「本当は手作りの温かさを届けたい」その想いも、人手不足の現場では温度管理まで手が回らないのが現実ではないでしょうか。しかしその少しのブレが、思わぬ誤嚥事故に繋がるリスクがあります。
完璧を目指さなくて大丈夫です。安全は市販品に頼ることで確実に守れます。「手抜き」ではなく、利用者の命を守るためのプロの選択を、ここから一緒に見ていきましょう。
この記事を読むと分かること
- 手作りゼリーの誤嚥リスク
- 学会分類0jの必須条件
- 離水(りすい)の本当の怖さ
- 安全な市販品の選び方
- 現場で無理のない対策
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:手作りお茶ゼリーは誤嚥のもと?「物性」の安定が命を守る

現場では「人手が足りず、温度管理まで手が回らない」「作る職員によって硬さがバラバラ」というのが偽らざる本音ではないでしょうか。しかし、その「わずかなブレ」が、高齢者の喉元では命に関わるリスクとなります。
水分が分離する「離水(りすい)」の危険性
一見きれいに固まっているゼリーでも、スプーンですくったり時間が経過したりすると、表面や断面から水が染み出してくることがあります。これを「離水(りすい)」と呼びます。
飲み込む力が弱い高齢者にとって、この「分離した水」は非常に危険です。固形物を飲み込もうとするタイミングとはズレて、水だけが喉の奥へ流れ込み、誤嚥や窒息を引き起こす原因となります。

出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
名称は「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013」とし、本文では略称として「学会分類 2013」と表記し、学会分類 2013(食事)と学会分類 2013(とろみ)の分類を示す。簡便のために学会分類 2013(食事)早見表および学会分類 2013(とろみ)早見表をつくったが、解説文を熟読したうえで活用していただくことを目的としている。
安全なゼリーの条件は「均質」であること
学会分類などの基準において、嚥下に配慮された安全なゼリー(コード0jなど)は、単に柔らかいだけでなく「均質であること」が求められます。
手作りのお茶ゼリーは、攪拌(かくはん)不足や冷却ムラにより、場所によって硬さが違ったり、ダマができたりしがちです。
不均質なゼリーは口の中でまとまりにくく、安全な基準を満たすことは非常に困難です。
出典元の要点(要約)
国立国際医療研究センター嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発 令和元年度 総括・分担研究報告書
https://www.hosp.jihs.go.jp/s027/100/R1_Report.pdf
「コード3」は形はあるが舌と口蓋(上あご)間で押しつぶしが可能なもの、「コード4」は箸やスプーンで切れるやわらかさで、歯がなくても対応可能だが上下の歯ぐきの間で押しつぶすあるいはすりつぶすことが必要なものとされている。
「時間経過」による変化を見逃さない
調理直後は良い状態でも、配膳車で運ばれ、介助が始まるまでの間にゼリーの状態が変化してしまうことがあります。
とろみ調整食品やゲル化剤は、混ぜてから安定するまでに時間を要したり、逆に時間が経つと物性が変わるものがあります。
現場の忙しさの中で、提供直前の状態を毎回チェックするのは現実的ではありません。だからこそ、時間の経過に強い製品選びが重要です。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
とろみを付けることは安全に液体を摂取してもらうための対応であるが,腹部膨満感を誘発したりさっぱり感が少ないため摂取量が少なくなったりする場合が多いとの報告があり,脱水予防のためには摂取量の把握が必要としている.とろみ調整食品は数十秒を要する場合が多く,所定の量を十分混ぜ,時間がたってからとろみの程度を評価して判断する必要がある.また味や香りが劣化すること,糖尿病の患者に大量に使用する場合はエネルギー計算が必要であること,付着性などが異なるため試飲を心がけたいことを示している.
手作りの温かさは大切ですが、それで誤嚥を招いては本末転倒です。「離水しない」「均質である」「時間が経っても変わらない」という条件を確実に満たすためには、手作りにこだわらず、物性が保証された既製品や専用ゲル化剤に頼ることが、利用者の命を守る賢明な選択です。
よくある失敗事例:手作りに潜む「見えない」リスク

「プルプルしていれば大丈夫」「スプーンに乗ればゼリー」だと思っていませんか。 忙しい業務の合間に作ったゼリーが、実は基準を満たしていないことは珍しくありません。現場では「見た目はゼリーなのに、なぜかむせ込んでしまう」という事例が後を絶ちませんが、その原因は物性の科学的特性にあります。
口の中でバラバラになる「凝集性の欠如」
スプーンですくった時は固まりに見えても、口に入れた瞬間に細かく砕けてしまい、まとまりがなくなるケースです。
学会分類2013では、嚥下調整食(コード0jなど)の条件として、単に柔らかいだけでなく「均質であること」が求められます。
口の中でバラバラになると、食塊(飲み込むための固まり)が形成できず、細かい粒や水分が意図せず喉の奥へ流れ込んでしまいます。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
ゼリー飲料(いわゆるドリンクゼリー)、離水量、離水
時間差で水が出てくる「離水(りすい)」
調理直後は問題なくても、配膳車での移動や食事介助の待ち時間の間に、ゼリーから水分が分離してしまう現象です。
特にとろみ調整食品やゲル化剤を使用する場合、混ぜてから安定するまでに時間が必要だったり、逆に時間が経つと性状が変化したりすることがあります。
エビデンスでは、とろみやゼリーの状態は「作ってすぐ」ではなく、「時間がたってから」評価する必要があるとされています。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
とろみ調整食品は数十秒を要する場合が多く,所定の量を十分混ぜ,時間がたってからとろみの程度を評価して判断する必要がある.
喉に張り付く「付着性」の問題
「飲み込みやすさ」を重視して柔らかくしすぎた結果、逆にベタつきが強くなり、喉に残ってしまうケースです。
学会分類では、飲み込みやすさの指標として硬さや凝集性(まとまり)に加え、「付着性」も考慮すべき重要な要素として挙げています。
特に高齢者の場合、喉に張り付いたゼリーを咳払いで排出する力が弱いため、窒息や残留のリスクが高まります。安全確認には必ず試飲が推奨されています。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
付着性などが異なるため試飲を心がけたいことを示している.
どんなに心を込めて作っても、「離水」「不均質」「付着性」の問題は、目視だけでは見抜けないことがあります。これらは「調理の腕」ではなく「物性の特性」の問題であるため、個人の努力で解決しようとせず、適切な調整食品や既製品に頼ることが事故防止の近道です。
なぜ手作りでは「安全基準」を満たせないのか

「前回と同じ分量で作ったはずなのに、今日は少し緩い気がする」そんな経験はありませんか。 現場では、他の業務に追われながらの調理となるため、厳密な計量や温度管理はどうしても後回しになりがちです。しかし、その「なんとなく」の調整が、嚥下障害のある方にとっては命取りになりかねません。
「時間経過」で変化する物性の罠
とろみ調整食品やゲル化剤を使用した調理において、最も厄介なのが「時間の経過」による変化です。
作った直後はちょうど良い硬さに見えても、冷蔵庫で冷やし固める時間や、配膳してから口に入るまでの間に、物性が変化してしまうことがあります。
学会の分類でも、とろみ等の評価は混ぜてすぐではなく、「時間がたってから」行う必要があるとされています。常に一定の時間管理が難しい現場の手作りでは、この変化を予測しコントロールすることが極めて困難です。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
とろみ調整食品は数十秒を要する場合が多く,所定の量を十分混ぜ,時間がたってからとろみの程度を評価して判断する必要がある.
見た目では分からない「付着性」のリスク
「スプーンですくって逆さにしても落ちないから大丈夫」というのは、実は危険なサインかもしれません。
飲み込みやすさを判断する基準は「硬さ」だけではありません。喉越しや張り付きやすさを示す「付着性」も重要な要素です。
特に手作りで濃度を濃くしすぎた場合、ベタつきが強くなり、喉の奥に張り付いて窒息の原因になります。この「付着性」の違いは見た目では判断できず、実際に試飲をして確認することが推奨されていますが、毎食全てのチェックは現実的ではありません。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
また味や香りが劣化すること,糖尿病の患者に大量に使用する場合はエネルギー計算が必要であること,付着性などが異なるため試飲を心がけたいことを示している.
家庭用の調理器具と環境で、常に「時間経過による安定性」と「適切な付着性」を保証し続けることは、事実上不可能です。個人のスキルに依存せず、工業的に管理された製品を使用することが、変動する現場のリスクを最小限に抑える唯一の解決策と言えます。
疑問を解消:現場で迷う「ゼリー食」の判断基準
現場では、個別の状況に応じた判断を迫られる場面が多々あります。「これで本当に大丈夫かな?」と迷ったときに立ち返るべき基準を、エビデンスに基づいて整理しました。
- Qとろみ剤を濃く入れて、ゼリーの代わりにしても良いですか?
- A
ゼリー(ゲル)と「とろみ(ゾル)」は物性が異なるため、単に濃くするだけでは代用にならない場合があります。 とろみ調整食品は濃度を上げると「付着性(ベタつき)」が強くなりやすく、喉の奥に張り付いて残留するリスクがあります。必ず試飲を行い、飲み込みやすさを確認することが推奨されます。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
とろみ調整食品は数十秒を要する場合が多く,所定の量を十分混ぜ,時間がたってからとろみの程度を評価して判断する必要がある.また味や香りが劣化すること,糖尿病の患者に大量に使用する場合はエネルギー計算が必要であること,付着性などが異なるため試飲を心がけたいことを示している.
- Q作ってから時間が経ったゼリーを提供しても大丈夫ですか?
- A
時間経過による変化に注意が必要です。 作りたては良くても、時間が経つと水分が分離する「離水」が生じたり、ゲル化剤やとろみ調整食品の特性によって物性が変化したりすることがあります。提供の直前にも状態を確認するか、時間が経っても物性が安定している製品を選ぶことが望ましいです。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
とろみ調整食品は数十秒を要する場合が多く,所定の量を十分混ぜ,時間がたってからとろみの程度を評価して判断する必要がある.
- Q安全なゼリーかどうかを見分けるポイントはありますか?
- A
柔らかさだけでなく、「均質さ」と「離水のなさ」が重要な判断基準となります。 学会分類における嚥下訓練食品(コード0jなど)では、スプーンですくった際に形が保たれ、かつ水分が分離せず、全体が均一(均質)であることが求められます。ムラがあったり水が出たりしているものは、誤嚥のリスクを考慮する必要があります。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf
ゼリー飲料(いわゆるドリンクゼリー)、離水量、離水国立国際医療研究センター
嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発 令和元年度 総括・分担研究報告書
https://www.hosp.jihs.go.jp/s027/100/R1_Report.pdf
「コード3」は形はあるが舌と口蓋(上あご)間で押しつぶしが可能なもの、「コード4」は箸やスプーンで切れるやわらかさで、歯がなくても対応可能だが上下の歯ぐきの間で押しつぶすあるいはすりつぶすことが必要なものとされている。
「迷ったらエビデンス(基準)」に戻ることが、利用者と自分自身を守ることにつながります。すべての疑問を一人で抱え込まず、こうした基準をチームで共有し、無理のない範囲で安全な選択を積み重ねていきましょう。
まとめ:愛情よりも「確実な安全」を。明日からできる第一歩
本記事では、手作りお茶ゼリーに潜む「離水」や「不均質」のリスクと、学会分類に基づく安全基準について解説しました。
多忙な介護現場において、温度や攪拌を厳密に管理し、毎回完璧な物性を手作りで再現することは非常に困難です。だからこそ、まずは以下の点から見直してみてはいかがでしょうか。
- 現状のチェック:提供しているゼリーをスプーンですくい、皿の上で10分ほど置いて「水が出てこないか(離水)」を確認する。
- ツールの活用:常に安定した物性を持つ「市販の嚥下調整食」や、離水を防ぐ「介護食専用ゲル化剤」の導入を検討する。
利用者に「美味しい」と感じてもらうための大前提は、「安全に飲み込めること」です。便利な既製品や専用品を頼ることは、決して手抜きではありません。利用者の命を守る「プロの選択」として、現場の運用を少しずつ見直していきましょう。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2025年10月13日:新規公開
- 2025年12月28日:より詳細なエビデンス(根拠)に基づき解説を充実させるとともに、最新のサイト基準に合わせて構成・レイアウトを見やすく刷新。


