事故報告書の対策欄に、つい「見守り強化」と書いてしまう。
本当は一人ひとりに寄り添いたいのに、人員不足の現実がそれを許さず、精神論で乗り切ろうとする毎日に限界を感じていませんか。
すべての事故を「職員の責任」にする必要は必ずしもありません。
現場の努力だけでは防ぎきれない事故を整理し、「物理的な仕組み」で利用者を守ることを目指した、現実的な視点をお伝えします。
この記事を読むと分かること
- 防げる事故と防げない事故の境界線
- 精神論に頼らない環境対策ের探し方
- 自分を責めすぎない正しい考え方
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:精神論からの脱却:事故を「防ぐ」ための新しい基準

「見守りを強化します」と書くたびに感じる無力感。
人員配置は変わらないのに、対策だけが積み重なる。
現場では、そんな「理想と現実のギャップ」に苦しむ声が多く聞かれます。
全てを現場の努力不足で片付けないために、まずは事故に対する認識の土台を変えることから始めるのがよいでしょう。
転倒は「老年症候群」。すべてが過失ではない
転倒は、加齢に伴う身体機能の低下によって起こる「老年症候群」の一つです。
医学的には、認知症や脳血管疾患に次いで介護が必要になる主要な原因であり、どれほど対策をしても一定の確率で発生することがあります。
すべての転倒を現場のミスとして捉えるのではなく、「完全な予防は限界がある」という科学的な知見を知る必要があると考えられます。
出典元の要点(要約)
一般社団法人日本老年医学会/公益社団法人全国老人保健施設協会介護施設内での転倒に関するステートメント
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/important_info/pdf/20210611_01_01.pdf
日本全体の要介護者について、介護が必要になった原因として、転倒は認知症、脳血管疾患に次いで第3位であり、全体の12%を占めている。
一般社団法人日本老年医学会/公益社団法人全国老人保健施設協会
介護施設内での転倒に関するステートメント
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/important_info/pdf/20210611_01_01.pdf
転倒は老年症候群の一つであり、加齢に伴う運動・感覚機能の低下や、複数の疾患、多剤服用などの内的な要因と、生活環境などの外的な要因が複雑に関与して発生するため、すべてを予防することは困難である。
「防げる事故」と「難しい事故」を冷静に分類する
事故には、施設側の工夫で防げる「対策を取り得る事故」と、本人の状態や生活動作に起因する「防ぐことが難しい事故」があります。
これらを混同してすべてを防ごうとすると、現場は疲弊してしまいます。
まずは冷静に分類し、防げる事故に資源を集中させることが重要だと考えられます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf
事故予防の取組を行う際には、「防ぐべき事故」と「防ぐことが難しい事故」を明確に区分した上で、「防ぐべき事故」については徹底的な予防策を講じ、「防ぐことが難しい事故」については、発生時の被害軽減や家族への事前説明等の対応を中心とするなど、メリハリのある対応を行うことが重要である。
「見守り」に逃げず「4M4E」で環境を変える
「注意して見守る」という精神論は、対策の一つです。
事故が起きたときは、人の不注意(Man)だけで片付けず、機械・環境(Machine/Media)、管理(Management)を含めた「4M4E分析」を行うのがよいでしょう。
照明の明るさや手すりの位置など、物理的な環境を変えることが、再発防止策につながることがあります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン
https://pubpjt.mri.co.jp/pjt_related/roujinhoken/jql43u00000001m5-att/h24_05c.pdf
事故要因の分析手法として、4M4E分析(Man, Machine, Media, Management / Education, Enforcement, Engineering, Example)などが活用できる。事故の背景要因を多角的に分析し、特定の個人への責任追及ではなく、システムや環境の改善につなげることが重要である。
完璧な見守りは難しいことがあります。だからこそ、「防げない事故」があることを認め、精神論ではなく「環境」に目を向けるのがよいでしょう。この意識の転換が、利用者と職員の両方を守る第一歩につながることがあります。
現場で起きている「あるある」事例と、視点の切り替え方

「対策を書いたのに、また同じ事故が起きた…」
「目を離した隙に」と言われても、他の利用者対応中だったのに…」
現場では、マンパワーの限界と事故防止の板挟みになり、無力感に襲われることが少なくありません。
ここでは、よくある3つのケースを通して、「精神論」から「具体的対策」へ視点を切り替えるヒントを紹介します。※
事例1:居室での「一人歩き」による転倒
- 【状況】
- 認知症の利用者が、職員の目が届かない居室内で一人で歩き出し、転倒してしまった。
「巡回を増やします」と対策したが、常時監視は困難であり、再び同様の事故が発生した。
- 認知症の利用者が、職員の目が届かない居室内で一人で歩き出し、転倒してしまった。
- 【現場の葛藤と誤解】
- 「もっと頻繁に見に行けば防げたはず」と自分たちを責めがちです。
しかし、生活の場である以上、24時間の監視は不可能ですし、拘束にもなりかねません。
- 「もっと頻繁に見に行けば防げたはず」と自分たちを責めがちです。
- 【押さえるべき視点】
- これは本人の身体機能低下等による「防ぐことが難しい事故」の可能性があります。
センサーを使用する場合も、「駆けつけるため(転倒防止)」ではなく、生活リズムや排泄パターンを知るための「アセスメントツール」として活用し、ケアプランに反映させる視点が重要だと考えられます。
- これは本人の身体機能低下等による「防ぐことが難しい事故」の可能性があります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf
事故予防の取組を行う際には、「防ぐべき事故」と「防ぐことが難しい事故」を明確に区分した上で、「防ぐべき事故」については徹底的な予防策を講じ、「防ぐことが難しい事故」については、発生時の被害軽減や家族への事前説明等の対応を中心とするなど、メリハリのある対応を行うことが重要である。
厚生労働省
特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン
https://pubpjt.mri.co.jp/pjt_related/roujinhoken/jql43u00000001m5-att/h24_05c.pdf
離床センサー(認知症老人徘徊感知機器)等の福祉用具は、転倒予防のみを目的として安易に使用するのではなく、利用者の行動パターンを把握するアセスメントツールとして活用するなど、適切な使用方法を検討する必要がある。
事例2:車椅子移乗時の「ずり落ち」
- 【状況】
- トイレ介助中、ブレーキのかけ忘れにより車椅子が動き、利用者がずり落ちてしまった。
報告書には「次は必ず確認を徹底する」と書いた。
- トイレ介助中、ブレーキのかけ忘れにより車椅子が動き、利用者がずり落ちてしまった。
- 【現場の葛藤と誤解】
- 「忙しくて焦っていた」「うっかりしていた」と、個人の不注意で片付けられがちです。
しかし、人の注意力に頼る対策だけでは、繁忙期に再発しやすくなります。
- 「忙しくて焦っていた」「うっかりしていた」と、個人の不注意で片付けられがちです。
- 【押さえるべき視点】
- これは手順ミスや環境要因による「対策を取り得る事故」です。
「気をつける」のではなく、4M4E分析を用いるのがよいでしょう。
例えば、「ブレーキが固くてかけづらい(Machine)」「手順が複雑で守りにくい(Method)」など、不注意を誘発する背景要因を探り、環境を改善するのがよいでしょう。
- これは手順ミスや環境要因による「対策を取り得る事故」です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf
施設側の過失(設備不良や手順書の不備、職員の知識不足等)に起因する事故は「対策を取り得る事故(防ぐべき事故)」であり、これらは徹底的な原因分析と再発防止策の実施により、発生を防ぐことが可能である。
厚生労働省
特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン
https://pubpjt.mri.co.jp/pjt_related/roujinhoken/jql43u00000001m5-att/h24_05c.pdf
事故要因の分析手法として、4M4E分析(Man, Machine, Media, Management / Education, Enforcement, Engineering, Example)などが活用できる。事故の背景要因を多角的に分析し、特定の個人への責任追及ではなく、システムや環境の改善につなげることが重要である。
事例3:「ちょっと待っててね」の直後の転倒
- 【状況】
- 物品を取りに数秒目を離した隙に、利用者が立ち上がり転倒した。
「危ないから動かないで」と声をかけていたのに、防げなかった。
- 物品を取りに数秒目を離した隙に、利用者が立ち上がり転倒した。
- 【現場の葛藤と誤解】
- 「安全のためには、ある程度行動を制限(スピーチロックや拘束)しないと守れない」と考えたくなります。
しかし、安易な拘束は尊厳を傷つけ、身体機能をさらに低下させるおそれがあります。
- 「安全のためには、ある程度行動を制限(スピーチロックや拘束)しないと守れない」と考えたくなります。
- 【押さえるべき視点】
- 事故予防を理由とした安易な行動制限は、自立支援の理念に反するため避けたほうがよいです。
「動かせない」のではなく、動いても怪我をしないよう、床材の工夫やヒッププロテクターの活用など、被害を最小限にする(ダメージコントロール)視点を持つのがよいでしょう。
- 事故予防を理由とした安易な行動制限は、自立支援の理念に反するため避けたほうがよいです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf
介護保険制度は、高齢者の自立支援と尊厳の保持を基本理念としており、事故防止を理由として安易に身体拘束や行動制限を行うことは、この理念に反するものであり、避けるべきである。
厚生労働省
特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン
https://pubpjt.mri.co.jp/pjt_related/roujinhoken/jql43u00000001m5-att/h24_05c.pdf
転倒等の事故を完全に防ぐことは困難であるため、事故が発生しても重大な傷害に至らないよう、衝撃吸収マットの導入や保護帽の着用など、被害を軽減するための対策(ダメージコントロール)を講じることが重要である。
「見守り」ができないのは、あなたのせいではありません。防げる事故は「仕組み」で、防げない事故は「アセスメント」と「環境」で対応するのがよいでしょう。この分類が、現場の負担と利用者のリスクの両方を減らすことにつながることがあります。
なぜ現場は「見守り強化」に逃げてしまうのか

「見守り以外に対策が浮かばない」
「事故報告書を出すたびに『なぜ見ていなかった』と責められる」
現場が精神論に頼ってしまう背景には、個人の能力不足ではなく、「3つの大きな誤解」が存在します。
この誤解を解くことで、過度なプレッシャーから解放される可能性があります。
誤解1:「転倒はすべて防げる」という思い込み
「プロなら転倒させてはいけない」と思っていませんか?
医学的に見て、転倒は加齢に伴う「老年症候群」であり、病気の一種のようなものです。
認知症や多剤服用など、本人の身体的要因が複雑に絡むため、どんなに優秀な職員がいても、完全にゼロにすることは難しいとされています。
出典元の要点(要約)
一般社団法人日本老年医学会/公益社団法人全国老人保健施設協会介護施設内での転倒に関するステートメント
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/important_info/pdf/20210611_01_01.pdf
日本全体の要介護者について、介護が必要になった原因として、転倒は認知症、脳血管疾患に次いで第3位であり、全体の12%を占めている。
一般社団法人日本老年医学会/公益社団法人全国老人保健施設協会
介護施設内での転倒に関するステートメント
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/important_info/pdf/20210611_01_01.pdf
転倒は老年症候群の一つであり、加齢に伴う運動・感覚機能の低下や、複数の疾患、多剤服用などの内的な要因と、生活環境などの外的な要因が複雑に関与して発生するため、すべてを予防することは困難である。
誤解2:「事故=法的責任」という恐怖
「事故が起きたら訴えられる」という不安が、現場を萎縮させることがあります。
しかし、法的責任(損害賠償責任)が問われるのは、事故を「予見」でき、かつ対策を取れば「回避」できたにも関わらず、それを怠った場合のみです。
予見できない突発的な事故や、やるべき対策を尽くした上での事故まで、責任を負うとは限りません。
出典元の要点(要約)
厚生労働省特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン
https://pubpjt.mri.co.jp/pjt_related/roujinhoken/jql43u00000001m5-att/h24_05c.pdf
法的責任(不法行為責任や債務不履行責任)が問われるのは、予見可能性(事故発生を予測できたか)と結果回避義務(事故を回避するための措置を講じたか)の違反が認められる場合である。
誤解3:「報告=叱責」という組織の壁
「怒られたくないから無難に書こう」
そう思わせる組織文化が、真の対策を遠ざけることがあります。
ヒヤリハット報告の目的は、個人の責任追及ではなく「システムやケアの改善」です。
報告した職員が守られ、賞賛される環境でなければ、本当の原因(環境や手順の不備)は見えにくくなります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf
事故報告やヒヤリ・ハット報告を行った職員に対し、組織として不利益な取扱い(懲罰や叱責等)を行わない(非懲罰性の原則)ことを明確にし、職員が安心して報告できる環境(心理的安全性)を醸成することが重要である。
厚生労働省
特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン
https://pubpjt.mri.co.jp/pjt_related/roujinhoken/jql43u00000001m5-att/h24_05c.pdf
ヒヤリ・ハット情報は、重大な事故の前兆であり、「ハインリッヒの法則」に基づき、これらを収集・分析し対策を講じることが事故予防の鍵となる。
すべての転倒は防げませんし、その必要もありません。「自分たちのせいではない事故」があると知るだけで、過度な自責から解放され、本当に必要な対策に向き合えるようになります。
現場の「迷い」に答えるQ&A
「理屈はわかるけれど、実際にやるとなると難しい…」
そんな現場の正直な悩みに対して、ガイドラインに基づいた現実的な考え方をお伝えします。
- QQ1. 「防げない事故もある」と説明したら、家族から「責任逃れだ」と怒られませんか?
- A事故が起きてから初めて説明するのではなく、入所時などの平時にリスクについて説明し、合意を得ておくことが重要です。
家族を単なる顧客ではなく、ケアの「協力者・パートナー」と位置づけ、リスク情報やケア方針を共有することで、信頼関係を築くことが求められます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン
https://pubpjt.mri.co.jp/pjt_related/roujinhoken/jql43u00000001m5-att/h24_05c.pdf
施設側には、利用者・家族に対して、事故発生のリスクや事故防止対策の限界について事前に説明し、理解を得る(リスクコミュニケーション)責任がある。
厚生労働省
特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン
https://pubpjt.mri.co.jp/pjt_related/roujinhoken/jql43u00000001m5-att/h24_05c.pdf
家族にはケアの「協力者・パートナー」として、リスク情報を共有しケア方針の意思決定に参画してもらうことが望ましい。
QQ2. 4M4E分析といっても、忙しくて時間をかけられません。どうすればいいですか?A分析の目的は、立派な書類を作ることではなく、「特定の個人への責任追及」を避けることにあります。時間をかけすぎずとも、事故の背景に「人(Man)」以外の要因(環境や手順など)がなかったか、多角的な視点を一つでも持つことから始めてみてください。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン
https://pubpjt.mri.co.jp/pjt_related/roujinhoken/jql43u00000001m5-att/h24_05c.pdf
事故要因の分析手法として、4M4E分析などが活用できる。事故の背景要因を多角的に分析し、特定の個人への責任追及ではなく、システムや環境の改善につなげることが重要である。
QQ3. 「見守り」以外の対策と言われても、人手不足で環境整備にお金もかけられません。A事故予防は、高価な機器導入だけとは限りません。日々のケアの中で利用者の状態変化に気づく「アセスメント」や、チームでの情報共有など、ケアの質そのものを向上させることが、結果として有効な事故対策になるとされています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf
介護現場におけるリスクマネジメントは、尊厳の保持を基本に据えた自立支援と自己決定の尊重という介護の基本理念を実現するための不可欠な取組の一つであると位置づけられている。
厚生労働省
介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/001569590.pdf
組織トップが主導して、現場からの改善提案(ボトムアップ)を推奨し、職員が主体的にリスクへの気付きや対策を提案できる環境を作ることが重要である。
まずは「靴」や「床」を見ることから始めましょう
ここまで、事故の分類や環境分析の重要性をお伝えしてきましたが、明日からいきなり完璧な分析を行う必要はありません。
まずは、事故報告書の対策欄に「見守り強化」と書こうとしたとき、一度ペンを止めてみるのがよいでしょう。そして、事故が起きた現場の「床」が濡れていなかったか、利用者の「靴」が足に合っていたか、一つだけで良いので「物理的なモノ(環境)」を確認してみるのがよいでしょう。
その小さな気づきの積み重ねが、精神論に頼らない事故予防への第一歩になると考えられます。最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
関連記事
更新履歴
- 2026年2月21日:新規投稿







