「さっきは歩けたのに」「リハビリでは動けるのに」。そんな現場のモヤモヤ、実は利用者さんのわがままとは限りません。原因は、病気特有の薬の切れ目にある場合があります。
忙しい中、完璧な対応は無理かもしれません。ですが、動けない仕組みを知るだけで、介助の負担が軽く感じられることがあります。現場で明日から使える判断のコツをお届けします。
この記事を読むと分かること
- 「わがまま」に見える医学的理由
- 動けなくなる「オフ」のサイン
- 医師に共有すべき観察のコツ
- 介助のイライラに向き合う考え方
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:筆者の見解:「気分」ではなく「電池切れ」のサインかもしれない

「呼んだら動けないと言うくせに、好きなテレビの時は起き上がる」。
現場では人を選んでいるように見えて、つい厳しい言葉が出そうになることもあります。
しかし、それは本人の性格ではなく、体の電池(薬の効果)が切れてしまった合図かもしれません。
「わがまま」の正体はウェアリングオフの可能性
この現象を専門用語でウェアリングオフ現象と呼びます。
薬を飲んでから時間が経ち、次の薬を飲む前に効果が切れてしまう状態です。
「電池切れ」のように、パーキンソン症状(動けなさ、震え)が再び現れることがあります。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
ウェアリングオフ現象は、L-ドパの服薬ごとの効果持続時間が短縮し、次回の服薬前にパーキンソン症状が発現する状態である。
突然スイッチが切れるオン・オフ現象
さらに現場を混乱させるのがオン・オフ現象です。
薬を飲む時間に関係なく、突然スイッチが切れたように動けなくなる(オフ)、また急に動けるようになる(オン)を繰り返します。
これは予測が難しく、症状が突然入れ替わるとされています。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
服薬時間と無関係に症状の日内変動が生じ、症状がよい状態(オン)と悪い状態(オフ)が突然入れ替わるオン・オフ現象も出現する。
進行すると「薬の効き目」が短くなることがある
なぜこんなことが起きるのでしょうか。
治療薬のL-ドパは非常に強力ですが、病気が進行すると、薬が効いている時間が短くなってしまうことがあります。
これが、今まで大丈夫だったのに急に「動けない時間」が増える一一因と考えられます。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_09.pdf
進行期には作用持続時間の短縮(ウェアリングオフ現象)やジスキネジアなどの運動合併症が出現しやすくなる。
利用者さんは「動かない」のではなく、薬が切れて「動かせない」状態の場合があります。この電池切れの仕組みを理解するだけで、現場の景色は少し変わって見えることがあります。
よくある事例:現場で起きる「誤解の3パターン」

「人によって態度を変える」「甘えているだけ」。
現場ではそう感じてしまう場面でも、医学的な視点で見ると理由があると考えられます。
よくある3つのケースで、その裏側を見ていきます。
ケース1:リハビリは頑張るのに、病棟では動かない
- 状況
- 10時のリハビリでは歩いていたのに、12時の昼食前には移乗を拒否する。
- 現場の誤解
- 「リハビリの先生にはいい顔をする」「介護職をなめている」。
- 押さえるべき視点
- これは時間の影響の可能性があります。12時は薬の効果が切れる直前(ウェアリングオフ)の可能性があり、身体的に動けない時間帯となることがあります。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
ウェアリングオフ現象は、L-ドパの服薬ごとの効果持続時間が短縮し、次回の服薬前にパーキンソン症状が発現する状態である。
ケース2:食事中に突然スプーンが止まる
- 状況
- 自力で食べていたのに、急に動きが止まって介助を求めてくる。
- 現場の誤解
- 「疲れたから楽をしようとしている」「最初から介助と言えばいいのに」。
- 押さえるべき視点
- オン・オフ現象の可能性があります。突然スイッチが切れるように動けなくなることがあり、対応が難しい場合があります。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
服薬時間と無関係に症状の日内変動が生じ、症状がよい状態(オン)と悪い状態(オフ)が突然入れ替わるオン・オフ現象も出現する。
ケース3:夕方になると不機嫌・不安になる
- 状況
- 夕方になるとナースコールが増え、「痛い」「苦しい」と訴える。
- 現場の誤解
- 「夕暮れ症候群(認知症)かな?」「かまってちゃんなのかな?」
- 押さえるべき視点
- オフの状態では、動けなさだけでなく、痛みや不安などの非運動症状も現れます。性格ではなく、非運動症状の可能性があります。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
オフ期には運動症状のみならず、精神症状、自律神経症状、感覚障害などの非運動症状も発現しうる。
これらは「性格」ではなく「薬効の変動」によることがあります。この視点を持つだけで、「なんで動かないの?」という問いが、「今は薬が切れているんだな」という納得に変わることがあります。
理由:なぜ「さっきまで動けた」が通用しないのか?

「努力すればできるはず」「甘やかしてはいけない」。
現場ではそう指導されがちですが、パーキンソン病に関しては根性論だけでは説明しにくいと考えられます。
なぜなら、これは脳内物質と薬の寿命の問題と考えられるためです。
L-ドパは「効果が強いが、長持ちしない」
治療の主役となるL-ドパは、運動症状を改善する最も強力な効果を示す薬とされています。
しかし、病気が進行すると、その効果時間は徐々に短くなってしまうことがあります。
「強力だけどすぐ切れる」。これが、さっきまで元気だった人が急に動けなくなる一因と考えられます。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_09.pdf
L-ドパは現在も早期および進行期パーキンソン病の運動症状改善について、最も強力な効果を示すと考えられる。
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_09.pdf
進行期には作用持続時間の短縮(ウェアリングオフ現象)やジスキネジアなどの運動合併症が出現しやすくなる。
進行すると「調整」がシビアになることがある
「じゃあ薬を増やせばいい」と思いがちですが、現実的な対処は単純ではないと考えられます。
L-ドパ高用量では、今度は体が勝手に動くジスキネジアという副作用が出やすくなることがあります。
「動けない」と「動きすぎる」の間の、調整が難しくなるとされています。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
ジスキネジアはL-ドパ治療中のパーキンソン病患者の約30〜40%に出現し、若年発症や女性、L-ドパ高用量などが危険因子となる。
本人のやる気とは無関係に、薬の効果時間が短くなり、調整も難しくなることがあります。この「どうしようもない構造」を知っておくことが、互いのストレスを減らす第一歩になり得ます。
FAQ:現場の「これってどうなの?」への回答
「マニュアルにはこうあるけど、実際はどうなの?」。
現場でよく遭遇する迷いについて、ガイドラインに基づいた判断の考え方をまとめました。
自己判断で悩まず、根拠を持って対応するための参考としてご覧ください。
- QQ. 動けない時(オフ)でも、リハビリのために頑張って歩かせたほうがいいですか?
- AA. ウェアリングオフへの対応は、薬物療法が有効であるとされています。
出典元の要点(要約)
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
ウェアリングオフ現象に対しては、L-ドパの服用回数を増やす、COMT阻害薬、MAO-B阻害薬、ドパミンアゴニスト、イストラデフィリンを追加するなどの薬物療法が有効である。
- QQ. 薬の効きを良くするために、お肉(タンパク質)は減らしたほうがいいですか?
- AA. 低蛋白食に十分な根拠はないとされ、低栄養状態とならないよう注意が必要です。
出典元の要点(要約)
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_27.pdf
低蛋白食に十分なエビデンスはなく、低栄養状態とならないよう注意が必要です。
- QQ. 夕方になると不機嫌になったり、不安を訴えたりします。認知症でしょうか?
- AA. 必ずしも認知症とは限りません。薬が切れるオフ期には、動けなさだけでなく、精神症状などの非運動症状が現れることがあります。非運動症状の可能性を検討してみてください。
出典元の要点(要約)
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
オフ期には運動症状のみならず、精神症状、自律神経症状、感覚障害などの非運動症状も発現しうる。
「頑張らせる」ことや「食事制限」が、医学的には推奨されない場合があります。迷ったときは「ガイドライン(エビデンス)」という物差しを思い出すと考えやすくなります。
まとめ:明日からできる「最初の一歩」
利用者さんの「動けない」は、わがままではなく電池切れと捉えられることがあります。
そう割り切るだけで、現場のイライラが軽く感じられることがあります。もし明日、利用者さんが急に動けなくなったら、介助方法に悩む前に時計を見ることがあります。
そして、申し送りや記録にこう書き残すことがあります。
「ずっと動きが悪い」ではなく、「11時30分頃、トイレ動作不可」と。その具体的な時間の記録は、医師が薬を調整するための手がかりの一つになります。
完璧なケアを目指す必要はありません。
まずは時間を記録する。そこから始めることもあります。最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2025年9月17日:新規公開
- 2025年10月21日:一部レイアウト修正
- 2026年1月8日:より詳細なエビデンス(根拠)に基づき解説を充実させるとともに、最新のサイト基準に合わせて構成・レイアウトを見やすく刷新。
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