「ご本人のペースに合わせて」と教科書にはあっても、ワンオペ夜勤や業務に追われる現場では、拒否される焦りからつい説得や強い口調になってしまうのが現実ではないでしょうか。
すべてのケアを変えるのは困難でも、「トイレ」と言わずに誘導する言葉選びひとつで、お互いの自尊心を守り、拒否によるタイムロスを減らせる可能性があります。
この記事を読むと分かること
- 拒否されにくい「言い換え」が分かる
- 怒り出す背景が分かる
- 自分が楽になりやすい「距離感」が分かる
- 自尊心を守る「接し方」が分かる
一つでも当てはまったら、この記事が役に立つことがあります
結論:「トイレ」という言葉が拒否の引き金に。自尊心を守る「言い換え」の技術

現場では、「何度誘っても動いてくれない」「漏らしてしまう前に連れて行きたい」という焦りから、つい「トイレに行きましょう」「漏れますよ」と正論で説得してしまいがちなことがあります。
しかし、その「正しさ」がかえってご本人のプライドを傷つけ、頑なな拒否を生んでいる可能性があります。
ここでは、お互いが消耗しないための具体的な「言い換え」と「アプローチ」について解説します。
「トイレ」という言葉を使わない
認知機能が低下しても、「下の世話にはなりたくない」という羞恥心やプライドは残ることがあります。
そのため、「トイレ」や「オムツ」という言葉自体が、ご本人にとっては「失敗の指摘」や「子供扱い」と受け取られることがあります。
まずは「トイレに行きましょう」という言葉を飲み込むことが、ケアの第一歩と考えられます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
心理的特徴に応じたかかわり方として、価値観や考え方、習慣を受容する、幼児語を使わず自尊心を尊重する、不快でない距離や目線の高さに留意する、相手の表情を確認しながら話しかける、相手のペースに合わせ気持ちを汲み取る、家族とだけ話したりせず相手を置き去りにしないといったポイントがある。
「生活動作のついで」に見せる
真正面から排泄を促すのではなく、別の目的を提示して誘導する方法があります。
例えば、「お茶の前に手を洗いに行きましょう」や「汗をかいたのでズボンを履き替えましょう」といった声かけです。
「トイレに行く」ことを目的にせず、ご本人が納得して動ける「生活動作のついで」として動線を作る方法があります。
立ったままの「説得」をやめる
どんなに丁寧な言葉を選んでも、立ったまま見下ろして話しかけると、相手には「威圧」として伝わってしまうことがあります。
認知症の方は相手の表情や態度を敏感に感じ取ることがあります。
焦っている時こそ、一度しゃがんで目線の高さを合わせ、ゆっくりと話しかける方法があります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
身体的特徴に応じたかかわり方として、相手が認識しやすい立ち位置をとる、麻痺や筋力低下時は座ってもらうなど安定した体勢を確保する、はっきりとした声で聞こえやすい大きさで話す、苦痛がないか確認しつつ表情に留意する、声の調子に気をつけてゆっくり話す、身振りや手振りを織り交ぜながら話すといったポイントがある。
「トイレ」という言葉は、ご本人の自尊心を傷つける言葉になり得ます。真正面からの説得はやめ、「手洗い」など別の目的ですり替えることが考えられます。そして、言葉だけでなく「目線を合わせる」態度で安心感を与えることが考えられます。
現場で起きがちな「負のループ」。よくある事例と解決策

「良かれと思って声をかけたのに怒鳴られた」「時間がない時に限って動いてくれない」。
そんな経験はありませんか?
ここでは、現場で起きやすい失敗パターンと、出典を参考にした修正案を紹介します。
「私の伝え方が悪いのでは」と自分を責める前に、アプローチの角度を変えてみましょう。
事例①:「トイレに行きましょう」と正面から誘って拒否される
【状況】
次の予定が詰まっており、焦る気持ちで真正面から近づき、「〇〇さん、トイレに行きましょう」と声をかけました。
【困りごと】
「行きたくない!」「さっき行った!」と強い口調で怒鳴られ、なかなか動かなくなってしまいました。
【よくある誤解】
「認知症だから、はっきり伝えないと分からない」と思っていませんか。
【押さえるべき視点】
真正面からのアプローチや直接的な言葉は、威圧感を与えることがあります。
「お茶の前に手を洗いに行きましょう」や「少し散歩に行きましょう」と誘い、動線を作ってみましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
心理的特徴に応じたかかわり方として、価値観や考え方、習慣を受容する、幼児語を使わず自尊心を尊重する、不快でない距離や目線の高さに留意する、相手の表情を確認しながら話しかける、相手のペースに合わせ気持ちを汲み取る、家族とだけ話したりせず相手を置き去りにしないといったポイントがある。
事例②:「濡れてますよ」と事実を伝えて怒らせてしまう
【状況】
ズボンが濡れているのに気づき、衛生面を気遣って「濡れてますよ、気持ち悪いから着替えましょう」と指摘しました。
【困りごと】
「濡れてない!失礼な!」と強く否定され、下着を隠そうとしたり、介助を拒んだりしてしまいました。
【よくある誤解】
「事実を教えれば、納得して着替えてくれる」と思っていませんか。
【押さえるべき視点】
失敗の指摘は自尊心を深く傷つけることがあります。
「新しいズボンを買ったので試着してください」「汗をかいたのでさっぱりしましょう」と、ポジティブな理由で誘導することが有効な場合があります。
事例③:焦って「早く立って」と指示し、手を振り払われる
【状況】
忙しい時間帯にコールが鳴り、立ったまま「〇〇さん、早く立ってください」と指示を出しました。
【困りごと】
手を差し伸べた瞬間、強く振り払われ、拒絶されてしまいました。
【よくある誤解】
「聞こえていないから反応しない(あるいは反抗している)」と思っていませんか。
【押さえるべき視点】
言葉の内容以上に、見下ろす視線や早口が「敵」として認識されることがあります。
一度しゃがんで目線の高さを合わせ、ゆっくり話すだけで、相手の警戒心が下がることがあります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
身体的特徴に応じたかかわり方として、相手が認識しやすい立ち位置をとる、麻痺や筋力低下時は座ってもらうなど安定した体勢を確保する、はっきりとした声で聞こえやすい大きさで話す、苦痛がないか確認しつつ表情に留意する、声の調子に気をつけてゆっくり話す、身振りや手振りを織り交ぜながら話すといったポイントがある。
「事実」を伝えることが、必ずしも正解とは限らないと考えられます。むしろ「感情(自尊心)」を守るための「言い換え」や「態度」こそが、結果的に拒否を減らし、業務をスムーズにする一助となると考えられます。
なぜ「正論」は通じないのか? 拒否を生む3つの正体

現場では、「性格が頑固になった」「わざと困らせているのではないか」と感じてしまうこともあるかもしれません。
しかし、拒否の背景には、本人の性格とは無関係な「脳のトラブル」や「心理的な防衛」が関わっていることがあります。
ここでは、なぜ一般的な説得が逆効果になるのか、そのメカニズムを3つの視点から解説します。
「恥ずかしい」感情は最後まで残る
記憶や計算などの認知機能が低下しても、「自尊心」や「羞恥心」といった感情の働きは最後まで保たれることがあります。
そのため、排泄の失敗を指摘されたり、子供のような言葉遣い(幼児語)で話しかけられたりすると、深く傷つくことがあります。
自分を守ろうとする防衛反応が、結果として「拒否」や「隠蔽(下着を隠すなど)」という行動に現れることがあります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
心理的特徴に応じたかかわり方として、価値観や考え方、習慣を受容する、幼児語を使わず自尊心を尊重する、不快でない距離や目線の高さに留意する、相手の表情を確認しながら話しかける、相手のペースに合わせ気持ちを汲み取る、家族とだけ話したりせず相手を置き去りにしないといったポイントがある。
「こちらの都合」を察する機能が低下している
アルツハイマー型認知症などでは、病気の進行に伴い「社会的認知機能」が低下していきます。
これは、場の空気を読んだり、相手の意図(スタッフが忙しい等)を推測したりする能力のことです。
そのため、「今は時間がないから動いてほしい」という介護者側の事情を理解することは難しい場合があり、ご本人の「今は動きたくない」という主観的な感覚が優先されることがあります。
出典元の要点(要約)
日本神経学会認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf
Alzheimer型認知症は、脳内に神経原線維変化とアミロイド蓄積が起こることで神経細胞死やアセチルコリンの低下を招き、認知症を発症した状態を指します。典型的な症状は、緩徐に進行する出来事記憶の障害から始まり、次第に失語や遂行機能障害、視空間機能障害、人格変化などの社会的認知機能の低下へと進展します。
焦りや緊張が「攻撃」として伝わってしまう
BPSD(行動・心理症状)と呼ばれる拒否や暴言は、ケアや環境への反応として現れることが多いとされています。
脳の機能低下により、情報を正しく処理できない状態にあるとき、スタッフの早口や威圧的な態度は「負担」として受け取られることがあります。
ご本人は「怒っている」のではなく、身を守るために「戦っている(抵抗している)」状態と考えられます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
BPSD(行動・心理症状)には、行動症状(徘徊、攻撃的行動、不潔行為など)と心理症状(不安、抑うつ、幻覚、妄望など)があり、これらは中核症状に、本人の性格、環境、人間関係などが絡み合って生じる。適切なケアや環境調整により軽減・消失する可能性がある。
厚生労働省
認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
身体的特徴に応じたかかわり方として、相手が認識しやすい立ち位置をとる、麻痺や筋力低下時は座ってもらうなど安定した体勢を確保する、はっきりとした声で聞こえやすい大きさで話す、苦痛がないか確認しつつ表情に留意する、声の調子に気をつけてゆっくり話す、身振りや手振りを織り交ぜながら話すといったポイントがある。
拒否は性格の問題に限らず、脳の機能障害や自尊心の表れである場合があります。「こちらの都合」は通じにくいことを前提に、相手を脅かさない態度で接することが、結果的にBPSD(拒否)を落ち着かせる一助となります。
現場の「困った」に答える。よくある疑問とヒント
「頭では分かっていても、実際は難しい」。
そんな現場の迷いや葛藤に、参考資料の視点からお答えします。
- QQ. 明らかに失禁しているのに「していない」と言い張ります。事実を伝えてはいけませんか?
- A無理に認めさせる必要はないと考えられます。 否定も肯定もせず、話題を変えて誘導してみてください。
「濡れていない」という言葉は、自尊心の表れと考えられます。 事実を突きつけるのではなく、「着替えを用意しました」「さっぱりしましょう」と、次の心地よさへ誘導する方法があります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
心理的特徴に応じたかかわり方として、価値観や考え方、習慣を受容する、幼児語を使わず自尊心を尊重する、不快でない距離や目線の高さに留意する、相手の表情を確認しながら話しかける、相手のペースに合わせ気持ちを汲み取る、家族とだけ話したりせず相手を置き去りにしないといったポイントがある。
- QQ. 忙しくて、つい早口で指示してしまいます。
- A完璧でなくても問題ない場合があります。 まずは「目線の高さ」だけ意識してみてください。
早口になってしまっても、しゃがんで視線を合わせるだけで威圧感が減ることがあります。 一呼吸置いて相手と同じ高さになることが、結果的に拒否によるタイムロスを防ぐ一助になると考えられます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
身体的特徴に応じたかかわり方として、相手が認識しやすい立ち位置をとる、麻痺や筋力低下時は座ってもらうなど安定した体勢を確保する、はっきりとした声で聞こえやすい大きさで話す、苦痛がないか確認しつつ表情に留意する、声の調子に気をつけてゆっくり話す、身振りや手振りを織り交ぜながら話すといったポイントがある。
- QQ. 声をかけると怒り出すので、無言で連れて行ってもいいですか?
- A無言や急な接触は避けましょう。 抵抗を招くことがあります。
言葉での説得が難しい場合でも、笑顔を見せたり、身振り手振りを交えたりして、「安心できる相手」であることを伝えてから誘導しましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症ケア法ー認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
身体的特徴に応じたかかわり方として、相手が認識しやすい立ち位置をとる、麻痺や筋力低下時は座ってもらうなど安定した体勢を確保する、はっきりとした声で聞こえやすい大きさで話す、苦痛がないか確認しつつ表情に留意する、声の調子に気をつけてゆっくり話す、身振りや手振りを織り交ぜながら話すといったポイントがある。
「完璧なケア」を目指して自分を追い込む必要はないと考えられます。「目線を合わせる」「言葉を一つ変える」。その小さな工夫が、ご本人とあなた自身の心を守る大きな一歩になると考えられます。
まとめ:自分と相手を守るための、明日からできる「小さな一歩」
業務に追われる中で、すべてのケアを完璧に行うことは現実的ではありません。 しかし、「トイレ」という言葉を飲み込み、「手を洗いに行きましょう」と言い換えることは、明日からでも始められる技術といえます。
もし言葉が出てこない時は、まず「しゃがんで目線の合わせる」ことだけを試してみてください。 相手と同じ高さになり、ゆっくりと声をかけるだけで、威圧感が安心感へと変わることがあります。
ご本人の自尊心を守るこの技術は、結果として拒否や混乱を減らしやすくし、ケアに携わる皆様自身の心を守ることにもつながることがあります。 無理のない範囲で、一つだけ取り入れてみてはいかがでしょうか。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2025年10月30日:新規投稿
- 2026年1月29日:より詳細なエビデンス(根拠)に基づき解説を充実させるとともに、最新のサイト基準に合わせて構成・レイアウトを見やすく刷新。







