夕方の混乱が同じに見えて違いが分かりにくいと感じている方はいらっしゃいますよね?現場では、用語は知っていても「どちらなのか」を即座に言語化するのは難しい場面が続きます。
結論として、見当識障害は慢性の進行に伴う認識のずれで、対象は時間・場所・人物です。一方、せん妄は急性の変動を示す状態で、意識・注意が揺れます。国立長寿医療研究センターのマニュアルではこの区別が示され、日本サイコオンコロジー学会のガイドラインでは、せん妄を急性に生じる意識・認知の障害として説明しています。日本麻酔科学会のガイドでも高齢者の術後にみられる急性の変動として整理されています。

💡この記事を読んで分かる事
発症の速さ(急性/慢性), 経過(変動/進行), 対象(時間・場所・人物), 意識・注意の有無, 可逆性という5つの比較軸で、見当識障害とせん妄の違いを図表で明確化します。
同じフレーズで統一し、国立長寿医療研究センター、日本サイコオンコロジー学会、日本麻酔科学会などの記述に沿って解説します。
図表で整理するせん妄と見当識障害の違い
夕方の混乱が同じに見えて、どちらか迷うと感じている方はいらっしゃいますよね?用語は知っていても、急性の変動と慢性の進行を同じ基準で説明するのは難しいものです。

用語を統一してから比較する
本記事では、見当識障害=時間・場所・人物の認識の低下、せん妄=急性に生じる意識・注意の障害を伴う状態という表現で統一します。国立長寿医療研究センターのマニュアルで見当識障害は認知症の症状として示され、日本サイコオンコロジー学会のガイドラインでは、せん妄を急性で経過が変動する状態として定義しています。まず定義の固定が比較の第一歩です。
※エビデンス
国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版
見当識障害(例:時間・場所・人物への理解困難)は主に認知症で進行性に現れる症状ですが、せん妄でも発生し得る認知機能障害の一つです(せん妄はむしろ意識・注意障害が主軸になります)。経過の特徴や用語の扱いを明確化し、定義の共有を促す。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
5つの比較軸で“違い”を言語化する
日本サイコオンコロジー学会のガイドラインでは、せん妄を急性発症かつ意識・注意の障害を伴う状態として記載し、日本麻酔科学会のガイドでは高齢者で経過が変動する点が整理されています。以下の表は発症の速さ/経過/意識・注意/対象領域/可逆性で同一フレーズに統一した比較です。
比較軸 | 見当識障害 | せん妄 |
---|---|---|
発症の速さ | 慢性の進行 | 急性の発症 |
経過 | 持続的 | 変動する |
意識・注意 | 保たれることが多い | 障害がみられる |
対象領域 | 時間・場所・人物 | 意識・注意(+見当識が乱れることがある) |
可逆性 | 可逆性は乏しい | 可逆性がある |
簡単版:見当識障害とせん妄のちがい(初心者向け表)
比較のポイント | 見当識障害(かんたんに) | せん妄(かんたんに) |
---|---|---|
発症のしかた | ゆっくり出てくる | 急に出てくる |
続き方 | 続く・同じように見える | ゆれる・変わる |
意識のはっきりさ | はっきりしていることが多い | ぼんやり/注意が続かない |
まちがいやすい所 | 時間・場所・人をまちがえる | 意識・注意が乱れる(見当識も乱れることあり) |
1日の中で | 毎日だいたい同じ | 日・時間で大きく変わる |
きっかけ | 病気の進行で少しずつ | 体調や環境の急な変化で起きやすい |
もとに戻るか | 戻りにくい | 戻ることがある |
よく見る場面 | 夕方の“そわそわ”が毎日 | 突然の混乱・ウトウトと覚醒をくり返す |
覚え方の合言葉 | 「慢性・持続・認識」 | 「急性・変動・意識」 |
※エビデンス
日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会
せん妄ガイドライン(2023)
せん妄を急性発症で注意・意識の障害を伴い、経過が変動する状態として定義。診断概念の中核を簡潔に示し、他概念との区別の基礎を提供する。
https://jpos-society.org/pdf/gl/2023delirium/all_2023-guideline-delirium.pdf
混同しやすい着眼点を短い語でそろえる
急性か慢性か、変動か持続か、意識・注意が揺れるかという短い語にそろえると、現場で同じフレーズで共有できます。日本麻酔科学会のガイドでは、高齢者の周術期にみられる急性の変動が強調され、定義の語彙が安定しています。語の固定は記録と共有の基盤になります。
※エビデンス
日本麻酔科学会
高齢者における術後せん妄の予防と治療のプラクティカルガイド(2025)
高齢者で術後に急性の変動がみられる概念整理を提示。定義に沿った表現を安定させる重要性が読み取れる内容。
https://anesth.or.jp/files/pdf/guideline_prevention_postoperative_delirium_elderly.pdf
最後に、本記事では「見当識障害」と「せん妄」の定義と言葉遣いを固定し、5つの比較軸で一貫して整理します。
事例で確認する「見当識障害」と「せん妄」のちがい
夕方になると落ち着かない様子が出る時と、急に注意が続かない時があり、どちらなのか迷う方はいらっしゃいますよね?ここでは、同じフレーズで観察できる事例を示します。

毎日17時台にそわそわが続く(見当識障害のパターン)
数週間から数か月にわたり、夕方ほぼ毎日「帰る」といった発言が繰り返されます。慢性の進行が背景で、時間・場所・人物の取り違えが中心です。意識・注意は保たれることが多く、1日の中では持続的に同じ傾向が見られます。
※エビデンス
国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版
見当識障害を「時間・場所・人物の認識の低下」として整理し、経過は持続的で進行に伴いやすいと説明しています。定義と語彙をそろえて扱う重要性が示されています。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
発熱後に数時間で混乱とウトウトが出る(せん妄のパターン)
普段は会話が成り立つ方でも、発熱の当日から急性の発症で見当識が乱れ、意識・注意が揺れます。ウトウトと覚醒を繰り返すなど経過が変動するのが特徴です。急性と変動がそろうと、せん妄の枠組みに一致します。
※エビデンス
日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会
せん妄ガイドライン(2023)
せん妄を急性発症で注意・意識の障害を伴い、経過が変動する状態として定義しています。診断概念の核となる用語が示され、他概念との差が明確化されています。
https://jpos-society.org/pdf/gl/2023delirium/all_2023-guideline-delirium.pdf
新しい内服の開始後に昼と夜で大きく揺れる(せん妄のパターン)
内服の変更以降、日によって、また同じ日でも時間帯で反応のはっきりさが大きく揺れます。急性の発症に続き経過が変動する点が前面に出て、意識・注意の揺れが観察されます。見当識の乱れは伴うことがありますが、主軸は意識・注意の変化です。
※エビデンス
日本麻酔科学会
高齢者における術後せん妄の予防と治療のプラクティカルガイド(2025)
高齢者で術後に急性に発現し、状態が時間帯で変動する特徴を整理しています。定義に沿った「急性」「変動」「意識・注意」の語を安定して用いることが重視されています。
https://anesth.or.jp/files/pdf/guideline_prevention_postoperative_delirium_elderly.pdf
ここで示した事例は、急性/慢性, 変動/持続, 意識・注意, 時間・場所・人物の軸で読み解けます。
理由:「なぜ“見当識障害”と“せん妄”を区別するのか」
夕方の不穏や混乱が似て見えるため、言葉の使い分けが曖昧になりがちです。ここでは、定義と比較軸を固定し、同じフレーズで説明できる理由を整理します。

用語の定義を固定する理由
見当識障害は「時間・場所・人物の認識の低下」として位置づけられます。せん妄は「急性の発症」かつ「意識・注意の障害」を伴い、経過が変動する状態として記述されています。定義を固定すると、慢性の進行と急性の変動を一行で切り分けられ、記録や説明がぶれません。
※エビデンス
国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版
見当識障害を認知症の症状として整理し、「時間・場所・人物」の認識が低下することを示す。経過の捉え方や用語の統一の重要性を明確化している。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
5つの比較軸でそろえる理由
発症の速さ/経過/意識・注意/対象領域/可逆性の5軸を同じ順序と語で並べると、観察から説明までが一本化します。急性/慢性、変動/持続、意識・注意の有無を中核に据えると、表を見ただけで判断の筋道が共有できます。
比較軸 | 用語のそろえ方(同じフレーズで固定) |
---|---|
発症の速さ | 急性の発症/慢性の進行 |
経過 | 変動/持続的 |
意識・注意 | 障害あり/保たれることが多い |
対象領域 | 意識・注意/時間・場所・人物 |
可逆性 | 可逆性がある/可逆性は乏しい |
※エビデンス
日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会
せん妄ガイドライン(2023)
せん妄を急性発症で注意・意識の障害を伴い、経過が変動する状態として定義。比較軸に含める語彙(急性・変動・意識・注意)の中核が明確になる。
https://jpos-society.org/pdf/gl/2023delirium/all_2023-guideline-delirium.pdf
混同が起こりやすい背景を知る
外見上の行動が似て見えることが混同の背景です。夕方の落ち着かない様子は繰り返し出る慢性の進行に一致する一方、術後や体調変化のあとにみられる急性の発症と日内での変動は、定義上はせん妄の枠組みに入ります。同じ行動でも背景が異なることを、語のレベルで理解しておく必要があります。
※エビデンス
日本麻酔科学会
高齢者における術後せん妄の予防と治療のプラクティカルガイド(2025)
高齢者の周術期にみられる急性の発症と経過の変動を整理。定義に沿って「急性」「変動」「意識・注意」を中核語として扱う意義を示している。
https://anesth.or.jp/files/pdf/guideline_prevention_postoperative_delirium_elderly.pdf
チームで同じ言葉を使う理由
同じ順序・同じ語で記録し共有すると、解釈の幅が狭まり、説明の再現性が高まります。組織内で定めた表現を掲示し、急性/慢性・変動/持続・意識・注意の有無を固定語にすると、情報共有が安定します。定義や表現の統一は、文書やカンファレンスでの合意形成にも有利です。
※エビデンス
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
本人中心の支援を進めるうえで、関係者が情報を共有し、標準化された手順・用語で継続的に支援を行う重要性が記されている。組織内の表現整合に資する。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
このセクションでは、定義の固定と5軸の統一が、判断と共有の基盤になることを確認しました。
よくある質問
- Q見当識障害とせん妄の違いは何ですか
- A
見当識障害は「時間・場所・人物の認識の低下」で、慢性の進行が特徴です。せん妄は「急性の発症」かつ「意識・注意の障害」を伴い、経過が変動します。比較の核は急性/慢性、変動/持続、意識・注意/認識です。
※エビデンス
国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版
見当識障害を認知症の症状として「時間・場所・人物の認識の低下」と整理。せん妄は別概念として扱い、用語と経過の違いを区別できる構成。定義の共有に有用。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
- Q夕方の“そわそわ”はせん妄ですか
- A
毎日ほぼ同じ時間に繰り返す落ち着かなさは、慢性の進行としての見当識の乱れに一致することが多いです。急性の発症や経過が変動し、意識・注意が揺れる場合は、せん妄の枠組みで捉えます。
※エビデンス
国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版
時間帯に関連した繰り返しの混乱は、認知症に伴う見当識の乱れとして理解できる枠組みを提示。症状の持続と進行の観点から、急性の変動とは区別できる。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
- Q認知症があってもせん妄は起こりますか
- A
起こります。慢性の進行としての見当識障害があっても、急性の発症で意識・注意が揺れ、経過が変動する状態は、定義上せん妄に該当します。概念は重ならず、経過と中核の症状で区別します。
※エビデンス
日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会
せん妄ガイドライン(2023)
せん妄を急性発症・注意と意識の障害・変動する経過として定義。背景に認知症があっても、急性の変動と中核症状で区別できることを示す。
https://jpos-society.org/pdf/gl/2023delirium/all_2023-guideline-delirium.pdf
- Q見分けの決め手は一つで十分ですか
- A
一つでは足りません。発症の速さ(急性/慢性)・経過(変動/持続)・意識と注意・対象領域(時間/場所/人物)・可逆性の5つの比較軸を同じフレーズで並べて総合的に判断します。
※エビデンス
国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版
定義と観察項目を体系的に提示。用語の統一と多面的な把握が混同防止に有効であることが読み取れる構成。複数軸での判断を支える記述が整っている。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
- Q日中ははっきりして夜にだけ乱れるのはどちらですか
- A
同じ日でも状態が大きく揺れる場合は、経過が変動する点からせん妄の特徴に合致します。意識・注意の揺れが中核です。毎日だいたい同じで持続的なら、見当識障害の特徴に沿います。
※エビデンス
日本麻酔科学会
高齢者における術後せん妄の予防と治療のプラクティカルガイド(2025)
高齢者の周術期における急性の発症と日内での状態変動を整理。定義上の中核語(急性・変動・意識・注意)に沿って、夜間に強い変動の理解が進む構成。
https://anesth.or.jp/files/pdf/guideline_prevention_postoperative_delirium_elderly.pdf
まとめ:「同じフレーズで“違い”を共有する」
本記事で伝えたかったのは、見当識障害は「時間・場所・人物の認識の低下」であり慢性の進行が特徴、一方でせん妄は「急性の発症」で意識や注意の障害を伴い経過が変動するという、両者の根本的な違いです。特に重要なのは、発症の速さ、経過の仕方、意識と注意の有無、対象領域、可逆性という5つの比較軸を、同じ順序・同じフレーズで捉えることです。これによって、記録や情報共有に再現性が生まれ、職員同士の理解に差が出にくくなります。
表や記録に活用する際は、左右を固定して「左=見当識障害/右=せん妄」と整理し、メモには「急性/慢性」「変動/持続」「意識・注意/認識」といった対の表現を繰り返し用いることが効果的です。これらは国立長寿医療研究センターのマニュアル、日本サイコオンコロジー学会や日本麻酔科学会のガイドラインの定義に基づいた整理であり、さらに厚生労働省ガイドラインでも多職種間での情報共有・共通理解が重視されており、この点で本提案と一致する。
出典:
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会
せん妄ガイドライン(2023)
https://jpos-society.org/pdf/gl/2023delirium/all_2023-guideline-delirium.pdf
公益社団法人 日本麻酔科学会
高齢者における術後せん妄の予防と治療のプラクティカルガイド
https://anesth.or.jp/files/pdf/guideline_prevention_postoperative_delirium_elderly.pdf
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
更新履歴
- 2025年9月25日:新規公開