。
「その人らしい活動を」という理想は分かっていても、人手不足の現場では、全員を集めて同じ活動をするのが精一杯というのが現実ではないでしょうか。
しかし、その拒否は「役割」を求めているサインかもしれません。この記事では、忙しい現場でも実践できる、遊びではなく「仕事(役割)」としてアプローチするプロの頼り方について解説します。
この記事を読むと分かること
- レクを拒否する心理的背景(プライド、不安)を理解できます
- 「参加してください」ではなく「助けてください」と頼る技術が分かります
- 無理に輪に入れなくても、その人の「居場所」を作る方法が学べます
- 「楽しませなきゃ」というプレッシャーから解放されます
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
レクは「遊び」ではなく「居場所」づくり

「せっかく準備したのに」と落ち込む必要はありません。レクリエーションの本来の目的は、ゲームをすることではなく、その場に「居場所」や「役割」を感じてもらうことだからです。視点を少し変えるだけで、肩の荷が下ります。
「楽しませる」から「役割を持ってもらう」へ
認知症ケアの基本原則には、「『してあげる』ケアから『一緒に過ごす』ケアへ」という転換が示されています。レクを「スタッフが一方的に楽しませるショー」だと捉えると、お互いに疲れてしまいます。
特にプライドの高い方には、「お客様」として参加を促すのではなく、「運営側」として手伝ってもらう発想が有効です。「役割」をお願いすることで、自尊心が満たされ、結果として活動に参加するきっかけになります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
資料では、「認知症の人のケアの基本原則」として、「3.『してあげる』ケアから『一緒に過ごす』ケアへ」という指針が示されています。一方的な提供ではなく、共に時間を共有し活動する関係性への転換が重要であるとされています 。
最強の武器は「生活歴」にある
認知症になっても、「昔の記憶」や「身体で覚えた記憶」は長く残ります。元大工、元料理人、元主婦…。その人が人生で培ってきた技術や習慣(生活歴)は、ケアにおける宝物です。
新しいゲームを覚えるのは大変でも、長年染みついた動作なら自然と体が動きます。レクのネタに困ったら、その人の「得意だったこと」や「役割」を思い出してみてください。そこには必ず、心を動かすヒントがあります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
「秘められている様々な可能性」として、「昔の記憶が宝物」であり、「身体で覚えた記憶の威力」があると記されています。具体的には「習慣で染みついた動作」「得意なこと、張り合いごと」「役割、出番」などが挙げられ、これらが残された力としてケアに活かせることが示されています 。
「参加」の形は一つではない
輪に入って体操することだけが「参加」ではありません。トム・キットウッドが提唱した心理的ニーズには「Inclusion(共にあること)」が含まれます。
- 離れた席で見ている
- 道具を準備する
- 終わった後に片付ける
これらも立派な「社会参加」です。無理強いして不快にさせるよりも、その人が安心して「その場にいられる(Inclusion)」ことを優先しましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
認知症をもつ人達の心理的ニーズ(Tom Kitwood)として、「INCLUSION(共にあること)」や「OCCUPATION(たずさわること)」が図示されています。集団の中に受け入れられている感覚や、何かに携わっている感覚を満たすことが重要であると示されています 。
「全員同じことをする」という呪縛から離れれば、レクの時間はもっと自由になります。その人らしい「居方」を認めることが、究極のレクリエーション支援なのかもしれません。
よくある事例:こう変えれば「イヤ!」が「協力」に変わる

「子供っぽい」「疲れる」といった理由でレクを拒否される場面は、日常茶飯事です。しかし、その拒否は「やりたくない」のではなく、「その誘い方では心が動かない」だけかもしれません。現場でよくあるケースを例に、プロの変換術を見ていきましょう。
ケース1:「子供だましだ」と怒る元・企業戦士の男性
プライドの高い男性利用者に、童謡や風船バレーを勧めると「バカにするな」と怒らせてしまうことがあります。そんな時は、お客様扱いするのではなく、あえて「仕事(役割)」を依頼してみましょう。
「〇〇さん、スタッフの手が足りなくて困っているんです。申し訳ないですが、新聞の整理(または配布物のチェック)をお願いできませんか?」と頼ります。かつて第一線で働いていた方ほど、「組織の役に立つ」という感覚に敏感に反応し、責任感を持って取り組んでくださることがあります。
出典元の要点(要約)
認知症介護研究・研修仙台センター初めての認知症介護 食事・入浴・排泄編 解説集
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35.pdf
資料では、食事への関心を他に向ける方法として、「庭の水遣りや、新聞の取り入れ、庭掃除、洗濯、お花の交換等々」といった日常の役割を頼むことが有効であると紹介されています。本人にとって興味や関心のある刺激を用意し、役割を持ってもらうことが行動変容につながるとしています。
ケース2:「私はいいわよ」と遠慮して動かない女性
「私は見てるだけでいいわ」「悪いから」と遠慮される女性には、長年培ってきた「主婦の腕」を借りるのが一番です。
「〇〇さん、タオルを畳みたいんですが、量が多くて間に合わないんです。手伝っていただけませんか?」と声をかけます。頭で考えるよりも先に手が動く「身体で覚えた記憶」を刺激することで、自然と活動に参加する流れを作ることができます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
「秘められている様々な可能性」として、「身体で覚えた記憶の威力」があると記されています。具体的には「習慣で染みついた動作」「得意なこと、張り合いごと」「役割、出番」などが挙げられ、これらが残された力としてケアに活かせることが示されています。
ケース3:理由も言わず頑なに「行かない」と拒否する方
理由も言わずに拒否されると「頑固だな」と感じてしまいますが、そこには切実な理由が隠れていることがあります。
ある事例では、外出レクを拒否していた方が、実は「リハビリを休むと歩けなくなる」という不安を持っていたことが分かりました。単に誘うのではなく、「何か心配なことがありますか?」と行きたくない理由に耳を傾け、その不安を取り除く提案(リハビリは別の時間にできる等)をすることで、納得して参加してもらえる場合があります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
ケア担当者は、本人がレクリエーションを拒否した理由について、開かれた質問で尋ねました。その結果、本人は体操教室を休むことで歩けなくなることを恐れていることが判明しました。担当者がメリットとデメリットを整理して説明し、不安を解消することで、本人はレクリエーションへの参加を決めることができました。
なぜ、その「頼り方」が効くのか
単なる言葉遊びのように思えるかもしれませんが、「参加してください」を「手伝ってください」に変えるだけで、利用者の反応は劇的に変わります。なぜなら、そのアプローチが人間の根源的な欲求に深く響くからです。その理由を紐解いてみましょう。
人は「必要とされる」ことで安心するから
認知症ケアの第一人者であるトム・キットウッドは、認知症の方の心理的ニーズとして「Occupation(たずさわること)」や「Identity(自分が自分であること)」を挙げています。
ただ座ってサービスを受ける「お客様」でいるよりも、「誰かの役に立っている」「自分にはまだできることがある」と感じられる瞬間に、人は深い安心感と生きがいを感じます。「参加」ではなく「協力(仕事)」をお願いすることは、この心理的ニーズを直接満たし、傷ついた自尊心を回復させるケアになるのです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
認知症をもつ人達の心理的ニーズ(Tom Kitwood)として、「OCCUPATION(たずさわること)」や「IDENTITY(自分が自分であること)」、「INCLUSION(共にあること)」などが図示されています。これらのニーズが満たされるような関わりが、その人の「そのままの姿」を支えるケアにつながると示されています。
BPSDは「退屈」と「不安」から生まれるから
「帰りたい」と何度も訴えたり、イライラして他者に当たったりする行動(BPSD)の背景には、しばしば「することがない(退屈)」や「ここにいていいのか分からない(不安)」という感情があります。
役割や興味のある活動を提供することは、意識を「不安」から「活動」へと自然に逸らす効果があります。実際、食事への執着が強い方に対し、食後に趣味や団らんの場へ誘導することで関心を転換させ、精神的な安定を図る手法が推奨されています。
出典元の要点(要約)
認知症介護研究・研修仙台センター初めての認知症介護 食事・入浴・排泄編 解説集
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35.pdf
資料では、食事に意識がいきすぎて関心が向かない場合、「食事とは別のことに集中してもらったり、楽しんでもらう工夫も必要」としています。具体的には、食後に趣味やテレビ鑑賞、団欒などの場を用意し、本人の意向や関心に沿ったレクリエーションへ誘導することで、関心を他に向ける方法が有効であると述べています。
役割を持って活動することは、単なる時間つぶしではありません。それは「私はここにいていいんだ」という確信を与え、不安からくる周辺症状(BPSD)を落ち着かせるための、最も効果的な「薬」になり得るのです。
よくある質問(FAQ)

現場では、「理屈はわかるけれど、実際にはどうすれば?」という場面が多々あります。レクリエーション誘導に関するよくある悩みについて、現場の現実に即した解決のヒントをまとめました。
- Q一人ひとりに個別の役割を用意する時間がありません。
- A
新しい仕事を作る必要はありません。「日常の家事」をシェアしましょう。
「役割」といっても、わざわざ新しいレク道具を準備する必要はありません。テーブル拭き、おしぼりたたみ、おやつの配膳、新聞の整理など、現場にある「日常の業務」を一緒に行うことが、立派な「役割レク」になります。
かつて家事を担ってきた方にとって、これらは「レク」よりも馴染み深く、自然に体が動く活動です。スタッフが楽をするためではなく、「リハビリ」や「生活意欲の向上」として堂々とお願いして良いのです。
出典元の要点(要約)
認知症介護研究・研修仙台センター
初めての認知症介護 食事・入浴・排泄編 解説集
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35.pdf
資料では、食事の準備(テーブル拭き、茶碗の用意、盛り付けなど)に無理のない形で参加してもらうことを提案しています。これにより、残存能力や手続き記憶を発揮する機会となり、生活への自信や意欲につながるとされています。
- Q「やらない」と言われたら、放置してもいいですか?
- A
無理強いは禁物ですが、「見学」も立派な参加です。
「参加しない=何もしない」ではありません。輪に入らなくても、その場の雰囲気を共有し、皆の様子を見ているだけで、「Inclusion(共にあること)」という心理的ニーズは満たされます。
無理に腕を引いて参加させようとすると関係性が壊れてしまいます。「見ているだけでも大丈夫ですよ」「ここに居てくれるだけで嬉しいです」と伝え、疎外感を与えないように配慮すれば、見学も立派な社会参加の一つです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
トム・キットウッドの理論を引用し、認知症をもつ人の心理的ニーズとして「INCLUSION(共にあること)」が重要であると示されています。集団の一員として受け入れられている感覚を持つことが、心の安定につながります。
- Q認知症が進んで、頼んだ役割をうまくこなせません。
- A
結果(出来栄え)は気にせず、「やってくれた気持ち」を支えましょう。
タオルがぐちゃぐちゃに畳まれていても、テーブルに拭き残しがあっても、それを指摘したり修正したりする必要はありません。重要なのは「きれいにできたか」ではなく、「役に立とうとしてくれた」という自尊心です。
「ありがとうございます、助かりました」と感謝を伝えることで、本人の「できたつもり」を支え、次回の意欲につなげることがプロの関わりです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
「その人の『そのままの姿』を支える」ことが大切であり、「できないことがあっても責めない」姿勢が求められます。また、自尊心を傷つけない対応や、感情に働きかける関わりが重要であるとされています。
今日うまくいかなくても、明日は「役割」を変えてみたり、誘う人を変えてみたりすることで、反応が変わるかもしれません。正解は一つではないので、焦らず色々な「頼り方」を試してみてください。
まとめ:その人の「人生」を借りるケアへ
「せっかく準備したのに」と落ち込む必要はありません。レクリエーションの目的は、ゲームを成功させることではなく、その人がその場にいて「安心できること(居場所があること)」だからです。
「全員を盛り上げなきゃ」と肩に力を入れるのをやめて、まずは目の前の一人の「得意なこと」に頼ってみませんか。
明日から変えられる3つの視点
- 「遊んであげる」のではなく「力を借りる(役割)」
- 「参加」の形は一つじゃない(見学も準備も立派な参加)
- 拒否は「その誘い方が合わなかった」だけ(あなたへの攻撃ではない)
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
「認知症」ではなく「人」とのコミュニケーションが重要であり、相手との相互作用を念頭に置かなければ良質なケアはできないとされています。また、コミュニケーション自体が共有世界の構築の一歩であり、スキルよりもそこに複数の人が「在る」こと自体を捉える視点が大切であると示されています。
無理に盛り上げようとしなくて大丈夫です。「〇〇さん、これ知ってますか? 教えてください」と、人生の先輩に教えを乞う姿勢で話しかけてみましょう。それだけで、無機質なレクの時間は「温かい交流の時間」に変わるはずです。
更新履歴
- 2025年11月25日:新規投稿


