【介護】パーキンソン病の「むせ」と姿勢の関係。とろみ以外の誤嚥対策の視点

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「飲み込んで」と声をかけつつ、時計を気にする焦りむせへの恐怖と業務の板挟みで、ついスプーンを運ぶ手が止まる瞬間。現場では「待ちたいけれど待てない」と感じることがあります。

理想通りにいかない日があっても、全てを完璧にする必要はありません。まずはタイミング姿勢だけ。ここを押さえるだけで、明日の介助はより安全になりやすくなります。

この記事を読むと分かること

  • うまくいかない医学的理由
  • 薬が効く時間の見極め
  • 誤嚥を防ぐ姿勢の正解
  • 食形態の現実的な調整

一つでも当てはまったら、この記事が役に立つ場合があります

  • スプーンが止まってしまう
  • とろみの正解がわからない
  • 早く食べてと焦る
  • 日によってムラがある

結論:「技術」よりも「タイミング」と「姿勢」。食事介助の成否に関わる土台

男性入居者の画像

現場では「利用者のペースに合わせてゆっくり介助しましょう」と教わりますが、実際には他の利用者の対応や業務に追われ、時計を気にしながらスプーンを運ぶのが現実ではないでしょうか。

「自分の技術が未熟だから、むせさせてしまうのではないか」と悩み、焦りを感じてしまう場面もあるようです。

しかし、パーキンソン病の方の食事介助において、重要なのは個人の技術力よりも、医学的なタイミング環境設定だと考えられます。

ここでは、現場の限界を考慮しつつ、最低限押さえておきたい現実的なポイントを解説します。

うまくいかない原因は「技術」ではなく薬の効果切れ

食事がスムーズに進まない時、介護士は「スプーンの運び方が悪かったか」「一口量が多すぎたか」と自責しがちです。

しかし、パーキンソン病においては、介助技術の問題以前に、薬の効果が切れて体が動かなくなるウェアリングオフ現象が原因であることがあります。

エビデンスにおいても、薬の効果が切れた「オフ」の状態(off period)では、身体の動きにくさだけでなく、ジストニア(筋肉の緊張異常)などの症状が出現することがあるとされています。

この状態では、どんなに優れた技術で介助しても、スムーズな摂取は困難な場合があります。まずは「今は薬が効いているか(オンかオフか)」を見極めることが、ケアの判断材料になり得ます。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

off period ジストニアの治療について、まずウェアリングオフに対する治療を行い薬剤調節によってオフ時間を短縮・消失させる。早朝のoff period ジストニアに対しては、長時間作用型ドパミンアゴニストを試みるか、起床時に少量のL-ドパを服用するなどの対策を行う。薬物療法で改善しない場合はボツリヌス毒素治療やDBSを考慮する。

無理に食べさせず薬が効く時間を逃さない

「時間がかかっても全量摂取してほしい」という思いはありますが、オフの時間帯に無理に食事を続けることは、誤嚥のリスクを高めるだけでなく、互いの疲弊につながることがあります。

ガイドラインでは、食事介助の困難さを解消するために、まずウェアリングオフに対する治療を行い、薬剤調整によって「オフの時間」を短縮・消失させることが示されています。

現場レベルでできる対策の一つは、無理に食べさせることではなく、医師や看護師と連携し、薬がしっかり効いているオンの時間帯に食事のタイミングを合わせることだと考えられます。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

嚥下障害の治療として、L-ドパなどの薬物適正化やウェアリングオフを考慮した服薬調整、食形態や姿勢の調整、嚥下機能訓練を行う。誤嚥性肺炎の危険が高い場合は胃瘻造設や声門閉鎖術なども考慮する。

誤嚥を抑えるためのポイントは姿勢食形態の再調整

薬の調整と並行して重要なのが、物理的な環境設定です。

飲み込み(嚥下)の障害は、口に入れてから食道へ送るまでの全段階で起こりうるとされており、これらは誤嚥性肺炎の原因となることがあります。

対策として、ガイドラインでは以下の3つの組み合わせが考慮されています。

  • 薬物療法の適正化(筋強剛などの軽減)
  • 食形態(とろみ食など)や姿勢の調整
  • 嚥下機能訓練(リハビリ)

特に「姿勢の調整」は、現場ですぐに実践できるケアの一つだと考えられます。薬が効きにくい時でも、適切な姿勢を保つことが考慮されます。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

嚥下障害は咀嚼期から食道期全体にわたり起こりうる。治療として、筋強剛などの軽減を目的に抗パーキンソン病薬を調整し、内服困難時はロチゴチン貼付剤やアポモルヒネ自己注射を考慮する。また、とろみ食などの食形態調整や、認知行動訓練、呼気筋力訓練などの嚥下訓練も考慮する。

食事介助のトラブルは、介護士の技術不足ではなく、薬効の変動姿勢の崩れが原因となる場合があります。全てを抱え込まず、まずは薬が効いている「オンの時間」を逃さないこと、転じて「姿勢」を整えることの2点に集中しましょう。

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よくある「困った」事例と、医学的な「正解」

「さっきまで食べていたのに、急に口を開けてくれなくなった」「とろみを濃くしたのに、それでもむせてしまう」。

現場ではこうした不可解な変化に悩み、「食事が嫌いになったのかな?」「私の介助が下手だから?」と不安になることがあります。

しかし、これらは「わがまま」や「介助の失敗」ではなく、病気の特性による身体的なサインである場合が多いと考えられます。

事例1:食事が途中から進まなくなる

食事の最初はスムーズだったのに、途中から急にペースが落ちたり、口の中に溜め込んだまま飲み込まなくなるケースです。

これは満腹や拒否ではなく、食事中に薬の効果が切れてしまうウェアリングオフ現象や、薬の効果発現が遅れるDelayed on(ディレイド・オン)の可能性があります。

エビデンスでは、胃内容排出遅延がL-ドパ(薬)の吸収を低下させ、効果の発現を遅らせる要因の一つであるとされています。

無理に励まして食べさせるよりも、「薬が切れてきたサインかもしれない」と捉え、一度中断して姿勢を直したり、看護職へ服薬タイミングの相談をすることが検討されます。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

ウェアリングオフ現象の定義として、薬効の持続時間が短縮し、次回の服薬前にパーキンソン症状が増悪する現象とされている。また、delayed onは、服薬後も薬効発現に時間を要する、あるいは発現しない現象と定義される。胃内容排出遅延などがL-ドパ吸収低下の要因となりうる。

事例2:とろみをつけても「むせ」が止まらない

水分にとろみをつけて対応しているのに、食事中に何度もむせ込むことがあるケースです。「もっと濃くすれば安全」と考えがちですが、必ずしもそうではありません。

ガイドラインでは、嚥下障害への対策として食形態(とろみ)だけでなく、姿勢の調整が並列して重要視されています。

首が下がっていたり、体が斜めに傾いていたりすると、いくらとろみをつけても誤嚥リスクが高まる場合があります。

また、飲み込みの回数減ることで唾液が溢れる流涎(りゅうぜん)も、気づかないうちに誤嚥(不顕性誤嚥)を引き起こす原因とされています。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

嚥下障害の治療として、食形態や姿勢の調整などを行う。また、流涎(よだれ)は、唾液分泌量の増加ではなく、嚥下回数の減少や開口保持などが原因とされる。流涎は誤嚥性肺炎のリスクファクターとなるため注意が必要である。

事例3:スプーンを持ったまま固まってしまう

「食べてください」と声をかけても、スプーンを持った手や口が止まったまま動かなくなるケースです。

これは認知症による失認(食べ方がわからない)と混同されやすいですが、動作が凍結するすくみ現象の可能性があります。

「すくみ足」に関するエビデンスでは、視覚的な目印やリズム(聴覚刺激)を与えることで改善する場合があるとされています。

食事においても、強い命令口調で急かすのではなく、リズムよく声をかけたり、静かな環境を整えたりすることで、動作の「きっかけ」をつくる工夫が有効な場合があります。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

すくみ足の治療として、視覚・聴覚刺激(キュー)や、反復経頭蓋磁気刺激などが検討されている。また、すくみ足は精神的緊張や二重課題(dual task)によって誘発・増悪することが知られている。

利用者の「食べない」「むせる」という行動の裏には、薬効の変動や姿勢の崩れといった医学的な理由が隠れています。表面的な現象だけで「拒否」と判断せず、病気のサインとして捉え直すことが、適切なケアへの第一歩です。


なぜ、これほどまでに「食べる」ことが難しいのか

女性の介護職員の画像

「食事くらい、ゆっくり楽しませてあげたい」。そう願っていても、現実には薬の時間や他の業務に追われ、思うようにいかない葛藤が現場にはあります。

この難しさは、必ずしも「努力不足」や「相性の問題」とは限りません。

パーキンソン病という疾患が持つ、特有の医学的な構造が、食事介助を困難にしていると考えられます。

ここでは、その「構造的な原因」をエビデンスに基づいて整理します。

原因1:噛む・送る・飲み込む「すべて」に障害が起きる

私たちは無意識に食事をしていますが、パーキンソン病では「口に入れる」から「胃に送る」までの、あらゆる工程にブレーキがかかることがあります。

ガイドラインでは、嚥下障害は咀嚼期(噛む)から食道期(胃へ送る)まで、全段階で起こりうると明記されています。

つまり、「口は動いているのに飲み込めない」「飲み込んだはずなのに喉に残る」といった現象は、それぞれ別の段階での障害が同時に起きている可能性があるのです。

どこか一つを直せば済むわけではない点が、対応を難しくすると考えられます。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

嚥下障害は咀嚼期から食道期全体にわたり起こりうる。治療として、筋強剛などの軽減を目的に抗パーキンソン病薬を調整し、内服困難時はロチゴチン貼付剤やアポモルヒネ自己注射を考慮する。

原因2:薬の効き目による「波」と胃腸の動きの低下

「昨日は食べられたのに、今日はダメ」。この変動の激しさが、現場の計画に影響することがあります。

これは薬の効果が切れるウェアリングオフに加え、胃の動き自体が悪くなる(胃内容排出遅延)ことが関係するとされています。

胃の動きが悪いと、せっかく飲んだ薬が吸収されず、効果が出るまでに時間がかかることがあります。

さらに、食事に含まれるアミノ酸が薬の吸収を妨げることもあるため、「食べたから元気が出る」とは限らず、逆に食後に動きが悪くなるケースもあるのです。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

ウェアリングオフ現象やdelayed on(薬効発現の遅れ)には、胃内容排出遅延や食事性アミノ酸との競合によるL-ドパ吸収低下などが要因となりうる。

原因3:意思とは無関係に動く体と姿勢の崩れ

「じっとしていて」と言いたくなるような体の動きや、極端な姿勢の傾きも、食事のハードルを上げます。

薬が効きすぎると、自分の意思とは無関係に体が動くジスキネジア(不随意運動)が出現し、スプーンを口に運ぶことが困難になる場合があります。

また、首が前に垂れ下がる「首下がり」や、腰が曲がる姿勢異常も特徴的な症状です。

これらは本人の「やる気」や「注意不足」ではなく、病気の進行や薬剤の影響による身体的な強制力であることを理解することが重要だと考えられます。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

ジスキネジア(不随意運動)はL-ドパ長期服用に伴う運動合併症の一つである。また、姿勢異常として首下がり症候群や腰曲がりなどがみられることがあり、これらは抗パーキンソン病薬の調整やリハビリテーションの対象となる。

食事がうまくいかないのは、全段階にわたる嚥下機能の低下、薬効や胃腸の動きによる変動、転じて意思に反する身体の動きが複雑に絡み合っているためです。これらは「努力」でカバーできる範囲を超える場合があり、医学的な背景を知ることが、介護者の心の負担を軽くする助けになります。

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現場の「迷い」に答えるQ&A

日々のケアの中で「この対応で合っているのかな?」「良かれと思ってやったことが逆効果かも」と迷う瞬間は多いと感じられます。

ここでは、現場で判断に迷いやすい疑問について、ガイドラインに基づいた医学的な視点から回答を整理します。

Q
食事の飲み込みを良くするリハビリはありますか?
A
はい、効果が期待される訓練法があるとされています。具体的には、呼気(吐く息)の力を鍛える訓練や、動画を見ながら行う嚥下訓練などが、嚥下機能や安全性の改善に役立つことがあるとされています。
出典元の要点(要約)
日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

嚥下障害に対するリハビリテーションとして、呼気筋力訓練(EMST)やビデオを用いた嚥下訓練などが考慮される。これらは嚥下機能や安全性の改善に寄与する可能性がある。

Q
タンパク質を減らすと薬が効きやすくなると聞きましたが、制限すべきですか?
A
自己判断での制限は推奨されないとされています。タンパク質の摂取時間を夕食に偏らせる方法(PRD)はありますが、低栄養や体重減少のリスクがあります。必ず医師や管理栄養士と相談し、メリットとリスクを検討した上で行う必要があるとされています。
出典元の要点(要約)
日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_27.pdf

蛋白再配分療法(PRD)は運動合併症を解消する可能性があるが、ジスキネジアの増悪や体重減少などのリスクがあるため、医師・栄養士と相談しながら行う必要がある。低蛋白食自体には十分なエビデンスはない。

Q
よだれが多いのは、唾液の量が増えているからですか?
A
いいえ、唾液の分泌量が増えているわけではないとされています。無意識に口が開いてしまったり、飲み込む回数が減ったりすることで、唾液が口の中に溜まり、溢れ出てしまうことが主な原因と考えられています。
出典元の要点(要約)
日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

流涎(りゅうぜん)は、唾液分泌量の増加ではなく、嚥下回数の減少や開口保持などが原因とされる。

リハビリの有効性や食事内容の調整など、ケアの選択肢は複数あります。しかし、どの方法も個々の状態によって向き不向きがあるため、自己判断せず医療職と連携しながら進めることが、遠回りのようで安全につながりやすい選択肢です。


明日からできる「小さな一歩」

ここまで、パーキンソン病の食事介助における難しさと、その医学的な背景について解説してきました。

日々の業務の中で、これら全ての対策を完璧に行うことは、現実的には難しいかもしれません。

しかし、全てを変える必要はありません。まずは明日、たった一つだけでも、以下のポイントを意識してみるとよいでしょう。

現場で意識したい3つのチェックポイント

  • 食べる前に「今、薬は効いているかな?」と一瞬だけ観察する。
  • 食事中に一度だけ、顎が上がっていないか姿勢を確認する。
  • 「オフの時間は食事が進まない」という事実を、記録に残して共有する。

特に「観察」と「記録」は、医師や看護師が薬の調整を行うための重要な手掛かりとなる場合があります。

無理に食べさせようと焦るよりも、正確な状況を伝えることの方が、結果的に利用者さんの安全につながる可能性があります。

忙しい現場の日々かと思いますが、介護職の皆様の丁寧な観察が、医療と生活をつなぐ要だと考えられます。

最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。


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更新履歴

  • 2025年9月30日:新規公開
  • 2026年2月7日:より詳細なエビデンス(根拠)に基づき解説を充実させるとともに、最新のサイト基準に合わせて構成・レイアウトを見やすく刷新。

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