「ぶつけた覚えはないのに……」。朝の起床介助で身に覚えのないあざを見つけ、虐待を疑われる不安に駆られる介護職は少なくありません。
「忙しくて見守れなかった」と自分を責めがちですが、高齢者の皮膚は触れただけでも出血しうるほど脆弱になっていることがあります。すべては防げなくとも、事故と病気を見分ける視点を持つことが、自分と利用者を守る鍵になります。
この記事を読むと分かること
- あざと湿疹を鑑別する目安
- 薬の副作用の危険なサイン
- 医師が納得する観察ポイント
- 家族へ説明する根拠ある言葉
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:「あざ=事故」と自分を責めすぎないでください

「人員不足で十分な見守りができない中、気づけばあざができている」
「家族に虐待を疑われないか、事故報告書を書く手が震える」
現場では、そんなやり場のない葛藤を抱える介護職が多くいます。しかし、高齢者の体は構造的にも薬理的にも出血しやすい状態にあることがあります。まずは医学的な正体を知り、冷静に対処する視点を持つことが重要です。
多くのあざは「老化」と「薬」による生理現象です
高齢者の皮膚や血管は、私たちが想像する以上に脆弱化しています。外傷がなくても自然にあざができることは、医学的に説明がつきます。
- 血管がもろい(老人性紫斑):加齢により血管を支える組織が弱くなり、軽微な摩擦や圧迫だけで血管が破れ、あざ(紫斑)になります。
- 薬で血が止まりにくい:脳梗塞予防などで「抗凝固薬・抗血小板薬」を飲んでいる場合、生理的な止血機能が抑えられているため、出血が広がりやすくなります。
出典元の要点(要約)
日本内科学会出血傾向の鑑別診断
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/7/109_1340/_pdf/-char/ja
出血傾向は、血管壁の異常、血小板の数や機能の異常、凝固系や線溶系の異常によって、先天的または後天的に生じる。
点状出血は血小板や毛細血管の異常に起因することが多く、血小板減少が著しい場合は体幹や口腔内にも出現する。厚生労働省
重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf
「手足に点状出血」、「あおあざができやすい」、「皮下出血」、「鼻血」、「過多月経」、「歯ぐきの出血」などの症状が見られた場合、医薬品による出血傾向の可能性がある。
発症機序は薬剤により異なる。ワルファリンはビタミンK依存性凝固因子活性を低下させる。NSAIDs等は血小板機能を抑制する。
迷ったら透明な板で「圧迫」して確認を
「ぶつけたのか、ただの湿疹か分からない」と迷ったときは、透明な板(プラスチック板や定規など)で患部を上から圧迫して観察してください。これが鑑別を行う方法の一つです。
- 色が消える:「紅斑(こうはん)」です。血管が拡張しているだけで、出血ではありません。
- 色が消えない:「紫斑(しはん)」です。血管外に出血している、いわゆる「あざ」の状態です。
出典元の要点(要約)
日本内科学会出血傾向の鑑別診断
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/7/109_1340/_pdf/-char/ja
紅斑と紫斑は視診だけでは判別が難しいため、透明なスライドガラスで圧迫して鑑別を行う。色が消褪すれば紅斑、毛細血管拡張あるいは色素沈着等であり、消褪しなければ紫斑であると判断する。
あざ以外の「危険なサイン」を見逃さない
あざ(皮下出血)だけでなく、体の内側からの出血サインを併発している場合は、重篤な副作用や病気が疑われます。以下の症状があれば、様子見をせず医療職へ報告してください。
- 粘膜出血:鼻血が止まらない、歯磨きでの出血、血痰。
- 臓器出血の兆候:黒い便(タール便)、血尿、激しい頭痛や吐き気(脳出血疑い)。
出典元の要点(要約)
厚生労働省重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf
ここで紹介する副作用はまれであるが、放置すると重篤化する恐れがあるため、早期に対処することが大切である。
頭蓋内出血には脳出血やクモ膜下出血などがあり、吐き気、頭痛、項部硬直、意識障害などに気づいたら医療機関でCTやMRIなどの画像診断を受ける必要がある。
消化器系出血では吐血、下血、血便、黒色便(タール便)などがみられ、早期に便の潜血テストを受けることが推奨される。
高齢者のあざは「老化」や「薬」による不可抗力な生理現象であることも多いです。過度に自分を責めず、まずは「圧迫法」で出血を確認し、危険な全身症状がないか冷静に観察することこそが、現場でできる最善のケアです。
よくある事例:現場で起きる「判断に迷う瞬間」

「さっきまではなかったはずなのに……」
「着替えのときに少し腕を支えただけなのに……」
現場では、どんなに注意していても予期せぬあざに遭遇することがあります。ここでは、よくある3つのパターンと、エビデンスに基づいた正しい読み解き方を紹介します。
事例1:更衣介助で見つけた「腕の点々」や「あざ」
朝の更衣中、利用者の腕に赤い点々や小さなあざを見つけ、「昨日ぶつけたっけ?」と不安になるケースです。
医学的には、直径3mm未満を「点状出血」、2cmまでを「斑状出血」と呼びます。
これらは外傷がなくても、加齢による血管の弱り(老人性紫斑)や、血小板の異常によって自然に発生することがあります。「圧迫しても消えない」なら、それは出血です。
出典元の要点(要約)
日本内科学会出血傾向の鑑別診断
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/7/109_1340/_pdf/-char/ja
皮下出血はその大きさによって、点状出血(直径3mm未満)、斑状出血(直径3mm~2cm)、溢血斑(直径2cm以上)に分けられる。
点状出血は血小板や毛細血管の異常に起にすることが多く、老人性紫斑なども含まれる。
事例2:軽くぶつけただけなのに「真っ青に腫れた」
車椅子のフットレストに足を軽く当てた程度だったのに、数時間後に見たら広範囲に内出血が広がり、腫れ上がってしまったケースです。
「血液サラサラの薬(抗凝固薬など)」を服用している利用者によよく見られます。
薬の効果で血が止まりにくくなっているため、健常者なら問題ない軽微な衝撃でも、皮下や筋肉内で出血が止まらず、大きな血腫(けっしゅ)になることがあります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf
抗血栓薬(ワルファリン、アスピリンなど)を服用している患者では、軽微な外力によっても止血されにくく、広範な皮下血腫や筋肉内血腫を形成することがある。
事例3:あざだけでなく「鼻血」や「歯磨き時の出血」も続く
「最近あざができやすいな」と思っていたら、口腔ケアの際に出血したり、鼻血が出たりと、あちこちから血が出るケースです。
これは単なる乾燥や打撲ではなく、薬の副作用などによる全身性の出血傾向のサインである可能性があります。
皮膚(あざ)と粘膜(鼻・歯ぐき)の両方に出血が見られる場合は、放置せず医療的な対応が必要です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf
「手足に点状出血」、「あおあざができやすい」、「鼻血」、「歯ぐきの出血」などの症状が見られた場合、医薬品による出血傾向の可能性がある。
これらは初期症状として重要であり、早期発見・早期対応が必要である。
これらの事例に共通するのは、「いつものこと」と流さずに観察することの重要性です。単なる外傷と決めつけず、「サイズは?」「薬の影響は?」「他の部位からの出血は?」という視点を持つことが、事故防止への第一歩です。
理由:なぜ、どんなに気をつけてもあざができるのか?

「保湿も欠かさず、移乗もスライディングシートを使っている。それでもあざができてしまう」
現場では、これ以上どうすればいいのかと手詰まり感を抱くこともあります。
しかし、高齢者の身体は、私たちの努力だけではカバーしきれない構造的な変化を起こしています。なぜ「少しの刺激」が「大きなあざ」になるのか、その医学的な理由を知ることで、ケアの限界を正しく理解しましょう。
1. 血管が「紙のように」もろくなっている
若い人の血管は弾力があり、多少の衝撃でも破れることはありません。これが「理想」の状態です。
しかし「現実」の高齢者の血管は、加齢によって周囲の支持組織が弱くなり、非常に脆弱(ぜいじゃく)になっています。
これを医学的に「老人性紫斑(しはん)」と呼びます。
血管の壁が弱くなっているため、どこかにぶつけた記憶がなくても、衣服の着脱や体位変換といった日常動作のわずかな摩擦や軽微な刺激だけでも血管が破綻し、出血してしまうことがあります。
出典元の要点(要約)
日本内科学会出血傾向の鑑別診断
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/7/109_1340/_pdf/-char/ja
血管壁の異常による出血傾向の分類として、後天性では老人性紫斑などが分類される。
長期ステロイド内服は血管脆弱性による紫斑の原因となる。
2. 薬の効果で「血が止まらない」状態にある
本来、血管が傷ついてもすぐに血小板などが働き、修復されるのが「理想」です。
しかし「現実」には、脳梗塞や心筋梗塞の再発を防ぐために、あえて血を止まりにくくする治療を行っている利用者が多くいます。
抗血小板薬(アスピリンなど)や抗凝固薬(ワルファリンなど)を服用している場合、生理的な止血機能が抑制されています。
そのため、健康な人なら問題にならない微細な血管損傷でも血が止まらず、皮下で出血が広がり続け、気づいたときには広範囲なあざになってしまうことがあります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf
原因としては血管の障害、血小板の機能障害、凝固機能障害などが考えられる。
アスピリン等の血小板機能抑制薬やNSAIDsは、血小板機能を抑制することにより止血不良を引き起こす。
あざの原因は、介助の良し悪し以前に「血管の脆弱化」と「薬による止血機能の抑制」という、身体側の構造的な問題が大きく関わっています。「完全に防ぐことは難しい」という前提に立ち、予防だけでなく早期発見に注力することが現実的な対応です。
FAQ:現場の迷いを解消するQ&A
「この場合はどう判断すればいいの?」
現場で判断に迷いやすい疑問について、エビデンスに基づいた回答をまとめました。
- Qあざか湿疹(かぶれ)か、見分ける方法はありますか?
- A透明なスライドガラスやプラスチック板などで、患部を上から圧迫して観察してください。圧迫しても色が消えない場合は「紫斑(出血)」、色が消える場合は「紅斑(血管拡張)」と判断できます。これが鑑別を行う方法の一つです。
出典元の要点(要約)
日本内科学会
出血傾向の鑑別診断
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/7/109_1340/_pdf/-char/ja
紅斑と紫斑は視診だけでは判別が難しいため、透明なスライドガラスで圧迫して鑑別を行う。色が消褪すれば紅斑、消褪すれば紫斑であると判断する。
- Qあざができやすい薬を飲んでいます。勝手に減らしても良いですか?
- A絶対に自己判断で中止・減量してはいけません。ワルファリンなどは効きすぎると出血傾向になりますが、急にやめると血栓症(脳梗塞など)のリスクが高まります。必ず医師・薬剤師に相談してください。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf
医薬品による出血傾向が疑われる場合でも、原疾患の治療上の必要性から、直ちに原因薬剤を中止できない場合もある。自己判断で休薬せず、速やかに医師・薬剤師に相談することが重要である。
- Qすぐに受診が必要な「危険なあざ」のサインは?
- Aあざだけでなく、激しい頭痛・吐き気(頭蓋内出血疑い)や、黒色便・血便(消化管出血疑い)がある場合は緊急性が高い状態です。様子を見ず、直ちに医療機関を受診してください。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf
頭蓋内出血(吐き気、頭痛、意識障害など)や消化器系出血(黒色便など)がみられる場合は、重篤化する恐れがあるため早期に対処することが大切である。
- Q入浴時にあざを見つけました。洗っても大丈夫?
- A出血傾向がある皮膚は非常に脆弱ですが、感染予防のため清潔保持は重要です。ゴシゴシこするのは避け、たっぷりの泡で包み込むように愛護的に洗浄し、ぬるま湯で洗い流しましょう。
出典元の要点(要約)
日本皮膚科学会
創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン―1:創傷一般ガイドライン
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/wound_guideline.pdf
創洗浄においては、愛護的に洗浄することが推奨される。創周囲皮膚の洗浄には、石鹸を泡立てて愛護的に洗い、十分にすすぐことが望ましい。
迷ったときは「自己判断しない」ことが鉄則です。圧迫法で事実を確認し、全身症状に注意を払いながら、日々のケアでは「こすらず優しく」を徹底しましょう。
まとめ:自分と利用者を守るための「3つの習慣」
高齢者のあざは、加齢による血管の脆弱化や薬の作用といった「身体的な要因」で生じることが多く、すべてを介護の力だけで防ぐことは困難です。
だからこそ、あざを見つけたときは過度に自分を責める前に、冷静に状況を観察することが重要です。明日からの現場で、まずは以下の3つを意識してみてください。
- 「圧迫確認」を習慣にする:迷ったら透明な板で押し、色が消える(紅斑)か消えない(紫斑)かを確認します。
- 「薬」のリスクを知っておく:利用者が血液サラサラの薬を飲んでいるか把握しておくだけで、リスク管理の意識が変わります。
- 「事実」を記録・報告する:「ぶつけたかもしれません」という推測ではなく、「圧迫しても消えない2cmの紫斑があります」という事実を伝えます。
正しい知識を持つことは、利用者の病気の早期発見につながるだけでなく、現場で働く皆さんの心を守ることにもつながるはずです。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事が、日々悩みながらケアに向き合う皆さんのお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2026年2月16日:新規投稿
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