【認知症ケア】「とりあえず薬」で現場は楽になる? 介護職を追い詰める「即効性」の落とし穴

夜勤中の理不尽な暴力や暴言に、心が折れそうになる瞬間はありませんか。利用者を守るため、そして自分を守るために、「薬で鎮静させたい」と願うのは、決して現場の怠慢ではありません。

理想のケアと人手不足の現実との狭間で、薬を使うリスクに不安を感じることもあるでしょう。すべては無理でも、薬に頼る前に確認すべき3つの視点だけは、今日から押さえておきませんか。

この記事を読むと分かること

  • 安易な薬物使用の死亡リスク
  • 暴言に隠れた3つの原因
  • 薬を使わない具体的な対処法
  • 医師への効果的な伝え方
  • 明日からできる観察ポイント

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 利用者の暴力に恐怖がある
  • 強い薬を使ってほしいと思う
  • 薬での転倒リスクが怖い
  • 怒る理由が全くわからない
  • 現場の対応に限界を感じる

薬に頼る前に知っておくべき「リスク」と「解決の近道」

女性の介護職員の画像

「できることなら薬漬けにはしたくない」。それが現場の本音ではないでしょうか。しかし、人手が足りない夜勤や、他の利用者を守らなければならない切迫した状況では、「薬で落ち着いてもらうしかない」と選択を迫られる場面がどうしてもあります。

理想通りにはいかない現実の中で、それでも私たちが知っておかなければならない「薬のリスク」と、実はそれが「遠回りな解決策」かもしれないという視点についてお伝えします。

「大人しくさせる薬」が招く、命に関わる副作用

抗精神病薬などの薬剤には、使用によって死亡率が約1.6〜1.7倍に上昇するというデータがあり、米国食品医薬品局(FDA)も注意喚起を行っています。

単に「眠ってくれる」だけでなく、転倒・骨折や、飲み込む力が落ちることによる誤嚥性肺炎など、新たな身体的トラブルを引き起こすリスクがあるのが現実です。一時的な鎮静と引き換えに、取り返しのつかない事故につながる恐れがあることを、チーム全体で共有する必要があります。

出典元の要点(要約)

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

抗精神病薬の投与を受けている高齢患者は、死亡リスクが1.6~1.7倍高くなるとの報告があり、FDA(米国食品医薬品局)も注意喚起を行っている。

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

抗精神病薬の使用は、過鎮静、転倒・骨折、嚥下機能障害による誤嚥性肺炎、認知機能の低下などの有害事象を引き起こすリスクがある。

「認知症だから暴れる」という大きな誤解

暴言や暴力(BPSD)は、脳の病気だけで起きるわけではありません。本人の「脳の障害」に、痛みや便秘などの「身体的要因」、騒音や不安などの「環境・心理的要因」が複雑に絡み合って発生します。

つまり、目の前の不穏は「病気のせい」ではなく、本人を取り巻く「不快な原因」への反応であるケースも少なくありません。ここを見落としたまま薬を使っても、根本的な解決につながらないことがあります。

出典元の要点(要約)

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

BPSDは、脳の器質的な要因だけでなく、身体的要因、環境的要因、心理的要因が相互に関連して発現する。

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認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

環境の変化や不適切なケア、身体的不調などが誘引となってBPSDが悪化することがある。

解決への近道は「原因探し」と「薬の最小化」

薬物療法はあくまで最終手段です。まずは痛みを取り除いたり、環境を調整したりする「非薬物療法」を優先することが、医学的に推奨されています。

どうしても薬が必要な場合でも、漫然と使い続けるのではなく、「最小有効量」にとどめ、落ち着いたら減量・中止を目指すのが鉄則です。遠回りに見えても、不快な原因を取り除くことこそが、再発を防ぎ、結果的に現場の負担を減らす有効な方法の一つです。

出典元の要点(要約)

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認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版

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BPSDへの対応は、非薬物療法を優先し、薬物療法は効果とリスクを考慮して慎重に行うべきである。

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薬物療法を行う場合は、少量から開始し(start low)、ゆっくり増量し(go slow)、症状が安定したら減量・中止を検討する。


「薬しかなかった」はずが…現場で見落とされがちな3つの事例

女性の介護職員の画像

現場で日々対応に追われていると、どうしても「認知症が進んで性格が変わった」「もう薬でコントロールするしかない」と思い込んでしまうことがあります。

しかし、一見すると「不可解な暴力」に見えても、あとから振り返れば「明確な理由」があったケースは少なくありません。よくある3つのパターンを見ていきましょう。

事例1:入浴拒否と暴力の正体は「痛み」だった

入浴介助やおむつ交換のたびに激しく暴れ、スタッフの手を振り払う利用者。「攻撃的な性格になった」と判断され、鎮静目的の薬物使用が検討されました。

しかし、実は関節痛や便秘による腹痛があり、それを言葉で伝えられずに「拒否」という行動で訴えていただけだったのです。

このケースでは、表情や動きから痛みを評価するスケール(NRSやPAINAD)を用いて観察し、痛み止めや排便コントロールを行った結果、穏やかさを取り戻すことにつながりました。「暴れる=性格の変化」と決めつけない視点が重要と考えられます。

出典元の要点(要約)

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認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版

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身体的苦痛(便秘、脱水、疼痛、感染症、発熱など)がBPSDの要因となることがある。

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疼痛はBPSDの一般的な原因であるが、認知症患者は適切に表現できないため、行動観察(PAINADなど)による評価が重要である。

事例2:夜間の不穏を招いていた「環境」と「言葉」

夕方から夜間にかけて大声を出して歩き回り、スタッフが「座ってください」と制止すればするほど、興奮が悪化してしまうケースです。夜勤スタッフの負担軽減のため、薬の追加が要望されました。

ここで見直すべきは「環境」でした。夜間の騒がしいナースコールの音や明るすぎる照明(物理的環境)、そして「ダメです」「待って」という言葉による拘束(スピーチロック)が、ご本人の混乱を助長していたのです。

静かな環境を整え、制止せずに寄り添う対応に変えたところ、薬に頼らずとも落ち着きが見られることにつながりました。

出典元の要点(要約)

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物理的環境(照明、騒音、温度など)や社会的環境(人間関係、ケアの質)がBPSDに影響を与える。

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スピーチロック(言葉による拘束)などの不適切なケアは、BPSDを悪化させる要因となる。

事例3:良かれと思って飲んだ「薬」が悪化の原因に

興奮を抑えるために抗精神病薬や睡眠薬を開始したところ、日中はウトウトして傾眠傾向になり、逆に夜間になると興奮して暴れる「日内変動」が激しくなってしまった事例です。

現場では「薬が効いていない」「認知症が進んだ」と誤解されがちですが、これは多剤併用(ポリファーマシー)や薬の副作用による「薬剤性せん妄」の可能性があります。

「薬が足りない」のではなく「薬が多すぎる」ことが原因かもしれません。このケースでは、医師と相談して不要な薬を減量・中止し、生活リズムを整えることで症状の改善につながりました。

出典元の要点(要約)

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多剤併用(ポリファーマシー)は、せん妄や転倒などの有害事象のリスク因子となる。

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薬剤(ベンゾジアゼピン系睡眠薬、抗コリン薬など)は、せん妄の直接因子(誘発因子)となる。


なぜ「とりあえず薬」が、現場をさらに追い詰めるのか

男性入居者と女性介護職員

「暴れる利用者を前にして、悠長なことは言っていられない」「薬で落ち着くならそれが一番早い」。現場では、そう感じるのが偽らざる本音かもしれません。

しかし、その場しのぎの「即効性」への期待が、かえって現場の首を絞める結果になることがあります。なぜ「まず薬」ではいけないのか、その理由を知ることで、チームの方針が変わるかもしれません。

その「暴言」は脳の病気だけのせいじゃない

認知症の方の暴言や暴力(BPSD)は、単に脳の病気が進行したから起きるわけではありません。

脳の障害というベースの上に、身体的な不調(痛み、便秘など)、環境の刺激(音、光)、心理的な不安などが複雑に絡み合って誘発されています。つまり、背景にある「不快な原因」を取り除かない限り、薬で一時的に抑え込んでも、根本的な解決には至りにくいと考えられます。

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https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

BPSDは、脳の器質的な要因だけでなく、身体的要因、環境的要因、心理的要因が相互に関連して発現する。

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認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版

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環境の変化や不適切なケア、身体的不調などが誘引となってBPSDが悪化することがある。

「命を縮める」という重いリスク

抗精神病薬の使用には、「死亡リスクの上昇」という重大な懸念があります。

研究データによると、認知症高齢者への抗精神病薬投与は、死亡リスクを1.6〜1.7倍に高めるとされており、米国食品医薬品局(FDA)もこれについて注意喚起を行っています。「大人しくさせる」という目的のために、命に関わるリスクを負わせている事実を直視する必要があります。

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抗精神病薬の投与を受けている高齢患者は、死亡リスクが1.6~1.7倍高くなるとの報告があり、FDA(米国食品医薬品局)も注意喚起を行っている。

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認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する抗精神病薬の使用は適応外使用であり、ベネフィットがリスクを上回る場合にのみ検討されるべきである。

転倒・誤嚥で「介護の手間」は逆に増える

薬で過度に鎮静させることは、転倒・骨折や、飲み込みが悪くなることによる誤嚥性肺炎のリスクを招きます。

これらは入院や寝たきり(廃用症候群)につながるだけでなく、現場にとっても「転倒予防の見守り」や「慎重な食事介助」といった新たな業務負担を生むことになります。安易な薬物使用は、巡り巡って現場をさらに忙しくさせる悪循環の入り口になる可能性があります。

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抗精神病薬の使用は、過鎮静、転倒・骨折、嚥下機能障害による誤嚥性肺炎、認知機能の低下などの有害事象を引き起こすリスクがある。

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薬剤による過鎮静は、誤嚥性肺炎や転倒のリスクを高め、廃用症候群を進行させる可能性がある。

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現場の「迷い」に答えるQ&A

「頭ではわかっていても、実際の現場では判断が難しい」。そんな場面で迷わないためのヒントを、ガイドラインに基づいて整理しました。

Q
暴言や暴力がひどくても、絶対に薬を使ってはいけないのですか?
A
いいえ、絶対に禁止されているわけではありません。 ご本人に強い苦痛がある場合や、自傷・他害の危険が切迫している緊急の場合などには、薬物療法が検討されることがあります。

ただし、その場合でも「薬だけで解決しよう」とはせず、環境調整などの非薬物療法を併用すること、そして症状が落ち着いたら漫然と続けずに減量や中止を検討することが重要です。

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自傷他害のおそれがある場合や、幻覚・妄想により本人に著しい苦痛がある場合には、抗精神病薬の使用を検討する。

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漫然と投与することなく、症状が消失または軽快した後は、減量・中止を試みる。

Q
薬を使わずに対応するために、具体的にどこをチェックすればいいですか?
A
まずは「身体的な不快」がないかを確認してください。 特に「痛み」(関節痛など)、「便秘・脱水」「空腹」などは、言葉で訴えられずに不穏の原因になりやすいポイントです。

次に「環境」を見直します。部屋が暑すぎたり寒すぎたりしないか、騒音や強い光が刺激になっていないかを確認することが、解決の糸口になることがあります。

出典元の要点(要約)
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身体的苦痛(便秘、脱水、疼痛、感染症、発熱など)や生理的欲求(空腹、排泄)がBPSDの要因となることがある。

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不適切な温湿度、騒音、照明などの物理的環境がBPSDに影響を与える。

Q
医師にどのように伝えれば、薬以外の対応を検討してもらえますか?
A
単に「暴れています」と伝えるだけでなく、「いつ、どんな状況で起きたか」「身体の状態」を具体的に伝えてみてください。

「食事の後に痛そうにしている」「便秘が3日続いている」といった背景要因(身体・環境)の情報がセットになることで、医師と薬以外の対応を検討する際の重要な情報となります。

出典元の要点(要約)
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BPSDは、身体的要因、環境的要因、心理的要因などが相互に関連して発現するため、これらの要因を分析することが重要である。

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多職種で情報を共有し、連携してケアにあたることが求められる。

すべてのケースに正解があるわけではありませんが、「薬しかない」と思い込む前に、痛みや環境といった「別の選択肢」があることを知っておくだけで、現場の焦りは少し和らぐはずです。


明日からできる、小さな「見直し」から

日々の業務に追われる中で、「薬に頼りたくない」という理想を持ち続けることは、決して簡単ではありません。

すべてを完璧に変える必要はありません。まずは明日、利用者が不穏になったときに「痛みはないか」「便秘はしていないか」と、身体の不快を疑うことから始めてみてください。

薬はあくまでリスクを伴う最終手段です。その認識をチームで持ち、不快を取り除くケアを積み重ねることが、結果として皆様自身を守る近道になるはずです。

最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。


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更新履歴

  • 2026年1月28日:新規投稿

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