「求人票にはアットホームとあったのに、現場はピリピリして質問すらできない」「面接では良いことばかり言われたが、実際は人手不足で放置された」。そんな「入ってみたら違った」という経験に、心を痛めている方は少なくありません。
運が悪かったと諦める前に、少しだけ視点を変えてみませんか。実は「人が居着く職場」とそうでない職場には、データで説明できる明確な違いがあります。全てを見抜くのは難しくても、「ここだけは外せないポイント」を知るだけで、ミスマッチのリスクは大きく減らせます。
この記事を読むと分かること
- 離職率が高い職場に共通する「上司の特徴」
- 面接で「サ責の動き」を確認すべき理由
- 紹介会社を「6社以上」使う職場のリスク
- 定着率が高い職場が守っている「休暇」のルール
- 求人票の給与額より重視すべき「定着のサイン」
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
「人が辞める職場」と「定着する職場」。データが語る決定的な4つの分岐点

「求人票には『アットホーム』と書いてあったのに、いざ入職してみると、怒号が飛び交うピリついた現場だった」。こんな経験を持つ方は少なくありません。
現場では「人手が足りないから教える時間がない」「見て覚えて」といった無言の圧力があり、違和感を感じても「自分が我慢すればいい」と飲み込んでしまいがちです。しかし、その「働きにくさ」は個人の感想ではなく、明確なデータとしての根拠がある危険信号かもしれません。
ここでは、最新の調査結果から判明した、離職率が高い職場と低い職場の決定的な「4つの違い」を解説します。
離職理由の正体は「人間関係」ではなく「上司のマネジメント」
「人間関係が悪い」という言葉は曖昧ですが、データを紐解くとその実態は「上司と部下の関係」に集中しています。
直前の仕事を「人間関係」で辞めた人の理由を具体的に見ると、約半数が「上司や先輩からの指導・言動がきつい(パワハラ含む)」、約3割強が「上司の指示が不明確」と回答しています。 現場では「性格が合わない」片付けられがちですが、実際は「指示系統の不備」や「指導方法の未熟さ」という、組織の構造的な欠陥が離職の引き金になっています。
出典元の要点(要約)
公益財団法人介護労働安定センター令和6年度「介護労働実態調査」結果の概要について
https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_press.pdf
直前の仕事が介護関係で、辞めた理由が「職場の人間関係に問題があったため」とする人に具体的内容を尋ねると、「上司や先輩からの指導や言動がきつかったり、パワーハラスメントがあった」が49.1%と最も多く、約半数を占める。次いで「上司の業務指示が不明確、リーダーシップがなかった」が36.2%で続く。
「紹介会社」を6社以上使う職場は、離職率が20%に迫る
人手不足の現場では「背に腹は代えられない」と多くの紹介会社に求人を出しがちですが、データはそのリスクを警告しています。
有料職業紹介所を活用している事業所の中で、契約社数が「6〜10社」にのぼる場合、平均離職率は19.9%と非常に高い数値を示しています。 「数打ちゃ当たる」でなりふり構わず採用チャネルを広げている職場は、定着率が低い傾向にあり、結果として常に新しい人が入っては辞める「人の出入りが激しい現場」になっている可能性が高いと言えます。
出典元の要点(要約)
公益財団法人介護労働安定センター令和6年度「介護労働実態調査」結果の概要について
https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_press.pdf
活用している有料職業紹介所の社数別に事業所の離職率(2職種計)の分布をみると、離職率の高い事業所ほど活用している会社数が多い傾向にある。「6~10社」では平均離職率が19.9%、11社以上では20.7%となっており、活用社数が増えるにつれて平均離職率も高まっている。
訪問介護の明暗を分けるのは、サ責の「相談・指導」時間
訪問介護では、ヘルパーが一人で現場に向かうため、孤立感が離職の大きな要因となります。ここで重要になるのが、サービス提供責任者(サ責)の関わり方です。
データによると、サ責がヘルパーに対して「仕事上の課題に関する相談や指導」を十分に行っている事業所では、担当ヘルパーの離職率が「10%未満」である割合が高くなっています。 逆に言えば、サ責が事務作業や自身の訪問に忙殺され、ヘルパーの話を聞く余裕がない職場は、ヘルパーが不安を抱え込みやすく、離職リスクが高い状態にあると言えます。
出典元の要点(要約)
公益財団法人介護労働安定センター令和6年度「介護労働実態調査」結果の概要について
https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_press.pdf
「訪問介護員からの仕事上の課題などに関する相談や指導など」を実施している(「十分実施している」+「ある程度実施している」)場合には、担当訪問介護員の離職率「10%未満」の割合が63.0%と高く、コミュニケーションや指導の実施が低離職率と関連している。
定着する職場は「有給休暇」を“取らせる”仕組みがある
「人手が足りないから休めない」というのは現場の切実な悩みですが、人が定着している職場ほど、逆の発想で取り組んでいます。
職員が辞めずに働き続けるために役立っている取り組みとして、「有給休暇等の取得や勤務日時の変更をしやすくする」ことが上位に挙げられています。 また、採用活動においても、こうした「休みやすさ」をアピールすることが効果的であるという結果も出ており、労働環境の柔軟性が定着の鍵であることがわかります。
出典元の要点(要約)
公益財団法人介護労働安定センター令和6年度「介護労働実態調査」結果の概要について
https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_press.pdf
採用や職場定着・離職防止の方策の実施状況では、「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」が74.7%と最も多く挙げられている。また、現在の職場を辞めずに働き続けることに役立っている取り組みとしても、「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」が43.2%と高い。
「上司の指示」「採用手法」「相談体制」「休暇」。これらは単なる運や相性の問題ではなく、データにはっきりと表れる「職場の構造的な特徴」です。転職活動や今の職場を見直す際は、これらのポイントを冷静にチェックすることで、ミスマッチのリスクを減らすことができます。
よくある事例:データで見抜く「離職リスク」の3つのサイン

「面接では良いことばかり言われたのに、入ってみたら違った」。こうしたミスマッチは、単なる運の問題ではありません。
離職率が高い職場には、働く人の意欲を削ぐ「典型的なパターン」が存在します。ここでは、データから読み取れる「人が辞める職場」によくある光景を、具体的な事例として紹介します。
事例1:【面接時の違和感】「細かいことは現場で」という指示の放棄
- 状況
- 「アットホームな職場です」と紹介されたA施設。面接時に具体的な業務手順やマニュアルについて質問しても、「うちは臨機応変に対応しているから、現場に入ってから先輩に聞いて」と曖昧に返されました。
- 困りごと
- 入職後、先輩によって言うことが全く違う事態に直面。「昨日はこう言われた」と伝えても、「それはあの人のやり方だから」と一蹴され、正解がわからず精神的に疲弊してしまいます。
- データから見る視点
- これは、離職理由の上位にある「上司の指示が不明確」な職場の典型例です。データ上、人間関係による退職者の3割以上がこの問題を挙げています。マニュアルや統一された指示がない「臨機応変(丸投げ)」は、求職者にとって最大級の警戒ポイントです。
出典元の要点(要約)
公益財団法人介護労働安定センター令和6年度「介護労働実態調査」結果の概要について
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直前の仕事が介護関係で、辞めた理由が「職場の人間関係に問題があったため」とする人に具体的内容を尋ねると、「上司の業務指示が不明確、リーダーシップがなかった」が36.2%で2番目に多く挙げられている。
事例2:【訪問介護の孤立】「サ責が捕まらない」放置される現場
- 状況
- 訪問介護の登録ヘルパーとして入職したBさん。サービス提供責任者(サ責)は常に自身の訪問や書類作成に追われており、事務所に電話しても不在か話し中ばかりです。
- 困りごと
- 利用者の状態変化について相談したくても、「後で聞くから」と後回しにされます。同行訪問も初回の1度きりで、不安を抱えたまま一人で現場を回ることになり、孤独感から退職を考え始めます。
- データから見る視点
- サ責が「相談・指導」に時間を使えていない職場は、データ上明らかに離職率が高くなります。逆に、同行訪問や相談対応が十分な事業所は、離職率が10%未満に抑えられています。サ責の忙しさは、ヘルパーの定着に直結する重要指標です。
出典元の要点(要約)
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「訪問介護員からの仕事上の課題などに関する相談や指導など」を実施している(「十分実施している」+「ある程度実施している」)場合には、担当訪問介護員の離職率「10%未満」の割合が63.0%と高く、コミュニケーションや指導の実施が低離職率と関連している。
事例3:【採用の迷走】同期全員が「紹介会社」経由の職場
- 状況
- 慢性的な人手不足のC施設。「急募」の求人が常に出ており、入職してみると同期の職員は全員異なる「人材紹介会社(有料職業紹介所)」からの紹介でした。
- 困りごと
- 「紹介料が高いから即戦力で働いて」というプレッシャーが強く、十分な研修がありません。結果、早期離職が続き、常に新しい人が入っては辞めていく「人の入れ替わりが激しい」状態が定着しています。
- データから見る視点
- 紹介会社を利用すること自体は悪くありませんが、「6社以上」と過度に多くの会社を利用している事業所は、平均離職率が約20%と高い傾向にあります。なりふり構わず採用チャネルを広げている職場は、定着に課題を抱えている可能性が高いと言えます。
出典元の要点(要約)
公益財団法人介護労働安定センター令和6年度「介護労働実態調査」結果の概要について
https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_press.pdf
活用している有料職業紹介所の社数別に事業所の離職率(2職種計)の分布をみると、離職率の高い事業所ほど活用している会社数が多い傾向にある。「6~10社」では平均離職率が19.9%、11社以上では20.7%となっており、活用社数が増えるにつれて平均離職率も高まっている。
これらの事例は、個人の感じ方ではなく、統計的に「人が辞めやすい構造」を持っている職場の特徴です。次の職場を選ぶ際は、これらの兆候がないか冷静に見極めることが、失敗を防ぐ第一歩となります。
なぜその職場は「人が続かない」のか?データが暴く3つの構造的欠陥

「人がすぐ辞めるのは、今の子が根性がないからだ」。現場ではそんな精神論がまかり通っていませんか?
しかし、データを見ると、人が定着しない職場には、個人の資質以前に「辞めたくなる構造」が存在することが分かります。ここでは、なぜ前述のような職場が「危険」なのか、その裏にある決定的な理由を解説します。
理由1:「人間関係」の正体は“上司ガチャ”の失敗
退職理由として最も多い「人間関係」ですが、これを「同僚との相性」だと思っていると本質を見誤ります。
データを詳細に見ると、人間関係トラブルの核心は「上司」にあります。退職理由の約半数が「上司や先輩の指導・言動のきつさ(パワハラ)」、3割以上が「指示の不明確さ」です。 つまり、現場が疲弊する最大の要因は、横のつながりではなく、「縦のマネジメント不全」です。指示がコロコロ変わる、感情的に怒るといった上司の振る舞いが、部下の「ここで働き続けたい」という意欲を直接的に削いでいます。
出典元の要点(要約)
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直前の仕事が介護関係で、辞めた理由が「職場の人間関係に問題があったため」とする人に具体的内容を尋ねると、「上司や先輩からの指導や言動がきつかったり、パワーハラスメントがあった」が49.1%と最も高く、「上司の業務指示が不明確、リーダーシップがなかった」が36.2%で続く。
理由2:採用コストをかけるほど「定着」と反比例するパラドックス
「お金をかけて採用しているから安心」は大間違いです。実は、有料職業紹介所を多く(6社以上)使っている事業所ほど、離職率が約20%に達するという皮肉なデータがあります。
これは、「手当たり次第に採用しなければならないほど人が足りない」という自転車操業の表れでもあり、紹介料の元を取ろうと「即戦力扱い」して研修を省く傾向ともリンクします。 逆に、定着率が高いのは「友人・知人の紹介」や「ホームページ経由」です。採用チャネルの広さは、時として「定着力の低さ」の裏返しである可能性があります。
出典元の要点(要約)
公益財団法人介護労働安定センター令和6年度「介護労働実態調査」結果の概要について
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活用している有料職業紹介所の社数別に事業所の離職率(2職種計)の分布をみると、離職率の高い事業所ほど活用している会社数が多い傾向にある。「6~10社」では平均離職率が19.9%、11社以上では20.7%となっており、活用社数が多いほど平均離職率が高い。一方、現在の法人に就職した主なきっかけでは「友人・知人からの紹介」が最も定着意向が高い傾向にある。
理由3:「相談時間」の省略が、ヘルパーの心を折る
特に訪問介護において、サ責が忙しすぎて「相談に乗る時間」がないことは、致命的な離職要因となります。
データでは、サ責が「仕事上の課題に関する相談や指導」を十分に行っている事業所ほど、ヘルパーの離職率が低いことが証明されています。 「忙しいから今は無理」と対話を後回しにすることは、単なる時間の節約ではなく、「離職リスクの積み立て」をしているのと同じです。孤独な現場で支えがないと感じた時、ヘルパーは静かに去っていきます。
出典元の要点(要約)
公益財団法人介護労働安定センター令和6年度「介護労働実態調査」結果の概要について
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「訪問介護員からの仕事上の課題などに関する相談や指導など」を実施している(「十分実施している」+「ある程度実施している」)場合には、担当訪問介護員の離職率「10%未満」の割合が63.0%と高く、コミュニケーションや指導の実施が低離職率と関連している。
上司のマネジメント不全、乱用される採用チャネル、そして相談時間の欠如。これらが複合的に絡み合い、「人が入ってもすぐに辞める」という負のループを作り出しています。この構造を見抜くことが、自分を守るための第一歩です。
よくある質問:失敗しない職場選びの「判断基準」
- Q給料が高い求人なら、良い職場と考えてもいいですか?
- A
給料の高さだけで判断するのは危険です。データ上、採用には「賃金水準の向上」が効果的とされていますが、定着(辞めないこと)に最も役立っているのは「人間関係の良さ」や「有給休暇の取りやすさ」です。 給与が良くても、人間関係や休みやすさに課題がある職場は、離職率が高くなる傾向があります。
出典元の要点(要約)
公益財団法人介護労働安定センター
令和6年度「介護労働実態調査」結果の概要について
https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_press.pdf
(要約文) 採用や職場定着・離職防止の方策として、採用面では「賃金水準の向上」が最も効果がある一方、定着には「人間関係が良好な職場づくり」「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」が高い実施率と効果を示している。
- Q面接で「ブラックな職場」を見抜くための良い質問はありますか?
- A
「新人の同行訪問は何回くらいありますか?」や「業務で迷った時の相談窓口や体制はどうなっていますか?」と聞いてみてください。 離職理由の多くは「指示が不明確」や「相談・指導不足」によるものです。具体的なサポート体制を即答できない職場は、入職後に放置されるリスクが高いと言えます。
出典元の要点(要約)
公益財団法人介護労働安定センター
令和6年度「介護労働実態調査」結果の概要について
https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_press.pdf
直前の仕事が介護関係で辞めた理由として「職場の人間関係」が最も多く、その詳細では「上司の業務指示が不明確」などが挙げられている。また、サ責が相談・指導を十分に行っている事業所は離職率が低い傾向にある。
- Q有給休暇が取れるか心配ですが、面接で聞いても大丈夫でしょうか?
- A
はい、確認すべき重要なポイントです。定着率が高い職場ほど、「有給休暇の取得や勤務日時の変更をしやすくする」取り組みを行っています。 「他の方はどのようにお休みを取られていますか?」と聞くことで、その職場の柔軟性や定着への意識レベルを確認できます。
出典元の要点(要約)
公益財団法人介護労働安定センター
令和6年度「介護労働実態調査」結果の概要について
https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_press.pdf
現在の職場を辞めずに働き続けることに役立っている勤務先の取り組みとして、「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」が上位に挙げられている。
まとめ:データを見ることで「運任せの転職」は防げる
本記事では、令和6年度の介護労働実態調査に基づき、離職率が高い職場に共通する「構造的な特徴」について解説してきました。
「人間関係」や「忙しさ」といった漠然とした不安も、データというフィルターを通すことで、事前に回避可能なリスクとして捉え直すことができます。特に「上司の指示系統」や「サ責の相談体制」は、入職後の定着を左右する極めて重要な要素です。
これから面接や見学に向かう際は、ぜひ以下の視点を持って「職場を見極める」意識を持ってみてください。
- 指示系統の確認:「業務マニュアルや、迷った時の相談ルートは明確ですか?」と質問してみる。
- サポート体制の確認:「新人の同行訪問の回数や、定期的な面談の有無」を確認する。
- 採用背景の洞察:「急募」の理由や、同期入職者の採用経路に違和感がないか観察する。
完璧な職場に出会うことは難しいかもしれませんが、こうした「地雷」を避ける知恵を持つだけで、納得のいく転職ができる確率は格段に上がります。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。この記事が、あなたが長く安心して働ける職場と出会う一助となれば幸いです。
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更新履歴
- 2025年12月9日:新規投稿


