【食事介助】 食べ物を口に溜め込んでしまう方への対応:舌の運動速度と送り込みのメカニズム

一人ひとりの飲み込みを丁寧に見守りたいのに、実際は業務に追われ「早く飲み込んで」と焦りを感じてしまうのは、多くの介護職が抱える現場のリアルな葛藤です。

飲み込まない理由は意欲の問題ではなく、舌の運動速度にあるかもしれません。送り込みの仕組みを一つ知るだけで、今の介助の負担は少し楽になります。

この記事を読むと分かること

  • ST不在でもできる観察方法
  • パタカが嚥下に与える影響
  • 溜め込みを防ぐ介助のコツ
  • 送り込みを助ける食事の形
  • 口腔ケアが楽になる考え方

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 頬の横に溜め込んでしまう
  • 「飲み込んで」を連呼する
  • 食事時間が一時間を超える
  • 口腔ケアで食べカスが残る
  • 食べ方を忘れたのかと悩む

結論:飲み込まない理由は「喉」ではなく「舌」の動きにあるかもしれません

男性入居者と女性介護職員

現場では、食事時間が一時間を超えてしまい、他の業務が滞ることへの焦りを感じる場面が多くあります。「本当は一人ひとりのペースに合わせたい」という理想はあっても、現実の人員配置では、いつまでも飲み込まない入居者を前にして「早くゴクンして」と願うのが精一杯というリアルな葛藤があります。

しかし、飲み込まない理由を「意欲」や「喉の衰え」だけで片付けてしまうのは禁物です。実は、食べ物を喉の奥へ運ぶ舌の送り込み機能が低下していることが、溜め込みの大きな原因になっている場合があります。この仕組みを正しく理解することで、闇雲に声かけを繰り返す負担を減らすことができます。

舌の「運動速度」が飲み込みのタイミングを左右する

「しっかり口を動かしているのに飲み込まない」というケースでは、舌の運動速度が低下している可能性があります。舌が食べ物を喉の奥へ送るスピードが遅くなると、飲み込む準備(嚥下反射)が整う前に食べ物が喉へ流れ込み、誤嚥(※1)を引き起こすリスクが高まります。

パタカなどの発音を使って舌の動きを確認することは、単なる口腔体操ではなく、安全に飲み込める状態かどうかを判断するための重要な評価になります。舌の動きを客観的に見る視点を持つことが、現場での適切な介助に繋がります。

(※1)誤嚥:食べ物や水分が誤って気管に入ってしまうこと。

出典元の要点(要約)
一般社団法人日本老年歯科医学会

摂食・嚥下リハビリテーションにおける診断支援としての舌機能検査法ガイドライン

https://www.gerodontology.jp/file/guideline/guideline.pdf

舌の運動速度(パタカ等の発音による評価)と嚥下機能の関連を検討した。運動速度が低下している高齢者は、食塊の咽頭への送り込みが遅延し、嚥下反射の惹起前に喉頭侵入が生じるリスクが高い。舌の巧緻性と速度の評価は、嚥下障害の重症度判定に有用である。

押しつぶしやすさを考えた「食形態」の選択

口の中に食べ物が残りやすい場合は、本人の押しつぶす力に合った食事の形(食形態)が選べていない可能性があります。ガイドラインでは、舌や歯ぐきでどの程度つぶせるかを基準に、以下のような区分を定めています。

区分判定基準の目安
コード3形はあるが、舌と上あご(口蓋)の間で押しつぶしが可能なもの
コード4箸やスプーンで切れる。上下の歯ぐきで押しつぶすことが必要なもの

「柔らかければ良い」と考えるのではなく、本人の舌の力でしっかりつぶせて、かつ喉へ送り込みやすいまとまり(凝集性)のある形を選ぶことが、溜め込みの解消に役立ちます。

出典元の要点(要約)
国立国際医療研究センター

嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発 令和元年度 総括・分担研究報告書

https://www.hosp.jihs.go.jp/s027/100/R1_Report.pdf

「コード3」は形はあるが舌と口蓋(上あご)間で押しつぶしが可能なもの、「コード4」は箸やスプーンで切れるやわらかさで、歯がなくても対応可能だが上下の歯ぐきの間で押しつぶすあるいはすりつぶすことが必要なものとされている。

いつまでも飲み込まない原因を、単なる「噛む力」の問題として捉えず、舌の運動速度送り込み機能に注目することが大切です。ガイドラインに基づき、舌の動きと食形態のバランスを整えることで、現場の介助負担を軽減し、安全な食生活を支えることができます。

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「口に溜めて飲み込まない」現場の困りごとと解決の視点

男性入居者と女性介護職員

食事介助の時間は、入浴や排泄ケアの合間を縫うように設定されており、スタッフは常に次の業務を気にしながら動いています。「本当はもっと寄り添いたい」という願いがあっても、実際の人員配置では、いつまでも口を動かしている入居者を前にして、焦りからつい「早く飲み込んで」と声を荒らげてしまうこともあるかもしれません。

「認知症だから食べ方を忘れたのか」「もう口から食べるのは限界なのか」という不安やイライラが募るのは、責任感を持って介助にあたっているからこそのリアルな葛藤です。しかし、飲み込まない現象を「本人のやる気」のせいにせず、ガイドラインが示す身体的な仕組みから見直すことで、介助の負担を減らす手がかりが見つかります。

【事例1】頬の横にいつまでも「食べ残し」があるケース

  • 状況
    • 食事は終わったはずなのに、頬の片側にだけ食べ物がリスのように溜まっている。
  • 困りごと
    • 口腔ケアの際に大量の食べカスが出てくる。寝ている間に気管に入らないか不安。
  • よくある誤解
    • 本人が飲み込むのを「忘れている」だけなので、強く言えば解決する。
  • 押さえるべき視点
    • 舌の排除能力(※1)が低下している可能性があります。舌が食べ物を中央に集めたり、奥へ運んだりする力が弱まると、口の中に残留物が増えてしまいます。
出典元の要点(要約)
一般社団法人日本老年歯科医学会

摂食・嚥下リハビリテーションにおける診断支援としての舌機能検査法ガイドライン

https://www.gerodontology.jp/file/guideline/guideline.pdf

舌機能の評価において、舌の形態や柔軟性の変化は残留物の排除能力に大きな影響を与えることが示されている。口腔内に残る残留物を適切に処理するためには、残存している舌機能の客観的な評価に基づいたアプローチが必要である。

【事例2】口は動いているが「ゴクン」が来ないケース

  • 状況
    • ずっとモグモグと噛み続けているが、一向に飲み込む気配がない。
  • 困りごと
    • 一回の食事に1時間以上かかり、他の入居者の対応が疎かになってしまう。
  • よくある誤解
    • 噛む力が足りないから飲み込めない。もっと細かく刻めば解決する。
  • 押さえるべき視点
    • 喉へ食べ物を送る舌の運動速度が落ちているサインです。舌の動き(送り込み)が遅いと、飲み込む準備ができる前に食べ物が喉へ流れ込み、喉頭侵入(※2)を招く恐れもあります。
出典元の要点(要約)
一般社団法人日本老年歯科医学会

摂食・嚥下リハビリテーションにおける診断支援としての舌機能検査法ガイドライン

https://www.gerodontology.jp/file/guideline/guideline.pdf

舌の運動速度(パタカ等の発音による評価)と嚥下(※3)機能の関連を検討した結果、運動速度が低下している高齢者は食塊の咽頭への送り込みが遅延し、嚥下反射が起こる前に喉頭侵入が生じるリスクが高いことが示されている。舌の巧緻性(※4)と速度の評価は、障害の重症度判定に有用である。

【事例3】柔らかい食事にしても溜め込みが変わらないケース

  • 状況
    • 安全を考えてミキサー食やペースト食にしているが、それでも口に溜めてしまう。
  • 困りごと
    • 食形態をこれ以上下げようがなく、どう対応していいか手詰まりを感じる。
  • よくある誤解
    • とにかくドロドロに柔らかくすれば、舌の力がなくても飲み込めるはずだ。
  • 押さえるべき視点
  • 本人の押しつぶす力と、食事の「形」が合っていない可能性があります。舌と上あごでつぶせる「コード3」程度の適度な形がある方が、舌の動きを促し、送り込みやすくなる場合もあります。
出典元の要点(要約)
国立国際医療研究センター

嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発 令和元年度 総括・分担研究報告書

https://www.hosp.jihs.go.jp/s027/100/R1_Report.pdf

「コード3」は形はあるが舌と口蓋(上あご)間で押しつぶしが可能なもの、「コード4」は箸やスプーンで切れるやわらかさで、上下の歯ぐき間で押しつぶすことが必要なものとされている。本人のつぶす能力に合わせた形態選択が重要である。

※1 排除能力:口の中に残った食べ物を外に出したり、喉へ運んだりしてきれいに保つ力。 ※2 喉頭侵入(こうとうしんにゅう):食べ物が喉の奥まで入るが、まだ気管には落ちていない状態。 ※3 嚥下(えんげ):飲み込みのこと。 ※4 巧緻性(こうちせい):細かく巧みに動かす能力。

溜め込みの原因は、単なる意欲の低下ではなく、舌の運動速度排除能力といった身体的な機能の低下が深く関わっています。エビデンスに基づき、「なぜ残るのか」の背景を整理することで、声かけ中心の介助から脱却し、本人の力に合わせた現実的な食支援へと繋げることができます。


溜め込みが起きる構造的な理由と身体的メカニズム

女性の介護職員の画像

現場では、限られた休憩時間や次の介助予定が迫る中で、食事介助がスムーズに進まないことに強い焦りを感じる場面が少なくありません。「本当はもっと本人のペースを尊重したい」という思いがあっても、実際の人員配置では溜め込みによって食事が進まない状況を前に、つい「早く飲み込んでほしい」と内心で願ってしまうのは、現場のスタッフが抱えるリアルな葛藤です。

いつまでも飲み込まない理由を、つい「認知症による拒絶」や「食べる意欲の低下」といった本人の心理的・精神的な問題として片付けがちですが、そこには身体的なメカニズムが深く関わっています。なぜ口の中に残ってしまうのか、その背景にある「見えない原因」を整理することで、声かけ中心の介助から、根拠に基づいた支援へと視点を変えることができます。

舌の「送り込み」が遅れる身体的な原因

飲み込みが遅い、あるいは口の中に溜め込んでしまう背景には、舌の運動速度の低下が大きく影響しています。食べ物を噛んだ後、喉の奥へと運ぶ動作を「送り込み」と呼びますが、舌の動きがゆっくりになると、この口腔期(※1)と呼ばれるプロセスが大幅に遅れてしまいます。

舌が食べ物を運ぶスピードが落ちると、飲み込むための準備が整う前に食べ物が喉へと流れ込み、喉頭侵入(※2)という危険な状態を招くリスクも高まります。つまり、溜め込みは「飲み込まない」のではなく、「舌の力が足りず、飲み込む位置まで食べ物を運べていない」という身体的な限界の結果である可能性が高いのです。

(※1)口腔期:食べ物を口の中でまとめ、喉の奥へと送り込む段階。 (※2)喉頭侵入:食べ物や水分が喉の奥まで入るが、まだ気管には落ちていない状態。

出典元の要点(要約)
一般社団法人日本老年歯科医学会

摂食・嚥下リハビリテーションにおける診断支援としての舌機能検査法ガイドライン

https://www.gerodontology.jp/file/guideline/guideline.pdf

舌の運動速度(パタカ等の発音による評価)と嚥下機能の関連を検討した。運動速度が低下している高齢者は、食塊の咽頭への送り込みが遅延し、嚥下反射の惹起前に喉頭侵入が生じるリスクが高い。舌の巧緻性と速度の評価は、嚥下障害の重症度判定に有用である。

「押しつぶし」の能力と食形態のミスマッチ

もう一つの理由は、提供されている食事の形が、本人の押しつぶす力と合っていないことです。食べ物を舌と上あご、あるいは歯ぐきで適切に押しつぶせないと、飲み込みやすい「まとまり」を作ることができません。その結果、いつまでも口の中に留まってしまう残留が起こります。

ガイドラインでは、舌の力に合わせて以下のような判定基準を設けています。

区分の名称判定の目安
コード3舌と上あご(口蓋)の間で押しつぶしができる固さ
コード4舌だけでは難しく、上下の歯ぐきでの押しつぶしが必要な固さ

本人の力が及ばない固さの食事を提供し続けると、どんなに声かけをしても物理的に飲み込むことができず、結果として溜め込みが悪化してしまいます。

出典元の要点(要約)
国立国際医療研究センター

嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発 令和元年度 総括・分担研究報告書

https://www.hosp.jihs.go.jp/s027/100/R1_Report.pdf

「コード3」は形はあるが舌と口蓋(上あご)間で押しつぶしが可能なもの、「コード4」は箸やスプーンで切れるやわらかさで、歯がなくても対応可能だが上下の歯ぐきの間で押しつぶすあるいはすりつぶすことが必要なものとされている。

溜め込みが起きる理由は、単なる意欲の問題ではなく、舌の運動速度の低下による「送り込みの遅れ」や、押しつぶす力と食事の固さの「ミスマッチ」にあります。これらの身体的なメカニズムを理解し、ガイドラインに沿った評価を行うことが、現場の介助負担を減らすための確かな近道となります。

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溜め込みに関するよくある疑問(FAQ)

現場や家庭で「なぜ飲み込まないのか」と悩む方から寄せられる代表的な疑問を、ガイドラインの視点で整理しました。飲み込まない理由を身体的なメカニズムから理解することで、日々の不安や焦りを解消する手がかりになります。

Q
しっかり口を動かしているのに飲み込まないのはなぜですか?
A

食べ物を喉の奥へ送るための舌の動き(送り込み)が遅くなっている可能性があります。噛む力(咀嚼能力)はあっても、舌の運動速度が低下していると、飲み込む位置まで食べ物が運ばれず、口の中に溜まってしまいます。

出典元の要点(要約)

一般社団法人日本老年歯科医学会

摂食・嚥下リハビリテーションにおける診断支援としての舌機能検査法ガイドライン

https://www.gerodontology.jp/file/guideline/guideline.pdf

舌の運動速度(パタカ等の発音による評価)と嚥下機能の関連を検討した。運動速度が低下している高齢者は、食塊の咽頭への送り込みが遅延し、嚥下反射の惹起前に喉頭侵入が生じるリスクが高い。舌の巧緻性と速度の評価は、嚥下障害の重症度判定に有用である。

Q
パタカの発音を確認するだけで、飲み込みの状態がわかるのですか?
A

はい、パタカの発音速度は舌の細かな動き(巧緻性)や速さを反映しています。これを確認することで、食べ物を喉へ送る力が落ちていないか、飲み込む準備ができる前に食べ物が流れ込んでしまうリスクがないかを判断する客観的な指標になります。

出典元の要点(要約)

一般社団法人日本老年歯科医学会

摂食・嚥下リハビリテーションにおける診断支援としての舌機能検査法ガイドライン

https://www.gerodontology.jp/file/guideline/guideline.pdf

舌の運動速度(パタカ等の発音による評価)と嚥下機能の関連を検討した。運動速度が低下している高齢者は、食塊の咽頭への送り込みが遅延し、嚥下反射の惹起前に喉頭侵入が生じるリスクが高い。舌の巧緻性と速度の評価は、嚥下障害の重症度判定に有用である。

Q
口の中に溜め込みやすい場合、どのような食事の形を選べばよいですか?
A

本人の押しつぶす能力に合わせた固さを選びます。舌と上あご(口蓋)の間でつぶせる場合はコード3、それより少し固く歯ぐきでつぶす必要がある場合はコード4を目安にします。単に柔らかくするだけでなく、舌でまとめやすく喉へ送りやすい形態を選ぶことが重要です。

出典元の要点(要約)

国立国際医療研究センター

嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発 令和元年度 総括・分担研究報告書

https://www.hosp.jihs.go.jp/s027/100/R1_Report.pdf

コード3は形はあるが舌と口蓋(上あご)間で押しつぶしが可能なもの、コード4は箸やスプーンで切れるやわらかさで、歯がなくても対応可能だが上下の歯ぐきの間で押しつぶすあるいはすりつぶすことが必要なものとされている。

Q
専門職がいなくても、チームで溜め込みへの対策を検討できますか?
A

可能です。食事の様子をビデオ撮影し、その映像をスタッフ間で共有することで、主観に頼らない客観的な評価や介助方法の検討ができます。本人の姿勢や舌の動きを共通の視点で確認できるため、多職種での具体的な対策につながります。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

高齢者の口腔と摂食嚥下の機能維持・向上のための取組に関する調査

https://www.mhlw.go.jp/iken/after-service-vol25/dl/after-service-vol25_houkoku.pdf

施設入所者の食事の様子をビデオ撮影し、その映像を基にカンファレンスを行うことで、嚥下機能の評価や介助方法の検討をより具体的かつ客観的に行っています。


まとめ:舌の動きを知ることで、溜め込みへの対応が変わります

食べ物を口の中に溜め込んでしまう原因は、単なる意欲の問題ではなく、舌の運動速度の低下による「送り込みの遅れ」が深く関わっています。飲み込みが遅いと感じる背景には、食べ物を喉へと運ぶ準備が物理的に間に合っていないという身体的なメカニズムがあります。

この記事の重要なポイントは以下の通りです。

  • 飲み込まない理由は、喉だけでなく舌の送り込み(口腔期)の機能低下にある。
  • パタカなどの発音評価は、舌の運動速度を把握するための客観的な指標になる。
  • 溜め込みを防ぐには、本人の押しつぶす力に合った食形態(コード3・4)を選択する。
  • 多職種でビデオ撮影を活用し、主観に頼らない評価を積み重ねる。

忙しい現場では、どうしても「早く食べてほしい」と焦りを感じてしまうものです。しかし、仕組みを理解し、一人の入居者の舌の動きや姿勢に目を向けることで、介助の負担を減らし、安全な食生活を支えることが可能になります。全部を一度に変えるのは難しくても、まずはできることから一歩ずつ始めてみてください。

最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。



更新履歴

  • 2025年12月28日:新規投稿

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