【新人介護士向け】トイレ誘導の「今は行かない」には理由がある。4つのタイプ別声かけ術

トイレ誘導の「今は行かない」には理由がある。 ハウツー

新人介護士として、日々の業務お疲れ様です。数あるケアの中でも、特に「トイレ誘導」は、利用者さん一人ひとりの尊厳と安全に直結するため、難しさを感じる場面が多いのではないでしょうか。

教科書通りに声をかけても、うまくいかない。そんなあなたの「困った」に、この記事は寄り添います。

一つでも当てはまったら、この記事がきっと役に立ちます

  • 声をかけても「今は行かない」と強い拒否にあい、どうすればいいか分からなくなる
  • トイレまでの移動や立ち座りの介助で、転倒させてしまわないかいつも不安
  • 拒否されるのは「ワガママ」なのか、他に理由があるのか、判断に迷う
  • 相手のプライドを尊重したいけれど、安全のためにどう声をかければ良いか悩む
  • 誘導を断られた直後に失禁があり、自分の声かけが悪かったのかと落ち込んでしまう

この記事を知っていると
この記事では、国のガイドラインなど権威ある情報に基づき、トイレ誘導を拒否する方の心理的・身体的背景と、具体的な声かけ術を解説します。読み終える頃には、あなたの不安が「根拠のある自信」に変わり、利用者さんの尊厳を守りながら安全に導くための具体的な行動が明確になります。


結論:トイレ誘導は「サインを読み解く」ことから始まる

トイレ誘導の核心は、利用者さんをただトイレにお連れすることではありません。それは、拒否という行動の裏に隠された「サイン」を専門職として正しく読み解き、その人らしい安心できる生活を支えるためのアプローチです。ここでは、ケアの根幹となる3つの結論を解説します。

トイレの画像

拒否は「ワガママ」ではなく、苦痛の「サイン」である

利用者さんのトイレ拒否は、BPSD(行動・心理症状)の一種として理解することが極めて重要です。「かかりつけ医・認知症サポート医のための BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」では、BPSDは脳の器質的変化を基盤として、身体的・環境的・心理的要因が相互に影響しあって現れる症状だと説明されています。つまり、拒否は単なる「ワガママ」や「頑固さ」ではなく、「体に痛みがある」「トイレの環境が不安だ」「介助されるのが恥ずかしい」といった、ご本人の何らかの苦痛の表現(サイン)なのです。このサインを無視して誘導を繰り返すのではなく、その背景にある原因をアセスメントし、非薬物療法を優先することが治療の原則です。

BPSDとは?
出典元の要点(要約)

かかりつけ医・認知症サポート医のための BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版) https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2025/06/guideline.pdf

  • BPSDは、脳の器質的変化を基盤として、身体的要因、環境的要因、心理的要因が相互に影響しあって症状として発現すると考えられている。
  • BPSDへの対応の基本は、まず、BPSDの要因をアセスメントし、要因の除去・緩和を図り、ケアのあり方の見直しや環境調整を行うことである。
  • BPSDへの対応では、まず非薬物療法を第一選択とする。

目標は「QOLの維持」と「転倒リスクの低減」である

不適切な排泄ケアは、利用者さんのQOL(生活の質)を著しく低下させます。「フレイル高齢者・認知機能低下高齢者の下部尿路機能障害に対する診療ガイドライン」では、下部尿路症状(頻尿や尿失禁など)がQOLを低下させる重要な因子であると指摘されています。失禁は皮膚トラブルの原因になるだけでなく、ご本人の自尊心を傷つけ、社会的な活動への参加意欲を削いでしまいます。さらに重要なのは、夜間の頻尿や、急な尿意による焦りが転倒リスクを増大させるという事実です。私たちの行うトイレ誘導は、単に下着を汚さないという目的だけでなく、利用者さんの尊厳を守り、安全な生活を継続するための重要なケアなのです。

出典元の要点(要約)

フレイル高齢者・認知機能低下高齢者の下部尿路機能障害に対する診療ガイドライン https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20210225_02_01.pdf

  • 下部尿路症状(LUTS)は、フレイル高齢者および認知機能低下高齢者のQOLを低下させる重要な因子である。
  • 認知機能低下高齢者ではLUTS、特に尿失禁の頻度が高い。
  • 夜間頻尿は転倒・骨折のリスク因子であり、生命予後にも影響する。

画一的なケアではなく「個別的なアセスメント」がすべての基本

「決まった時間だから」という理由だけで行う画一的なトイレ誘導は、拒否を強める原因となり得ます。厚生労働省の報告書では、排泄ケアにおいて排泄記録等によるアセスメントを通じて、個々の利用者の排泄パターンを把握することの重要性が示唆されています。また、「高齢者せん妄のケア」に関する論文においても、実態のアセスメントがケアの出発点であると述べられています。利用者さん一人ひとりの排泄リズム、生活習慣、心身の状態は全く異なります。なぜ拒否するのか、そのサインの背景にある要因を個別的にアセスメントし、その人に合ったタイミングや環境、声かけの方法を見つけ出すことこそが、専門的な排泄ケアの基本と言えます。

出典元の要点(要約)

平成 29 年度介護ロボットを活用した介護技術開発支援モデル事業 排泄介護の各プロセスにおける効率的な支援を実現するための介護技術開発に関する検討 報告書 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/31.pdf

  • 適切な排泄ケアの実現には、対象者の状態を把握・評価(アセスメント)することが重要である。
  • 排泄記録等によるアセスメントを通じて、個々の利用者の排泄パターンを把握し、それに基づいた適切なタイミングでのトイレ誘導や情報提供が有効である。
  • トイレ環境の整備(温度、明るさ、プライバシー確保など)も、自立排泄を支援する上で重要な要素である。

トイレ誘導の拒否は、ケアを提供する私たちにとって大きな壁のように感じられます。しかし、その行動を「サイン」として捉え、QOLの維持という目標を見据え、個別のアセスメントに基づいて関わることで、その壁は利用者さんを深く理解するための扉に変わります。次のセクションでは、拒否が起きる具体的な理由について、さらに詳しく解説していきます。


なぜトイレ誘導の拒否は起きるのか?4つの理由と背景

「結論セクション」で、トイレの拒否はご本人なりの「サイン」であると解説しました。では、そのサインは具体的にどのような理由から発せられるのでしょうか。ここでは、BPSD(行動・心理症状)の要因分析に関するガイドラインなどを基に、拒否の背景にある4つの理由を掘り下げていきます。

女性の介護職員の画像

1. 身体的理由:痛みや不快感、尿意の感覚の変化

利用者さんが拒否する最も直接的な理由の一つが、身体的な苦痛です。例えば、ひざや腰の痛みで立ち座りや歩行が辛い、便秘でお腹が張ってトイレに行く気分ではない、といったケースです。また、「フレイル高齢者・認知機能低下高齢者の下部尿路機能障害に対する診療ガイドライン」によると、高齢や認知機能の低下に伴い、下部尿路症状(LUTS)、つまり尿意の感覚が鈍くなったり、逆に急に強い尿意を感じたりすることが多くなります。ご本人が「まだ行きたくない」と感じているのは、膀胱に尿が溜まっている感覚が乏しいためかもしれません。このような身体的要因を見逃したまま誘導を続けると、拒否はさらに強まってしまいます。

出典元の要点(要約)

フレイル高齢者・認知機能低下高齢者の下部尿路機能障害に対する診療ガイドライン https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20210225_02_01.pdf

  • 認知機能低下高齢者ではLUTS、特に尿失禁の頻度が高い。
  • LUTSはQOLを低下させ、転倒・骨折のリスク因子でもある。
  • 認知機能低下高齢者のLUTSの評価は難しい場合が多く、個別的な対応が求められる。

2. 心理的理由:尊厳や羞恥心、認知機能の低下による混乱

排泄は極めてプライベートな行為であり、それを他者に介助されることは、ご本人の尊厳や羞恥心を深く傷つける可能性があります。「まだ自分でできる」という自尊心や、「見られたくない」という気持ちが、拒否という形で現れるのです。また、「かかりつけ医・認知症サポート医のための BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」で示されている通り、BPSDの背景には認知機能の低下という要因があります。例えば、トイレの場所が分からない、なぜ今トイレに行くのか理解できない、といった混乱状態から不安になり、結果として「行かない」という言葉で自分を守ろうとすることがあります。

出典元の要点(要約)

かかりつけ医・認知症サポート医のための BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版) https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2025/06/guideline.pdf

  • BPSDの背景には、認知機能障害による混乱や不安などの心理的要因が存在する。
  • 不適切なケアやコミュニケーションがBPSDの誘因となることがある。
  • ケアの基本は、本人の言動を傾聴・受容し、共感的に対応することである。

3. 環境的理由:トイレが「行きたくない場所」になっている

トイレそのものや、そこへ至るまでの環境が、利用者さんにとって「行きたくない場所」になっている可能性も考えられます。厚生労働省の報告書では、排泄ケアにおいてトイレ環境の整備が重要な要素であると指摘されています。具体的には、「冬場にトイレが寒い」「夜間に廊下が暗くて怖い」「手すりがなくて転びそうで不安」「ポータブルトイレが丸見えで落ち着かない」といった物理的な環境要因です。こうした安全への不安やプライバシーの欠如は、トイレへ向かう意欲を大きく削いでしまいます。私たちはケアの方法だけでなく、利用者さんの視点で療養環境全体を見直す必要があります。

出典元の要点(要約)

平成 29 年度介護ロボットを活用した介護技術開発支援モデル事業 排泄介護の各プロセスにおける効率的な支援を実現するための介護技術開発に関する検討 報告書 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/31.pdf

  • トイレ環境の整備(温度、明るさ、プライバシー確保など)も、自立排泄を支援する上で重要な要素である。
  • 適切な排泄ケアの実現には、対象者の状態を把握・評価(アセスメント)することが重要である。
  • 個々の利用者の排泄パターンを把握し、それに基づいた適切なタイミングでのトイレ誘導が有効である。

4. ケア提供者側の理由:タイミングや声かけの方法

これは考えたくないことかもしれませんが、私たちケア提供者側の関わり方が拒否の引き金になっていることもあります。例えば、施設側の都合に合わせた画一的なタイミングでの声かけや、本人のペースを無視した急かすような態度、命令口調に聞こえる言葉遣いです。BPSDの要因として「不適切なコミュニケーション」が挙げられているように、ご本人の気持ちを無視した関わりは、反発や不信感につながります。日々の排泄記録などからその人独自のリズムを把握し、信頼関係を築きながら、安心できる言葉で提案することが求められます。せん妄のケアにおいても、ケアを提供する側が安心感のある環境を作ることが重要であり、これはトイレ誘導にも共通する視点です。

出典元の要点(要約)

高齢者せん妄のケア https://jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/clinical_practice_51_5_436.pdf

  • せん妄ケアの要点として、安心できる環境の提供、日中の活動性の維持、睡眠・覚醒リズムの確立などが挙げられる。
  • せん妄は多因子性であり、実態のアセスメントがケアの出発点となる。
  • ケアチームでの情報共有と一貫した対応(DCコンサルテーション)が、せん妄の回復を助ける。

このように、トイレ誘導の拒否という一つの行動の裏には、身体・心理・環境、そして私たちの関わり方という、複雑で多様な理由が隠されています。これらの理由を理解することが、画一的なケアから脱却し、その人らしい排泄を支えるための第一歩となります。次のセクションでは、これらの理由を踏まえた具体的な対応方法を解説していきます。


【実践編】4つの理由タイプ別・具体的な声かけ術

拒否の背景にある4つの理由が明確になったところで、いよいよ実践です。ここでは、理由のタイプ別に、利用者さんの気持ちに寄り添い、行動を促すための具体的な声かけの方法を解説します。大切なのは、画一的な言葉ではなく、目の前の利用者さんの「サイン」に合わせたアプローチを選択することです。

女性の介護職員の画像

1. 身体的理由がある方へは「安心感」を言葉で示す

身体的な苦痛や不快感を抱えている方には、「トイレに行きましょう」という目的の提示よりも、まずはその苦痛に共感し、安全を保証する言葉が有効です。介助への協力を「得られやすくする」という視点も重要になります。「フレイル高齢者・認知機能低下高齢者の下部尿路機能障害に対する診療ガイドライン」でも、認知機能が低下した方へのケアは個別的な対応が求められるとされており、その方の状態に合わせた配慮が不可欠です。

  • 声かけ例(痛みが理由の場合): 「お膝が痛い中ありがとうございます。私がしっかり支えますので、ゆっくりご自身のペースで立ち上がりましょう。」
  • 声かけ例(尿意の感覚が乏しい場合): 「お食事の前に行っておくと、後で急な尿意で慌てなくて済みますよ。念のため、一度座ってみませんか?」
出典元の要点(要約)

フレイル高齢者・認知機能低下高齢者の下部尿路機能障害に対する診療ガイドライン https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20210225_02_01.pdf

  • 認知機能低下高齢者ではLUTS(下部尿路症状)、特に尿失禁の頻度が高い。
  • LUTSはQOLを低下させ、転倒・骨折のリスク因子でもある。
  • 認知機能低下高齢者のLUTSの評価は難しい場合が多く、個別的な対応が求められる。

2. 心理的理由がある方へは「自己決定」を尊重する

尊厳や羞恥心が拒否の背景にある場合、私たちの「~しましょう」という言葉が「命令」と受け取られ、反発を招くことがあります。「かかりつけ医・認知症サポート医のための BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」では、ケアの基本として本人の言動を傾聴・受容し、共感的に対応することの重要性が示されています。「命令」を「提案」や「質問」に変えることで、ご本人が「自分で決めた」と感じられる場面を作ることが、信頼関係の構築に繋がります。

  • 声かけ例(選択肢の提示): 「そろそろお手洗いはいかがですか?今すぐと、このテレビが終わった後、どちらが良いですか?」
  • 声かけ例(一部協力の依頼): 「立ち上がる時だけ、少し手を貸させていただけますか?あとはご自身の力で大丈夫だと思います。」
出典元の要点(要約)

かかりつけ医・認知症サポート医のための BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版) https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2025/06/guideline.pdf

  • BPSDの背景には、認知機能障害による混乱や不安などの心理的要因が存在する。
  • 不適切なケアやコミュニケーションがBPSDの誘因となることがある。
  • ケアの基本は、本人の言動を傾聴・受容し、共感的に対応することである。

3. 環境的理由がある方へは「環境改善」を先に伝える

トイレやその道中が不快・不安な場所になっている場合は、まずその環境を改善し、そのことを言葉で伝えて安心してもらうアプローチが有効です。厚生労働省の報告書でも、トイレ環境の整備が自立支援の重要な要素とされています。「寒い」「暗い」「怖い」といったマイナス要因を先に取り除くことで、トイレへ向かう心理的なハードルを下げることができます。

  • 声かけ例(寒さが理由の場合): 「お手洗いの暖房をつけておきました。暖かいうちに、ご一緒に行きませんか?」
  • 声かけ例(安全性が理由の場合): 「廊下の電気をつけて、足元を歩きやすくしておきました。これなら安心ですね。」
出典元の要点(要約)

平成 29 年度介護ロボットを活用した介護技術開発支援モデル事業 排泄介護の各プロセスにおける効率的な支援を実現するための介護技術開発に関する検討 報告書 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/31.pdf

  • トイレ環境の整備(温度、明るさ、プライバシー確保など)も、自立排泄を支援する上で重要な要素である。
  • 適切な排泄ケアの実現には、対象者の状態を把握・評価(アセスメント)することが重要である。
  • 個々の利用者の排泄パターンを把握し、それに基づいた適切なタイミングでのトイレ誘導が有効である。

4. ケア提供者側の関わり方を見直す

もし拒否が続く場合は、一度私たち自身の関わり方を見直してみることも大切です。特に重要なのが声かけのタイミングです。厚生労働省の報告書にもあるように、排泄記録等によるアセスメントを通じて、その人固有の排泄パターンを把握し、尿意を感じやすい時間帯に声をかけることが有効です。また、「高齢者せん妄のケア」の要点である安心できる環境の提供と一貫した対応は、日々のトイレ誘導にも通じます。穏やかな表情や口調といった非言語的コミュニケーションも、言葉以上に安心感を伝えることがあります。

  • アプローチの工夫例: ・排泄記録を基に、「いつもこのくらいの時間ですが、いかがですか?」と、客観的な事実を伝えて提案する。 ・介助に入る前に一呼吸おき、笑顔で、穏やかな口調で話しかけることを意識する。
出典元の要点(要約)

高齢者せん妄のケア https://jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/clinical_practice_51_5_436.pdf

  • せん妄ケアの要点として、安心できる環境の提供、日中の活動性の維持、睡眠・覚醒リズムの確立などが挙げられる。
  • せん妄は多因子性であり、実態のアセスメントがケアの出発点となる。
  • ケアチームでの情報共有と一貫した対応(DCコンサルテーション)が、せん妄の回復を助ける。

いかがでしたでしょうか。これらの声かけは、単なるテクニックではありません。拒否の理由をアセスメントした上で、その方に合わせた「安心」と「尊厳」をどう提供するか、という専門的なケアの一環です。次のセクションでは、現場でよくある具体的な疑問にQ&A形式でお答えしていきます。


トイレ誘導に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、新人介護士さんが現場で直面しがちな、より具体的な疑問についてQ&A形式で解説します。一つひとつの疑問への対応を学ぶことで、あなたのケアはさらに自信に満ちたものになります。

ハテナが刻印されているサイコロの画像
Q
夜中に何度もトイレに起きる方への対応はどうすればいいですか?
A

まず、夜間に何度も目が覚める原因をアセスメントすることが重要です。「フレイル高齢者・認知機能低下高齢者の下部尿路機能障害に対する診療ガイドライン」では、夜間頻尿は治療の対象となる症状(LUTS)であり、転倒・骨折のリスク因子であると明確に指摘されています。睡眠薬の影響や、日中の水分摂取量、病気(心不全、糖尿病など)が隠れている可能性もあります。対応としては、ただ介助を繰り返すのではなく、まずは安全な環境整備(足元の照明、障害物の除去など)を徹底し、日中の覚醒状態や水分バランス、排泄記録を医療職と共有し、医学的な視点からのアセスメントを依頼することが求められます。

出典元の要点(要約)

フレイル高齢者・認知機能低下高齢者の下部尿路機能障害に対する診療ガイドライン
https://www.jpn-geriat-soc.jp/info/topics/pdf/20210225_02_01.pdf

  • 下部尿路症状(LUTS)は、フレイル高齢者および認知機能低下高齢者のQOLを低下させる重要な因子である。
  • 夜間頻尿は転倒・骨折のリスク因子であり、生命予後にも影響する。
  • 認知機能低下高齢者のLUTSの評価は難しい場合が多く、個別的な対応が求められる。
Q
紙パンツ(おむつ)の使用を強く拒否されます。どうすればいいですか?
A

紙パンツの使用は、ご本人にとって「自立の喪失」を意味する、尊厳に関わる非常にデリケートな問題です。「かかりつけ医・認知機能サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」の考え方に基づけば、この拒否は「恥ずかしい」「まだ自分でできる」という心理的要因からくるBPSD(行動・心理症状)の一つのサインと捉えるべきです。したがって、無理強いは絶対にしてはいけません。まずは、なぜ拒否されるのか、ご本人の気持ちを傾聴することが第一歩です。その上で、「夜寝るときだけだと安心ですよ」「下着が濡れて風邪をひくのが心配なので」といった、ご本人の利益を伝える形で提案したり、パッドのような目立たないものから試したりするなど、自尊心を傷つけないアプローチを根気よく続けることが大切です。

出典元の要点(要約)

かかりつけ医・認知症サポート医のための BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2025/06/guideline.pdf

  • BPSDの背景には、認知機能障害による混乱や不安などの心理的要因が存在する。
  • 不適切なケアやコミュニケーションがBPSDの誘因となることがある。
  • ケアの基本は、本人の言動を傾聴・受容し、共感的に対応することである。
Q
何度か声をかけても拒否が続く場合、どこで諦めれば良いですか?
A

明確に「何回まで」という基準はありません。判断基準はただ一つ、ご本人の安全と精神的な平穏です。声かけを繰り返すことで、ご本人が興奮したり、不安が強まったりするなど、BPSDの悪化が見られる場合は、それがケアの中止のサインです。無理強いは転倒事故や、その後のケアへの不信感につながるリスクしかありません。「高齢者せん妄のケア」の原則にも通じますが、まずはご本人が落ち着ける環境を整え、一度その場を離れることが賢明です。大切なのは、その際の状況(声かけへの反応、表情、時間など)を正確に記録し、チームで情報共有することです。そして、少し時間を置いてから、タイミングやアプローチを変えて再度関わってみるのが良いでしょう。

出典元の要点(要約)

高齢者せん妄のケア
https://jpn-geriat-soc.org/publications/other/pdf/clinical_practice_51_5_436.pdf

  • せん妄ケアの要点として、安心できる環境の提供、日中の活動性の維持、睡眠・覚醒リズムの確立などが挙げられる。
  • せん妄は多因子性であり、実態のアセスメントがケアの出発点となる。
  • ケアチームでの情報共有と一貫した対応(DCコンサルテーション)が、せん妄の回復を助ける。

これらのQ&Aからも分かるように、答えは常に「なぜそうなっているのか?」というアセスメントと、「ご本人の尊厳をどう守るか」という視点に立ち返ることで見えてきます。次の最後のセクションでは、この記事全体の要点を振り返り、まとめとします。


まとめ:あなたのケアが、利用者さんの「安心」に変わる

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。日々の業務に追われる中で、トイレ誘導の一つひとつにこれほど多くの背景があることに、驚きや大変さを感じたかもしれません。しかし、これまで学んできた知識は、あなたを必ず支えてくれます。

最後に、この記事でお伝えした最も大切なポイントを振り返りましょう。

  • 拒否は「サイン」と捉える 「行かない」という言葉は、ワガママではなく、ご本人の痛みや不安、羞恥心といった苦痛を伝えるサインです。この視点を持つだけで、私たちの関わり方は大きく変わります。
  • すべては「個別のアセスメント」から始まる なぜ拒否するのか、その理由は利用者さん一人ひとり全く異なります。決まった時間に声をかける画一的なケアではなく、排泄記録や日々の観察からその人らしさを読み解き、個別に対応することが専門的なケアの第一歩です。
  • 目指すのは「尊厳の保持」と「安全の確保」 私たちの役割は、利用者さんのQOL(生活の質)を維持し、転倒などのリスクを減らすことです。そのために、ご本人が「自分で決められる」と感じられるような声かけや、安心できる環境を整えることが、信頼関係に繋がります。

新人だからと、一人で抱え込む必要はありません。あなたの気づきや観察の記録は、チーム全体で利用者さんを支えるための貴重な情報になります。この記事で得た知識を根拠に、自信を持って、明日からのケアに臨んでください。あなたの丁寧な眼差しと関わりが、利用者さんの安心できる毎日に直結しています。


更新履歴

  • 2025年10月11日:新規公開
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