面会のご家族から「体が勝手に動いて苦しそう」「薬が効きすぎでは?」と不安をぶつけられ、返答に困ることがあるかもしれません。医学的には「動けている証拠」でも、見た目のインパクトに動揺するご家族への説明は難しいものです。
医師と家族の板挟みになりがちなこの問題。すべての誤解を解くのは難しくても、まずは「薬を減らすリスク」と「本人にとっての正解」を知ることで、自信を持って説明できる言葉が見つかるはずです。
この記事を読むと分かること
- 勝手に動く「ジスキネジア」の医学的な正体
- 薬を減らすことの本当のリスク(動けなくなる・悪性症候群)
- 家族の不安を和らげる「本人への確認方法」
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:「動きを止める」ことよりも「生活を守る」ことが最優先

「こんなに震えて可哀想だ、薬を減らしてくれ」と詰め寄るご家族. しかし医師に相談しても「今は減らせない」と言われる。その板挟みで、まるで自分たちが虐待に加担しているような苦しさを感じることはありませんか?
ご家族の愛情ゆえの訴えは痛いほど分かります。しかし、医学的な視点では、見た目の静けさよりも「ご本人が自分で動けること」を守る方が、はるかに重要度が高いのです。
その動きは「薬が効いている証拠」です
ご家族が心配する「くねくねした動き(ジスキネジア)」は、薬の中毒症状や発作ではありません。長期間の治療により、薬が効いている時間帯に現れる「運動合併症」の一つです。
つまり、この動きが出ている時間は、薬が効いており、ご本人の体は「動ける状態(オン)」にあると考えられます。決して体が壊れてしまっているわけではありません。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
ジスキネジアはL-ドパ長期療法の運動合併症として生じる不随意運動であり、薬の効果が現れている時間帯(オン時)に出現することが多い。
本人は「動けない」より「動く」を選びます
見た目は激しく動いているため辛そうに見えますが、実は多くの患者さんは、全く動けなくなる「オフ」の状態よりも、多少勝手に体が動いてしまっても自力で動ける「ジスキネジアがある状態」の方を好む傾向があります。
「動かない体」に閉じ込められる苦痛は、想像を絶するものです。多少の揺れがあっても、自分でトイレに行けたり、食事ができたりする自由の方を、ご本人は望んでいるケースが多くみられます。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
患者はオフ(無動)の状態よりも、ジスキネジア(不随意運動)を伴うオンの状態を好む傾向があることが報告されている。
治療のゴールは「静止」ではなく「生活」です
もちろん、激しすぎて転倒したり、食事がこぼれて食べられなかったりする場合は調整が必要です。しかし、日常生活が送れているのであれば、軽度のジスキネジアは「薬効の現れ」として許容するのが治療の基本的な考え方です。
「動きをゼロにする」ことを目指すと、薬を減らさざるを得ず、結果としてご本人の「生活できる時間」を減らすことにつながりかねません。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
日常生活に支障をきたすほど強い場合を除き、軽度のジスキネジアは薬効の現れとして許容されることが多い。治療においては運動機能の改善とジスキネジアの抑制のバランスが重要となる。
ご家族の不安を受け止めつつも、私たちの最優先事項は「ご本人の生活」です。「動きを止めること」が必ずしも正解ではないと知っておくだけで、ご家族への説明の言葉が変わってくるはずです。
現場でよくある誤解と正しい視点

「動きを止めてあげたい」というご家族の愛情が、時として現場のプレッシャーになることがあります。よくある2つのケースを通して、医学的な視点とご家族への伝え方を整理してみましょう。
事例1:久しぶりの面会で「虐待だ」と激怒
- 【状況】
- 遠方に住む娘さんが半年ぶりに面会に来た際、親御さんの口元や手足が絶えず動いているのを見てショックを受け、「こんなに震わせて…薬が多すぎる!すぐに減らして!」とスタッフへ強く詰め寄る。
- 【よくある誤解】
- 「薬の量が多い=体に毒=苦しいはずだ」という思い込みが背景にあります。
- 【押さえるべき視点】
- これはL-ドパの血中濃度が高い時に出やすい症状ですが、実はご本人は動けない時間帯(オフ)よりも、この時間帯(オン)の状態の方を好むと報告されるケースも少なくありません。
ご家族には「見た目は驚かれるかもしれませんが、この時間はご本人が一番自分で動ける時間帯なんです」と伝えることが大切です。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
日常生活に支障をきたすほど強い場合を除き、軽度のジスキネジアは薬効の現れとして許容されることが多い。
事例2:「転ぶのが怖い」と車椅子に固定
- 【状況】
- 体が大きく揺れるため、ご家族が「転倒したら危ないから」と車椅子にベルトで固定したり、ベッドに寝かせきりにしようとする。
- 【よくある誤解】
- 「じっとしている=安全・安楽」という思い込みによる過剰な抑制です。
- 【押さえるべき視点】
- 無理に動きを抑えることは、ご本人にとって「動きたいのに動けない」という強いストレスになると考えられる場合があります。
安全確保は最優先ですが、過度な安静は筋力を低下させ(廃用症候群)、かえって寝たきりリスクを高めます。「動ける自由」を守るための環境調整が必要です。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
治療においては運動機能の改善とジスキネジアの抑制のバランスが重要となる。患者はオフ(無動)の状態よりも、ジスキネジア(不随意運動)を伴うオンの状態を好む傾向がある。
「薬が多すぎる」「危ない」という言葉の裏には、ご家族の不安があります。その不安に対し、「ご本人は動けることを喜んでいます」という事実を伝えることが、誤解を解く第一歩になります。
なぜ「ちょうど良い」状態を保てないのか

「動かない時間」をゼロにして、かつ「勝手に動く時間」もゼロにする。そんな「ちょうど良い」状態をずっとキープできれば理想的です。
しかし現場では、薬を調整しても「効きすぎて揺れる」か「切れて動けない」かのどちらかになりがちです。なぜ、中間の「普通に動ける状態」を維持するのはこんなに難しいのでしょうか。
原因は「治療の難易度」が上がっているから
これは薬の調整ミスでも、ご本人の体質の問題でもありません。パーキンソン病が進行すると、薬が効果を発揮する幅(治療域)が狭くなってしまうという「病気の構造的な変化」が主な原因と考えられます。
初期の頃は、薬の有効な幅が広いため、多少アバウトでも「ちょうど良い」状態を維持できました。しかし進行すると、この幅が狭くなり、少しでも薬が足りないと「動けない(オフ)」、少しでも多いと「動きすぎる(ジスキネジア)」という状態になりやすくなります。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
進行期パーキンソン病では、治療域(therapeutic window)が狭くなり、血中濃度のわずかな変動で運動合併症(ウェアリングオフやジスキネジア)が生じやすくなる。
「動けない」を避けるためのギリギリの選択
医師がジスキネジア(動きすぎ)をある程度許容して薬を出し続けるのは、「全く動けない時間(オフ)」を避けるためです。
「動けない時間」が増えることは、食事や排泄の自立を妨げ、ご本人の生活の質を大きく下げてしまいます。そのため、多少の揺れ(ジスキネジア)が出ても、ご本人が自力で動ける時間を確保することを優先するという、ギリギリの判断をしているのです。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
治療目標は、運動機能の改善とジスキネジアの抑制のバランスをとることにある。患者は無動(オフ)よりも、多少のジスキネジアがあっても動ける(オン)状態を好む傾向があるため、生活への支障度合いを考慮して治療方針を決定する。
ジスキネジアが出るのは、治療の失敗ではなく、病気が進行する中で「動ける時間」を必死に守ろうとしている証拠でもあります。この背景を知ることで、ご家族への「今はこれがベストなバランスなんです」という言葉に説得力が生まれます。
ご家族への回答に迷った時のQ&A
ご家族から医学的な質問を投げかけられ、「下手に答えてトラブルになったらどうしよう」と不安になることはありませんか?
自信を持って答えるための、ガイドラインに基づいた回答例をまとめました。
- Qこんなに薬を続けて、脳や体に毒ではないのですか?
- A「薬を飲むと寿命が縮む」といった不安を聞くことがありますが、現在の医学では、治療で使う量のL-ドパに神経毒性があるという証拠はないとされています。
むしろ、薬を恐れて使わず、動けなくなって寝たきりになる(廃用症候群)ことのデメリットの方が、体にとってはるかに深刻です。
出典元の要点(要約)
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_25.pdf
臨床的な用量・用法でのL-ドパ投与が、ドパミン系を含む神経細胞の変性を生体内で促進させるエビデンスはないと回答されています。
- Q動きを止めるために、一旦薬を止めてもいいですか?
- A自己判断での急な中止や減量は絶対に避けてください。
急に薬を止めると、高熱や意識障害、筋肉の硬直を伴う「悪性症候群」という命に関わる状態を引き起こす危険があります。薬の調整は必ず医師の指示のもとで行う必要があります。
出典元の要点(要約)
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_25.pdf
抗パーキンソン病薬の急な減量・中止は、悪性症候群の誘引となることが知られています。
- Qあんなに動いて、本人は辛くないのですか?
- A見た目は激しいですが、ご本人は動けない状態よりも、この状態を好んでいる場合が多いです。
むしろ、全く動けない「オフ」の状態よりも、多少勝手に動いてしまっても自力で動ける「オン」の状態を好む患者さんが多いと報告されています。
ただし、動きが激しすぎて食事が摂れない、体重が減ってしまうなどの場合は、医師による調整が必要です。
出典元の要点(要約)
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
患者はオフ(無動)の状態よりも、ジスキネジア(不随意運動)を伴うオンの状態を好む傾向があることが報告されている。
これらの知識はお守りのようなものです。ご家族の不安に対して「大丈夫ですよ、医学的にもこう言われていますから」と根拠を持って伝えることで、現場の信頼関係はより強固なものになるはずです。
まとめ:専門用語よりも強い「ご本人の言葉」
医学的な専門用語を使ってご家族に説明するのは、ハードルが高いと感じるかもしれません。
そんな時は、くねくねとした動きが出ている時に、ご本人にこう聞いてみてください。「今、体は痛いですか?それとも動きやすいですか?」
もしご本人が「痛くないよ」「今のほうが動けるよ」と答えてくれたなら、その言葉こそが、ご家族の不安を解く最も強い根拠になります。
「お母様自身は、今のほうが体が軽く、楽だとおっしゃっていましたよ」。その一言を添えるだけで、ご家族の表情は和らぐかもしれません。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2026年2月4日:新規投稿





