「ひとりで行く」とトイレ介助を拒否する理由|自尊心を傷つけない付き添いに必要なこと

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夕食後の食堂で、家族の面会を終えたばかりの利用者がトイレへ向かう。足元は少しふらついていて、職員は転倒が怖い。そこで「トイレですか?付き添いますね」と声をかけた瞬間、本人の表情が変わり、「ひとりで行ける。来なくていい」と返される。

介護職からすると、転ばせたくないだけです。けれど本人にとっては、他の利用者がいる前で「介助が必要な人」と扱われたように感じることがあります。特に、家族の前で元気な姿を見せた直後や、普段から身なりを気にする方ほど、介助される自分を人前に出したくない気持ちが拒否として出ることがあります。

この記事では、「ひとりで行く」とトイレ介助を拒否する理由を、自尊心や見られ方から整理します。安全をあきらめる話ではありません。本人には「自分で行っている」と感じてもらいながら、職員は環境を整える人としてそばにいる。そのための声かけ、距離、記録の残し方を考えます。

全体像を先に整理したい方へ
認知症のトイレ拒否が起きる原因とは|声かけ・環境・本人の不安から考える対応
認知症の方のトイレ拒否や頻回なトイレ希望に悩む介護職向けに、本人の不安、羞恥心、声かけ、環境、転倒リスク、パッド対応を整理します。拒否を責めず、現場の限界も見ながら、記録やチーム共有につなげる視点を解説します。

この記事を読むと分かること

  • 「ひとりで行く」に隠れやすい自尊心
  • 人前で拒否が強くなる理由
  • 本人の顔をつぶしにくい声かけ
  • 安全と尊厳を同時に守る距離感
  • 職員が一人で事故責任を抱えない記録の視点

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 「ひとりで行ける」と拒否される
  • 食堂や廊下で声かけに迷う
  • 家族面会後のトイレ誘導が難しい
  • 危ないと言うほど怒られる
  • 転倒したらどう責任を取るのか不安になる

「ひとりで行く」と言われたら危険説明の前に本人の顔をつぶさない

高齢男性が手すりを使いながらトイレ動作をしている場面。排泄介助、自立支援、転倒予防、トイレ動作評価の記事向け。

トイレ介助を受け入れてもらうには、危険を説明する前に、本人が「できない人」に見えない形を作ることが大切です。

「危ないですから」「付き添いますね」は、職員にとっては安全のための言葉です。ただ、人前で言われた本人には、「あなたはもう一人では無理です」と聞こえる場合があります。特に、家族面会後や食堂では、その一言が本人の顔をつぶすきっかけになります。付き添いを受け入れてもらう入口は、まず本人の顔をつぶさない形にすることです。

まず変えるのは、介助の必要性そのものではなく、入口の見せ方です。「介助します」ではなく「廊下が少し暗いので電気をつけます」「途中まで一緒に行きます」「終わったら外で待っていますね」と言い換えると、本人が主役で、職員は脇役に見えやすくなります。

出典元の要点(要約)

国立長寿医療研究センター

認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

認知症患者との関りにおける前提として,他の患者と同じ 「人」 として接することである.認知症患者がいる目の前で本人が傷つく話をする,無視する,怒鳴るなど,「人」として傷つく行為は行わないようにする.その上で認知症看護の基本として,①その人らしく存在していられることを支援.②できることに目を向け,本人が有する力を最大限に活かせるよう,自己決定を尊重.

「介助します」ではなく本人が主役に見える言い方にする

トイレに向かう本人を正面から止めると、本人は「止められた」「できない扱いをされた」と感じやすくなります。横に並んで支える前に、少し斜め後ろから声を落とし、本人の動きを奪わない言い方に変えます。

たとえば、「付き添いますね」より「廊下が混んでいるので横を通ります」、「危ないです」より「足元だけ見ておきますね」の方が、本人の自尊心を刺激しにくくなります。大切なのは、本人の意思を否定せず、必要な安全確認を小さく入れることです。

出典元の要点(要約)

国立長寿医療研究センター

認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

認知症が重度になるほど,表情や身振りを使い,非言語メッセージを使うことが効果的である.そして,医療者・介護者が伝えたいことを優先してコミュニケーションをとるよりも,本人の反応を一呼吸待ち,本人が何を行いたいか,本人の意思を読み取ることが大切である.「なぜ一人で歩いたのですか?危険ですよ」 行動を否定しない.「何をしたいと思われたのですか?」

人前で排泄や付き添いの話を大きくしない

排泄の話は、本人にとってとても私的な内容です。食堂で「トイレですか」「付き添います」と周囲に聞こえる声で言われると、それだけで守りに入る人がいます。本人が元々しっかり者で、家族や他利用者の前で体面を保ちたい人なら、なおさらです。

声をかける時は、まず距離と声量を下げます。名前を呼んで近づき、周囲に聞こえにくい言い方で「こちらの廊下、少し見ておきますね」と伝える。本人が「自分で行っている」と感じられる余地を残すことが、拒否を強めない入口になります。

出典元の要点(要約)

国立長寿医療研究センター

認知症ケア法ー認知症の理解

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

認知症の人とのかかわり方のポイント ①名前を呼んでから話しかける ②短文でわかりやすい表現を使う ③一つひとつの動作に対して声かけをする ④声かけの内容は、他人に聞かれたくない内容ではないか留意する ⑤利用者の言葉や行動だけに反応しない(本当は何を望んでいるのか等、本音・真意を酌み取る) ⑥利用者のシグナルを見逃さない。

手を出さない距離と、すぐ支えられる距離を分ける

本人の顔を守ることは、放置することではありません。手を出さない時間を作る場合でも、職員は転倒時にすぐ対応できる距離、見失わない位置、声をかけられる場所を選びます。トイレ内に入らない場合も、扉の外で待つ、終わったら声だけかけてもらうなど、境界を決めます。

本人には意思があり、支援の仕方や環境によって意思を表明しやすくなることがあります。だからこそ、「全部一人でどうぞ」か「全部介助します」かの二択にしないことが大切です。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf

意思決定支援者は、 認知症の人が、 一見すると意思決定が困難と思われる場合であっても、意思決定しながら尊厳をもって暮らしていくことの重要性について認識することが必要である。認知症の人への支援は、本人の意思を尊重するために行う。したがって、本人の意思を尊重するために、本人の認知能力に応じて理解しやすいように説明しなければならない。認知症の症状にかかわらず、本人には意思があり、意思決定能力を有するということを前提にして、意思決定支援をする。

転倒リスクは職員個人の説得ではなく事前共有で支える

現場でつらいのは、本人の尊厳を守りたい気持ちと、転倒事故を起こしたくない責任がぶつかることです。ここを職員一人の説得力に任せると、声かけは強くなりやすくなります。

転倒リスクがある方では、予防策をとっても転倒が起こりうることがあります。だから、本人や家族への説明、フロア内の見守り位置、拒否時の応援要請、記録の残し方を事前にそろえる必要があります。本人の顔を守るケアは、職員を孤立させない準備と一緒に考えます。

出典元の要点(要約)

日本老年医学会・全国老人保健施設協会

介護施設内での転倒に関するステートメント

https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/important_info/pdf/20210611_01_01.pdf

転倒リスクが高い入所者については、転倒予防策を実施していても、一定の確率で転倒が発生する。施設の管理者・職員や入所者とその家族など直接の関係者に限らず、一般の方々にもこのことを理解していただくことが重要である。入所者の生活機能を維持・改善するためのケアやリハビリテーションは、それに伴って活動性が高まることで転倒リスクを高める可能性もある。しかし、多くの場合は生活機能維持・改善の点で有益であり、原則として継続すべきである。

まず変えるのは説得の強さではなく、本人が「できない人」に見えない入口です。距離、声量、待機位置を先に決めると、職員も一人で抱え込みにくくなります。


トイレ介助を拒否される場面でよくある事例

若い女性介護職員と高齢男性が廊下で笑顔で会話している。日常的なコミュニケーション、信頼関係、認知症ケアの導入向け。

「ひとりで行く」と言われる場面は、トイレそのものより、その前後の空気でこじれることがあります。ここでは、人前での見られ方と職員の焦りが重なりやすい事例を整理します。

夕食後のフロアでは、服薬、下膳、口腔ケア、臥床介助が重なります。職員側に余裕がない時間ほど、一言目が業務的になり、本人には強い介入として届きやすくなります。

家族面会後に食堂で「付き添います」と言ってしまう

娘さんに「元気そうでよかった」と言われた直後の本人は、少し誇らしそうにしています。その直後、食堂で「付き添いますね」と言われると、本人には「さっきまで元気な父親だった自分」が崩されたように感じられることがあります。

この場面では、本人の歩行状態だけで判断しないことが大切です。家族との関係、面会後の気分、周囲に誰がいるかも、意思表明のしやすさに影響します。声をかけるなら、食堂の真ん中ではなく、動き始めた後に横から小さく入る方が、本人の顔を守りやすくなります。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf

意思決定支援者は、本人が自らの意思を表明しやすいよう、本人が安心できるような姿勢で接することが必要である。意思決定支援者は、本人のこれまでの生活史について家族関係も含めて理解することが必要である。本人は、大勢の人に囲まれると圧倒されてしまい、安心して意思決定ができなくなる場合があることに注意すべきである。専門職種や行政職員等は、意思決定支援が適切になされたかどうかを確認・検証するために、支援の時に用いた情報を含め、プロセスを記録し、振り返ることが必要である。

しっかり者だった人ほど「世話される姿」を見せたがらない

昔は人をまとめる立場だった人、家族の前では背筋を伸ばす人、身なりを気にする人ほど、「介助される姿」を受け入れにくいことがあります。これは、歩けるかどうかだけではなく、自分をどう保ちたいかの問題です。

介護職が「できないでしょう」と決めつけたつもりはなくても、本人にはそう聞こえることがあります。相手の価値観や考え方を受け止め、自尊心を尊重し、距離や目線を調整することが、付き添いを始める前の土台になります。

出典元の要点(要約)

国立長寿医療研究センター

認知症ケア法ー認知症の理解

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

認知症による心理的特徴 ①能力低下や周囲の変化に対する不安や戸惑い ②孤立感や寂しさ ③「ボケ」扱いや子ども扱いされることによる自尊心の傷つき ④介護者への気兼ねや迷惑をかけることの恐れ ⑤自分の気持ちをうまく伝えられないもどかしさ。心理的特徴に応じたかかわり方のポイント ①価値観や考え方習慣を受容する ②自尊心を尊重する ③距離や目線の高さに留意する ④相手の表情を確認しながら話しかける。

「危ないですから」と言うほど表情が硬くなる

職員は転倒が怖くて「危ないです」と言います。けれど本人には、その言葉が「あなたは一人では無理です」と聞こえることがあります。すると、本人は歩行能力を示すために、さらに強く「ひとりで行く」と言うことがあります。

ここで必要なのは、危険を隠すことではありません。言い方を変えます。「危ない」ではなく「足元だけ見ておきます」「ここは少し暗いので明かりをつけます」と、本人の能力を否定しない言葉にします。本人が何をしたいのかを先に受け止めると、職員の安全確認も入りやすくなります。

最初の声かけで迷う場合は
出典元の要点(要約)

国立長寿医療研究センター

認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

認知症が重度になるほど,表情や身振りを使い,非言語メッセージを使うことが効果的である.そして,医療者・介護者が伝えたいことを優先してコミュニケーションをとるよりも,本人の反応を一呼吸待ち,本人が何を行いたいか,本人の意思を読み取ることが大切である.「なぜ一人で歩いたのですか?危険ですよ」 行動を否定しない.「何をしたいと思われたのですか?」

職員が少ない時間帯に安全と尊厳の判断を迫られる

夕食後や夜勤帯は、本人の自尊心を守る理想的な関わりをしたくても、時間も人手も足りません。ここで職員が一人で判断すると、「押すしかない」「引くしかない」の極端な対応になりやすくなります。

転倒リスクをゼロにすることだけを職員個人に背負わせると、本人への声かけは強くなります。施設として、転倒が起こりうること、原則として身体拘束をしない理由、転倒発生時の対応を本人・家族と共有しておくと、その場の職員が本人の尊厳を守る余地を持ちやすくなります。

感情的になる前に整理したい時は
負担が一人に偏る場合は
  • 本人の尊厳を守りたいのに、少ない人数で判断を抱え込み続ける職場では、働き方そのものを見直す視点も必要です。介護職として別の職場の選択肢を確認したい場合は、介護職の求人、募集は【レバウェル介護】から情報収集できます。
出典元の要点(要約)

日本老年医学会・全国老人保健施設協会

介護施設内での転倒に関するステートメント

https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/important_info/pdf/20210611_01_01.pdf

転倒リスクが高い入所者については、転倒予防策を実施していても、一定の確率で転倒が発生する。施設の管理者・職員や入所者とその家族など直接の関係者に限らず、一般の方々にもこのことを理解していただくことが重要である。入所者の生活機能を維持・改善するためのケアやリハビリテーションは、それに伴って活動性が高まることで転倒リスクを高める可能性もある。しかし、多くの場合は生活機能維持・改善の点で有益であり、原則として継続すべきである。

拒否が強くなる場面では、本人の歩行能力だけでなく、誰の前で、どんな直後に、どんな声量で言われたかを残すと次の入口が見えやすくなります。


なぜ「ひとりで行く」とトイレ介助を拒否するのか

若い女性介護職員が人差し指を立ててこちらを見ている。介護現場のポイントや提案を示すイメージ。

「ひとりで行く」は、ただの強がりとは限りません。ここでは、本人の自尊心、意思表示、環境、職員側の責任感がどう重なるのかを整理します。

拒否の理由を一つに決めつけると、対応も一つになります。実際には、本人の気持ちと職員の焦りが同時に動いています。

介助される姿が自尊心に触れるから

トイレ介助は、身体介助の中でも私的な場面です。そこに「付き添い」「介助」という言葉が乗ると、本人は自分の弱さを人前に出されたように感じることがあります。

認知症や加齢による変化があっても、本人の自尊心は残ります。子ども扱いや否定される感覚は、本人の反発を強めることがあります。だから、付き添いを受け入れてもらうには、本人の能力を奪う言葉ではなく、本人の行動を支える言葉に変える必要があります。

出典元の要点(要約)

国立長寿医療研究センター

認知症ケア法ー認知症の理解

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

認知症による心理的特徴 ①能力低下や周囲の変化に対する不安や戸惑い ②孤立感や寂しさ ③「ボケ」扱いや子ども扱いされることによる自尊心の傷つき ④介護者への気兼ねや迷惑をかけることの恐れ ⑤自分の気持ちをうまく伝えられないもどかしさ。心理的特徴に応じたかかわり方のポイント ①価値観や考え方習慣を受容する ②自尊心を尊重する ③距離や目線の高さに留意する ④相手の表情を確認しながら話しかける。

本人の意思より職員の都合が先に見えるから

職員の頭の中には、転倒、服薬、下膳、次のコール、記録があります。その焦りが表情や動きに出ると、本人には「早く済ませたいから来た」と見えることがあります。

身体拘束を必要としないケアを考える時も、職員の言葉かけが不適当だったり、本人の意思にそぐわないと感じていたり、不安や身の危険を感じていたりする可能性を見ます。拒否を本人の性格だけにせず、職員の入り方も含めて見直すことが必要です。

拒否の背景を整理したい時は
出典元の要点(要約)

厚生労働省

介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001248430.pdf

本人についてもう一度心身の状態を正確にアセスメントし、身体拘束を必要としないケアを作り出す方向を追求していくことが重要である。認知症の行動・心理症状の原因は、本人の過去の生活歴等にも関係するが、次のようなことが想定される。(1)職員の行為や言葉かけが不適当か、またはその意味が理解できない場合 (2)自分の意志にそぐわないと感じている場合 (3)不安や孤独を感じている場合 (4)身体的な不快や苦痛を感じている場合 (5)身の危険を感じている場合 (6)何らかの意思表示をしようとしている場合。

大勢の前では安心して意思を出しにくいから

食堂や廊下では、本人の返事が周囲に聞こえます。本人は「本当は不安」「手伝ってほしい」と思っていても、人前では「ひとりで行く」と言うことがあります。

意思決定支援では、本人が安心して意思を表明できる環境が重要です。大勢に囲まれると安心して意思決定ができなくなる場合があることも示されています。だから、トイレの声かけは、内容だけでなく場所と人数を整える必要があります。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf

意思決定支援者は、本人が自らの意思を表明しやすいよう、本人が安心できるような姿勢で接することが必要である。意思決定支援者は、本人のこれまでの生活史について家族関係も含めて理解することが必要である。本人は、大勢の人に囲まれると圧倒されてしまい、安心して意思決定ができなくなる場合があることに注意すべきである。専門職種や行政職員等は、意思決定支援が適切になされたかどうかを確認・検証するために、支援の時に用いた情報を含め、プロセスを記録し、振り返ることが必要である。

職員が転倒責任を一人で抱えるほど声かけが強くなるから

職員は、転倒させたくないから近づきます。けれど「ここで転んだら自分の責任だ」と一人で抱え込むほど、声は強くなり、立ち位置は近くなり、本人には圧として伝わります。

リスクマネジメントは、事故防止だけでなく、尊厳を支えるケアのためにも必要な取組です。本人がその人らしい生活を送ることと、安全を守ることを対立させないために、拒否時の対応を記録し、応援要請や家族説明につなげます。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf

介護の基本理念は、尊厳の保持を基本に据えた自立支援と自己決定の尊重です。高齢者の尊厳を支えるケアとは、高齢者がたとえ介護を必要とする状態になっても、自分の意思でその人らしい生活を送ることを可能とすることです。高齢者の尊厳を支えるケアを行うためのリスクマネジメントは、事故防止に直結する取組だけではなく、利用者が尊厳を保持し、その人らしい生活を送るために必要不可欠な取組なのです。

拒否の理由は本人側だけにありません。自尊心、声かけ、周囲の視線、職員の責任不安を分けると、押す以外の選択肢を作りやすくなります。


トイレ介助の拒否で迷いやすい質問

ここでは、「ひとりで行く」と言われた時に現場で迷いやすい小さな判断を整理します。すべてを一人で判断するのではなく、本人の顔を守りながら安全確認を残すための考え方です。

Q
「ひとりで行く」と言われたら、本当に一人で行かせてもよいですか?
A

完全に一人にするか、全面介助するかの二択にしない方が現実的です。本人の意思を尊重しつつ、手を出さない距離、すぐ支えられる位置、声をかけるタイミングを決めます。転倒リスクが高い場合は、事前に本人・家族・チームで共有しておくことも必要です。

出典元の要点(要約)

日本老年医学会・全国老人保健施設協会

介護施設内での転倒に関するステートメント

https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/important_info/pdf/20210611_01_01.pdf

転倒リスクが高い入所者については、転倒予防策を実施していても、一定の確率で転倒が発生する。施設の管理者・職員や入所者とその家族など直接の関係者に限らず、一般の方々にもこのことを理解していただくことが重要である。入所者の生活機能を維持・改善するためのケアやリハビリテーションは、それに伴って活動性が高まることで転倒リスクを高める可能性もある。しかし、多くの場合は生活機能維持・改善の点で有益であり、原則として継続すべきである。

Q
人前で拒否された時は、どう言い直せばよいですか?
A

その場で「危ないです」「付き添います」を重ねるより、声量を落として、本人の能力を否定しない言い方へ変えます。「廊下が暗いので電気だけつけます」「終わったら外で待っていますね」など、本人が自分で行っている形を残す言葉が使いやすいです。

出典元の要点(要約)

国立長寿医療研究センター

認知症ケア法ー認知症の理解

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

認知症の人とのかかわり方のポイント ①名前を呼んでから話しかける ②短文でわかりやすい表現を使う ③一つひとつの動作に対して声かけをする ④声かけの内容は、他人に聞かれたくない内容ではないか留意する ⑤利用者の言葉や行動だけに反応しない(本当は何を望んでいるのか等、本音・真意を酌み取る) ⑥利用者のシグナルを見逃さない。

Q
家族面会後のトイレ誘導で気をつけることは何ですか?
A

家族の前で元気な姿を見せた直後は、本人が「まだ大丈夫な人」として見られたい気持ちを持っている場合があります。本人の生活史や家族関係を踏まえ、食堂の真ん中で排泄や付き添いの話をしない、少し場所をずらして声をかけるなどの配慮が必要です。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf

意思決定支援者は、本人が自らの意思を表明しやすいよう、本人が安心できるような姿勢で接することが必要である。意思決定支援者は、本人のこれまでの生活史について家族関係も含めて理解することが必要である。本人は、大勢の人に囲まれると圧倒されてしまい、安心して意思決定ができなくなる場合があることに注意すべきである。専門職種や行政職員等は、意思決定支援が適切になされたかどうかを確認・検証するために、支援の時に用いた情報を含め、プロセスを記録し、振り返ることが必要である。

Q
「危ないから」と説明しても怒る時はどうすればよいですか?
A

危険の説明自体をやめるのではなく、最初の言い方を変えます。「なぜ一人で歩いたのですか?危険ですよ」と否定的に聞こえる言い方ではなく、「何をしたいと思われたのですか」と本人の目的を確認する入口にします。

出典元の要点(要約)

国立長寿医療研究センター

認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

認知症が重度になるほど,表情や身振りを使い,非言語メッセージを使うことが効果的である.そして,医療者・介護者が伝えたいことを優先してコミュニケーションをとるよりも,本人の反応を一呼吸待ち,本人が何を行いたいか,本人の意思を読み取ることが大切である.「なぜ一人で歩いたのですか?危険ですよ」 行動を否定しない.「何をしたいと思われたのですか?」

Q
拒否された場面は、記録に何を残せばよいですか?
A

「拒否あり」だけで終わらせず、誰の前で、どの声かけで、どの距離なら歩けたか、どこで待てたかを残します。意思決定支援では、支援時に用いた情報やプロセスを記録し、振り返ることが必要とされています。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf

意思決定支援者は、本人が自らの意思を表明しやすいよう、本人が安心できるような姿勢で接することが必要である。意思決定支援者は、本人のこれまでの生活史について家族関係も含めて理解することが必要である。本人は、大勢の人に囲まれると圧倒されてしまい、安心して意思決定ができなくなる場合があることに注意すべきである。専門職種や行政職員等は、意思決定支援が適切になされたかどうかを確認・検証するために、支援の時に用いた情報を含め、プロセスを記録し、振り返ることが必要である。

FAQで大切なのは、拒否を消す答えを探すことではなく、次回の声かけ、距離、待機位置、記録を具体的に残すことです。


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まとめ:「ひとりで行く」の奥にある顔をつぶさない付き添い

「ひとりで行く」と言われると、職員はすぐに転倒リスクを考えます。それは当然です。ただ、その一言の奥には、本人が人前で介助される姿を見せたくない、家族にまだ大丈夫だと思われたい、周囲に世話される人として見られたくないという気持ちが隠れていることがあります。

最初の一言を「介助します」から「足元だけ見ておきます」「廊下が暗いので明かりをつけます」に変える。正面に立たず、斜め後ろで待つ。中には入らず、外で声だけ待つ。こうした小さな調整で、本人には「自分で行っている」感覚を残しやすくなります。

一方で、尊厳を守ることは、転倒リスクを職員一人で背負うことではありません。拒否が出た場所、声かけ、距離、待機位置、応援要請の基準を記録し、本人・家族・チームで共有できる形にしておく必要があります。

まず次の勤務では、「付き添います」と言う前に、周囲に誰がいるか、本人が誰にどう見られたい場面かを一度だけ見てください。そこから言葉を小さく変えることが、自尊心を傷つけない付き添いの入口になります。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


更新履歴

  • 2025年11月23日:新規投稿
  • 2026年2月24日:最新情報に基づき加筆・修正
  • 2026年4月11日:内容を全面的にリライト
  • 2026年6月17日:内容を全面的にリライト

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