「申し送りで伝えたはずなのに」「いや、聞いてない」…介護現場での「言った・言わない」は、人間関係のストレスになるだけでなく、ヒヤリハットや重大な事故にも直結しかねません。 「また自分のせいにされた」と、報告や相談自体が怖くなっていませんか?
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます。
この記事を知っていると
この記事では、エビデンスに基づき、「言った・言わない」をなくすための具体的な伝達・傾聴の技術を解説します。
結論:「言った・言わない」は「技術」と「関係性」で防ぐ
介護現場の「言った・言わない」は、個人の記憶力や注意力の問題だけではありません。チームの「伝達技術」と「関係性」の課題です。専門資料は、安心して話せる関係性と、明確な伝達技術の両方が不可欠であると示しています。

「安心して話せる関係」の構築が土台
「言った・言わない」の根本には、報告や相談がしにくい「職場の空気」があります。厚生労働省の資料では、信頼関係の基盤は、話し手が「安心して自由に振る舞ったり、素直な感情を表現できる」状態にあることとされます。 北海道医療ソーシャルワーカー協会の資料も、良好なコミュニケーションを「自分の気持ちをわかってくれた。聞いてもらえた。」と相手が感じる状態と定義しています。これは「意図的に関わることで構築可能」な「専門的信頼関係」であり、まずこの土台を築くことが伝達ミスの防止につながります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
大学等におけるキャリア教育・キャリア支援に携わる教職員等のためのテキスト 第1章 カウンセリングのスキル
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/h24text-15.pdf
・「話し手に安心感を持ってもらい、心を開いて相談してもらうために、聴き手にはカウンセラーの基本的態度(積極的に聴く態度)が求められる」 ・基本的態度:「純粋性(自己一致)」「受容的態度」「共感的理解」 ・ラポールは「話し手と聴き手の間に築かれる信頼関係」 聴き手が「純粋性(自己一致)」「受容的態度」「共感的理解」を備えた「積極的に聴く態度」をとることで、ラポール(信頼関係)が構築され、安心して本音を語れる関係が成立する。
一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会/独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
対人援助における面接・コミュニケーション技術 良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「良好なコミュニケーションとは」「自分の気持ちをわかってくれた。聞いてもらえた。」など相手が安心感や満足感を得られる状態と定義 ・「ラポール=専門的信頼関係を構築できること」と示し、意図的に関わることで構築可能と説明 ・対人援助職にとってラポールは「その仕事を確かなものとするために必要な基本となる関係性」と位置付ける 本資料は、良好なコミュニケーションを「自分の気持ちをわかってくれた」「聞いてもらえた」と感じられることにより「安心感や満足感を得られる」状態とし、「ラポール=専門的信頼関係」を意図的な関わりで構築することが対人援助の基本と述べる。
「傾聴と要約」の技術でズレを防ぐ
伝達ミスは、具体的な技術で防ぐことができます。北海道医療センターの資料では、「あいづち」「繰り返し」「言いかえ」「要約」といった基本的かかわり技法が示されています。 これらは、相手に「真剣に聞いてくれているという安心感」を与えるだけでなく、厚生労働省の資料が示すように「双方で確認することで、共有理解を図る」役割を持ちます。「言った・言わない」という認識のズレを、その場で修正する最も確実な技術です。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会/独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
対人援助における面接・コミュニケーション技術 良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「基本的かかわり技法」として「あいづち」「繰り返し」「言いかえ」「感情の反射・反映」を提示 ・「真剣に聞いてくれているという安心感」を与えると説明 ・「批判抜きで話を聞いてくれていることがクライエントにわかる」と記載 本資料は、あいづち・繰り返し・言いかえ・感情の反射・反映といった基本的かかわり技法が、批判抜きで真剣に話を聴いている姿勢を可視化し、「真剣に聞いてくれているという安心感」と信頼感を高める中心的手段であると明示している。
厚生労働省
大学等におけるキャリア教育・キャリア支援に携わる教職員等のためのテキスト 第1章 カウンセリングのスキル
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/h24text-15.pdf
・要約は「クライエントの話の要点を簡潔にまとめて伝える」技法として示される ・「双方で確認することで、共有理解を図る」役割をもつ ・誤解の修正にも用いられる 要約技法は、クライエントの語りから要点を抽出し簡潔に言い直すことで共有理解を確認し、誤解を修正する働きをもつとされる。このプロセスにより「わかってくれている」という感覚が生まれ、信頼感の強化につながる枠組みとして提示されている。
「明確な伝達」は専門職としての責任
そもそも伝達が曖昧であれば、ズレが生じるのは当然です。北海道医療センターの資料では、「言葉は誤解を生む可能性がある」と指摘し、「わかりやすく」「明確に」表現する必要性を示しています。 特に、憶測や「援助者側の都合にもとづいた視点」での伝達は「誤解や認識のずれ」を生む原因となります。明確な言葉で伝え、確認することは、専門職としての誠実な責任です。
出典元の要点(要約)
北海道医療センター/一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会
良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「言葉は誤解を生む可能性がある」ことが指摘される ・相手に伝わるよう「わかりやすく」「明確に」表現する必要性が述べられる ・適切な説明により「ラポールが構築できる」「良好な関係作りが期待できる」と記載 本資料は、不用意な言葉が誤解を招くリスクを示し、わかりやすく誠実な説明が信頼関係を支えると整理している。伝達内容を相手に合わせて明確に伝えることが、安心感とラポールの形成に直結する具体的態度として示されている。
一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会/独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
対人援助における面接・コミュニケーション技術 良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「援助者側の都合にもとづいた視点」で患者・家族を判断すると「本当のニーズを把握できずに誤解や認識のずれ」が生じる可能性を指摘 ・言葉の誤解の事例を挙げ,わかりやすい説明の重要性を示す ・信頼関係構築のため,相手の生活背景や価値観を含めた理解を求める 資料は,援助者の都合や専門用語に基づく一方的判断が「本当のニーズ」の把握を妨げ,誤解や認識のずれを生むとし,相手の生活・価値観を踏まえた丁寧な説明と理解が信頼関係と満足感につながると示している。
このように、「言った・言わない」を防ぐ鍵は、個人の努力ではなく、「安心して話せる土壌」と「誤解をなくす伝達技術」という、チーム全体の専門的なスキルにあります。
よくある事例(信用が揺らぎがちな場面)
中堅介護士として経験を積むと、日々の業務の中で無意識のうちに「信用」を揺るがしかねない対応をしてしまう瞬間があります。ここでは、現場でよくある3つの場面を、専門資料(エビデンス)に基づき確認します。

事例1:憶測や曖昧な言葉での申し送り
「たぶん」「~と思う」といった曖昧な言葉や、確認不足のまま憶測で申し送りをしていないでしょうか。北海道医療センターの資料では、援助者側の都合にもとづく視点での判断が「誤解や認識のずれ」を生む可能性を指摘しています。また、同資料では「言葉は誤解を生む可能性がある」ため、「わかりやすく」「明確に」表現する必要性も示されています。不確かな伝達は「言った・言わない」の最大の原因です。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会/独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
対人援助における面接・コミュニケーション技術 良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「援助者側の都合にもとづいた視点」で患者・家族を判断すると「本当のニーズを把握できずに誤解や認識のずれ」が生じる可能性を指摘 ・言葉の誤解の事例を挙げ,わかりやすい説明の重要性を示す ・信頼関係構築のため,相手の生活背景や価値観を含めた理解を求める 資料は,援助者の都合や専門用語に基づく一方的判断が「本当のニーズ」の把握を妨げ,誤解や認識のずれを生むとし,相手の生活・価値観を踏まえた丁寧な説明と理解が信頼関係と満足感につながると示している。
北海道医療センター/一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会
良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「言葉は誤解を生む可能性がある」ことが指摘される ・相手に伝わるよう「わかりやすく」「明確に」表現する必要性が述べられる ・適切な説明により「ラポールが構築できる」「良好な関係作りが期待できる」と記載 本資料は、不用意な言葉が誤解を招くリスクを示し、わかりやすく誠実な説明が信頼関係を支えると整理している。伝達内容を相手に合わせて明確に伝えることが、安心感とラポールの形成に直結する具体的態度として示されている。
事例2:忙しさで話を遮り、結論を急ぐ
多忙なため、同僚や後輩の話を最後まで聞かず、「つまり、~ということね」と話を遮ったり、結論を急いだりしていないでしょうか。北海道医療センターの資料では、「沈黙を利用しじっくり待つことも必要」とされ、「急かさない態度」が信頼感につながると整理されています。厚生労働省の資料でも、相談者の主体性に応じて柔軟に進行し、聴き手が結論を急がない姿勢が求められています。相手のペースを尊重しないことは、「聞いてもらえない」という不信感を生みます。
出典元の要点(要約)
北海道医療センター/一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会
良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「質問技法」はクライエントが話しやすい状況をつくることを目的とする ・「沈黙を利用しじっくり待つことも必要」と記載 ・クレーム対応でも「あいづち、復唱を駆使して話を伺う。共感を示す言葉を伝えることが重要、かつ有効。同情することではない。ラポールをつくる。」とされる 開かれた質問、沈黙の尊重、共感的な応答は、相手に話す余地と尊重を与える技法として整理されている。特にクレーム対応場面での傾聴と共感表現は、相手の感情を受け止めつつラポールを形成する具体的態度として明記され、信頼回復にも直結する姿勢として提示されている。
厚生労働省
大学等におけるキャリア教育・キャリア支援に携わる教職員等のためのテキスト 第1章 カウンセリングのスキル
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/h24text-15.pdf
・相談の流れは「話を聴く → 理解する → 目標を共有する → まとめる」と段階化される ・この段階性は「相談者の主体性に応じて柔軟に進行する」ものとされる ・焦点化は相談を進めるために必要とされる 相談は一定の流れに基づいて進行するが、相談者の状態や主体性に合わせて柔軟に調整することが重要とされる。焦点化は解決の方向性を明確にするための行為として位置づけられ、聴き手が結論を急がずに、相談者のペースに寄り添う姿勢を保つ必要がある。
事例3:報告や相談を「評価・批判」してしまう
同僚や後輩からの報告(特にミスの報告)に対し、「なぜそうなったの?」と問い詰めたり、「普通はこうするよ」と評価や批判から入ったりしていないでしょうか。厚生労働省の資料では、「評価を避ける」姿勢が「受容的態度」の前提であると明確に示されています。北海道医療センターの資料でも、「命令・否定・決めつけ表現は不信を招く」と指摘されています。こうした態度は「報告しにくい雰囲気」を作り、情報共有そのものを妨げます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
大学等におけるキャリア教育・キャリア支援に携わる教職員等のためのテキスト 第1章 カウンセリングのスキル
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/h24text-15.pdf
・「評価を避ける」姿勢が受容的態度の前提とされる ・相談者の感情を否定したり修正しようとしない ・「理解しようと努めること」そのものが重要 相談者の語りに対して、良い・悪い・正しい・間違っているといった判断を加えないことが受容の中心となる。理解しようとする努力そのものが、相談者に「尊重されている感覚」を与え、心を開きやすくする要因となる。
北海道医療センター/一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会
良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・命令・否定・決めつけ表現は不信を招く(該当ページ) ・相手の背景や事情を考慮する必要性を強調 ・援助者の態度が関係の質を左右する 言葉の選択が信頼形成に直結する点が明示されている。
これらの事例は、いずれも「関係性(安心感)」と「伝達技術(明確さ・傾聴)」のどちらかが欠けている状態です。日々の業務で意識的に見直すことが重要です。
理由:「言った・言わない」を防ぐ「技術」と「関係性」の根拠
では、なぜ「安心して話せる関係」や「傾聴・要約」が「言った・言わない」を防ぐのでしょうか。それは、これらが人間の心理とコミュニケーションの原則に深く根ざしているからです。専門資料が示す根拠を解説します。

根拠1:人は「評価される」と口を閉ざす(受容的態度)
「言った・言わない」が起こる職場は、しばしば「報告しにくい雰囲気」を持っています。厚生労働省の資料では、信頼関係の前提として「評価を避ける」姿勢、すなわち「受容的態度」が挙げられています。 人は、自分の話(特にミスや懸念点)を「良い・悪い」「正しい・間違い」と判断(評価)されると感じると、防衛的になり、本音を話すことをためらいます。北海道医療センターの資料でも、相手を「レッテルで裁く」ことをせず、非審判的な態度をとることが信頼の要件とされています。まず「評価しない」ことが、情報共有の土台となります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
大学等におけるキャリア教育・キャリア支援に携わる教職員等のためのテキスト 第1章 カウンセリングのスキル
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/h24text-15.pdf
・「評価を避ける」姿勢が受容的態度の前提とされる ・相談者の感情を否定したり修正しようとしない ・「理解しようと努めること」そのものが重要 相談者の語りに対して、良い・悪い・正しい・間違っているといった判断を加えないことが受容の中心となる。理解しようとする努力そのものが、相談者に「尊重されている感覚」を与え、心を開きやすくする要因となる。
一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会/独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
対人援助における面接・コミュニケーション技術 良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・ソーシャルワークの価値として「人権の尊重と平等」「個性の尊重」「自己決定の尊重」「受容」等を提示 ・「過去の先入観やレッテルで相手を裁くのではなく、逆にレッテルをはがし、その人の真の価値と力を引き出す」 本資料は、人権と個性、自己決定を尊重し、レッテルをはがして真の価値と力を見出す姿勢が、医療を含む対人援助職において良好なコミュニケーションと信頼関係を築くための不可欠な価値であると強調している。
根拠2:「傾聴(繰り返し・要約)」が「理解の証拠」となる
「言った・言わない」は、「伝えた」という事実と「伝わった」という認識のズレです。北海道医療センターの資料では、「繰り返し」や「言いかえ」といった技法が、「真剣に聞いてくれているという安心感」を与える重要な手段として示されています。 さらに、厚生労働省の資料では、「要約」は「双方で確認することで、共有理解を図る」役割を持つとされます。つまり、相手の言葉を繰り返したり要約したりする行為は、「私はあなたの話をこのように受け取りました」という「理解の証拠」を相手に提示し、その場で認識のズレを修正する作業なのです。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会/独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
対人援助における面接・コミュニケーション技術 良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「基本的かかわり技法」として「あいづち」「繰り返し」「言いかえ」「感情の反射・反映」を提示 ・「真剣に聞いてくれているという安心感」を与えると説明 ・「批判抜きで話を聞いてくれていることがクライエントにわかる」と記載 本資料は、あいづち・繰り返し・言いかえ・感情の反射・反映といった基本的かかわり技法が、批判抜きで真剣に話を聴いている姿勢を可視化し、「真剣に聞いてくれているという安心感」と信頼感を高める中心的手段であると明示している。
厚生労働省
大学等におけるキャリア教育・キャリア支援に携わる教職員等のためのテキスト 第1章 カウンセリングのスキル
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/h24text-15.pdf
・要約は「クライエントの話の要点を簡潔にまとめて伝える」技法として示される ・「双方で確認することで、共有理解を図る」役割をもつ ・誤解の修正にも用いられる 要約技法は、クライエントの語りから要点を抽出し簡潔に言い直すことで共有理解を確認し、誤解を修正する働きをもつとされる。このプロセスにより「わかってくれている」という感覚が生まれ、信頼感の強化につながる枠組みとして提示されている。
根拠3:「非言語(姿勢・視線)」が「聴く意思」を伝える
忙しい現場では「PCを見ながら」「作業しながら」話を聞きがちです。しかし、厚生労働省の資料では、視線、身体言語(姿勢)、声の質といった「かかわり行動」が信頼関係の土台であると体系化されています。 北海道医療センターの資料でも、「開かれた姿勢」や適切な視線が「受容のサイン」となり、「相談者の緊張を和らげる」と示されています。これらの非言語的な態度は言葉よりも早く伝わり、「私は今、他の作業よりもあなたの話を優先しています」という明確な意思表示となります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
大学等におけるキャリア教育・キャリア支援に携わる教職員等のためのテキスト 第1章 カウンセリングのスキル
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/h24text-15.pdf
・かかわり行動は「相手に視線を合わせる」「身体言語に配慮する」「声の質に配慮する」「言語的追跡をする」 ・基本的傾聴の連鎖として「質問」「クライエント観察技法」「はげまし、いいかえ、要約」「感情の反映」を挙げる 要約文:視線、姿勢、声の質、言語的追跡などのかかわり行動と、質問、観察、はげまし、要約、感情の反映からなる基本的傾聴の連鎖を用いることにより、話を深めつつ「積極的に聴く態度」を示し、話し手に「話をちゃんと聞いてもらえる」という印象と信頼感を与える技法として体系化している。
北海道医療センター/一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会
良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・非言語コミュニケーションは「緊張を和らげる」と記載 ・身体の向き・姿勢・目線が「受容のサイン」になる ・閉鎖的姿勢は「拒否のシグナル」とされる 姿勢や視線などの非言語的な応答は、言葉よりも早く相手に印象を与える。開かれた姿勢は「受け入れている」サインとして機能し、信頼形成を助ける。
このように、「言った・言わない」を防ぐ技術とは、相手に「あなたの話を安全に、正確に受け止めました」というメッセージを、態度と技術で伝え続けることです。
FAQ(よくある質問)
職場の連携や情報共有に関して、よくある疑問にエビデンスに基づき回答します。
- Q威圧的な上司・先輩がいて、「安心して話せる関係」を作れません。
- A
相手を変えることは困難ですが、関係性は双方向です。日本カウンセリング学会の研究では、人は相手を「似ている」と知覚することで「信頼感」が増し、「自己開示(安心して話すこと)」が促進される可能性が示されています。 また、北海道医療センターの資料では、「協働関係」は援助者が「上」ではなく「隣にいる」姿勢、すなわち対等性の上で成立すると示されています。威圧的な相手にも、まずはこちらから誠実な報告や相談を「技術」として試みることが、関係性を変える一歩になるかもしれません。
出典元の要点(要約)
日本カウンセリング学会誌(Counseling Science)
類似性が自己開示へ与える影響 ―類似面の差異に着目して―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cou/46/4/46_197/_pdf
表面的類似は「信頼感」「好意感」「内面的自己開示」に正の影響 内面的類似は「信頼感」「好意感」に正の影響 類似性→(信頼感・好意感を媒介)→自己開示を促進 表面・内面の両側面での「似ている」の知覚が、信頼・好意を介し自己開示を高めるパスが示された。
一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会/独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
対人援助における面接・コミュニケーション技術 良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「協働関係」が援助の継続性を支える ・援助者が「上」ではなく「隣にいる」姿勢 ・信頼は対等性の上で成立する 援助は指導ではなく協働であり、上下関係ではなく対等性が信頼を強める基盤となる。
- Q忙しすぎて、いちいち「要約」したり話を全部聞いたりする時間がありません。
- A
北海道医療センターの資料では、援助者が「時間がない」と思った時点で関係作りは上手くいかないと指摘されています。「言った・言わない」による手戻りや事故対応は、結果的により多くの時間を奪います。 厚生労働省の資料が示す「要約」は、単に時間をかける行為ではなく、話の「エッセンスを確認する」ことで「焦点化」し、むしろ効率的な「共有理解」を図るための専門技術です。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会/独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
対人援助における面接・コミュニケーション技術 良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「時間がない」と思った時点で関係作りは上手くいかないと指摘 ・矢継ぎ早の質問や結論の押しつけは「満足感」という観点からは逆効果とする ・話を聴くことで「どうしたいか、どうして欲しいかを相手に語ってもらうことができる」と述べる 資料は、援助者が「時間がない」と感じて急いで結論づける態度は満足感を損ない、関係作りを妨げるとし、相手の語りを十分に聴くことによって自らの「どうしたいか、どうして欲しいか」を語れる場が生まれ、信頼と安心感に結びつくと示している。
厚生労働省
大学等におけるキャリア教育・キャリア支援に携わる教職員等のためのテキスト 第1章 カウンセリングのスキル
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/h24text-15.pdf
・要約は「クライエントの話の要点を簡潔にまとめて伝える」技法として示される ・「双方で確認することで、共有理解を図る」役割をもつ ・誤解の修正にも用いられる 要約技法は、クライエントの語りから要点を抽出し簡潔に言い直すことで共有理解を確認し、誤解を修正する働きをもつとされる。このプロセスにより「わかってくれている」という感覚が生まれ、信頼感の強化につながる枠組みとして提示されている。
- Q他職種(看護師など)との連携がうまくいきません。
- A
専門職同士の連携では、まず互いの「ものの見方・感じ方」が人によって違うことを理解し、「その違いを認める」ことが必要だと北海道医療センターの資料は示しています。 その上で、相手を「支援する人」として尊重し、「傾聴」を通して課題を共有する協働的姿勢が求められます。専門用語を避け、「わかりやすく」「明確に」伝える誠実な説明責任も、誤解を防ぐために不可欠です。
出典元の要点(要約)
北海道医療センター/一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会
良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「ものの見方・感じ方」は「人によって違うということを理解し、その違いを認めることが必要です」と記載 ・クライエントの背景や価値観を理解する重要性が繰り返し説明される ・「生活者」の視点から個別の生活と価値観を尊重する姿勢が示される 対人援助においては、相手の「ものの見方・感じ方」の違いを前提に、その違いを認める態度をとることが求められている。本人の生活背景や価値観を尊重し「生活者」として理解する姿勢は、相手を一人の主体として扱うための基礎であり、信頼感と受容感を生む関わり方として位置づけられる。
一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会/独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
対人援助における面接・コミュニケーション技術 良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「信頼関係を構築するには」の項で、共感的姿勢と共有可能な目標の重要性を示す ・「対象者の問題の専門家は対象者自身」であると記載 ・傾聴を通して対象者と課題を共有することが強調される 本資料は、信頼関係構築にあたり、対象者を自らの問題の専門家として尊重し、傾聴を通して課題と目標を共有する共感的・協働的姿勢が求められるとし、一方向的な指示ではなくパートナーシップが信頼の基盤になると示している。
北海道医療センター/一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会
良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「言葉は誤解を生む可能性がある」ことが指摘される ・相手に伝わるよう「わかりやすく」「明確に」表現する必要性が述べられる ・適切な説明により「ラポールが構築できる」「良好な関係作りが期待できる」と記載 本資料は、不用意な言葉が誤解を招くリスクを示し、わかりやすく誠実な説明が信頼関係を支えると整理している。伝達内容を相手に合わせて明確に伝えることが、安心感とラポールの形成に直結する具体的態度として示されている。
職場の悩みは、専門的な知識(エビデンス)に立ち返ることで、感情論ではなく「技術」として対処する糸口が見つかります。
まとめ:「言った・言わない」は技術であり、日々の実践である
介護現場の「言った・言わない」は、個人の能力ではなく、チームの「技術」と「姿勢」で防ぐことができます。専門資料が示す重要なポイントを振り返ります。
「評価しない態度」で心理的安全性を確保する
ミスを防ぐ土壌は「安心感」です。厚生労働省の資料が示す「受容的態度(評価を避ける)」をチーム全体で実践し、報告や相談を「批判・非難」しない文化を作ることが最優先です。相手を評価せず、その人の「真の価値と力を引き出す」という姿勢が、安心して話せる関係の基盤となります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
大学等におけるキャリア教育・キャリア支援に携わる教職員等のためのテキスト 第1章 カウンセリングのスキル
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/h24text-15.pdf
「評価を避ける」姿勢が受容的態度の前提とされる 相談者の感情を否定したり修正しようとしない 「理解しようと努めること」そのものが重要 相談者の語りに対して、良い・悪い・正しい・間違っているといった判断を加えないことが受容の中心となる。理解しようとする努力そのものが、相談者に「尊重されている感覚」を与え、心を開きやすくする要因となる。
一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会/独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
対人援助における面接・コミュニケーション技術 良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・ソーシャルワークの価値として「人権の尊重と平等」「個性の尊重」「自己決定の尊重」「受容」などを列挙 ・「過去の先入観やレッテルで相手を裁くのではなく、逆にレッテルをはがし、その人の真の価値と力を引き出す」と記載 ・これらの価値は「人を対象としている医療関係職にとっても、コミュニケーションを良好とするためには必要」とする 人権の尊重と平等、個性の尊重、自己決定の尊重、受容などの価値を基盤とし、先入観やレッテルではなく「真の価値と力」を見出す姿勢が、医療・対人援助職が良好なコミュニケーションと信頼関係を築く上で不可欠であると位置付けている。
「傾聴と要約」で「伝わった証拠」を残す
伝達ミスは「傾聴」で防ぎます。北海道医療センターの資料が示す「繰り返し」や「要約」を実践し、「真剣に聞いてくれている安心感」を与えると同時に、厚生労働省の資料が示す「共有理解」という証拠を双方で確認することが重要です。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会/独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
対人援助における面接・コミュニケーション技術 良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「基本的かかわり技法」として「あいづち」「繰り返し」「言いかえ」「感情の反射・反映」を提示 ・「真剣に聞いてくれているという安心感」を与えると説明 ・「批判抜きで話を聞いてくれていることがクライエントにわかる」と記載 本資料は、あいづち・繰り返し・言いかえ・感情の反射・反映といった基本的かかわり技法が、批判抜きで真剣に話を聴いている姿勢を可視化し、「真剣に聞いてくれているという安心感」と信頼感を高める中心的手段であると明示している。
厚生労働省
大学等におけるキャリア教育・キャリア支援に携わる教職員等のためのテキスト 第1章 カウンセリングのスキル
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/h24text-15.pdf
・要約は「クライエントの話の要点を簡潔にまとめて伝える」技法として示される ・「双方で確認することで、共有理解を図る」役割をもつ ・誤解の修正にも用いられる 要約技法は、クライエントの語りから要点を抽出し簡潔に言い直すことで共有理解を確認し、誤解を修正する働きをもつとされる。このプロセスにより「わかってくれている」という感覚が生まれ、信頼感の強化につながる枠組みとして提示されている。
「明確な言葉」で誤解の種をなくす
憶測や曖昧な言葉を避け、「わかりやすく」「明確に」伝えることは専門職の責任です。北海道医療センターの資料では、援助者側の都合にもとづく判断が「誤解や認識のずれ」を生むと指摘されています。誠実な説明が、ラポール(信頼関係)を支えます。
出典元の要点(要約)
北海道医療センター/一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会
良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「言葉は誤解を生む可能性がある」ことが指摘される ・相手に伝わるよう「わかりやすく」「明確に」表現する必要性が述べられる ・適切な説明により「ラポールが構築できる」「良好な関係作りが期待できる」と記載 本資料は、不用意な言葉が誤解を招くリスクを示し、わかりやすく誠実な説明が信頼関係を支えると整理している。伝達内容を相手に合わせて明確に伝えることが、安心感とラポールの形成に直結する態度として示されている。
一般社団法人 北海道医療ソーシャルワーカー協会/独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
対人援助における面接・コミュニケーション技術 良好な関係を築くためのコミュニケーション技法
・「援助者側の都合にもとづいた視点」で患者・家族を判断すると「本当のニーズを把握できずに誤解や認識のずれ」が生じる可能性を指摘 ・言葉の誤解の事例を挙げ,わかりやすい説明の重要性を示す ・信頼関係構築のため,相手の生活背景や価値観を含めた理解を求める 資料は,援助者の都合や専門用語に基づく一方的判断が「本当のニーズ」の把握を妨げ,誤解や認識のずれを生むとし,相手の生活・価値観を踏まえた丁寧な説明と理解が信頼関係と満足感につながると示している。
この記事でお伝えした、専門資料に基づく「伝達」と「傾聴」の技術が、介護の専門職として働くあなたの自信となり、日々の業務の支えとなれば幸いです。
「言った・言わない」のストレスをなくし、あなた自身とチーム、そして利用者さんの安心を守るために、この記事が少しでもお役に立てたなら、これほどうれしいことはありません。
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更新履歴
- 2025年11月20日:新規投稿


