「自己決定」を引き出す!トイレ誘導「質問形」声かけのコツ

認知症の方へのトイレ誘導、毎日お疲れ様です。 「〇〇さん、トイレに行きましょう」と 丁寧に声をかけているのに、「嫌だ!」と 強い拒否にあうと困ってしまいますよね。

良かれと思ってかけた言葉が、 なぜかご本人を怒らせてしまう。 「丁寧さ」と「相手の受け取り方」のギャップに 悩んでしまうこともあるかもしれません。

この記事では、その「声かけ」に焦点を当てます。 「指示形」と「質問形」がご本人にどう伝わるのか、 厚生労働省専門機関のエビデンス(根拠)に 基づいて解説します。

この記事を読むと分かること

  • 「〜しましょう」(指示形)が、なぜ拒否につながりやすいのか、その理由が分かります。
  • 「〜しませんか?」(質問・依頼形)が、なぜご本人の「自己決定」を支えるのか、その根拠を理解できます。
  • エビデンスに基づいた「尊厳に配慮した声掛け」の具体的な考え方が学べます。

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 「〜しましょう」と丁寧に誘っても、拒否されることが多くて困っている。
  • ご本人の「自己決定」を尊重したいが、具体的な言葉選びに迷う。
  • 良かれと思った声かけが、相手を怒らせてしまった経験に心当たりがある。
  • 「指示」と「依頼」の違いを、根拠(エビデンス)を持って知りたい。

スポンサーリンク

結論:「質問・依頼形」こそが「意志の尊重」を具現化する

女性職員と男性高齢者

トイレ誘導の声かけの「コツ」は、 フレーズの巧みさではなく、 ご本人の「自己決定」の機会を奪わない 言葉を選ぶことにあります。

厚生労働省や専門機関の資料(エビデンス)は、 「指示」ではなく「質問・依頼」の重要性を示しています。

「本人の意思の尊重」が介護の基本原則

介護の基本は、厚生労働省のガイドラインが示す 「本人の意思の尊重」、すなわち 「自己決定の尊重」です。

食事や入浴、排せつといった日常生活の習慣も、 「本人の好み」や「意思」として 支援の対象であると明確に位置づけられています。 トイレ誘導も例外ではありません。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf

本ガイドラインは、基本原則の一つとして「本人の意思の尊重」を掲げ、「本人への支援は、本人の意思の尊重、つまり、自己決定の尊重に基づき行う」と明記している。そのため、自己決定に必要な情報は「認知症の人が有する認知能力に応じて、理解できるように説明しなければならない」とされ、説明方法の工夫が求められる。また支援は「本人の表明した意思・選好」や、表明が難しい場合には「推定意思・選好」を確認し、それを尊重することから始まると整理されており、日常生活の場面でも本人の選好を丁寧に汲み取る姿勢が重視されている。

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf

ガイドラインでは、日常生活における意思決定支援として「例えば、食事・入浴・被服の好み、外出、排せつ、整容などの基本的生活習慣」を具体例として示す。これらは本人が過ごしてきた生活の延長として尊重されるべき領域であり、介護側の都合だけでなく、本人の意思や好みに基づく支援が求められている。

「〜しましょう」は「指示・命令的な言葉」

私たちが丁寧語として使いがちな 「(トイレに)行きましょう」という言葉。 しかし、認知症介護研究・研修センターの資料では、 清拭の場面を例に挙げ、 「『体を拭きましょう』も丁寧な言葉ではありますが、 指示・命令的な言葉です。」 と指摘されています。

相手に選択の余地を与えない言葉は、 厚生労働省の研修テキスト(株式会社穴吹カレッジサービス)が示す 「自尊心を傷つけない」という 接し方の原則に反する可能性があります。

出典元の要点(要約)

認知症介護研究・研修仙台センター

初めての認知症介護解説集 Ⅱ部 解説 入浴場面における認知症ケアの考え方(清拭)

https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35.pdf

同箇所では、清拭時の声かけについて「『体を拭きましょう』も丁寧な言葉ではありますが、指示・命令的な言葉です。」としたうえで、「原則は「体を拭きませんか」と質問・依頼形を用いることが、『意志の尊重』を具現化した声かけです。」と記載している。認知症の人の意志を尊重するために、命令ではなく選択を促す言い方を用いることが具体的なコミュニケーション技法として示されている。

株式会社穴吹カレッジサービス

介護キャリアアップ 認知症ケア法-認知症の理解(認知症の人との接し方)

https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf

資料は「話を合わせる/自尊心を傷つけない/わかる言葉を使う/感情に働きかける/ゆったり、楽しく/視野に入って話す/簡潔に伝える」といったキーワードを並べ、認知症の人との接し方の要点を整理している。トイレ・入浴・食事などの場面で、こうしたポイントを意識した声かけを行うことが、不安や拒否を和らげ、安全で協力的な関係づくりにつながることが前提とされている。

「質問・依頼形」が「意志の尊重」を具現化する

この記事の核心です。 認知症介護研究・研修センターの資料は、 「指示・命令形」に代わる言葉として、 「原則は『体を拭きませんか』と質問・依頼形を用いることが、 『意志の尊重』を具現化した声かけです」 と明確に示しています。

「〜しませんか?」と尋ねることは、 ご本人に「はい/いいえ」や「今/あとで」を選ぶ 「複数の選択肢」(厚生労働省ガイドラインより)を 提供することにつながります。

これが、ご本人の「自己決定」を引き出す、 エビデンスに基づいた専門的な技術なのです。

出典元の要点(要約)

認知症介護研究・研修仙台センター

初めての認知症介護解説集 Ⅱ部 解説 入浴場面における認知症ケアの考え方(清拭)

https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35.pdf

同箇所では、清拭時の声かけについて「『体を拭きましょう』も丁寧な言葉ではありますが、指示・命令的な言葉です。」としたうえで、「原則は「体を拭きませんか」と質問・依頼形を用いることが、『意志の尊重』を具現化した声かけです。」と記載している。認知症の人の意志を尊重するために、命令ではなく選択を促す言い方を用いることが具体的なコミュニケーション技法として示されている。

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf

本資料では、意思決定支援を一連のプロセスとしてとらえ、まず必要な情報が本人に理解しやすい形で提供され、本人が自発的に意思を形成できるよう支えることを求めている。その上で、「本人が意思を表明することの支援」により、安心して本音を言える環境づくりを行い、最終的に「意思を実現することの支援」として、選択が実際の生活の中で反映されるように調整する流れを示している。説明はゆっくりと、開かれた質問を用い、本人の理解状況を確認しながら進めることが強調されている。

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf

本ガイドラインは、意思形成支援の具体的なポイントとして、まず「本人が意思を形成するのに必要な情報が説明されているか」を確認することを求めている。その際、情報は「分かりやすい言葉や文字にして、ゆっくりと説明されているか」が重要とされ、認知機能に配慮した説明方法が必要とされる。さらに選択肢を示す場合には「可能な限り複数の選択肢を示し」、比較のポイントをわかりやすくし、「図や表を使って示すことが有効な場合がある」と記載されている。これらは、食事や入浴など日常生活の選択を相談する際にも活用できる具体的な説明の工夫として位置づけられる。

次のセクションでは、この「指示形」と「質問形」が 現場でどのような違いを生むのか、 具体的な事例で見ていきましょう。


よくある事例:「指示形」の失敗と「質問形」の成功

高齢者男性

「指示形」と「質問形」の違いが、 現場でどのような結果の違いを生むのか、 具体的な場面を通して見ていきましょう。

ここに掲載する事例は、特定のケースを記録したものではありません。 あくまで、厚生労働省認知症介護研究・研修センターなどの 資料(エビデンス)が示す「指示・命令的な言葉」や 「質問・依頼形」「意志の尊重」といった 基本原則を理解しやすくするための「例え話」として参考にしてください。

事例1:失敗する「指示形(〜ましょう)」の声かけ

(例) 介護職員:「Aさん、時間なのでトイレに行きましょう。」 (Aさんの反応):「指図しないで!まだ行きたくない!」(強い拒否)

  • 分析 介護職員は「〜ましょう」という丁寧な言葉を使ったつもりでも、 認知症介護研究・研修センターの資料では、 これは「指示・命令的な言葉」であると指摘されています。ご本人に選択の余地を与えないこの言葉がけは、 厚生労働省のガイドラインが示す 「自己決定の尊重」の原則に反し、 ご本人の自尊心を 傷つけた結果、拒否につながった可能性があります。
出典元の要点(要約)

認知症介護研究・研修仙台センター

初めての認知症介護解説集 Ⅱ部 解説 入浴場面における認知症ケアの考え方(清拭)

https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35.pdf

同箇所では、清拭時の声かけについて「『体を拭きましょう』も丁寧な言葉ではありますが、指示・命令的な言葉です。」としたうえで、「原則は「体を拭きませんか」と質問・依頼形を用いることが、『意志の尊重』を具現化した声かけです。」と記載している。認知症の人の意志を尊重するために、命令ではなく選択を促す言い方を用いることが具体的なコミュニケーション技法として示されている。

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf

本ガイドラインは、基本原則の一つとして「本人の意思の尊重」を掲げ、「本人への支援は、本人の意思の尊重、つまり、自己決定の尊重に基づき行う」と明記している。そのため、自己決定に必要な情報は「認知症の人が有する認知能力に応じて、理解できるように説明しなければならない」とされ、説明方法の工夫が求められる。また支援は「本人の表明した意思・選好」や、表明が難しい場合には「推定意思・選好」を確認し、それを尊重することから始まると整理されており、日常生活の場面でも本人の選好を丁寧に汲み取る姿勢が重視されている。

事例2:成功する「質問形(〜ませんか?)」の声かけ

(例) 介護職員:「Aさん、そろそろお手洗いに行っておきませんか?」 (Aさんの反応):「ああ、そうしようかな。」(受け入れ)

  • 分析 「〜ませんか?」という「質問・依頼形」で尋ねたことで、 Aさん自身が「行く」という「自己決定」を 行う機会が保障されました。これこそが、認知症介護研究・研修センターの資料が示す 「『意志の尊重』を具現化した声かけ」です。 厚生労働省のガイドラインが示す 「複数の選択肢」(この場合は「行く」か「行かない」か)を ご本人に提示する、専門的な技術と言えます。
出典元の要点(要約)

認知症介護研究・研修仙台センター

初めての認知症介護解説集 Ⅱ部 解説 入浴場面における認知症ケアの考え方(清拭)

https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35.pdf

同箇所では、清拭時の声かけについて「『体を拭きましょう』も丁寧な言葉ではありますが、指示・命令的な言葉です。」としたうえで、「原則は「体を拭きませんか」と質問・依頼形を用いることが、『意志の尊重』を具現化した声かけです。」と記載している。認知症の人の意志を尊重するために、命令ではなく選択を促す言い方を用いることが具体的なコミュニケーション技法として示されている。

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf

本ガイドラインは、意思形成支援の具体的なポイントとして、まず「本人が意思を形成するのに必要な情報が説明されているか」を確認することを求めている。その際、情報は「分かりやすい言葉や文字にして、ゆっくりと説明されているか」が重要とされ、認知機能に配慮した説明方法が必要とされる。さらに選択肢を示す場合には「可能な限り複数の選択肢を示し」、比較のポイントをわかりやすくし、「図や表を使って示すことが有効な場合がある」と記載されている。これらは、食事や入浴など日常生活の選択を相談する際にも活用できる具体的な説明の工夫として位置づけられる。

このように、語尾を少し変えるだけで、 ご本人の受け取り方は大きく変わります。 「指示」ではなく「質問」で関わることが、 「自己決定」を引き出す第一歩です。


理由:なぜ「質問形」は拒否を減らすのか?

女性の介護職員の画像

声かけの語尾を「〜しましょう」から「〜しませんか?」に 変えるだけで、なぜ拒否が減るのでしょうか。

その理由は、厚生労働省や専門機関のエビデンスが示す、 認知症の人の「意思」や「尊厳」に関わる 3つの重要なポイントにあります。

理由1:「自己決定」の機会を提供するため

「質問形」は、ご本人に「はい/いいえ」や「今/あとで」といった 選択肢を提示します。

厚生労働省のガイドラインが 最も重要な原則とする「自己決定の尊重」とは、 この「ご本人が選べるプロセス」そのものを指します。

「指示形(〜ましょう)」がご本人の決定機会を奪うのに対し、 「質問形(〜しませんか?)」はご本人の意思を引き出し、 尊重する関わり方です。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf

本ガイドラインは、基本原則の一つとして「本人の意思の尊重」を掲げ、「本人への支援は、本人の意思の尊重、つまり、自己決定の尊重に基づき行う」と明記している。そのため、自己決定に必要な情報は「認知症の人が有する認知能力に応じて、理解できるように説明しなければならない」とされ、説明方法の工夫が求められる。また支援は「本人の表明した意思・選好」や、表明が難しい場合には「推定意思・選好」を確認し、それを尊重することから始まると整理されており、日常生活の場面でも本人の選好を丁寧に汲み取る姿勢が重視されている。

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf

本ガイドラインは、意思形成支援の具体的なポイントとして、まず「本人が意思を形成するのに必要な情報が説明されているか」を確認することを求めている。その際、情報は「分かりやすい言葉や文字にして、ゆっくりと説明されているか」が重要とされ、認知機能に配慮した説明方法が必要とされる。さらに選択肢を示す場合には「可能な限り複数の選択肢を示し」、比較のポイントをわかりやすくし、「図や表を使って示すことが有効な場合がある」と記載されている。これらは、食事や入浴など日常生活の選択を相談する際にも活用できる具体的な説明の工夫として位置づけられる。

理由2:「尊厳」と「プライド」に配慮するため

人から「指示」されることは、 ご本人の「自尊心を傷つけない」という原則に反する可能性があります。

排泄は「成長の過程で人は、自分で行うよう身に付けてきた」 非常にプライベートな行為です。 認知症介護研究・研修仙台センターの資料でも、 「尊厳に配慮した声掛けを行うこと」の重要性が示されています。

「質問形」という依頼の形をとることは、 相手を「」として尊重し、 「恥ずかしさや苦痛」に 配慮した声かけの実践です。

出典元の要点(要約)

認知症介護研究・研修仙台センター

初めての認知症介護解説集

https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35.pdf

排泄場面の説明では、「声掛けを行うにあたり大事な点は、尊厳に配慮した声掛けを行うこと、残存能力に応じた声掛け を行うこと、といえます。」と明記している。どこまでできるか、理解力がどの程度あるかを判断し、できない部分だけを補う声掛けを行うことが、トイレ誘導やパッド交換の際の不快感や羞恥心を軽減し、本人の尊厳を守るケアにつながると位置付けている。

株式会社穴吹カレッジサービス

介護キャリアアップ 認知症ケア法-認知症の理解(認知症の人との接し方)

https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf

資料は「話を合わせる/自尊心を傷つけない/わかる言葉を使う/感情に働きかける/ゆったり、楽しく/視野に入って話す/簡潔に伝える」といったキーワードを並べ、認知症の人との接し方の要点を整理している。トイレ・入浴・食事などの場面で、こうしたポイントを意識した声かけを行うことが、不安や拒否を和らげ、安全で協力的な関係づくりにつながることが前提とされている。

東京都福祉保健局

認知症ケアに関する知識(第2章 日常生活援助 排泄援助)

https://www.fukushi1.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/nurse/nursetext/pdf/nurse_2.pdf

テキストは、排泄援助の場面で認知症の人が感じる恥ずかしさや苦痛を最小限に抑える必要があるとし、「恥 ずかしさや苦痛ができるだけ少なくすむようにしなければならない。」と記す。表情を観察しつつ、できない部分をさりげなく補い、傷つける言葉を避ける具体的な配慮が求められている。

理由3:「脅威」や「恐怖」を与えないため

「指示」は、時に「強制」のニュアンスを含みます。 東京都福祉保健局の資料では、 「“ゆっくり・ ゆったり・ 丁寧に”」関わり、 「援助者による脅威、 ケアに伴う恐怖を起こさない」ことが 重要とされています。

また、同資料では、 「反応を待たずにケアを進めると、 不安や恐怖、 混乱を招く」 とも指摘されています。 「質問形」は、ご本人の反応を「待つ」ことを前提とした コミュニケーションであり、 この「脅威」や「恐怖」を和らげる効果があります。

出典元の要点(要約)

東京都福祉保健局

認知症ケアに関する知識(第2章 ケアの基本姿勢)

https://www.fukushi1.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/nurse/nursetext/pdf/nurse_2.pdf

本資料はケアの基本姿勢として、「認知症の人のペースを守り、全てのケアを“ゆっくり・ゆったり・丁寧に”行うことで、援助者による脅威、ケアに伴う恐怖を起こさないで済む」と明記している。入浴・排泄・食事などあらゆる場面に共通する考え方として、一方的に急がせるのではなく、本人の理解と動きに合わせてゆっくり進めることが、結果的に拒否を減らし、スムーズなケアと職員の負担軽減にもつながるという構造が示されている。

東京都福祉保健局

認知症ケアに関する知識(第2章 排泄援助)

https://www.fukushi1.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/nurse/nursetext/pdf/nurse_2.pdf

同テキストの排泄援助の章では、オムツ交換などの場面で「次に何をされるか予測することができない認知症の人では、 声をかけると同時に布団をはぐな ど、 認知症の人の反応を待たずにケアを進めると、 不安や恐怖、 混乱を招く」としている。そのうえで、「分かりやすく声をかけ、 ゆっくり反応を待つことが大切である」と明示し、説明→反応を待つ→ゆっくり進める、という流れを徹底することが拒否やトラブルの予防策になることを示している。

このように、「質問形」の声かけは、 ご本人の「自己決定」「尊厳」「安心」を守るための、 エビデンス(根拠)に基づいた重要な介護技術なのです。


FAQ(よくある質問)

女性の介護職員の画像

現場でよくある「質問形」の声かけに関する疑問に、 厚生労働省東京都福祉保健局などの資料(エビデンス)を基にお答えします。

Q
「〜しませんか?」と聞いて「嫌だ」と拒否されたら、どうすればいいですか?
A

それは、ご本人が「行かない」という 明確な「意思表明」をしたということです。 厚生労働省のガイドラインは「本人の意思の尊重」を 基本原則としていますので、その決定を受け入れます。

焦らせるようなことは避けなければならない」とされているため、 無理に説得を続けず、一度その場を離れたり、 時間をかけてコミュニケーションを取り直したりすることが求められます。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf

本ガイドラインは、基本原則の一つとして「本人の意思の尊重」を掲げ、「本人への支援は、本人の意思の尊重、つまり、自己決定の尊重に基づき行う」と明記している。そのため、自己決定に必要な情報は「認知症の人が有する認知能力に応じて、理解できるように説明しなければならない」とされ、説明方法の工夫が求められる。また支援は「本人の表明した意思・選好」や、表明が難しい場合には「推定意思・選好」を確認し、それを尊重することから始まると整理されており、日常生活の場面でも本人の選好を丁寧に汲み取る姿勢が重視されている。

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf

「意思決定支援の人的・物的環境の整備」の説明では、「本人を大勢で囲むと、本人は圧倒されてしまい、安心して意思決定ができなくなる場合 があることに注意すべきである。」と述べられている。また、意思決定の時期を急がせないことや、本人が集中しやすい時間帯を選ぶことなど、環境や時間への配慮も求められている。意思決定支援は内容だけでなく、場のつくり方が重要であることが示されている。

Q
毎回「質問形」で聞くのは、時間がかかって非効率ではありませんか?
A

東京都福祉保健局の資料では、 「“ゆっくり・ ゆったり・ 丁寧に”」関わることが、 ご本人の「恐怖を起こさない」ことにつながり、 結果として「ケア時間の短縮」や 「看護師の負担軽減」にもつながるとされています。

「質問形」でご本人のペースに合わせることは、 一見遠回りに見えても、信頼関係を築き、 スムーズなケアを実現する近道になるかもしれません。

出典元の要点(要約)

東京都福祉保健局

認知症ケアに関する知識(第2章 ケアの基本姿勢)

https://www.fukushi1.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/nurse/nursetext/pdf/nurse_2.pdf

本資料はケアの基本姿勢として、「認知症の人のペースを守り、全てのケアを“ゆっくり・ゆったり・丁寧に”行うことで、援助者による脅威、ケアに伴う恐怖を起こさないで済む」と明記している。入浴・排泄・食事などあらゆる場面に共通する考え方として、一方的に急がせるのではなく、本人の理解と動きに合わせてゆっくり進めることが、結果的に拒否を減らし、スムーズなケアと職員の負担軽減にもつながるという構造が示されている。

Q
言葉が通じにくい方にも「質問形」は有効ですか?
A

有効な可能性があります。 東京都福祉保健局の資料によれば、 「反応がないように見える認知症の人に対しても、 聞こえていることを前提として声を掛けてほしい」とされています。

言葉の意味が完全には伝わらなくても、 「指示形」の強い口調と、「質問形」の穏やかな口調では、 ご本人に伝わる「非言語的コミュニケーション」 (表情や声のトーン)が異なります。

「質問形」の穏やかな関わりは、 ご本人の安心感につながる可能性があります。

出典元の要点(要約)

東京都福祉保健局

認知症ケアに関する知識(東京都認知症ナビ看護職向けテキスト 第2章)

https://www.fukushi1.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/nurse/nursetext/pdf/nurse_2.pdf

同テキストは「反応がないように見える認知症の人に対しても、 聞こえていることを 前提として声を掛けてほしい」と明記し、外見上の反応だけで判断しない姿勢を示している。聞こえているという前提で声をかけることが、表情や態度、身体の扱い方にも自然と反映され、それがケアの仕方や援助技術の質に直結するとされる。つまり、沈黙や無反応に見える場面でも、説明やあいさつ、ねぎらいの声を省略せず、「人として」関わることが重要というエビデンスである。

東京都福祉保健局

認知症ケアに関する知識(第2章 コミュニケーション)

https://www.fukushi1.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/nurse/nursetext/pdf/nurse_2.pdf

テキストでは、認知症が進行すると「非言語的コミュニケー ションの比重が高まる。」とし、「言葉だけでなく、 表情やジェスチャーなど織り交ぜて表 現したり」することが推奨されている。単語や短文の理解は可能でも長文での理解が困難になるため、介助者は言葉に加え、表情や動作、相手の口調や前後の行動をよく観察しながら双方向のコミュニケーションを行う必要があると説明されている。

このように、ご本人の「自己決定」を支えるために、 「質問形」の声かけはエビデンス(根拠)に基づいた 有効な技術の一つと言えます


まとめ

認知症のトイレ誘導で拒否を減らす「コツ」は、 ご本人の「自己決定」の機会を奪わない 言葉選びにあります。

「自己決定」を引き出す言葉

この記事で解説したように、 「〜しましょう」という丁寧語は、 時として「指示・命令的な言葉」と受け取られ、 拒否の原因になる可能性があります。

認知症介護研究・研修センターの資料では、 「原則は『体を拭きませんか』と質問・依頼形を用いることが、 『意志の尊重』を具現化した声かけです」 と明確に示されています。

出典元の要点(要約)

認知症介護研究・研修仙台センター

初めての認知症介護解説集 Ⅱ部 解説 入浴場面における認知症ケアの考え方(清拭)

https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35.pdf

同箇所では、清拭時の声かけについて「『体を拭きましょう』も丁寧な言葉ではありますが、指示・命令的な言葉です。」としたうえで、「原則は「体を拭きませんか」と質問・依頼形を用いることが、『意志の尊重』を具現化した声かけです。」と記載している。認知症の人の意志を尊重するために、命令ではなく選択を促す言い方を用いることが具体的なコミュニケーション技法として示されている。

「意志の尊重」という基本原則

「〜しませんか?」という「質問・依頼形」は、 厚生労働省のガイドラインが示す 「本人の意思の尊重」(「自己決定の尊重」)を 実践するための、エビデンス(根拠)に基づいた 専門的な技術です。

日々の声かけを「指示」から「質問」に見直すことが、 ご本人の「尊厳に配慮した声掛け」となり、 信頼関係を築く第一歩となります。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf

本ガイドラインは、基本原則の一つとして「本人の意思の尊重」を掲げ、「本人への支援は、本人の意思の尊重、つまり、自己決定の尊重に基づき行う」と明記している。そのため、自己決定に必要な情報は「認知症の人が有する認知能力に応じて、理解できるように説明しなければならない」とされ、説明方法の工夫が求められる。また支援は「本人の表明した意思・選択」や、表明が難しい場合には「推定意思・選択」を確認し、それを尊重することから始まると整理されており、日常生活の場面でも本人の選好を丁寧に汲み取る姿勢が重視されている。

認知症介護研究・研修仙台センター

初めての認知症介護解説集

https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35.pdf

排泄場面の説明では、「声掛けを行うにあたり大事な点は、尊厳に配慮した声掛けを行うこと、残存能力に応じた声掛け を行うこと、といえます。」と明記している。どこまでできるか、理解力がどの程度あるかを判断し、できない部分だけを補う声掛けを行うことが、トイレ誘導やパッド交換の際の不快感や羞恥心を軽減し、本人の尊厳を守るケアにつながると位置付けている。

この記事が、日々奮闘されている皆さんの悩みを少しでも軽くし、 明日からのケアのヒントとなれば幸いです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。



更新履歴

  • 2025年11月23日:新規投稿

タイトルとURLをコピーしました