アルツハイマー型認知症で「声掛けが伝わらない」のはなぜか。脳の仕組みと改善の視点

理想は丁寧な対話ですが、多忙な現場ではつい指示が雑になり、利用者の混乱や拒否を招きがちです。現場の限界を前に、葛藤を抱える介護士は少なくありません。

全てを変えるのは無理でも、脳の特性を知り、言葉を削ぎ落とすだけで、驚くほど意思疎通は円滑になります。今すぐ試せる現実的な声掛けのコツを解説します。

この記事を読むと分かること

  • 短文が伝わる脳の仕組み
  • 簡潔な指示の具体的技術
  • 失語がある方への関わり
  • 処理を待つ時間の重要性
  • 拒否を減らす誘い方のコツ

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 指示しても動いてくれない
  • 説明すると混乱される
  • 長文だと通じない気がする
  • 返事はあるが理解がない
  • 忙しくて丁寧に話せない

結論:言葉を削ぎ落とし「伝わる」を最優先にするコミュニケーションの核心

男性入居者と女性介護職員

現場では、「お風呂の時間なので、こちらに来て服を脱いでくださいね」といった丁寧な説明が、実は本人のパニックや拒否を招いていることが多々あります。本当は一人ひとりに向き合いたいのに、実際の人員配置では一人の訴えに長時間付き添うのは現実的に難しいというリアルな葛藤が常に存在します。しかし、脳の仕組みを理解して最低限のポイントさえ押さえれば、忙しい中でもスムーズな介助に繋がります。

脳の情報の受け皿に合わせた「短く簡潔な指示」の徹底

アルツハイマー型認知症の方には、長文での説明ではなく、短く簡潔な指示(ショート・インストラクション)が極めて有効です。脳内での情報処理能力が低下しているため、一度に多くの情報を伝えると、言葉の「音」は聞こえていても「意味」が理解できなくなります。

介助をスムーズにするための声掛けの基本は以下の通りです。

  • 一回の声掛けで伝える情報は一つだけにする。
  • 「お風呂」や「トイレ」など、動作に直結する言葉を選ぶ。
  • 本人が情報を処理するまで、数秒間の「待つ時間」を設ける。
出典元の要点(要約)

日本神経学会

認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

Alzheimer型認知症患者とのコミュニケーションにおいては、短く簡潔な指示(Short instructions)を与えることや、患者が介助者の顔を伺う「振り返り徴候 (turning-to-look sign)」などの非言語的なサインに注意を払うことが、BPSDへの対応として推奨されています。

「意味が理解できない」状態に寄り添う関わり

本人がこちらの言葉をオウム返ししていても、実は内容を理解できていない「超皮質性感覚失語(※1)」の状態にある可能性があります。復唱できるからといって「分かっているはず」と思い込まず、本人が振り返り徴候(※2)を見せるなど、こちらの意図を捉えようとしているかを確認しながら接することが重要です。

現場で意識すべき用語の解説です。

用語現場での捉え方
※1 超皮質性感覚失語音は聞き取れて復唱もできるが、その意味の理解が難しい状態。
※2 振り返り徴候答えに窮した際、助けを求めるように家族や介助者の顔を振り返るしぐさ。
出典元の要点(要約)

日本神経学会

認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

言語面では、物の名前が分からなくなる健忘失語が初期から目立ちます。病状が進行すると、相手の言ったことを復唱することはできるものの、その意味の理解が困難になる超皮質性感覚失語の像を呈することが臨床的な特徴です。

現場の忙しさの中で丁寧な説明が裏目に出ることは、脳の障害によるものです。1回1指示を徹底し、本人の理解のペースに合わせることで、拒否を減らし介助の効率を高めることができます。

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現場で繰り返される「言葉が届かない」3つの典型パターン

女性の介護職員の画像

現場では、「丁寧な説明が大切」と教わりますが、実際には説明を尽くすほど本人が困惑し、ついには無反応や拒否に繋がってしまうというジレンマが絶えません。他の方の介助を抱えながら、焦りと申し訳なさを感じるのは、多くの介護士が直面するリアルな悩みです。なぜ良かれと思った声掛けが空回りするのか、現場でよく見られる典型的なパターンからその背景を探ります。

1. 情報を詰め込みすぎて本人が「フリーズ」するケース

  • 状況
    • 「おトイレに行ってから、お着替えをして食堂へ行きましょう」と一連の流れを説明する
  • 困りごと
    • 本人がその場から動けなくなったり、全く別の方向へ行こうとしたりする
  • よくある誤解
    • 「話を聞いていない」「やる気がない」と捉えて、何度も同じ長文を繰り返してしまう
  • 押さえるべき視点
    • 一度に複数の情報を処理することが難しいため、1センテンス(短文)での指示が必要です

アルツハイマー型認知症の方とのコミュニケーションでは、短く簡潔な指示(Short instructions)を与えることが、BPSD(行動・心理症状)への適切な対応として推奨されています。一度に一つの動作だけを伝えることが、混乱を防ぐ鍵となります。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

Alzheimer型認知症患者とのコミュニケーションにおいては、短く簡潔な指示(Short instructions)を与えることや、患者が介助者の顔を伺う「振り返り徴候 (turning-to-look sign)」などの非言語的なサインに注意を払うことが、BPSDへの対応として推奨されています。

2. 返事(オウム返し)はあるのに動作に繋がらないケース

  • 状況
    • 「お風呂に行きましょう」と誘うと「はい」と答えるが、その場から一歩も動かない
  • 困りごと
    • 分かっているはずなのに動かないことに、介護側が「無視された」とストレスを感じる
  • よくある誤解
    • 「返事をしたのだから意味を理解しているはずだ」と思い込んでしまう
  • 押さえるべき視点
    • 復唱はできても意味が分からない超皮質性感覚失語(※1)の状態を考慮する必要があります

病状が進行すると、相手の言葉を復唱することは可能であっても、その内容を理解することが困難になる「超皮質性感覚失語」の像を呈することが、アルツハイマー型認知症の臨床的な特徴の一つです。

※1 超皮質性感覚失語(ちょうひしつせいかんかくしつご):言葉をそのまま繰り返すことはできるが、言葉の意味を理解する能力が損なわれている状態。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

言語面では、物の名前が分からなくなる健忘失語が初期から目立ちます。病状が進行すると、相手の言ったことを復唱することはできるものの、その意味の理解が困難になる超皮質性感覚失語の像を呈することが臨床的な特徴です。

3. 物の名前が分からず「あれ、これ」のやり取りで混乱するケース

  • 状況
    • 本人が「あれ取って」と言い、介護側が推測して渡すが「違う!」と怒り出してしまう
  • 困りごと
    • 本人の意図を汲み取れず、介助に時間がかかり業務が滞ってしまう
  • よくある誤解
    • 「わがままを言っている」「わざと困らせている」と感じてしまう
  • 押さえるべき視点
    • 初期から現れる健忘失語(※2)により、言葉を紡ぐこと自体が困難になっています

アルツハイマー型認知症では、初期から「健忘失語」が目立ち、物の名前がスムーズに出なくなります。このもどかしさが不安や苛立ちとなり、周囲とのコミュニケーションを難しくさせる要因となります。

※2 健忘失語(けんぼうしつご):物の名前を思い出すことができず、代名詞(あれ、それ)が増えたり、遠回しな言い方になったりする状態。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

典型的な症状は、緩徐に進行する出来事記憶の障害から始まり、次第に失語や遂行機能障害、人格変化などの社会的認知機能の低下へと進展します。言語面では、物の名前が分からなくなる健忘失語が初期から目立ちます。

これらの事例に共通するのは、介護者の熱意の問題ではなく、本人の脳の情報処理機能に合わせた調整が必要だということです。丁寧な説明よりも、削ぎ落とした短い言葉を選ぶことが、結果として本人の混乱を防ぎ、現場の負担を減らすことへと繋がります。

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なぜ「丁寧な説明」が届かないのか?脳で起きている情報の目詰まり

女性の介護職員の画像

現場では、「利用者様の尊厳を守るために、一つひとつ丁寧に説明しましょう」と指導されます。しかし、実際の人員配置では、入浴や食事の介助を時間内に終わらせる必要があり、ゆっくりと話を聞く余裕がないというリアルな葛藤が常にあります。一生懸命説明しているのに、本人がポカンとしたり、怒り出したりすると、「どうして伝わらないの?」と無力感を感じることも少なくありません。言葉が届かない背景には、介護者の技術不足ではなく、アルツハイマー型認知症特有の脳の仕組みが関係しています。

1. 情報を処理する力の低下と「情報の渋滞」

アルツハイマー型認知症は、緩やかに進行する出来事記憶(※1)の障害から始まり、次第に言葉の障害や判断力の低下(遂行機能障害)へと進展します。

  • 脳のキャパシティ:脳の情報の受け皿が小さくなっているため、丁寧な長文は「処理しきれない情報の山」となります。
  • 理解の遅れ:情報の処理に時間がかかるため、次から次へと話を続けると、脳内で情報の渋滞が起きてしまいます。

そのため、良かれと思った詳しい説明が、本人にとっては混乱を招く過剰な刺激となってしまうのです。

※1 出来事記憶(できごときおく):自分が体験した出来事に関する記憶のこと。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

Alzheimer型認知症は、脳内に神経原線維変化とアミロイド蓄積が起こることで神経細胞死やアセチルコリンの低下を招き、認知症を発症した状態を指します。典型的な症状は、緩徐に進行する出来事記憶の障害から始まり、次第に失語や遂行機能障害、視空間機能障害、人格変化などの社会的認知機能の低下へと進展します。

2. 「音」は聞こえても「意味」が解けない失語の特性

病状が進むと、相手の話した言葉をそのまま繰り返すことはできても、その内容が理解できない超皮質性感覚失語(※2)という状態が見られるようになります。

  • オウム返しの罠:本人が「はい、お風呂ですね」と返事をしても、それは単なる音の復唱であり、意味が脳に届いていないことがあります。
  • 意味の欠落:言葉の一つひとつの意味が結びつかなくなるため、抽象的な言葉や複雑な言い回しは伝わりません。

「返事があるから分かっているはず」という思い込みが、現場での意思疎通のズレを生む大きな原因の一つです。

※2 超皮質性感覚失語(ちょうひしつせいかんかくしつご):復唱能力は保たれているが、言葉の意味を理解する能力が著しく低下した状態。

出典元の要点(要約)

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認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

言語面では、物の名前が分からなくなる健忘失語が初期から目立ちます。病状が進行すると、相手の言ったことを復唱することはできるものの、その意味の理解が困難になる超皮質性感覚失語の像を呈することが臨床的な特徴です。

3. 言葉以外のサイン「振り返り徴候」の見落とし

アルツハイマー型認知症の方は、言葉で答えられないとき、介護者の顔をじっと見つめる振り返り徴候(※3)を見せることがあります。

  • 助けを求める合図:このしぐさは「何と言えばいいか分からない」「あなたの助けが必要だ」という非言語的なサインです。
  • 非言語の重要性:言葉の理解が難しい時期には、こうした視線やしぐさといった非言語的な手がかりに注意を払うことが、BPSD(行動・心理症状)を防ぐ上で非常に重要です。

※3 振り返り徴候(ふりかえりちょうこう):質問に答えられないときなどに、隣にいる介護者や家族の顔を不安げに振り返る様子。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

Alzheimer型認知症患者とのコミュニケーションにおいては、短く簡潔な指示(Short instructions)を与えることや、患者が介助者の顔を伺う「振り返り徴候 (turning-to-look sign)」などの非言語的なサインに注意を払うことが、BPSDへの対応として推奨されています。

「伝わらない」理由は、脳が情報を処理しきれない状態にあるからです。記憶障害失語の特性を理解し、言葉を削ぎ落として短く簡潔に伝えることが、本人を混乱から守り、現場をスムーズに動かすための唯一の正解となります。


声掛けの悩みに答えるQ&A:現場の「困った」を根拠で解決

丁寧な説明を心がけているのに、利用者様がフリーズしてしまったり、逆に怒り出したりすると、「自分の何がいけなかったのか」と悩んでしまいますよね。他の方の介助に追われる中で、何度も同じ説明を繰り返す徒労感は、多くの介護士が抱える切実な悩みです。ここでは、そんな現場の「なぜ?」に対して、ガイドラインの知見に基づいた明確な答えを整理しました。

Q
「お風呂に入りましょう」と誘うと「はい」と返事はされますが、一歩も動いてくれません。無視されているのでしょうか。
A

無視ではなく、脳の障害によって「音」としては聞き取れても、その「意味」が脳に届いていない可能性が高いです。これを「超皮質性感覚失語」と呼び、アルツハイマー型認知症の中等度以降によく見られる特徴です。返事があっても理解できていないことを前提に、実物(タオルや着替え)を見せるなど、視覚情報を補う関わりを試してみてください。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

言語面では、物の名前が分からなくなる健忘失語が初期から目立ちます。病状が進行すると、相手の言ったことを復唱することはできるものの、その意味の理解が困難になる超皮質性感覚失語の像を呈することが臨床的な特徴です。

Q
忙しい時間帯に何度も同じことを聞かれます。どう答えれば納得してもらえるのでしょうか。
A

「さっき言ったでしょ」と事実を伝えるのではなく、その都度、初めて聞かれたかのように「短く・簡潔に」答えることが、本人の安心に繋がります。アルツハイマー型認知症の方は「遅延再生(※1)」が困難なため、数分前の説明を思い出すことができません。事実にこだわらず、その瞬間の不安を解消すること(受容的態度)を最優先に考えてください。

※1 遅延再生:覚えたことを一定時間あとに思い出す能力。ADではヒントがあっても思い出すことが難しいのが特徴です。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

認知機能障害の中で最も中核的なのは記憶障害であり、特に遅延再生課題でヒントが出ても正解しにくい点が特徴です。BPSDへの対応としては、本人の訴えを受容的・共感的態度で接し、安心感を与えることが重要であるとされています。

Q
指示を出したあと、どのくらい待てばいいのでしょうか。すぐに聞き返してはいけませんか。
A

明確な時間は示されていませんが、本人がこちらの顔をじっと伺う「振り返り徴候」を見せるまで待つのが一つの目安です。認知症の方は情報の処理に時間がかかるため、返事を急かすと脳がパンクしてしまいます。本人が助けを求めるようなしぐさを見せるまで、沈黙を恐れずに「待つ」ことで、不必要な混乱や怒りを防ぐことができます。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

Alzheimer型認知症患者とのコミュニケーションにおいては、短く簡潔な指示(Short instructions)を与えることや、患者が介助者の顔を伺う「振り返り徴候 (turning-to-look sign)」などの非言語的なサインに注意を払うことが、BPSDへの対応として推奨されています。

現場の「伝わらない」イライラや申し訳なさは、皆様の技術不足ではなく、脳の情報の目詰まりによって引き起こされているものです。「短く伝える」「答えを待つ」という工夫は、一見遠回りに見えますが、結果として本人の安心を生み、介助の拒否を減らす近道となります。全ての声掛けを完璧にするのは無理でも、まずはこの「引き算のコミュニケーション」を一つの武器として持っておくだけで、現場の空気は少しずつ穏やかになっていくはずです。


まとめ:伝わらないもどかしさを「引き算」で解消するために

アルツハイマー型認知症の方への声掛けが届かない背景には、丁寧な説明が「情報の過負荷」を招いてしまうという脳の特性があります。良かれと思った言葉の数が、本人の脳内では処理しきれない雑音となり、結果としてパニックや拒否を引き起こす一因となっているのです。

現場の忙しさの中で、一人ひとりに時間をかけることは容易ではありません。しかし、エビデンスが推奨する「短く簡潔な指示(Short instructions)」を意識し、本人の「振り返り徴候」を確認するまで数秒待つという工夫は、特別な道具を使わずに今すぐ始められる最も効果的なケアの一つです。

「1回の声掛けに、情報は1つだけ」という引き算の視点を持つことで、意思疎通のズレによる徒労感は少しずつ解消されていきます。まずは一つ、明日の介助から「短い言葉」を試してみてください。その小さな変化が、本人と介護者双方の負担を和らげる大きな一歩となるはずです。

最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。



更新履歴

  • 2025年12月19日:新規投稿

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