【介護施設】インフルエンザ流行時の消毒は「ドアノブ」優先で。床より重視すべき接触感染対策

流行期の現場では、「換気をすれば寒いと言われる」板挟みや、「消毒が終わらない」焦りに追われがちです。理想通りにいかず、歯がゆい思いを抱えることも多いでしょう。

全て完璧に行うのは困難です。だからこそ、エビデンスに基づき「本当に効果がある対策」に絞りましょう。現場で無理なく続けられる、現実的な判断基準を整理しました。

この記事を読むと分かること

  • 効果的な消毒の優先順位
  • 寒がらせない換気の工夫
  • 納得される面会制限の説明
  • 自分が感染源にならない策
  • 職員の出勤停止の明確な基準

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 消毒だけで一日が終わる
  • 換気で「寒い」と怒られる
  • 家族からのクレームが辛い
  • 自分が持ち込まないか不安
  • 対策の正解がわからず迷う

結論:感染拡大を食い止める「現実的」な最終防衛ライン

女性の介護職員の画像

現場では、「建物の構造上、完全なゾーニング(区域分け)なんて無理だ」「認知症の利用者様が歩き回ってしまい、隔離なんて絵に描いた餅だ」という悲痛な声が上がります。人手が足りない中で、病院のような厳密な管理を求められても、物理的に不可能だと感じる瞬間があるはずです。

しかし、完璧な環境が作れなくても、感染拡大を防ぐことは可能です。ウイルスは勝手に移動しません。必ず「人」や「物」を介して広がります。設備や人員の限界があっても、以下の3つの防衛ラインだけは死守することで、クラスターのリスクを劇的に下げることができます。

1. 標準予防策(スタンダードプリコーション)の徹底

感染症の有無にかかわらず、すべての利用者様の血液・体液・排泄物などを「感染性があるもの」として扱うのが標準予防策です。「この人は元気だから大丈夫」という油断が最大の敵です。

誰がウイルスを持っているか分からないという前提に立ち、ケアごとの手洗いや手袋の着用といった基本手技を、例外なく全員に行うことが、自分と施設を守る土台となります。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

感染対策は、感染症の有無に関わらず、すべての人が感染症の病原体を持っている可能性があると考え、血液、体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜を感染の可能性があるものとして取り扱う「標準予防策(スタンダードプリコーション)」が基本となる。

2. 感染経路別予防策(飛沫・接触)の追加

インフルエンザの主な感染経路は「飛沫」と「接触」です。空気感染対策(N95マスク等)のような特殊な装備は原則として不要ですが、この2つの経路を遮断する対策は必須です。

具体的には、ケア時のサージカルマスク着用で飛沫をブロックし、ケア前後の手洗いで接触感染を防ぎます。特に手袋を外した直後の手洗いは、ウイルスを次の利用者に運ばないための絶対条件です。

出典元の要点(要約)
厚生労働省

高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版

https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf

インフルエンザの主な感染経路は「飛沫感染」と「接触感染」である。職員は、利用者に接する前後、汚染物に触れた後などに手洗いを行い、サージカルマスクを着用するなど、施設へのウイルスの持ち込みを防止するための対策を徹底する。

3. ゾーニングとコホーティングの工夫

個室が足りない場合でも、諦める必要はありません。感染した利用者様を同室に集める「コホーティング」や、カーテンを用いてベッド間を仕切ることで、飛沫の拡散範囲を限定できます。

重要なのは、ウイルスが存在する「汚染区域(レッドゾーン)」と、そうでない「清潔区域(グリーンゾーン)」を意識し、人の動き(動線)を分けることです。物理的な壁がなくても、職員が「ここからは汚染区域」と意識し、エリアを出る際に手指衛生を行うことで、ウイルスの持ち出しを防げます。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

施設内で感染者が発生した場合、感染者の居室を「汚染区域」、それ以外を「清潔区域」としてゾーニング(区分け)を行う。個室が不足する場合は、感染者同士を同室にする(コホーティング)などの対応を検討する。

設備が古くても、人が足りなくても、「マスク」と「手洗い」だけは誰にでもできる最強の武器です。まずはこの基本を徹底し、ウイルスを「持ち込まない」「持ち出さない」環境を作ることから始めましょう。

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よくある現場の事例と現実的な解決策

現場では、感染対策と利用者の生活の質、そして限られた人員配置との間で、日々葛藤が生まれています。「換気をしたら利用者から『寒い』と怒られた」「念入りに消毒をしていたら、記録を書く時間がなくなり残業になった」「微熱があるけれど、夜勤の代わりがいないから解熱剤を飲んで出勤した」といった声は、決して珍しくありません。

建前だけでは回らない現場だからこそ、エビデンスに基づいた「効果的な手抜き(=効率化)」が必要です。ここでは、現場でよくある悩みと、厚労省の手引きやマニュアルに基づいた「現実的な正解」を対比させて解説します。

事例1:消毒の過剰と不足

「ウイルスは見えないから不安」と、床や壁まで毎日アルコールで拭き掃除を行い、業務時間が圧迫されていませんか? 実は、接触感染のリスクが高い場所は限定されています。

エビデンスによると、重点的に消毒すべきなのは高頻度接触部位(ドアノブ、手すり、照明のスイッチ、オーバーテーブルなど)です。これらを1日1回以上、0.05%次亜塩素酸ナトリウム(500ppm)またはアルコールを含ませたクロスで清拭することが推奨されています。

一方で、床などの環境表面から感染することはほとんどないため、床への消毒薬の散布は行う必要がありません。範囲を広げることよりも、「みんなが触る場所」に絞って確実に実施することが、効率的かつ効果的な対策となります。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

環境整備(清掃・消毒)の方法としては、手が頻繁に触れる場所(高頻度接触部位:ドアノブ、手すり、照明のスイッチ、オーバーテーブル等)は、1日1回以上清掃、消毒を行う。消毒薬は次亜塩素酸ナトリウム(0.05%)またはアルコールを用いる。床等の環境表面から感染することはほとんどないため、環境表面への消毒薬の散布は行わない。

事例2:換気と空調のジレンマ

「換気が重要」と理解していても、冬場に窓を開けっ放しにすれば室温が下がり、利用者から「寒い」と苦情が来たり、ヒートショックのリスクが高まったりします。しかし、単に窓を少し開けておくだけでは、十分な換気効果が得られない場合もあります。

効果的なのは、漫然と開け続けるのではなく、「空気の通り道」を作ることです。複数の窓を全開にする必要はありません。対角線上にある窓を開けるなどして風の流れを作ることで、短時間でも効率的に空気を入れ替えることができます。

また、24時間換気システムなどの換気設備を適切に活用することも重要です。寒さを防ぐために換気口を塞いでいないか確認し、定期的に空気の入れ替えを行うことで、快適な室温と感染対策の両立を目指しましょう。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

換気の方法としては、換気設備の活用や、窓を開ける場合は、複数の窓を全開にするのではなく、対角線上の窓を開けるなどして空気の通り道を作る。

事例3:職員の体調管理と無理な出勤

人手不足の現場では、「少しくらいの体調不良なら休めない」というプレッシャーを感じることも多いでしょう。しかし、施設内感染のきっかけとして最も警戒すべきは、外部からの持ち込みです。

特に職員は、地域社会で生活しており、ウイルスを持ち込む「媒介者」になるリスクがあります。エビデンスでは、職員自身が感染源とならないよう、日頃からの健康管理が強く求められています。

具体的には、発熱や呼吸器症状がある場合は無理に出勤せず、管理者に連絡することが基本ルールです。また、無症状でも持ち込む可能性があるため、ケアの前後や汚染物に触れた後の手洗いサージカルマスクの着用といった標準予防策を徹底することが、自分と利用者を守る最大の防御策となります。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

介護職員は、高齢者の特性やサービスの特性に応じた感染症の特徴を理解し、日常業務での感染対策の実践と自身の健康管理(感染源や媒介者にならないこと)を行う必要があります。症状がある場合は無理に出勤せず、管理者に連絡します。

厚生労働省

高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版

https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf

職員は、利用者に接する前後、汚染物に触れた後などに手洗いを行い、サージカルマスクを着用するなど、施設へのウイルスの持ち込みを防止するための対策を徹底する。

全ての対策を完璧に行うことは困難ですが、エビデンスに基づけば「やらなくていいこと」も見えてきます。床の消毒よりもドアノブの清拭、無理な出勤よりも早期の休養。これら「高頻度接触部位の管理」「効率的な換気」「職員の健康管理」の3点に注力することが、結果として現場の負担を減らし、感染拡大を防ぐ最短ルートになります。


なぜ「現場の対策」はブレてしまうのか?

食堂の画像

現場では、「目に見えないウイルス」への恐怖から、つい目に見える汚れ(床や壁)の掃除に力を入れてしまいがちです。「ここまでやったのに感染が出た」という徒労感や、「どこまでやればいいのか」というゴールのない不安。その原因は、ウイルスの感染経路と対策の優先順位が整理されていないことにあります。

原因1:主な敵は「空気」ではなく「飛沫」

インフルエンザ対策で最も重要なのは、ウイルスを含んだしぶき(飛沫)を吸い込まないことです。インフルエンザは主に、咳やくしゃみなどの飛沫感染によって広がります。

ウイルスは埃のように床から舞い上がって空気中を漂うわけではありません。そのため、床を磨くことよりも、利用者と職員が適切な距離(1〜2m)を保つことや、サージカルマスクを着用して飛沫を直接ブロックすることの方が、科学的に見て遥かに感染防止効果が高いのです。

出典元の要点(要約)
厚生労働省

高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版

https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf

インフルエンザの主な感染経路は、咳、くしゃみなどのしぶき(飛沫)に含まれるウイルスを吸い込むことによる「飛沫感染」と、ウイルスが付着した手で口や鼻に触れることによる「接触感染」である。

原因2:ウイルスを運ぶのは「床」ではなく「手」

もう一つの重要な経路は「接触感染」です。これは、ウイルスが付着した手すりやドアノブに触れた手で、自分の口や鼻を触ることで成立します。

ウイルスは足元からではなく、私たちの「手」を介して体内に侵入します。だからこそ、広範囲の環境整備に時間を割くよりも、ケアの前後や汚染物に触れた後の「手洗い」こそが、感染の連鎖を断ち切るための最も確実な手段となります。

出典元の要点(要約)
厚生労働省

高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版

https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf

接触感染は、感染者からの直接的な接触や、ウイルスが付着した手すり、ドアノブ、食器、衣類などを介して起こる。ウイルスが付着した手で口や鼻を触れることによって感染する。

原因3:誰が持っているか「分からない」前提の欠如

「あの人は元気だから大丈夫」という思い込みが、隙を生むことがあります。感染対策の基本は、症状のあるなしに関わらず、すべての人の血液・体液・排泄物などを感染性があるものとして扱う「標準予防策(スタンダードプリコーション)」です。

誰がウイルスを持っているか分からないからこそ、特定の誰かではなく「全員」に対して、手洗いや手袋の着用といった基本手技を徹底することが、結果的に自分と施設を守ることにつながります。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

感染対策は、感染症の有無に関わらず、すべての人が感染症の病原体を持っている可能性があると考え、血液、体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜を感染の可能性があるものとして取り扱う「標準予防策(スタンダードプリコーション)」が基本となる。

恐怖心で対策を足し算するのではなく、感染経路という「理屈」で引き算をしましょう。「飛沫」と「接触」の2点を押さえ、標準予防策を淡々と行うこと。これこそが、見えないウイルスに対抗する最強の手段です。

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現場の疑問を解決するFAQ

マニュアルには多くのことが書かれていますが、忙しい現場でとっさに判断するのは難しいものです。ここでは、現場でよく迷うポイントや、うっかり誤解しやすい点について、エビデンス(根拠)に基づいて回答します。

Q
嘔吐物の処理に使った消毒液で、そのまま手すりやドアノブを拭いてもいいですか?
A

いいえ、推奨されません。目的によって適切な「濃度」が異なるためです。 嘔吐物処理には高濃度の0.1%(1000ppm)次亜塩素酸ナトリウムを使用しますが、通常の手すり等の消毒(環境整備)には0.05%(500ppm)を使用します。用途に合わせて使い分けることが重要です。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

環境整備(清掃・消毒)の方法としては、手が頻繁に触れる場所(高頻度接触部位)は、1日1回以上清掃、消毒を行う。消毒薬は次亜塩素酸ナトリウム(0.05%)またはアルコールを用いる。

厚生労働省

高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版

https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf

嘔吐物が付着した床などの処理には、0.1%(1000ppm)の次亜塩素酸ナトリウムを使用する。

Q
面会制限はどのような基準で行うべきですか? また、家族にどう説明すればよいですか?
A

一律の基準はなく、地域の流行状況等を踏まえて施設長(管理者)が決定します。 対面での面会を制限する場合は、家族の不安を軽減するため、タブレット端末などを用いたWeb面会(オンライン面会)の活用が推奨されています。

出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局

介護現場における感染対策の手引き 第3版

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf

面会の可否については、地域の流行状況等を踏まえ、施設長(管理者)が判断する。対面での面会を制限する場合等は、テレビ電話等の活用を検討する。

Q
手袋をしていれば、手洗いはしなくても大丈夫ですか?
A

いいえ、手袋をしていても手洗いは必須です。 手袋には目に見えない小さな穴が開いている可能性があるほか、外す際に手が汚染されるリスクがあります。手袋はケアごとに交換し、外した後には必ず手洗い(または手指消毒)を行う必要があります。

出典元の要点(要約)
厚生労働省

高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版

https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf

手袋を着用していても、目に見えないピンホール(穴)からの汚染や、手袋を外す時に手指が汚染される可能性があるため、手袋を外した後は必ず手洗いを行う。手袋はケアごとに交換する。

すべてを暗記する必要はありません。「濃度が違うかもしれない」「手袋の下も洗わなきゃ」と、ふと思い出した時に確認できれば十分です。正しい知識は、利用者だけでなく、働いているあなた自身を守るためのお守りになります。


まとめ:今日からできる「小さな一歩」が現場を守る

インフルエンザの流行期、現場は緊張と多忙の連続かと思います。しかし、すべての対策を完璧にこなそうとして、心身ともに疲弊してしまっては元も子もありません。

大切なのは、エビデンスに基づいた「効果的な対策」に絞ることです。焦りを感じたときは、まず今日から以下の2点だけを意識してみてください。

  • 次の休憩に入る前と後の「手洗い」を、いつもより丁寧に行うこと。
  • 床ではなく、ドアノブや手すりなど「高頻度接触部位」の消毒に注力すること。

ウイルスは目に見えませんが、正しい知識に基づいた標準予防策は、確実にあなた自身と利用者様を守る盾となります。根性論ではなく、医学的な根拠を味方につけて、無理のない範囲で対策を継続していきましょう。

最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。



更新履歴

  • 2026年1月12日:新規投稿

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