忙しい現場では口腔ケアが磨く作業になりがちで、理想とのギャップに悩む場面も多いと思われます。「不十分だった」と一人で責任を感じる必要はありません。
全ての工程は難しくても、誤嚥性肺炎を予防する要点だけは押さえられると考えられます。現場で無理なく続けられる、現実的な着地点を整理しました。
この記事を読むと分かること
- 肺炎を防ぐケアの優先順位
- 歯科受診を決める明確な基準
- 安全な姿勢と水量管理のコツ
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:介護現場で徹底したい口腔ケアの「厳選3項目」

「一人ひとりに時間をかけたいけれど、業務に追われてどうしても雑になってしまう」そんな現場の葛藤は痛いほど分かるように思います。
全てを完璧にする必要はないと考えられます。誤嚥性肺炎という重い事態を防ぐため、ここだけは譲れない「生命を守る3点」に絞りましょう。
1. 手順の標準化──「バイオフィルム」の除去を最優先にする
口の中のネバネバした汚れ、いわゆるバイオフィルム(細菌の膜)は、うがい薬だけでは落ちにくいとされています。
排水溝のぬめりと同じで、ブラシで物理的にこすり落とす機械的清掃が特に重要とされています。
見た目の綺麗さよりも、この「細菌の塊」を破壊することに全精力を注ぐことを勧めます。それが肺炎予防の一助になります。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会(共同:一般社団法人 日本在宅栄養管理学会)要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
専門的口腔ケア(プロフェッショナルケア)の介入により,誤嚥性肺炎の発症率,発熱の発生率,誤嚥性肺炎による死亡率の減少を認めた報告がある.
2. 安全の確保──「体位」と「水量」で誤嚥リスクを物理的に遮断する
誤嚥は「重力」と「物性」の影響を受けるとされています。なんとなくベッドを起こすのではなく、30度仰臥位など、その人に合った角度を記録・管理することが安全の一助になると考えられます。
また、とろみは濃すぎると腹部膨満感や脱水を招くリスクがあります。「濃ければ安全」という思い込みを捨て、適切な水分管理を心がけることを勧めます。
出典元の要点(要約)
国立国際医療研究センター嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発 令和元年度 総括・分担研究報告書
https://www.hosp.jihs.go.jp/s027/100/R1_Report.pdf
観察評価表の「姿勢・その他の条件」欄には、車イス座位、ベッド上(リクライニングの有無)、他に姿勢の工夫などをした場合はその旨を記入し、リクライニング有りの場合は水平からの角度を記入することとされている。
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
とろみを付けることは安全に液体を摂取してもらうための対応であるが,腹部膨満感を誘発したりさっぱり感が少ないため摂取量が少なくなったりする場合が多いとの報告があり,脱水予防のためには摂取量の把握が必要としている.
3. 連携の基準──迷わず専門職につなぐ「受診トリガー」を持つ
現場だけで抱え込まないことを勧めます。「出血」「痛み」「歯のぐらつき」は、介護職だけで対応が難しい場合があります。
これらを受診トリガー(合図)と決め、発見したら即座に歯科へつなぐことを勧めます。このルールがあるだけで、スタッフの心理的負担は軽くなることがあります。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会(共同:一般社団法人 日本在宅栄養管理学会)要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
多職種が連携して高齢者の口から食べる楽しみを支えるための支援(食支援)を行うことが重要であるとしている.
厚生労働省
高齢者の口腔と摂食嚥下の機能維持・向上のための取組に関する調査
https://www.mhlw.go.jp/iken/after-service-vol25/dl/after-service-vol25_houkoku.pdf
歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士等の専門職と連携し、口腔ケアや食事形態の工夫を行うことで、誤嚥性肺炎の予防や栄養状態の改善が図られている。
「拒否・出血・経管栄養」現場で迷う3つのケースと解決策

「無理やりやると余計に怒らせてしまう」「血が出ているけど、報告するほどかな?」現場では、教科書通りにいかない判断の迷いが尽きません。
よくある3つのトラブルについて、エビデンスに基づいた「対応」を整理します。
事例1. 「痛い!」と拒否が激しく、ケアが中断してしまう
- 状況
- 認知症の方が口を開けるのを嫌がり、無理に進めると興奮してしまう。
- 困りごと
- 汚れは残っているが、これ以上は危険で手が出せず、不完全なまま終わる。
- 押さえるべき視点
- 無理強いは逆効果になることがあります。環境調整や介助方法の検討を行い、難しい場合は専門職へ相談しましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者の口腔と摂食嚥下の機能維持・向上のための取組に関する調査
https://www.mhlw.go.jp/iken/after-service-vol25/dl/after-service-vol25_houkoku.pdf
認知症高齢者の摂食・嚥下障害への対応として、環境調整や食事形態の工夫、介助方法の検討などが行われている。
事例2. 歯磨きのたびに出血するが、様子を見ていいか迷う
- 状況
- ブラシに血がつくが、本人は痛みを訴えないこともある。
- 困りごと
- 毎回報告するのは大げさな気がして、「様子観察」で済ませてしまう。
- 押さえるべき視点
- 出血は炎症のサインとされています。自己判断姿勢専門職につなぎましょう。プロフェッショナルケアの介入が肺炎や死亡率を下げることがあります。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会(共同:一般社団法人 日本在宅栄養管理学会)要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
専門的口腔ケア(プロフェッショナルケア)の介入により,誤嚥性肺炎の発症率,発熱の発生率,誤嚥性肺炎による死亡率の減少を認めた報告がある.
事例3. 経管栄養(胃ろう)の方への口腔ケアはおろそかになりがち
- 状況
- 口から食べていないので「汚れない」と思い、ケアの優先順位が下がっている。
- 困りごと
- 本人も口を開けるのを嫌がり、家族や新人に必要性を説明しにくい。
- 押さえるべき視点
- 食事がなくても細菌は繁殖し、唾液と共に肺に入ることがあります。生命維持のためにも、経管栄養の方もケアが重要と考えられます。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会(共同:一般社団法人 日本在宅栄養管理学会)要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
誤嚥性肺炎の予防には、口腔衛生管理と嚥下機能の維持・向上が重要である。
厚生労働省
高齢者の口腔と摂食嚥下の機能維持・向上のための取組に関する調査
https://www.mhlw.go.jp/iken/after-service-vol25/dl/after-service-vol25_houkoku.pdf
誤嚥性肺炎や窒息事故の予防、低栄養の防止など、生命維持に直結する課題解決のためにも、口腔機能の維持・向上は極めて重要です。
なぜ現場では「誤嚥」や「ケア不全」が起きるのか?

「マニュアルはあっても、その通りにできない」日々の業務に追われ、個人の経験則に頼りになってしまう現実に深刻です。
なぜ事故やケア不足が起きてしまうのか、その構造的な原因を知ることで、対策のポイントが見えてくることがあります。
1. 「きれいにする」ことが目的化し、「細菌」が見えていない
建前(理想):食後の歯磨きは、食べカスを取り除くために行う。 現実(現場):見た目がきれいなら「OK」として、うがいだけで済ませてしまうことがある。
しかし、誤嚥性肺炎の主な原因とされるのは、目に見えないバイオフィルム(細菌の膜)です。これは物理的にこすらないと落ちないため、うがいだけではリスクが残ることがあります。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会(共同:一般社団法人 日本在宅栄養管理学会)要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
機械的清掃によるバイオフィルムの除去が基本である。
2. 姿勢やとろみの基準が「個人の感覚」任せになっている
建前(理想):マニュアル通りに、統一された手順で行うべき。 現実(現場):スタッフAさんとBさんで、ベッドの角度やとろみの濃さが違う。
「なんとなくこのくらい」という曖昧さが、誤嚥のリスクを高めることがあります。特に30度仰臥位などは、感覚ではなく角度計などで管理することが望ましい重要な指標です。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会摂食・嚥下リハビリテーションにおける診断支援としての舌機能検査法ガイドライン
https://www.gerodontology.jp/file/guideline/guideline.pdf
30度仰臥位は、90度座位と比較して、重力の影響により食塊の咽頭への送り込みが遅延するが、誤嚥のリスクは低減する。
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
解説文を熟読したうえで活用していただくことを目的としている。
3. 「むせていない=安全」という思い込みがある
建前(理想):食事中にむせなければ、誤嚥はしていない。 現実(現場):むせなかった利用者が、翌日に突然発熱する。
高齢者には、むせなどの防御反応が出ない不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)が見られることがあります。「むせないから大丈夫」という安心感が、発見の遅れにつながる場合があります。
出典元の要点(要約)
国立国際医療研究センター嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発 令和元年度 総括・分担研究報告書
https://www.hosp.jihs.go.jp/s027/100/R1_Report.pdf
不顕性誤嚥(むせのない誤嚥)の存在に留意し、湿性嗄声や呼吸状態の変化などを観察する必要がある。
問題の本質は、スタッフの怠慢ではないと考えられます。「見えない細菌」「個人の感覚」「隠れ誤嚥」にあります。ここを意識することで、ケアの質は変わることがあります。
現場の疑問を解消!口腔ケアと食支援のFAQ
「とろみは濃いほうがいいの?」「ゼリーなら食べられるのはなぜ?」日々のケアの中で感じる小さな疑問にお答えします。
- Qとろみは濃ければ濃いほど安全ですか?
- Aいいえ、濃すぎると脱水を招くリスクがあります。とろみを強くすると安全に飲み込みやすくなりますが、一方で「腹部膨満感」を感じやすくなったり、さっぱり感が失われたりして、摂取量が減ってしまうことがあります。そのため、適切な濃さを守るとともに、水分摂取量の把握が重要です。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
とろみを付けることは安全に液体を摂取してもらうための対応であるが,腹部膨満感を誘発したりさっぱり感が少ないため摂取量が少なくなったりする場合が多いとの報告があり,脱水予防のためには摂取量の把握が必要としている.
- Q「ゼリー」なら食べられるのに「お茶」でむせるのはなぜですか?
- Aゼリーは噛まずに丸呑みができる物性だからと考えられます。学会分類のコード0jに該当するようなゼリーは、咀嚼能力がなくても丸呑みして摂取でき、万が一誤嚥しても吸引が容易であるなどのリスク管理がなされています。一方、液体は喉を通るスピードが速いため、飲み込みのタイミングが合わないとむせやすくなります。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
コード0j(嚥下訓練食品・ゼリー)は、咀嚼能力がなくても丸呑みして摂取できる食品であり、誤嚥しても吸引が容易であるなどのリスク管理がなされています。
- Q歯科医に相談すべき「明確なサイン」はありますか?
- A「出血」「痛み」「歯の動揺」などがあれば、すぐに歯科へ相談しましょう。これらの症状はプロフェッショナルケアが必要なサインとされています。専門的な介入が行われることで、誤嚥性肺炎の発症率や、それによる死亡率が減少することが報告されています。現場だけで抱えず、速やかに連携することが大切と考えられます。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会(共同:一般社団法人 日本在宅栄養管理学会)
要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
専門的口腔ケア(プロフェッショナルケア)の介入により,誤嚥性肺炎の発症率,発熱の発生率,誤嚥性肺炎による死亡率の減少を認めた報告がある.
日々の疑問の多くは「エビデンス」で解決につながります。とろみのリスクやゼリーの特性を正しく理解し、迷ったときは「専門職へつなぐ」というルールを意識しましょう。
まとめ:全部できなくても大丈夫. 明日から始める「命を守る一歩」
日々の忙しい業務の中で、一人ひとりに完璧なケアを提供することは決して簡単ではありません。
「もっと丁寧にやりたかったのに」と悔やむこともあるかもしれませんが、今日から肺炎を減らすための、小さな一歩を始めてみませんか。
まずは、見た目の汚れだけでなく、バイオフィルム(細菌の膜)をこすり落とすこと、そして食事の姿勢を「角度」で意識すること。この二つで、利用者の安全は変わることがあります。
現場で戦うあなたのその「気づき」が、利用者の「食べる喜び」と「命」を支える一番の力になると考えられます。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2025年9月8日:新規公開
- 2025年10月21日:一部レイアウト修正
- 2026年2月18日:より詳細なエビデンス(根拠)に基づき解説を充実させるとともに、最新のサイト基準に合わせて構成・レイアウトを見やすく刷新。








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