「家族の同意」があれば身体拘束していい?有料老人ホームが陥るコンプライアンスの罠

この記事は、2025年11月20日に行われた、社会保障審議会介護保険部会(第129回)の議事内容を元に作成したものです。

「転倒したら困る」と家族に強く要望され、安全のためにセンサーや柵を使わざるを得ない。理想のケアを追求したくても、夜間ワンオペ等の現実を前に、リスク回避を優先してしまう現場の葛藤は深いものです。

しかし、制度改正が進む今、「家族の同意」だけで済ませる運用は、事業所の存続に関わる重大なリスクになりかねません。現場を守るために、最低限必要な手続きだけは押さえておく必要があります。

この記事を読むと分かること

  • 家族同意と法令の関係
  • 減算リスクの最新動向
  • サ高住の規制強化内容
  • 必須となる委員会の設置
  • 現場を守る記録の残し方

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 家族要望で柵を使用中
  • 同意書があればOKと思う
  • サ高住は規制が緩いと思う
  • 委員会を設置していない
  • 夜間の施錠に迷いがある

「家族の同意」は免罪符ではない? 有料・サ高住に迫る規制強化と「守りの手続き」

介護士とその家族

現場では、ご家族から「転倒して骨折でもしたら大変だから、センサーを使ってほしい」「ベッド柵で動けないようにして」と強く要望されることが日常茶飯事です。特に夜間など限られた人員配置の中では、すべての入居者様を見守ることは物理的に難しく、安全のためには「やむを得ない」と判断せざるを得ない場面もあります。そのため、「ご家族の同意書さえ頂いていれば、施設としても守られるはずだ」と考えがちですが、国の議論はそうした現場の感覚とは異なり、法令遵守(コンプライアンス)を厳格に求める方向へ進んでいます。

「家族の同意」だけでは不十分な現実

介護現場において、身体拘束は原則として禁止されており、例外的に認められるのは「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件をすべて満たす場合に限られます。これは法律(介護保険法等の運営基準)で定められたルールであり、単に「家族が良いと言ったから」という理由だけで認められるものではありません。

厚生労働省の会議では、現状の課題として、こうした適正な手続きを経ていない身体拘束が一定程度発生していることが指摘されました。つまり、委員会での検討や記録といったプロセスを欠いたまま、家族の同意のみで行われている拘束は、行政から「不適切な拘束」とみなされるリスクがあるということです。現場を守るためには、同意書だけでなく、法に基づいた適正なプロセスを徹底する必要があります。

出典元の要点(要約)
厚生労働省

2025-11-20 社会保障審議会介護保険部会(第129回)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001608873.pdf

現状と課題として、発生件数等は高止まり傾向にあり、適正な手続を経ていない身体拘束も一定程度発生しているとした。

有料・サ高住にも迫る「未実施減算」のリスク

これまで特別養護老人ホームなどに比べて、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)といった「住まい」では、虐待防止や身体拘束への規制が比較的緩やかだと受け止められることもありました。しかし、虐待発生件数が高止まりしている現状を受け、国はこれらの事業所に対しても対策を強化する方針を打ち出しています。

具体的には、以下の対策検討が挙げられています。

  • 虐待防止対策の取組をさらに強化する
  • 未実施減算の対象事業種別の見直しを検討する

これは、虐待防止措置(委員会開催や指針整備など)を講じていない事業所に対して、介護報酬を減額するペナルティの適用範囲を広げる可能性があることを示唆しています。「うちは施設ではなく住宅だから」という理屈は通じなくなりつつあり、コンプライアンス不備がそのまま経営リスク(売上減)に直結する未来が迫っています。

出典元の要点(要約)
厚生労働省

2025-11-20 社会保障審議会介護保険部会(第129回)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001608873.pdf

論点1の考え方として、有料老人ホームや有料ホームに該当しないサ高住など住まいにおける虐待防止対策の取組をさらに強化する必要があるのではないかとした。虐待防止法に規定されていない住まいや養護者に該当しない同居者からの虐待も含めた対応方法を整理した国マニュアルの浸透、身体拘束の廃止・防止の手引きの浸透、未実施減算の対象事業種別の見直し検討、高齢者権利擁護等推進事業による自治体の体制づくり促進を提示した。

「国マニュアル」に基づく体制整備が急務

では、具体的に何をすればよいのでしょうか。独自の解釈で対策を進めるのではなく、国が示している公式なルールに則ることが最も確実な防衛策です。会議では、以下のツールや事業の活用・浸透が重要であると述べられています。

  • 虐待防止法に規定されていない住まい等も含めた対応方法を整理した国マニュアル
  • 身体拘束の廃止・防止の手引き
  • 高齢者権利擁護等推進事業による自治体の体制づくり

これらに基づき、「虐待防止委員会」を設置し、「指針」を策定することが、職員個人と事業所を守るための最低ラインとなります。特にサ高住などでは体制整備が遅れているケースも見られますが、国の指針に沿った運用を確立することが、結果として利用者様への不適切なケアを防ぎ、事業所としての信頼を守ることにつながります。

出典元の要点(要約)
厚生労働省

2025-11-20 社会保障審議会介護保険部会(第129回)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001608873.pdf

論点1の考え方として、有料老人ホームや有料ホームに該当しないサ高住など住まいにおける虐待防止対策の取組をさらに強化する必要があるのではないかとした。虐待防止法に規定されていない住まいや養護者に該当しない同居者からの虐待も含めた対応方法を整理した国マニュアルの浸透、身体拘束の廃止・防止の手引きの浸透、未実施減算の対象事業種別の見直し検討、高齢者権利擁護等推進事業による自治体の体制づくり促進を提示した。

「家族の同意があるから大丈夫」という認識を改め、法が定める適正な手続きを徹底することが重要です。減算リスクを回避し、現場スタッフが安心して働ける環境を作るためにも、委員会設置などの体制整備を早急に進める必要があります。

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よくある事例:管理者が陥りやすい「コンプライアンスの罠」

男性介護士

現場では「利用者様の安全を守りたい」という一心で行った判断が、結果として国の求める「適正な手続き」から外れ、コンプライアンス違反となってしまうケースが後を絶ちません。ここでは、有料老人ホームやサ高住の管理者が特に陥りやすい3つの典型的なパターンを紹介します。これらは、今回の部会で指摘された「課題」や「実態」を反映したものです。

事例1:家族の「強い要望」と同意書への依存

  • 状況
    • 入居時にご家族から「家でも転倒を繰り返していたので、夜間はベッド柵で囲ってほしい」「センサーマットがないと不安だ」と強く要望され、入居契約の一環として「身体拘束に関する同意書」にサインをもらって対応を開始した。
  • 現場の困りごと
    • 家族の希望通りに対応したはずが、実地指導などで「不適切な身体拘束」と指摘されるリスクがある。現場としては「家族が良いと言っているのにダメなのか」と混乱が生じる。
  • 押さえるべき視点
    • 会議では、現状の課題として「適正な手続を経ていない身体拘束」が発生していることが指摘されています。たとえ家族の同意があっても、委員会での検討や「切迫性・非代替性・一時性」の要件確認、そして記録というプロセスが欠落していれば、それは「適正な手続き」とは認められません。
出典元の要点(要約)
厚生労働省

2025-11-20 社会保障審議会介護保険部会(第129回)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001608873.pdf

現状と課題として、発生件数等は高止まり傾向にあり、適正な手続を経ていない身体拘束も一定程度発生しているとした。

事例2:「うちは住まいだから」という認識の甘さ

  • 状況
    • サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の管理者が、「特養とは違い、あくまで『住宅』である」という認識から、虐待防止委員会の設置や指針の策定を後回しにしていた。
  • 現場の困りごと
    • 現場スタッフへの教育が行き届かず、不適切なケアが散見されるが、「虐待」というほどの認識はない。しかし、制度改正により「未実施減算」の対象となる可能性が浮上し、急な対応に追われることになる。
  • 押さえるべき視点
    • 国は、有料老人ホームやサ高住などの「住まい」における虐待防止対策をさらに強化する必要があるとしています。具体的には、「未実施減算」の適用対象の見直し検討が含まれており、今後は「住まいだから」という区分けによる猶予はなくなり、厳格な対応が求められる方向です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省

2025-11-20 社会保障審議会介護保険部会(第129回)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001608873.pdf

論点1の考え方として、有料老人ホームや有料ホームに該当しないサ高住など住まいにおける虐待防止対策の取組をさらに強化する必要があるのではないかとした。(中略)未実施減算の対象事業種別の見直し検討、高齢者権利擁護等推進事業による自治体の体制づくり促進を提示した。

事例3:組織的な対策なき「現場判断」の常態化

  • 状況
    • 夜間の人員が少なく(ワンオペ等)、徘徊や他害のリスクがある利用者に対して、現場スタッフが個人の判断で一時的に居室の鍵をかけたり、強い口調で制止したりすることが常態化している。
  • 現場の困りごと
    • 「安全のため」という大義名分のもと、組織として是正されないまま時間が経過。しかし、虐待の発生状況は多様化しており、こうした現場任せの対応が虐待認定されるリスクが高まっている。
  • 押さえるべき視点
    • 虐待の発生状況は多様化しており、件数も高止まり傾向にあります。国は、虐待防止法に規定されていない住まい等も含めた対応方法を整理した「国マニュアル」や「身体拘束廃止・防止の手引き」の浸透を図ろうとしています。組織的なルール(マニュアル)に基づかない現場判断は、職員を守る術がなく、非常に危険な状態です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省

2025-11-20 社会保障審議会介護保険部会(第129回)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001608873.pdf

現状と課題として、発生件数等は高止まり傾向にあり、適正な手続を経ていない身体拘束も一定程度発生しているとした。サービス種別ごとの発生・再発の状況などの違いがあることや、高齢者虐待防止法に規定されていない住まい、養護者に該当しない同居者からの虐待など、発生状況が多様化していると述べた。

これらの事例から分かるのは、悪意がなくとも「手続きの欠如」や「認識の甘さ」が、事業所を窮地に追い込むということです。国の議論は、こうした曖昧な運用を許さない方向へ明確に進んでいます。


なぜ「家族の同意」だけでは許されないのか? 規制強化の3つの背景

女性介護士と入居者家族

現場では、「ご家族が納得しているなら、それが利用者様にとっても一番良いケアなはずだ」と信じて対応しています。しかし、国が今、有料老人ホームやサ高住に対して規制を強めている背景には、現場の善意だけではカバーしきれない構造的な課題があるからです。なぜ、これまでの「家族の同意があればOK」というローカルルールが通用しなくなるのか。その理由は、国のデータ分析と制度の隙間にありました。

虐待件数の「高止まり」と手続きの形骸化

最大の理由は、高齢者虐待の発生件数が依然として高止まり傾向にあるという厳しい現実です。さらに深刻なのは、身体拘束において「適正な手続」を経ていない事例が一定程度発生している点です。これは、委員会での検討や記録といったプロセスを飛ばし、「家族の同意」や「現場の判断」だけで拘束が行われている実態を国が問題視していることを意味します。この状況を打破するため、国は手続きの厳格化を求めています。

出典元の要点(要約)
厚生労働省

2025-11-20 社会保障審議会介護保険部会(第129回)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001608873.pdf

現状と課題として、発生件数等は高止まり傾向にあり、適正な手続を経ていない身体拘束も一定程度発生しているとした。

「住まい」という制度の隙間を埋めるため

これまで、有料老人ホームやサ高住などの「住まい」は、特養などの介護施設に比べて虐待防止対策の網がかかりにくい側面がありました。虐待防止法に規定されていない住まいや、養護者に該当しない同居者からの虐待など、発生状況が多様化していることも背景にあります。国は、こうした「制度の隙間」で起きる虐待を防ぐため、住まいにおける対策の取組をさらに強化する必要があると判断しています。

出典元の要点(要約)
厚生労働省

2025-11-20 社会保障審議会介護保険部会(第129回)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001608873.pdf

論点1の考え方として、有料老人ホームや有料ホームに該当しないサ高住など住まいにおける虐待防止対策の取組をさらに強化する必要があるのではないかとした。虐待防止法に規定されていない住まいや養護者に該当しない同居者からの虐待も含めた対応方法を整理した国マニュアルの浸透(中略)を提示した。

「減算」という強制力による体制整備

理念だけでは改善が進まない現実に対し、国はより実効性のある手段として報酬上のペナルティ(減算)の拡大を検討しています。これまでは減算の対象外だった事業種別についても、高齢者虐待防止措置やBCP(業務継続計画)の未実施減算を適用できるよう、制度上の整備を行う必要性が議論されています。これは、コンプライアンス遵守を「努力目標」から「経営の必須条件」へと引き上げるための措置と言えます。

出典元の要点(要約)
厚生労働省

2025-11-20 社会保障審議会介護保険部会(第129回)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001608873.pdf

福祉用具販売事業者に対してもBCPの未実施減算や高齢者虐待防止措置の未実施の場合の減算を適用できるよう、所要の制度上の整備を行う必要があるのではないかと述べた。(※有料老人ホーム等についても同様の強化方針が論点1で示されている)

規制強化は現場への嫌がらせではなく、高止まりする虐待件数を減らし、制度の穴を埋めるための必然的な流れです。「家族の同意」に頼る運用は、もはやリスクでしかありません。

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よくある質問:有料・サ高住の身体拘束とコンプライアンス

Q
家族から「転倒が心配だから拘束してほしい」と要望されても断るべきですか?
A

はい。身体拘束は「切迫性・非代替性・一時性」の3要件をすべて満たし、委員会等での検討といった適正な手続きを経ない限り、実施してはいけません。家族の同意や要望だけで行うことは認められておらず、不適切な拘束とみなされるリスクがあります。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

2025-11-20 社会保障審議会介護保険部会(第129回)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001608873.pdf

現状と課題として、発生件数等は高止まり傾向にあり、適正な手続を経ていない身体拘束も一定程度発生しているとした。

Q
サ高住でも「虐待防止委員会」を設置しないと減算になりますか?
A

現時点での減算適用有無にかかわらず、国はサ高住などの「住まい」における虐待防止対策を強化する方針です。今後、未実施減算の対象事業種別が見直される検討が進められており、対策を怠ることは経営リスクになります。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

2025-11-20 社会保障審議会介護保険部会(第129回)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001608873.pdf

論点1の考え方として、有料老人ホームや有料ホームに該当しないサ高住など住まいにおける虐待防止対策の取組をさらに強化する必要があるのではないかとした。未実施減算の対象事業種別の見直し検討などを提示した。

Q
体制整備のために、何を参考にすればよいですか?
A

独自のルールではなく、国が示している「虐待防止対応マニュアル」や「身体拘束廃止・防止の手引き」を参考にしてください。国はこれらのツールの現場への浸透を重要視しています。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

2025-11-20 社会保障審議会介護保険部会(第129回)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001608873.pdf

虐待防止法に規定されていない住まいや養護者に該当しない同居者からの虐待も含めた対応方法を整理した国マニュアルの浸透、身体拘束の廃止・防止の手引きの浸透などを提示した。


まとめ:「住まい」だからこそ、法令遵守が最強の防具になる

ここまで、有料老人ホームやサ高住における身体拘束とコンプライアンスの現状について解説してきました。「家族の同意があれば大丈夫」という認識は、現在の規制強化の流れにおいては、事業所にとって最大のリスク要因となり得ます。

国は今、虐待防止法上の位置づけが曖昧だった「住まい」に対しても、特養などと同様の厳しい基準を求め始めています。「未実施減算」の議論は、その本気度の表れです。現場の人員不足や家族からの要望という難しい課題はありますが、だからこそ、感情や個人の判断ではなく、「法律と手続き」という客観的なルールで現場を守る必要があります。

明日からの施設運営で確認したいポイント

  • 「家族の同意書」だけで身体拘束を実施していないか、3要件(切迫性・非代替性・一時性)の記録があるか再確認する。
  • 「虐待防止委員会」が形骸化していないか、または未設置でないかを見直す。
  • 国が推奨する「マニュアル」や「手引き」を現場のリーダー層と共有する。

適正な手続きを踏むことは、決して現場の負担を増やすためだけの強要ではありません。万が一のトラブルや行政指導の際に、懸命に働くスタッフを守るための唯一の盾となります。この記事をきっかけに、今の運用が法的に守られたものになっているか、一度立ち止まって確認していただければと思います。

最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。



更新履歴

  • 2025年12月18日:新規投稿

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