【介護】「転倒ゼロ」の重圧に悩む介護士へ。医学的根拠から考える転倒リスク管理

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「転倒ゼロ」を目標に掲げられても、歩ける認知症の方を24時間見守り続けることは現実的に困難です。事故が起きれば「見守り不足」と責められ、責任の重さに胃が痛くなる毎日を過ごしていませんか?

すべてを防ぐのは無理でも、医学的根拠を踏まえて防げる転倒と防げない転倒を区別できる場合があります。精神論ではなく、チームでリスクを許容する基準を整理しましょう。

この記事を読むと分かること

  • 薬や病気から転倒リスクを予測
  • 防げない事故の論理的な説明法
  • 過剰な制限を減らす判断基準

一つでも当てはまったら、この記事が参考になります

  • 転倒報告書を書くのが辛い
  • 「見守り強化」の対策に限界
  • 家族からの責任追及が怖い
  • 自由と安全の板挟みで悩む

結論:「精神論」ではなく「医学的根拠」でリスクを可視化する

女性の介護職員の画像

現場では「目を離さないで」と指示されますが、限られた人員で全利用者を常時監視するのは現実的に困難です。

そんな現場の葛藤を軽減するには、漠然とした見守りではなく、医学的根拠に基づいたリスクの線引きが有効と考えられます。

認知症というだけで「転倒リスクは8倍」に高まる

まず前提として押さえておきたいのは、認知症の人はそうでない人に比べて転倒のリスクが高いという事実です。

研究によると、認知症高齢者の転倒リスクは健常者の約8倍と報告されています。これは、注意不足だけで説明できる差ではありません。

加齢による身体機能の低下に加え、認知機能の低下、さらには服用している薬剤の影響や、生活環境の要因が複雑に絡み合っています。

つまり、どんなに気をつけていても転倒をゼロにすることは医学的に困難と考えられます

「見守りが足りなかった」と自分を責める前に、まずはこの客観的な事実をチームで共有するとよいでしょう。

出典元の要点(要約)

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

認知症高齢者の転倒リスクは健常者の約8倍と報告されている。転倒は、加齢に伴う身体機能低下、疾患による影響、薬剤、環境要因などが複合的に関与して発生する。

「レビー小体型認知症」は特有の症状で転びやすい傾向がある

特に注意が必要なのが、レビー小体型認知症(DLB)の方です。

この病型では、幻視などの認知症状だけでなく、パーキンソン症状と呼ばれる身体症状が現れるのが大きな特徴です。

具体的には、筋肉がこわばったり、動作が緩慢になったりするため、歩行障害が起きやすくなります。

さらに、DLBの方は薬剤に対する過敏性があり、抗精神病薬などを使用すると、副作用で過度の鎮静が生じ、転倒リスクが高まることがあります。

「足元に何もないのによよく転ぶ」という場合、それは不注意ではなく、病気の症状そのものである可能性があります。

出典元の要点(要約)

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

レビー小体型認知症(DLB)は、幻視、認知機能の変動に加え、パーキンソン症状(筋強剛、動作緩慢、歩行障害など)を中核的特徴とする。

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

DLB患者は抗精神病薬に対する過敏性があり、重篤な副作用(過鎮静、錐体外路症状の悪化など)が出現しやすく、転倒リスクが高まるため注意が必要である。

注意が必要なのは「薬の副作用」による止まりにくい出血

転倒リスクと同時に確認したいのが、「血が止まりにくい薬」を飲んでいるかどうかです。

心疾患や脳梗塞予防のためにワルファリンなどの抗凝固薬を服用している場合、転倒時の出血が重篤になることがあります。

薬が効きすぎていると、ビタミンK依存性凝固因子の働きが低下し、血液が固まりにくくなります。

そのサインとして、点状出血紫斑(あおあざ)が手足に見られる場合があります。

「どこにもぶつけていないのにあざがある」「歯磨きで出血する」といった症状は、体内で出血傾向が高まっている兆候かもしれません。

この状態での転倒は、脳出血などの重篤な事態につながる可能性があるため、注意が必要なリスクと考えられます。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向

https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf

出血傾向の初期症状として、手足の点状出血、紫斑(あおあざ)、鼻血、歯茎の出血などがみられることがある。これらは重篤な出血の前兆である可能性がある。

厚生労働省

重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向

https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf

ワルファリンによる出血は、何らかの理由でワルファリン量が過量になり、ビタミンK依存性凝固因子であるFII、FVII、FIX、FX活性が著しく低下し、血液の凝固反応が不良となることで発症する。

厚生労働省

重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向

https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf

ヘパリン、低分子ヘパリン、ダナパロイドによる副作用は、医薬品が過量になりATが過度に活性化されるか、凝固因子活性が低下していることにより止血不良となることで生じる。DICに使用した場合、DICによる出血か薬剤性の出血かの鑑別が難しい場合がある。

すべての転倒を防ぐことはできませんが、「8倍のリスクがある」「症状で転びやすい」「薬で出血傾向がみられる」といった点を把握することは可能です。漠然と見守るのではなく、これらの医学的根拠をチームで共有し、リスクが高い場面に絞って対策を講じることが、現実的な安全管理の第一歩になると考えられます。


よくある事例:その転倒、本当に「見守り不足」ですか?

女性の介護職員の画像

「なぜ目を離したのか」と責められる現場。しかし、振り返ってみてください。その転倒やトラブルは、本当に注意不足だけが原因だったのでしょうか。

ここでは、現場でよく遭遇する困りごとを例に、隠れている可能性のある医学的な背景を紐解いていきます。

身に覚えのない「あざ」で虐待を疑われた

「どこにもぶつけていないのに、腕にあざがある」。家族から虐待を疑われ、言葉に詰まる場面です。

しかし、これは「打撲」ではなく、薬の副作用による「点状出血」「紫斑」かもしれません。

抗凝固薬(ワルファリン等)が効きすぎて血液が固まりにくくなると、手足に点状出血や紫斑(あおあざ)がみられることがあります。

歯磨きの出血や鼻血も注意が必要なサインです。「ぶつけた記憶がない」のは、実際にぶつけていない可能性があるからかもしれません。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向

https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf

出血傾向の初期症状として、手足の点状出血、紫斑(あおあざ)、鼻血、歯茎の出血などがみられることがある。これらは重篤な出血の前兆である可能性がある。

厚生労働省

重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向

https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf

ワルファリンによる出血は、何らかの理由でワルファリン量が過量になり、ビタミンK依存性凝固因子であるFII、FVII、FIX、FX活性が著しく低下し、血液の凝固反応が不良となることで発症する。

足元に何もないのに、なぜか突然転んでしまう

廊下で突然、膝から崩れ落ちるように転倒する。つまずく物など何もない場所での事故です。

これは不注意ではなく、レビー小体型認知症(DLB)特有の「パーキンソン症状」による歩行障害の可能性があります。

筋肉がこわばり、動作が緩慢になるため、本人の意思とは裏腹にバランスを崩すことがあります。

さらに、DLBの方は薬剤に過敏なため、薬の影響でふらつきが出やすく、ケアや見守りだけで防ぐには限界があるケースです。

出典元の要点(要約)

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

レビー小体型認知症(DLB)は、幻視、認知機能の変動に加え、パーキンソン症状(筋強剛、動作緩慢、歩行障害など)を中核的特徴とする。

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

DLB患者は抗精神病薬に対する過敏性があり、重篤な副作用(過鎮静、錐体外路症状の悪化など)が出現しやすく、転倒リスクが高まるため注意が必要である。

「座っていて」と頼むほど、立ち上がろうとする

転倒が怖くて「座っていて」とお願いしても、何度も立ち上がろうとする。そのたびに制止してしまい、お互いに疲弊する場面です。

認知症だから必ずしも指示が伝わらないとは限りません。トイレに行きたい、座り心地が悪いといった「不快感」「不安」を行動で訴えている可能性があります。

強い口調での制止は「自尊心」を傷つけ、かえって興奮やBPSD(行動・心理症状)を悪化させることがあります。

まずは「安定した体勢」を確保し、表情を見ながら落ち着いた声で、立ち上がる理由(不快な原因)を探ることが先決と考えられます。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症ケア法ー認知症の理解

https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf

心理的特徴に応じたかかわり方として、価値観や考え方、習慣を受容する、幼児語を使わず自尊心を尊重する、不快でない距離や目線の高さに留意する、相手の表情を確認しながら話しかける、相手のペースに合わせ気持ちを汲み取る、家族とだけ話したりせず相手を置き去りにしないといったポイントがある。

一見すると「不注意」や「認知症のせい」に見える行動も、背景には薬の副作用や自尊心の傷つきが隠れていることがあります。表面的な現象だけで判断せず、「なぜ?」という視点を医学的根拠に戻すことで、現場の焦りは「観察」へと変わることがあります。


よくある質問:現場の「迷い」に医学的根拠で答える

女性の介護職員の画像

教科書通りにはいかない現場で、ふと立ち止まってしまう瞬間があります。そんな迷いに対して、感情論ではなくエビデンスに基づいた考え方の一例をご紹介します。

Q
どんなに注意しても転倒事故を防げず、自分のケアが悪いのではないかと自信を失いそうです。
A

ご自分を責めすぎないでください。認知症高齢者の転倒リスクは健常者の約8倍あることが報告されています。ケア不足だけでなく、疾患そのものによるリスクが高い可能性も踏まえ、チーム全体で対応を考えることが大切です。

出典元の要点(要約)

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版

https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

認知症高齢者の転倒リスクは健常者の約8倍と報告されている。

Q
利用者の腕にあざがあるのを見つけました。転倒の報告はなく、虐待を疑われるのが怖いです。
A

打撲ではなく、薬の副作用による点状出血紫斑の可能性もあります。特にワルファリンなどの抗凝固薬を服用している場合は、歯磨き時の出血なども含めて観察してください。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向

https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf

出血傾向の初期症状として、手足の点状出血、紫斑(あおあざ)、鼻血、歯茎の出血などがみられることがある。

厚生労働省

重篤副作用疾患別対応マニュアル 出血傾向

https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f09.pdf

ワルファリンによる出血は、何らかの理由でワルファリン量が過量になり、血液の凝固反応が不良となることで発症する。

Q
転倒が怖くて、つい強い口調で「座って!」と制止してしまいます。自己嫌悪に陥ります。
A

強い制止はかえって自尊心を傷つけ、興奮を引き起こす可能性があります。まずは安定した体勢を確保した上で、不快感がないか表情を確認し、落ち着いた声で話しかけることから始めるのも一つの方法です。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症ケア法ー認知症の理解

https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf

幼児語を使わず自尊心を尊重する、麻痺や筋力低下時は座ってもらうなど安定した体勢を確保する、相手の表情を確認しながら話しかけるといったポイントがある。

現場での迷いは、真剣に利用者と向き合っている証拠です。一人で抱え込まず、ここで確認した医学的な知識を「お守り」にして、できる範囲で観察とケアを続けていきましょう。


まとめ:リスクを知ることは、あなた自身を守ることにもなります

現場で責任を感じながら働く介護士の皆様、お疲れ様です。日々の業務の中で、「何かあったらどうしよう」という不安と戦い続けていることと思います。

しかし、ここでお伝えしたように、転倒やトラブルには「気合い」や「根性」では防げない医学的な理由があると考えられます。

「薬の副作用かもしれない」「病気の症状かもしれない」という視点を持つことは、利用者の安全を守るだけでなく、「防げない事故」で自分自身を責めないための盾にもなります。

明日からの現場で、まずは一つだけ確認してみるのもよいでしょう。

受け持ちの利用者さんが、血液を固まりにくくする薬を飲んでいないか、あるいはレビー小体型認知症の診断を受けていないかを確認してみてください。

その確認作業が、漠然とした不安を「具体的なケア」へと変え、あなたと利用者の双方を守る一歩となることがあります。

最後までご覧いただきありがとうございます。この記事が参考になれば幸いです。


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  • 2026年4月16日:新規投稿

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