さっきまで順調だったのに急に箸が止まる、声をかけても反応がない。限られた時間の中で、つい「早くして」と焦りや苛立ちを感じてしまう瞬間があるかもしれません。
それは性格ではなく、病気の症状の可能性があります。理想的なケアが難しくても、まずは「止まる理由」を知るだけで、明日からの関わり方を変えるきっかけになるはずです。
この記事を読むと分かること
- 急に動きが止まる医学的理由
- 誤嚥を防ぐ正しい中断判断
- 医師へ伝えるべき観察点
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:現場で「わがまま」と誤解されがちな2つのサイン

忙しい食事介助の時間。「さっきまで自分で食べていたのに」「わざと食器をカチャカチャ鳴らして遊んでいる」。そんな姿を見ると、つい「ちゃんと食べて」と指導したくなるのが心情です。
しかし、現場で「介護拒否」や「認知症による遊び食べ」と思われているその行動の裏には、ご本人の意思ではどうにもならない病気のメカニズムが隠れていることがあります。
事例1:「急に動きが止まる」のは気分の問題ではない
食事の途中で急に箸が止まり、口を開けなくなったり、飲み込まなくなったりする現象。これは気分のムラではなく、薬の効果が切れて症状が悪化する「ウェアリングオフ現象」の典型的な現れ方の一つです。
L-ドパ製剤などを長期間服用していると、薬の効果持続時間が短くなり、次の服薬時間の前にパーキンソン症状(動けなくなる、すくむ等)が現れるようになります。この状態では、「食べたくない」のではなく「体が動かない」状態であると考えられます。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
L-ドパ療法の経過中に、効果持続時間の短縮(ウェアリングオフ現象)などの運動合併症が生じることがある。ウェアリングオフ現象に対しては、L-ドパの頻回投与や、ドパミンアゴニスト、COMT阻害薬などの併用・調整が行われる。
事例2:「勝手に体が動く」のはふざけているわけではない
逆に、食事中に体がくねくねと動いたり、手足が勝手に動いて食器をひっくり返してしまったりすることがあります。これは「ジスキネジア(不随意運動)」と呼ばれる症状の可能性があります。
薬が効きすぎている時間帯や、血中濃度の変化に伴って、自分の意思とは無関係に体幹や四肢が動いてしまうものです。「行儀が悪い」「遊んでいる」と叱っても、ご本人には止めることができません。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
L-ドパ療法の問題点として、不随意運動(ジスキネジア)などの運動合併症が生じることがある。ジスキネジアに対しては、L-ドパの減量、ドパミンアゴニストへの変更・増量、アマンタジンの投与などが検討される。
「動かない」のも「動きすぎる」のも、多くは薬の影響による症状です。「なぜ食べてくれないの?」と悩む前に、「今は薬が切れている時間かも?」という視点を持つだけで、お互いのストレスは大きく減るはずです。
原因は「わがまま」ではなく「薬の濃度」の変化

「さっきまで笑っていたのに」「急に無表情になった」。まるで別人のように変わる様子に、現場からは「認知症の進行?」「試し行動?」と戸惑う声が聞かれます。
しかし、この変化には明確な医学的な理由があります。本人の性格ではなく、体の中で起きている「薬の濃度の変化」が大きく関係している可能性があります。
薬の効果が切れる「魔の時間帯」がある
パーキンソン病の薬(L-ドパ)は、服用後ずっと一定の効果が続くわけではありません。進行に伴い、薬が効いている時間(オン)が短くなり、次の薬を飲む前に効果が切れてしまう「ウェアリングオフ現象」が現れます。
これは、いわば身体の「バッテリー切れ」のような状態です。食事の時間がちょうどこの「切れ目」に重なると、スプーンを持つ手が止まり、咀嚼も停止してしまうことがあります。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
L-ドパ療法の経過中に、効果持続時間の短縮(ウェアリングオフ現象)や、不随意運動(ジスキネジア)などの運動合併症が生じることがある。ウェアリングオフ現象に対しては、L-ドパの頻回投与や、ドパミンアゴニスト、COMT阻害薬などの併用・調整が行われる。
手足だけでなく「のど」の動きも止まる
動きが悪くなるのは手足だけではありません。「話す(構音)」ための機能低下が多くの患者さんにみられるように、口やのどの筋肉も薬が切れると動きにくくなることがあります。
口やのどの動きが悪くなると、言葉が出にくくなったり(構音障害)、スムーズに飲み込めなくなったりすることがあるため、無理に食事を進めることは避けるべきです。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
構音障害はパーキンソン病患者の70〜90%にみられ、罹病期間が長くなるにつれて増悪する。発声機能低下のほかに、吃音、すくみ言葉、早口症などもみられる。
これらは「本人の性格」ではなく「薬の切れ目」に起こる身体反応です。責めたり焦らせたりしても解決しません。「今は薬が切れているんだ」と理解することが、安全なケアへの第一歩です。
完璧なケアよりも「観察」が患者さんを救う

「最後まで自分のペースで食べさせてあげたい」「急かしたくない」。そんな理想を持ちつつも、次々に鳴るナースコールや、他の利用者さんの対応に追われ、つい時計を気にして焦ってしまうのが現場の現実ではないでしょうか。
すべてを解決することは難しくても、今の業務の中で「視点」を少し変えるだけで、利用者さんの苦痛を和らげられる可能性があります。
「わがまま」ではなく「ウェアリングオフ」を疑う
食事中に動きが止まる、飲み込めなくなる現象は、本人の性格や意欲の問題ではなく、薬の効果が切れて症状が悪化する「ウェアリングオフ現象」である可能性があります。
進行期パーキンソン病において、適切な薬物療法を行っていても、薬の効果持続時間が短縮し、次の服薬前に症状が現れることがあります。これを理解することで、無理な食事介助による誤嚥リスクを避け、適切な対応につなげることができます。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
L-ドパ療法の経過中に、効果持続時間の短縮(ウェアリングオフ現象)や、不随意運動(ジスキネジア)などの運動合併症が生じることがある。ウェアリングオフ現象に対しては、L-ドパの頻回投与や、ドパミンアゴニスト、COMT阻害薬などの併用・調整が行われる。
医師に伝えるべきは「止まった時間」
ウェアリングオフ現象に対しては、医師による薬の調整(種類の変更や回数の調整など)が有効な対策となります。
現場の介護士ができる最も重要な支援は、いつ症状が出現したかという「時間の記録」です。「食事中に止まる」だけでなく、「12時15分頃に動きが悪くなった」といった具体的な情報は、医師が治療方針を決定する上で重要な判断材料の一つとなります。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
ウェアリングオフ現象の治療として、L-ドパの頻回投与、COMT阻害薬の併用、MAO-B阻害薬の併用、ドパミンアゴニストの併用・増量、ゾニサミドの併用などが推奨されている。適切な薬物療法の調整により症状の改善が期待できる。
急なフリーズは、医学的には「病気の症状」として扱われます。無理に食べさせず、まずは「止まった時間」を記録してみてください。そのメモが医師に伝われば、薬の調整によって、利用者さんが再び自分の力で美味しく食べられる日が来るかもしれません。
よくある質問と解決のヒント
日々のケアの中で、「本当にこれでいいのかな?」「もっと何かできることはないかな?」と迷う場面は尽きません。現場の介護士さんからよく聞かれる疑問について、医学的なガイドラインに基づいた視点をまとめました。
- Q食事のメニューで気をつけることはありますか?タンパク質を減らすと良いと聞きました。
- A食事に含まれるタンパク質の摂取方法を調整することで、薬の効き目が安定する場合があります。
そのため、朝・昼のタンパク質を減らして夕食に多く摂る「蛋白再配分療法(PRD)」という方法が、薬の効き目を安定させるために検討されることがあります。
ただし、自己判断で行うと低栄養や体重減少のリスクがあるほか、逆に薬が効きすぎて体が勝手に動く(ジスキネジア)症状が悪化することもあります。必ず医師や管理栄養士と相談しながら進めてください。
出典元の要点(要約)
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_27.pdf
朝昼の蛋白摂取を減らし夕食時に摂取する蛋白再配分療法(PRD)は運動合併症を解消する可能性がありますが、ジスキネジア増悪や体重減少などのリスクがあるため、医師・栄養士と相談しながら行う必要があります。
- Q薬が増えていくのが怖いです。長く飲み続けると体に毒ではないのですか?
- A「薬を飲むとボケる」「寿命が縮む」といった不安を聞くことがありますが、現在の医学では、治療で使う量のL-ドパに神経毒性があるという証拠はないとされています。
副作用を過度に恐れて薬を減らすと、動けなくなって転倒したり、食事が摂れなくなったりするデメリットの方が大きくなります。必要な量をしっかり使い、動ける状態を維持することが推奨されています。
出典元の要点(要約)
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_25.pdf
臨床的な用量・用法でのL-ドパ投与が、ドパミン系を含む神経細胞の変性を生体内で促進させるエビデンスはないと回答されています。
- Q食事中やレク中に、急にカクンと寝てしまうことがあります。
- A夜眠れていないだけでなく、薬の副作用で日中に強い眠気が出ている可能性があります。
特に「ドパミンアゴニスト」という種類の薬では、予兆なく急に眠り込んでしまう「突発的睡眠」が起こることが報告されています。
単なる居眠りと見過ごさず、「いつ、どんな状況で寝てしまったか」を記録し、医師に報告してください。薬の量や種類を調整することで改善する場合があります。
出典元の要点(要約)
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_28.pdf
日中過眠や突発的睡眠は、抗パーキンソン病薬(特にドパミンアゴニスト)の使用開始や増量に伴い頻度が増すため、薬剤誘発性の眠気の有無を確認し、ドパミンアゴニストの減量などを検討する必要があります。
疑問や不安を感じた際には、一人で抱え込まず「記録」に残して医療職につなぐことが大切です。正しい知識は、利用者さんを守るだけでなく、ケアをするあなたの心の負担も軽くしてくれるはずです。
まとめ:明日からのケアを変える「小さな一歩」
食事中に動きが止まったり、よだれが出たりするのは、ご本人の「わがまま」ではなく、「ウェアリングオフ現象」という病気の症状である可能性が高いです。
現場の忙しさの中で、完璧なケアを目指す必要はありません。まずは「無理に食べさせない」こと、そして「止まった時間を記録する」ことから始めてみてください。
その小さなメモが、医師による薬の調整を助け、利用者さんが再びご自身の力で食事を楽しむための大きな手がかりとなります。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2026年2月3日:新規投稿




