「私だけが泥棒扱いされる」。懸命に尽くしているのに、一番身近な親から疑われる理不尽さ。弁解すればするほど「口裏を合わせた」と火に油を注ぎ、出口のない水掛け論に疲弊していませんか。
教科書の「否定しない」は理想ですが、感情ある人間に完璧な受容は不可能です。全部を受け止めなくていい。自分の心を守るために、今日から使える現実的なかわし方だけを持ち帰ってください。
この記事を読むと分かること
- 家族を疑う脳のメカニズム
- 否定しない「共感フレーズ」
- 妄想を減らす環境調整術
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:「盗られた」の背景には、記憶の欠落が関わることがあります

「私が盗るわけないでしょ」と言いたくなる気持ち、そう感じる人もいます。現場では、何度説明しても「お前が隠した」と責められ、信頼関係が崩れていく無力感に襲われることがあります。
「否定してはいけない」と頭では分かっていても、毎日のように疑われると、つい感情的になってしまうことがあります。
性格ではなく「脳のSOS」
「昔は優しかったのに」と変わってしまった姿に傷つくかもしれません。しかし、これは性格が悪くなったわけでも、意地悪で言っているわけでもないとされています。
これはBPSD(行動・心理症状)と呼ばれることがある症状です。脳の病気(中核症状)そのものだけでなく、本人の性格や、置かれている環境、心理状態などが複雑に絡み合って現れる「SOSサイン」と捉えられることがあります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
行動・心理症状(BPSD)は、中核症状の結果として、本人の性格、環境、心理状態などが複雑に絡み合って現れる症状である。
自分の心を守るための「盾」
認知症によるもの忘れの特徴は、体験の「全体」がすっぽりと抜け落ちることがあるとされています。「財布を置いた」という事実そのものが、記憶からきれいに消えていることがあります。
「自分が壊れていく」ことを認めるのは恐怖だと感じることがあります。「自分が忘れた」と認めるよりも、「誰かが盗った」ことにするほうが、自分を保てると感じることがあります。彼らにとって妄想は、「自己防衛」と捉えられることがあります。
出典元の要点(要約)
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
認知症とは,一旦正常に発達した知能が後天的に器質的な脳の障害によって広汎に継続的に低下し,日常的な生活を営めない程度にまで衰退した状態と定義されている。
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
認知症によるもの忘れの特徴は、体験したことの一部ではなく全体を忘れる
薬の前に「安心」を処方する
興奮している姿を見ると「薬で落ち着かせたい」と思うことがあるかもしれません。しかし、対応の第一選択は薬ではないとされています。まずはケアの工夫や、環境の調整から始めることが推奨されることがあります。
事実を突きつけて否定することは、逆効果になることがあります。まずは「一緒に探す」など、適切なケアや環境の調整を行うこと。その環境調整が、症状の改善につながる可能性があります。
出典元の要点(要約)
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
BPSD への対応の第一選択は非薬物的介入であり,適切なケアや環境調整を行うことによって BPSD は改善あるいは消失する可能性がある.
物盗られ妄まそうは、本人からのSOSサインだと捉えられることがあります。それが、あなたの心を守り、不毛な争いを終わらせる近道の一つだと考えられます。
「また始まった…」とため息が出る瞬間もあります

「また始まった…」とため息が出る瞬間もあります。教科書通りに優しく接しようとしても、一方的に罵倒され続ければ、心はすり減ってしまうことがあります。
介護記録には「傾聴して対応」と書くけれど、実際は出口のない迷路にいるような気分になることがあります。ここでは、多くの家族が直面する「すれ違い」の典型例と、エビデンスに基づいた「見落としがちな視点」を整理します。
1. 事実を見せても「今、隠しただろ!」と激昂される
正しい場所に財布があることを見せれば、安心するはずだと考えがちです。そう思って証明しようとすることが、かえって火に油を注ぐ結果になることがあるパターンです。
- 状況
- 「財布がない」と騒ぐ親に、「ほら、タンスの上にあるよ」と見せる。
- 困りごと
- 感謝されるどころか、「あんたが今そこに置いたんだ!」と犯人扱いされる。
- よくある誤解
- 「事実を見せれば、自分の勘違いに気づくはずだ」
- 押さえるべき視点
- 体験の「全体」が抜け落ちているため、「自分で置いた」事実が思い出せない。
本人の中では「置いた記憶」が消えていることがあります。そのため、あなたの手から財布が出てきたことは、解決ではなく「疑いが深まる」ことがあります。
出典元の要点(要約)
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
認知症によるもの忘れの特徴は、体験したことの一部ではなく全体を忘れる
2. 世話をしている「私」だけが疑われる
たまに来る親戚には愛想がいいのに、毎日下の世話までしている私だけが泥棒扱い。「一番近くにいるから」という理由だけでは説明がつかないほどの攻撃性に、心が折れる瞬間もあります。
- 状況
- 同居の長女や嫁など、主介護者だけをターゲットに「盗った」と責める。
- 困りごと
- 「私を嫌っているからだ」「いじめだ」と感じ、介護への意欲を失う。
- よくある誤解
- 「性格が悪いから、特定の人を攻撃するのだ」
- 押さえるべき視点
- BPSDは、本人の性格だけでなく、環境や心理状態が複雑に絡み合って起きることがある。
特定の相手への攻撃は、その人への嫌悪だけが理由とは限りません。最も身近で「感情をぶつけられる相手」だからこそ、環境や心理状態などが影響している可能性があります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
行動・心理症状(BPSD)は、中核症状の結果として、本人の性格、環境、心理状態などが複雑に絡み合って現れる症状である。
3. 夕方など「特定の時間・場所」で騒ぎ出す
忙しい時に限って始まる「お金がない」コール。わざと困らせているのかと疑いたくなることがありますが、そこには「環境」というトリガーが隠れていることがあります。
- 状況
- 夕食の支度でバタバタする夕暮れ時に限って、妄走が激しくなる。
- 困りごと
- 家事が進まずイライラし、つい冷たい態度をとってしまい自己嫌悪に陥る。
- よくある誤解
- 「私の気を引くために、わざとやっている」
- 押さえるべき視点
- 身体的・環境的・心理的な「要因」を取り除くことで、改善する可能性がある。
「薄暗くなってきた不安」「空腹感」「周囲が忙しなく動いている雰囲気」。これらが不安を増幅させ、妄想を引き起こしている可能性があります。
出典元の要点(要約)
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
その要因(身体的要因,環境要因,心理的要因)を分析・評価し,その要因を取り除くためのケアの計画を立てて実践・評価を行う.
「事実を見せる」「尽くす」「冒認する」だけでは、すれ違いは埋まりにくいことがあります。攻撃の裏にある「要因(不安や環境)」に目を向けることが、解決への第一歩になることがあります。
なぜ一番身近な家族を「泥棒扱い」するのか?心のメカニズム

「育ててくれた親が、なぜ私をいじめるのか」と感じることがあります。毎日顔を合わせるたびに疑われると、介護への感謝どころか悪意すら感じてしまうことがあるかもしれません。
しかし、医学的に見れば、これはあなたへの攻撃とは限りません。脳の中で起きている「記憶のエラー」と、必死に自分を保とうとする「心の防衛」が、悲しいすれ違いを生んでいる可能性があります。
1. 記憶の「全体」が消えるため、他人のせいにするしかないと感じやすい
私たちは「うっかり忘れた」とき、ヒントがあれば思い出せることがあります。しかし、認知症の世界ではもっと深刻なことが起きていると捉えられることがあります。
- 建前(私たちの感覚):「置いたことを忘れているだけ」だから、説明すれば思い出すはず。
- 現実(本人の感覚):「置いた」という体験そのものが消去されているため、目の前にお金がない事事実が「誰かが盗った」以外に説明がつかないと感じやすい。
「置いたはずがない」と信じ込んでいる人に「あなたが置いた」と迫ることは、彼らににとって「濡れ衣を着せる行為」のように感じられることがあります。
出典元の要点(要約)
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
認知症によるもの忘れの特徴は、体験したことの一部ではなく全体を忘れる
2. 喪失感と不安から「自尊心」を守ろうとしている
しっかり者だった人ほど、自分ができなくなっていくことを認められません。認めることは、自分の存在価値が崩れることと同じだと感じることがあるからです。
- 建前(理想):家族を信頼して、弱みを見せてほしい。
- 現実(心理):自分の失敗(記憶の欠落)を認める恐怖から逃れるため、「他人のせい」に転嫁することで、ギリギリのところで自尊心を保っていると捉えられることがある。
攻撃的な言葉は、強さではなく「弱さの裏返し」として表れることがあります。必死に自分を守ろうとする悲鳴として受け取れることもあります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
心理的特徴に応じたかかわり方として、価値観や考え方、習慣を受容する、幼児語を使わず自尊心を尊重する
厚生労働省
認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
行動・心理症状(BPSD)は、中核症状の結果として、本人の性格、環境、心理状態などが複雑に絡み合って現れる症状である。
3. 不安な「環境」が疑いの引き金になる
「何もしていないのに疑われる」と感じる時、実は周囲の環境が影響していることがあります。
- 建前(理想):いつも通り接しているつもり。
- 現実(影響):介護者の忙しない態度や、部屋の散らかり、騒音などが心理的な不安を呼び起こし、「盗られた」という妄望として表出することがある。
脳の障害だけでなく、その時の「環境」や「心理状態」が複雑に絡み合って、症状として表出することがあります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
行動・心理症状(BPSD)は、中核症状の結果として、本人の性格、環境、心理状態などが複雑に絡み合って現れる症状である。
あの激しい剣幕は、あなたへの憎しみとは限りません。消えていく記憶への恐怖と、自分を守ろうとする自尊心、転して不安な環境が関わっている可能性があります。そう理解することで、刺さる言葉の痛みが少しだけ和らぐことがあります。
物盗られ妄想に関する現場の小さな迷い(FAQ)
「教科書通りにいかない」「毎回対応を変えるべきか悩む」。現場では、マニュアルに書かれていない「正解のない問い」に直面することの連続です。ここでは、介護現場で迷いやすいポイントについて、エビデンスに基づいた指針を整理します。
- QQ. 認知症の「物盗られ妄想」は治りますか?
- AA. 適切なケアや環境調整を行うことによって、改善あるいは消失する可能性があります。まずは薬に頼らない関わり(非薬物的な介入)から始めることが推奨されています。
出典元の要点(要約)
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
BPSD への対応の第一選択は非薬物的な介入であり,適切なケアや環境調整を行うことによって BPSD は改善あるいは消失する可能性がある.
- QQ. 興奮して話が通じない相手に、どう声をかければいいですか?
- AA. 相手のペースに合わせ、「気持ちを汲み取る」ことがポイントです。否定せずに、本人の価値観や考え方を受容し、自尊心を尊重する態度で接することが安心につながる場合があります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
心理的特徴に応じたかかわり方として、価値観や考え方、習慣を受容する、幼児語を使わず自尊心を尊重する、不快でない距離や目線の高さに留意する、相手の表情を確認しながら話しかける、相手のペースに合わせ気持ちを汲み取る、家族とだけ話したりせず相手を置き去りにしないといったポイントがある。
- QQ. 薬を使って落ち着かせてもいいですか?
- AA. BPSD への対応の第一選択は「非薬物的介入」とされています。まずは薬の使用を考える前に、適切なケアや環境要因の調整を行うことが基本となります。
出典元の要点(要約)
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
BPSD への対応の第一選択は非薬物的介入であり,適切なケアや環境調整を行うことによって BPSD は改善あるいは消失する可能性がある.
対応に唯一の正解はありませんが、「まずは非薬物対応から」「自尊心を尊重する」という原則を知っておくだけで、迷った時の判断軸になります。完璧を目指さず、できる範囲で環境を整えていくことが大切です。
まとめ:泥棒扱いへの怒りを手放すための、明日の一歩
毎日のように浴びせられる疑いの言葉が続くこともあります。どんなに頭で理解していても、心が追いつかない日もあると感じることがあります。
そんな時は、完璧な対応を目指さなくてもよいと考えられます。「否定しない」が無理なら、せめて「一緒に探すフリ」だけでも十分だと感じることがあります。
「それは心配だね、一緒に探そう」。その一言を演技でもいいから投げかけることもあります。それが、結果として不毛な争いを終わらせ、あなた自身の心を守ることにつながる可能性があります。
最後までご覧いただき、本当にありがとうございます。この記事が、出口の見えない日々の介護の中で、少しでもお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2025年9月28日:新規投稿
- 2026年2月14日:より詳細なエビデンス(根拠)に基づき解説を充実させるとともに、最新のサイト基準に合わせて構成・レイアウトを見やすく刷新。







