「入浴介助は時間との戦いだから、一人ひとりお湯を換えて洗うのは正直厳しい」。そう分かってはいても、次の方を待たせるわけにはいかず、つい「循環式だし、塩素も入れているから大丈夫」と使い回してしまうことはありませんか。
しかし、見た目はきれいなお湯でも、目に見えないレジオネラ属菌などのリスクは潜んでいます。
現場の限界を踏まえた上で、ガイドラインに基づき「最低限守るべき安全ライン」について解説します。
この記事を読むと分かること
- ガイドラインに基づいた、循環式浴槽の適切な換水頻度が分かります
- 消毒薬が効きにくい「生物膜(ヌメリ)」の除去が必要な理由を理解できます
- どうしてもお湯を換えられない場合に、リスクを下げるための工夫が分かります
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:原則は「一人ひとりの入れ替え」が最も安全。使い回しは“条件付き”で許容される

現場では「一人ひとりお湯を張り替えていたら、入浴介助が回らない」というのが本音ではないでしょうか。業務に追われる中で、つい「見た目がきれいだから大丈夫」と判断したくなる気持ちは痛いほど分かります。しかし、高齢者の命に関わる感染症は、目に見えない場所で増殖します。ここでは、ガイドラインに基づいた「守るべきライン」を解説します。
衛生管理の正解は「毎回交換」。使い回しはリスクが高い
個浴(一般浴槽)には、循環式のようなろ過機能も、常時塩素を注入する機能もありません。そのため、お湯を使い回すと皮脂や汚れが蓄積し、消毒効果も期待できないため、感染リスクがダイレクトに高まります。
ガイドラインでは、「感染症にかかっている利用者については、原則、清拭で対応」としつつ、入浴する場合には「他の利用者への二次感染を防ぐため…他の利用者と接触しないように注意します」と示されています。 つまり、お湯を介した接触(共有)を避ける「毎回交換(リセット)」が、感染対策として最も確実で推奨される方法です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
入浴介助の中で、感染の疑いがある利用者については、原則清拭が望ましいとしつつ、「入浴する場合には、他の利用者への二次感染を防ぐため、入浴の順番を最後にすることや、他の利用者と接触しないように注意します」とされている。入浴順序や動線を工夫することで、浴室内での濃厚接触を避け、二次感染を最小限にする運用上の工夫が示されている。
どうしても使い回すなら「入浴順序」と「ヌメリ除去」が必須条件
現場の事情でどうしてもお湯を張り替えられない場合は、無条件に使い回すのではなく、以下のルールを徹底することでリスクを下げることが求められます。
- 入浴順序の工夫:皮膚トラブルがある方や感染症の疑いがある方は「最後」にする。
- ヌメリ(生物膜)の除去:菌は浴槽の壁面などの「ヌメリ」の中で増殖します。お湯を使い回す場合でも、浴槽のフチや水位線付近のヌメリは、入浴の合間にこすり洗いする必要があります。
ガイドラインでも、循環式浴槽であっても「利用状況に応じて1日1回換水する」など、こまめな換水が推奨されています。ましてやろ過装置のない浴槽であれば、なおさら頻繁な交換が必要です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
特に施設・事業所内での入浴におけるレジオネラ感染予防対策を講じるためにも、「生物膜(ぬめり)」部分にはレジオネラ菌が存在している可能性があり、「ぬめり」の除去も含めた衛生管理を実施し安全、安心な入浴を行います。
厚生労働省
高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
【浴室】浴槽のお湯の交換、浴室の清掃・消毒 等をこまめに行い、衛生管理を徹底します。 循環式浴槽では、ろ過機能が十分でない場合があります。ある施設では、利用状況に応じて1日1回換水する 等、こまめな換水をこころがけています。
「毎回交換は大変」ですが、それを怠ることは「使い回しによる感染リスク」を背負うことになります。可能な限り入れ替えを目指しつつ、難しい場合は上記の条件を厳守することが、プロとしての最低限のラインと言えます。
実践:見落としがちな「隠れ汚染スポット」3選

「お湯を抜いて、サッと流せば終わり」にしていませんか? 実は、お湯を新しくしても、器具や設備に「菌」が残っていれば、そこから感染が広がってしまいます。
特にレジオネラ属菌は、細かい水しぶき(エアロゾル)に乗って肺に入り込むため、お湯を溜める浴槽以外の場所にも注意が必要です。ここでは、見落としがちだけれど、絶対に掃除すべき3つのポイントを紹介します。
① シャワーヘッドとホース
盲点になりがちですが、シャワーはレジオネラ症の感染源になりやすい場所の一つです。ホースの中やヘッドの内部に水が残っていると、そこで菌が増殖する可能性があります。
ガイドラインでも、循環式浴槽水だけでなく、給水・給湯水などが施設内における感染源として多いと指摘されています。表面だけでなく、定期的に水を抜いて乾燥させたり、分解清掃を行ったりする管理が求められます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
レジオネラ症は、レジオネラ属の細菌によっておこる感染症です。施設内等における感染源として多いのは、循環式浴槽水、加湿器の水、給水・給湯水等であるとされています。
② 給湯口・蛇口周り
新しいお湯が出る蛇口や給湯口も、常に湿っているため「ヌメリ」が発生しやすい場所です。ここに菌が繁殖していると、せっかくの新しいお湯も注がれた瞬間に汚染されてしまいます。
手洗い場のカラン同様、直接手が触れる場所や水が出る場所は汚染されやすいため、入浴介助の最後には必ず清掃し、乾燥させることが理想的です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
手洗い場では、水道カランの汚染による感染を防ぐため、以下のことが推奨されます。(中略)手洗い後にドアに触れることを避けるためにドアのない形態が理想です。(※水回り設備の接触感染リスクに関する記述として参照)
③ 浴槽の「水位線」付近
お湯を張ったときに水面がくる「水位線」のあたりは、人の皮脂や汚れが最も付着しやすく、頑固な「生物膜(ぬめり)」ができやすい場所です。
ガイドラインでは、「『生物膜(ぬめり)』部分にはレジオネラ菌が存在している可能性がある」として、このヌメリを除去する衛生管理が強く求められています。お湯を抜いた後は、洗剤をかけただけで終わらせず、必ずスポンジやブラシでこすり洗いをしましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
特に施設・事業所内での入浴におけるレジオネラ感染予防対策を講じるためにも、「生物膜(ぬめり)」部分にはレジオネラ菌が存在している可能性があり、「ぬめり」の除去も含めた衛生管理を実施し安全、安心な入浴を行います。
掃除の時間は限られていますが、「どこをこすればいいか」を知っているだけで、作業の質は劇的に変わります。漫然と全体を流すのではなく、「菌の隠れ家」をピンポイントで狙い撃ちすることで、効率よくリスクを下げていきましょう。
よくある事例:現場でやりがちな「NG行動」

業務を少しでも楽にしたい、コストを削減したいという思いから、現場では独自の「省略ルール」が生まれてしまうことがあります。しかし、中には感染リスクを劇的に高めてしまう危険な行動も存在します。ここでは、絶対に避けるべきNG行動を紹介します。
NG事例① 「熱いお湯なら菌は死ぬ」という誤解
「少し熱めのお湯を足しておけば消毒になる」と考えていませんか? 実は、これは非常に危険な誤解です。
レジオネラ属菌などの細菌は、浴槽の壁面や配管にへばりついた「生物膜(ヌメリ)」に守られて増殖します。このヌメリは強力なバリアであり、単にお湯を流したり、温度を上げたりする程度では除去できません。
ガイドラインでも、温度管理だけでなく「『ぬめり』の除去も含めた衛生管理」が必須であるとされています。温度に頼らず、ブラシで物理的にこすり落とす作業を省略してはいけません。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
特に施設・事業所内での入浴におけるレジオネラ感染予防対策を講じるためにも、「生物膜(ぬめり)」部分にはレジオネラ菌が存在している可能性があり、「ぬめり」の除去も含めた衛生管理を実施し安全、安心な入浴を行います。
NG事例② 加湿器の水を継ぎ足して使う
浴室の外ですが、乾燥する時期によく使われる「加湿器」も、実はレジオネラ症の発生源になりやすい場所です。
タンクの水を捨てずに継ぎ足して使っていると、タンク内で菌が増殖し、それを部屋中にばら撒くことになります。ガイドラインでは、「タンク内の水の継続利用は避け、こまめに水の交換・タンクの清掃および乾燥を行います」と明記されています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
加湿器は、加湿器内の水が汚染されやすく、汚染水のエアロゾル(目に見えない細かな水滴)を原因とするレジオネラ症が発生する危険性があります。レジオネラ症の予防のため、タンク内の水の継続利用は避け、こまめに水の交換・タンクの清掃および乾燥を行います。
「良かれと思って」やっていたことや、「これくらいなら」という油断が、思わぬ事故につながります。特に水回りの管理は、目に見えない菌との戦いです。自己流の判断を避け、基本のルールに立ち返ることが重要です。
理由:なぜ高齢者施設で「レジオネラ」が怖いのか

「たかがお風呂のお湯でしょ?」と思うかもしれませんが、高齢者施設においてレジオネラ症は決して軽視できない病気です。現場がどれだけ忙しくても、ここだけは譲れないという「安全の根拠」を知っておくことが、あなたと利用者様を守ることにつながります。
高齢者は発病しやすく重症化しやすい
レジオネラ症は、健康な若者なら一過性の発熱(ポンティアック熱)で済むこともありますが、高齢者や抵抗力の落ちている人が感染すると「レジオネラ肺炎」となり、急激に重症化して死に至ることがあります。
ただの風邪や肺炎とは違い、進行が早く治療が遅れると致命的になるため、介護施設では特に警戒が必要な感染症として位置づけられています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
レジオネラ症は、レジオネラ属の細菌によっておこる感染症です。急激に重症化して死亡することもあるレジオネラ肺炎と、数日で自然治癒するポンティアック熱があります。
エアロゾル(細かい水しぶき)で感染する
「お湯を飲まなければ大丈夫」というわけではありません。レジオネラ属菌は、シャワーやジャグジーなどで発生した細かい水滴(エアロゾル)を吸い込むだけで感染します。
そのため、浴槽にお湯を張っている時だけでなく、シャワー浴の最中や、加湿器の使用中も感染のリスクがあります。お湯そのものの管理だけでなく、浴室内の設備全体の衛生管理が重要になるのはこのためです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版(2019年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
感染経路として、自然界の土壌に生息するレジオネラに汚染された冷却塔水などから飛散したエアロゾルの吸入が挙げられ、介護施設内では循環式浴槽水、加湿器の水、給水・給湯水などが感染源となりやすいとされます。
この「重症化リスク」と「空気感染に近い広がり方」こそが、高齢者施設で徹底的な清掃が求められる理由です。掃除は単なる美観のためではなく、目に見えない脅威から利用者様の呼吸を守るためのケアそのものです。
FAQ:現場の疑問に答える
現場で判断に迷うポイントについて、ガイドラインの視点からQ&A形式で解説します。自己判断で悩む前に、ここでの基準を確認しておきましょう。
- Q個浴(家庭用浴槽)の場合はどうすれば?
- A
一人ずつお湯を入れ替えるのが理想ですが、難しい場合は、入浴の順番を工夫する(皮膚疾患のある方や感染症の疑いがある方は最後にするなど)配慮が必要です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局
介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
入浴介助の中で、感染の疑いがある利用者については、原則清拭が望ましいとしつつ、「入浴する場合には、他の利用者への二次感染を防ぐため、入浴の順番を最後にすることや、他の利用者と接触しないように注意します」とされている。
- Q入浴後のチェックリストは必要?
- A
はい、有効です。ガイドラインでも「自主点検表(チェックリスト)を作成し、点検、確認します」と推奨されています。脱衣室、床、浴槽などの清掃状況を毎日記録することで、抜け漏れを防げます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局
介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
浴室の衛生管理に関して、「以下の内容を参考に自主点検表(チェックリスト)を作成し、点検、確認します。」と記載されている。脱衣室や浴室内の床、浴槽等の日々の清掃項目をチェックリスト化し、定期的に点検・確認することで、レジオネラ感染予防を含めた浴室衛生管理の確実な実施を図ることが示されている。
まとめ:清潔なお湯は「最大のおもてなし」であり「安全管理」
「お湯を換える」「ヌメリをこする」。 これらは確かに重労働であり、忙しい現場にとっては負担の大きい業務です。しかし、これらは単なる「きれい好き」のためではなく、利用者様の命を守るための防波堤です。
「きれい」の基準をアップデートする
「見た目が透明だからきれい」ではありません。「ヌメリ(生物膜)がないことがきれい」なのです。この意識を持つだけで、清掃の質は大きく変わります。消毒薬は万能ではなく、ヌメリの中にある菌には届きにくいからです。
物理的な清掃が命を守る
だからこそ、あなたの手でブラシを使い、物理的に汚れを落とす作業にこそ価値があります。「ヌメリは菌の巣窟」という意識を持ち、見た目のきれいさに騙されず、物理的な清掃を徹底しましょう。それが、利用者様が安心して楽しめる入浴ケアにつながります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
特に施設・事業所内での入浴におけるレジオネラ感染予防対策を講じるためにも、「生物膜(ぬめり)」部分にはレジオネラ菌が存在している可能性があり、「ぬめり」の除去も含めた衛生管理を実施し安全、安心な入浴を行います。
ポイントを絞って、賢く続ける
入浴介助は本当に大変な業務です。だからこそ、すべての場所を完璧にピカピカにしようとして燃え尽きてしまっては意味がありません。
今回紹介した「菌が増える危険なポイント(循環口、水位線、シャワー)」だけは確実に守り、それ以外の場所は少し力を抜くなど、省ける場所は省いて、業務全体でうまくメリハリをつけていきましょう。 「全部やる」のではなく「急所を守る」。その賢い選択が、あなた自身と利用者様の両方を守ることにつながります。
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更新履歴
- 2025年10月16日:新規投稿
- 2025年11月25日:エビデンス更新のため記事全体を再構成


