介護現場でICTの話が出ると、「本当に楽になるのか」「また入力するものが増えるだけではないか」と身構える人は少なくありません。
特に、紙の記録も残したままタブレット入力だけ増えた経験があると、ICTという言葉そのものに疲れてしまいます。
この記事では、ICT機器を「人を減らす道具」としてではなく、記録・申し送り・職員探し・情報共有の遅れといった介護ではない疲労を減らす道具として整理します。
- ICT導入で何を楽にできるのか
- 紙との二重記録がなぜ逆効果になるのか
- インカムや見守りセンサーをどう考えればよいのか
- ICTが苦手な職員を置いていかない進め方
介護ICTは人を減らす道具ではなく余白を戻す道具

介護ICTは、介護職の代わりではなく、間接業務の負担を減らして利用者に向き合う時間を戻すための道具です。
「ICTを入れれば人が少なくても何とかなる」と言われると、現場では強い違和感が出ます。
機械はオムツ交換をしません。不穏な利用者の隣に座って声をかけることも、怒っている家族に頭を下げることもありません。
だから、ICTを人の代わりのように語るほど、現場は「介護の仕事を軽く見られている」と感じやすくなります。
一方で、ICTの使い方を間違えなければ、介護職の疲れ方は変わります。申し送りノートを探す時間、同じ内容を何度も転記する時間、職員を探して歩く時間、伝わっていないことで起こるイライラを減らせる可能性があります。
厚生労働省のガイドラインでも、介護サービスの生産性向上は「介護の価値を高めること」とされ、情報共有の効率化が取組の1つに位置づけられています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
本ガイ ドラインでは、 「一人でも多く の利用者に質の 高いケアを届ける」 という介護現場の価値を重視し、 介護サービスの生産性向上を 「介護の価値を高める こ と」 と定義し ています。 本事業における介護の仕事 の価値を高める取組は、 人材育成とチームケアの質 の向上、 そし て情報共有の効率化です。 この3つを生 産性向上に取り組む意義と し、 介護サービスの質の 向上と人材定着 ・ 確保を目指します。
つまり、目指すべき方向は「少ない人数で無理をすること」ではありません。
利用者を見る時間、話を聞く時間、表情の変化に気づく余裕を取り戻すことです。
そのためには、最初から大きな改革を狙うより、現場で一番負担になっている二重業務を1つなくすところから始めるのが現実的です。
よくある事例:ICT導入で現場が疲れるパターン

ICTそのものが悪いわけではありません。つらいのは、機器を入れたのに現場の仕事の流れが変わっていない状態です。
ここでは、介護現場で起こりやすい失敗パターンを整理します。
紙とタブレットの二重記録が残っている
タブレットに入力した後で、「念のため紙にも書いて」と言われる。
この状態では、ICTは効率化ではなく仕事を増やす道具になります。現場の疲れは、記録そのものより「同じ内容をもう一度書くこと」にたまりやすいです。
ガイドラインでは、ICTの活用は記録・報告様式の工夫と組み合わせることで文書量削減が期待できるとされています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
生産性向上の取組に新し い技術を導入す る こ と も有効です 。 例えば、 情報共有の工夫にはICTの活用が考え ら れ、 ま た、 記録 ・ 報告様式の工夫 と組み合わせ る こ と に よ っ て 、 文書量削減の効果も期待でき ま す 。
最初から完全移行が難しい場合でも、「どの記録はICTに統一するか」「紙を残すものは何か」「いつ見直すか」を決めておく必要があります。
インカムで何でも流してしまう
インカムは職員探しを減らす助けになります。
ただし、緊急連絡、確認事項、後でよい連絡、雑談に近い連絡が同じ音量で流れると、職員は一日中耳元で呼ばれている感覚になります。
重要なのは、インカムを使うことではなく、何をインカムで流すのかを決めることです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
収集した情報をいつ、誰に共有するかについてもルールを定めておき ましょう。また、共有すべき情報をその緊急度や重要度、個人情報有 無など、 情報の内容によって、 相応しい情報共有の手段について検討しルー ル化しましょう。 ◉ ICT機器(タブレットやインカムなど)を使うことで情報の収集と 共有が同時にできることもあります。
「転倒リスクがあり応援が必要」「排泄介助で人手が必要」のように、即時性のある連絡に絞るほど、現場の動線と焦りを減らしやすくなります。
見守りセンサーの通知基準が曖昧になっている
見守りセンサーは、巡視をゼロにする機械ではありません。
通知が鳴った後に判断し、訪室し、声をかけるのは人です。だから、アラートが鳴ったら必ず即訪室なのか、状況確認でよい通知もあるのかを決めないと、夜勤者は通知に振り回されます。
資料上も、タブレット端末やインカム、見守り機器、介護ロボット、センサーは業務量縮減の取組として整理されています。人を不要にする根拠としてではなく、業務負担を見直す文脈で扱うのが安全です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省介護人材の処遇改善等.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001144293.pdf
タブレット端末やインカム等のICT活用や見守り機器等の介護ロボットやセンサー等の導入による業務量の縮減 ⑱高齢者の活躍(居室やフロア等の掃除、食事の配膳・下膳などのほか、経理や労務、広報なども含めた介護業務以外の業務の提 供)等による役割分担の明確化 ⑲5S活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字をとったもの)等の実践による職場環境の整備 ⑳業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減
ICTが苦手な職員だけが残される
導入初日から全員に完璧を求めると、入力が苦手な職員ほど残業し、ベテランが孤立しやすくなります。
うまく進めるには、頻度の高い項目から慣れることが大切です。食事、水分、排泄、特変、申し送りなど、毎日使う場面に絞ると、質問もしやすくなります。
ガイドラインの事例でも、介護情報共有ソフトの導入時には、使用方法の説明会や継続的な工夫の検討が行われています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
利用者情報の共有を介護情報共有ソフトを用いて実施 • ヘルパーに対し、従来電話やメールで行っ ていた業務をどの程度減らすことができる のかを、周知することで、ヘルパーの協力 を得ることができた。 • 導入する介護情報共有ソフトを開発するベ ンダーの担当者に、ヘルパーへの使用方法 に関する説明会を開催することを依頼。こ の説明会により、ヘルパー側のソフトに対 する理解を深めることができた。
なぜICT導入が逆効果に感じられるのか

現場がICTを嫌っているのではありません。
多くの場合、嫌なのは「機器を入れたのに、仕事の減らし方が決まっていないこと」です。
導入前に困りごとを洗い出していない
課題が曖昧なまま機器を入れると、使う目的も曖昧になります。
申し送りノートを探す時間を減らしたいのか、転記を減らしたいのか、職員探しを減らしたいのか。最初にここを分けないと、「便利そうだから入れたけど、現場では使いにくい」という状態になります。
ガイドラインでは、ICTなどを使って転記作業の削減、報告申し送りの効率化、情報共有のタイムラグ解消を図るとされています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
ICTな ど を用い て転記作業の削減や、 一斉同時 配信に よ る報告申 し送り の効率化、 情報共有の タイムラ グ の 解 消 を 図 る 。
だからこそ、導入前に「何を減らすためのICTか」を現場の言葉で決めておく必要があります。
情報の目的と渡し方が決まっていない
情報共有は多いほどよい、とは限りません。
報告、連絡、相談、応援依頼、後で確認すればよい内容が混ざると、受け取る側は優先順位を判断できません。
資料では、情報を扱う目的を明確にし、いつ、誰が、どこで、どのような情報を収集するかルールを定めることが示されています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
情報を取り扱う目的を明確にしましょう。例えば 「報告」 「連絡」 「相談」 などの目的を記載するルールを設けるなど、その情報を共有するとこ で相手に何を期待するのかを明確にして情報を提供しましょう。 業務の中でいつ、誰が、どこで、どのような情報を収集するかルール を定めておきましょう。これにより、情報収集の抜け漏れを防ぐこと が出来ます。
電話や口頭の非効率をICTに置き換えるだけで終わっている
電話がつながらず、何度もかけ直す。誰が空いているかわからず、廊下を歩いて探す。
この負担は、現場では小さく見えても、積み重なると大きな疲れになります。
ガイドラインの事例では、緊急時に電話がつながらない、全職員へ一斉連絡できない、手が空いている人を探す手間があるといった課題が示されています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
緊急時に電話がつながらず、何度もかけ直しが必要になる等、効率が悪かった 利用者の訪問スケジュールの変更連絡等、リアルタイムの情報共有が必要な際に、サ責への電話連絡による情報共 有を行っており、電話がつながらない等の非効率が発生していた。 電話では全職員への一斉連絡ができず、”そのとき手が空いている人”を探すのに手間がかかっていた。
運用ルールを現場で直す仕組みがない
最初に決めたルールが、そのまま正解とは限りません。
使ってみると、入力しにくい項目、通知が多すぎる場面、インカムで流すほどではない連絡が見えてきます。
その声を集めて直せる現場ほど、ICTは定着しやすくなります。逆に、現場不在で決めたルールを固定すると、不満だけが残ります。
介護ICT導入で現場が迷いやすいこと
ICTは便利そうに見えても、現場では細かな迷いが出ます。ここでは、エビデンスで確認できる範囲に絞って答えます。
- QICTを入れれば、紙の記録はすぐになくせますか?
- Aすぐに全廃できるとは限りません。ただし、ICTは記録・報告様式の工夫と組み合わせることで文書量削減が期待できるため、まずは二重記録になっている項目を洗い出すことが現実的です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
生産性向上の取組に新し い技術を導入す る こ と も有効です 。 例えば、 情報共有の工夫にはICTの活用が考え ら れ、 ま た、 記録 ・ 報告様式の工夫 と組み合わせ る こ と に よ っ て 、 文書量削減の効果も期待でき ま す 。
- Qインカムは、どんな連絡にも使ったほうがよいですか?
- A何でも流すのではなく、緊急度や重要度、情報の内容に応じて手段を決める必要があります。応援依頼や即時確認など、今すぐ共有すべき内容を優先すると使いやすくなります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
収集した情報をいつ、誰に共有するかについてもルールを定めておき ましょう。また、共有すべき情報をその緊急度や重要度、個人情報有 無など、 情報の内容によって、 相応しい情報共有の手段について検討しルー ル化しましょう。 ◉ ICT機器(タブレットやインカムなど)を使うことで情報の収集と 共有が同時にできることもあります。
- QICTが苦手な職員には、どう導入すればよいですか?
- A使用方法を説明する場を作り、問い合わせや機器不調に対応できる窓口を置くことが大切です。最初から完璧を求めず、よく使う項目から慣れていく進め方が現実的です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
利用者情報の共有を介護情報共有ソフトを用いて実施 • ヘルパーに対し、従来電話やメールで行っ ていた業務をどの程度減らすことができる のかを、周知することで、ヘルパーの協力 を得ることができた。 • 導入する介護情報共有ソフトを開発するベ ンダーの担当者に、ヘルパーへの使用方法 に関する説明会を開催することを依頼。こ の説明会により、ヘルパー側のソフトに対 する理解を深めることができた。
- Q見守りセンサーがあれば巡視は不要になりますか?
- A巡視が不要になるとは言えません。資料では見守り機器やセンサー等は業務量縮減の取組として扱われています。通知後の判断や対応は人が行うため、訪室基準や確認方法を決めておく必要があります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護人材の処遇改善等.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001144293.pdf
タブレット端末やインカム等のICT活用や見守り機器等の介護ロボットやセンサー等の導入による業務量の縮減 ⑱高齢者の活躍(居室やフロア等の掃除、食事の配膳・下膳などのほか、経理や労務、広報なども含めた介護業務以外の業務の提 供)等による役割分担の明確化 ⑲5S活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字をとったもの)等の実践による職場環境の整備 ⑳業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減
ICTは機器を入れるだけでは定着しません。何を減らすために使うのか、誰にどう共有するのかを決めてから始めることが大切です。
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まとめ:最初の一歩は二重業務を1つなくすこと
ICT導入で大切なのは、「人を減らせるか」ではありません。
介護職が利用者に向き合う時間を取り戻せるか。記録が終わっていない焦り、申し送りを探す時間、職員を探して歩く時間を減らせるか。
そこを目的にしないと、ICTは現場にとって新しい負担になります。
まずは、現場で一番つらい二重業務を1つ選んでください。
- 紙とタブレットの二重記録を1項目だけやめる
- インカムで流す連絡を緊急度で分ける
- 見守りセンサーの即訪室基準を決める
- ICTが苦手な職員に質問できる担当者を置く
- 使いにくかった場面を勤務帯ごとに集める
小さくても、同じ内容を何度も書く負担が減ると、現場の空気は変わります。
その余白が、利用者の話を最後まで聞く時間や、小さな表情の変化に気づく余裕につながります。
更新履歴
- 2025年10月5日:新規公開
- 2026年5月13日:最新情報に基づき加筆・修正
- 2026年5月13日:内容を全面的にリライト









