「刻めば食べやすい」とは限らない?誤嚥を防ぐ「まとまり(凝集性)」の重要性

「安全のために」と時間をかけて刻み食を作ったのに、かえってムセ込みが増えてしまう。多忙な現場では一人ひとりに合わせた調整が難しく、つい慣例的な対応になってしまう葛藤があるかもしれません。

全ての食事を完璧にするのは困難でも、凝集性(まとまり)という視点を一つ持つだけで、日々のケアの安全性は大きく変わります。

この記事を読むと分かること

  • 刻み食が危険な理由
  • コード3・4の定義
  • 誤嚥サインの見抜き方
  • とろみ調整の正解
  • あんかけ活用のコツ

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 刻み食でよくムセる
  • 食後に口に残る
  • 食事量が減ってきた
  • とろみが毎回違う
  • 基準が分からない

結論:「小さく刻めば安全」は間違い?誤嚥を防ぐカギは「まとまり」にあり

現場では「飲み込みが悪くなったら、とにかく細かく刻んで提供する」という対応が“暗黙のルール”になりがちです。厨房の調理負担や、一人ひとりに合わせた調整の手間を考えると、「とりあえず刻んでおけば、喉に詰まることはないだろう」と判断したくなるのが現実的な葛藤ではないでしょうか。しかし、単に食材を細かくするだけの対応には、医学的な視点で見ると意外な落とし穴が潜んでいます。

「大きさ」よりも「舌でつぶせるか」が基準

安全な食事形態の基準として、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の分類では、食材の粒の大きさ(mm)ではなく、「口の中でどう処理できるか」という物性を重視しています。 具体的には、「コード3」は形があっても「舌と口蓋(上あご)」で押しつぶせるもの、「コード4」は箸やスプーンで切れ、歯がなくても歯ぐきで処理できる柔らかさと定義されています。つまり、単に包丁で細かく刻んだとしても、それが口の中でバラバラになり、舌で押しつぶしてまとめられなければ、安全な食事とは言えません。

出典元の要点(要約)
国立国際医療研究センター

嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発 令和元年度 総括・分担研究報告書

https://www.hosp.jihs.go.jp/s027/100/R1_Report.pdf

「コード3」は形はあるが舌と口蓋(上あご)間で押しつぶしが可能なもの、「コード4」は箸やスプーンで切れるやわらかさで、歯がなくても対応可能だが上下の歯ぐきの間で押しつぶすあるいはすりつぶすことが必要なものとされている。

とろみの付けすぎは「腹部膨満感」を招く

刻んだ食材が口の中でバラつかないよう、とろみ剤を使用することが多いですが、ここにも注意が必要です。 とろみを付けることは液体の誤嚥防止に有効な反面、「腹部膨満感」を誘発したり、口の中のさっぱり感が損なわれたりすることで、結果的に食事の「摂取量」が減少してしまうリスクが報告されています。 現場では安全を優先するあまり、強めのとろみを付けがちですが、それが利用者様の「食べない原因」を作っている可能性も考慮し、「脱水予防」の観点からも摂取量を把握する必要があります。

出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会

日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013

https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf

とろみを付けることは安全に液体を摂取してもらうための対応であるが,腹部膨満感を誘発したりさっぱり感が少ないため摂取量が少なくなったりする場合が多いとの報告があり,脱水予防のためには摂取量の把握が必要としている.とろみ調整食品は数十秒を要する場合が多く,所定の量を十分混ぜ,時間がたってからとろみの程度を評価して判断する必要がある.また味や香りが劣化すること,糖尿病の患者に大量に使用する場合はエネルギー計算が必要であること,付着性などが異なるため試飲を心がけたいことを示している.

評価時は「姿勢」もセットで確認する

食事形態が合っているかを判断する際は、単に口の中を見るだけでなく、どのような姿勢で食べているかも重要な評価項目です。 観察評価においては、「車イス座位」なのか、ベッド上での「リクライニング」なのか、リクライニングの場合は水平から何度起こしているかといった条件も含めて記録・判定することが推奨されています。 「ムセるから刻み食にする」と安易に決める前に、まずは姿勢が適切かどうかも含めた総合的な判断が求められます。

出典元の要点(要約)
国立国際医療研究センター

嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発 令和元年度 総括・分担研究報告書

https://www.hosp.jihs.go.jp/s027/100/R1_Report.pdf

観察評価表の「姿勢・その他の条件」欄には、車イス座位、ベッド上(リクライニングの有無)、他に姿勢の工夫などをした場合はその旨を記入し、リクライニング有りの場合は水平からの角度を記入することとされている。

誤嚥を防ぐために本当に必要なのは、食材を「小さく刻む」作業ではなく、本人の舌や歯ぐきで「処理できるかたさ(コード)」を見極めることです。また、安易なとろみ付けが食欲低下を招くリスクも理解し、食事の形態・とろみの濃度・姿勢をセットで考えることが、安全な食事ケアへの第一歩となります。

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現場で起きがちな「すれ違い」事例

日々の業務に追われる中で、「安全のため」「食べやすくするため」と良かれと思って行った対応が、結果的に利用者様の「食べる力」を奪ったり、リスクを高めてしまったりすることがあります。 ここでは、多くの介護現場で見られる典型的な「すれ違い」のケースを3つ紹介します。

事例1:焼き魚を丁寧にほぐして提供したら…

  • 状況
    • 「魚は骨があって危ないし、身が硬いと噛み切れないから」と、焼き魚を細かくほぐし、パサパサになるまで刻んで提供しました。
  • 困りごと
    • スプーンですくって口に入れた瞬間、利用者が激しくムセ込んでしまいました。水分で流し込もうとしましたが、口の中に細かい魚の身が広がり、なかなか飲み込めません。
  • よくある誤解
    • 「細かければ細かいほど、喉に詰まらず安全だ」という思い込み。
  • 押さえるべき視点
    • 水分が少ない食材(焼き魚、ゆで卵の黄身など)をただ刻むと、口の中でバラバラになり、気管に入りやすくなります。学会分類では、安全な食事(コード3)の条件として、形があっても「離水が少ない」「喉を通過する時にばらけない(凝集性がある)」ことを挙げています。 刻むだけでなく、とろみあんやソースで「つなぎ」を作り、まとまりを持たせることが重要です。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会

日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013

https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf

「コード3」の要件として、舌で押しつぶせる、簡単にまとまる、離水が少ない、喉を通過する時にばらけない、べたつかない(付着性が低い)ことが挙げられている。

事例2:誤嚥が怖いから「とろみ」を濃くしたら…

  • 状況
    • 以前、お茶でムセたことがあるため、「念のため」と全てのお茶や汁物に濃いめのとろみ(ポタージュ状〜ジャム状)をつけて提供しました。
  • 困りごと
    • 最初の数口は食べましたが、すぐにスプーンが止まり、「もうお腹いっぱい」と食事を残すようになってしまいました。排尿の回数も減っている気がします。
  • よくある誤解
    • 「とろみは濃ければ濃いほど安全で、デメリットはない」という認識。
  • 押さえるべき視点
    • とろみ調整食品の多用は、胃の中で膨れて「腹部膨満感」を引き起こし、食事摂取量を低下させることがあります。 良かれと思ってとろみを濃くした結果、水分や栄養が十分に摂れず、かえって「脱水」や低栄養のリスクを招くことがあるため、摂取量の把握と適切な濃度の見極めが必要です。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会

日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013

https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf

とろみを付けることは安全に液体を摂取してもらうための対応であるが,腹部膨満感を誘発したりさっぱり感が少ないため摂取量が少なくなったりする場合が多いとの報告があり,脱水予防のためには摂取量の把握が必要としている.

事例3:口腔ケアが難航する「刻み食」の罠

  • 状況
    • 歯がほとんどない利用者様に対し、主食も副食もすべて細かく刻んだ「刻み食」を提供し続けています。
  • 困りごと
    • 食後の口腔ケアを行おうとすると、義歯(入れ歯)の隙間や、麻痺側の頬の内側に、びっしりと食べカスが残っています。取り除くのに時間がかかり、利用者様も不快感から口を開けるのを嫌がるようになりました。
  • よくある誤解
    • 「歯がないから噛めない。だから刻んであげればそのまま飲み込めるはず」という単純化。
  • 押さえるべき視点
    • まとまりのない刻み食は、口腔内に「付着」しやすく、残留物が原因で細菌が繁殖する温床になりがちです。 残留した食べカスを誤って気管に吸い込むことによる誤嚥性肺炎を防ぐためにも、口の中に残りにくい(付着性が低い)形態への変更や、食後の丁寧な口腔ケアが欠かせません。
出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会

日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013

https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf

コード3やコード4の要件として「口腔などに貼りつきにくい(付着性が低い)」ことが挙げられている。また、とろみ調整食品の使用においても「付着性などが異なるため試飲を心がけたい」とされている。

これらの事例は、決して特別なミスではなく、現場の「安全への配慮」が行き過ぎたり、少し方向がずれたりした結果起こるものです。 「細かさ」や「とろみの濃さ」だけに囚われず、「口の中でのまとまりやすさ」や「残りやすさ」に目を向けることで、これらのトラブルの多くは回避できる可能性があります。


誤嚥のリスクは「大きさ」ではなく「物性」にある

水分ゼリー

なぜ、時間をかけて細かく刻んだ食事が、かえって誤嚥の原因になってしまうのでしょうか。 現場では「詰まらせないために小さくする」ことが最優先されがちですが、医学的な摂食・嚥下のメカニズムから見ると、高齢者が安全に飲み込むためには「大きさ(サイズ)」以上に、口の中での「まとまり(凝集性)」や「水分の分離(離水)」といった「物性(テクスチャー)」が決定的な役割を果たしています。

バラバラの食材は「食塊(しょっかい)」にならない

私たちが食事をする際、無意識のうちに噛んだ食べ物を唾液と混ぜ合わせ、飲み込みやすいひとつのボール状(食塊)にまとめてから喉へと送り込みます。 しかし、唾液の分泌量が減っている高齢者の場合、パサパサした刻み食は口の中でまとまらず、バラバラのまま喉へ落ちてしまいます。学会分類における「コード3」の定義でも、単に柔らかいだけでなく「簡単にまとまる(凝集性が高い)」ことや、喉を通過する時に「ばらけない」ことが安全な摂取の条件として重視されています。

出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会

日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013

https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf

「コード3」の要件として、舌で押しつぶせる、簡単にまとまる、離水が少ない、喉を通過する時にばらけない、べたつかない(付着性が低い)ことが挙げられている。

「離水(りすい)」が誤嚥の引き金になる

刻み食で特に危険なのが、食材から水分がしみ出てくる「離水」という現象です。 例えば、水分の多い野菜や魚を刻んだ際、固形物と水分が分離していると、固形物を噛んでいる間に水分だけが先に喉の奥へと流れ込んでしまいます。嚥下反射(ごっくん)の準備が整う前に水分が気管に入り込むことで誤嚥が生じます。 そのため、安全な食形態(コード3)には「離水が少ない」ことが求められ、必要に応じてとろみあんなどで水分と固形物を一体化させる工夫が必要不可欠です。

出典元の要点(要約)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会

日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013

https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf

「コード3」の要件として、舌で押しつぶせる、簡単にまとまる、離水が少ない、喉を通過する時にばらけない、べたつかない(付着性が低い)ことが挙げられている。

「ムセない」からといって安全ではない

「食事中にムセていないから、この食形態で大丈夫」と判断するのは危険です。 嚥下機能や咳反射の感覚が低下している高齢者の場合、誤って気管に入ってもムセることができない「不顕性誤嚥(サイレント・アスピレーション)」を起こしている可能性があります。 ガイドラインの研究報告では、VF(嚥下造影検査)等の特別な機器を用いない観察評価でも、「湿性嗄声(ガラガラ声)」「呼吸状態の変化」「咳」などを組み合わせることで、約8割の精度で判定が可能とされています。ムセの有無だけでなく、食後の「声」や「呼吸」に耳を澄ませることが重要です。

出典元の要点(要約)
国立国際医療研究センター

嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発 令和元年度 総括・分担研究報告書

https://www.hosp.jihs.go.jp/s027/100/R1_Report.pdf

観察評価とVE・VF検査結果の一致率は全体で80.8%であった。重要な観察項目として、湿性嗄声、咳、呼吸の変化などが挙げられている。ムセない場合でも誤嚥している可能性があるため、これらの観察項目を組み合わせることが重要である。

誤嚥の原因は「食材の大きさ」よりも、「口の中でまとまるか」「水分が分離しないか」という物理的な性質にあります。また、ムセない誤嚥を見落とさないためには、目の前の現象(ムセ)だけでなく、声や呼吸といった微細なサインを観察する視点が、利用者の命を守る根拠となります。

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現場で迷いがちな疑問 Q&A

女性の介護職員の画像
Q
とろみ剤がダマになったり、うまく混ざらなかったりします。コツはありますか?
A

とろみ調整食品は、入れてから数十秒間、十分にかき混ぜる必要があります。また、混ぜてすぐは粘度が安定しないことが多いため、少し時間がたってからとろみの程度を評価して判断してください。

出典元の要点(要約)

日本摂食・嚥下リハビリテーション学会

日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013

https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf

とろみ調整食品は数十秒を要する場合が多く、所定の量を十分混ぜ、時間がたってからとろみの程度を評価して判断する必要がある。

Q
施設に検査機器(VFやVE)がありません。観察だけで判断しても大丈夫ですか?
A

特別な検査機器がなくても、ムセや湿性嗄声(ガラガラ声)、呼吸の変化、咳などを組み合わせた観察評価を行うことで、約8割の精度で判定が可能という報告があります。日々の観察が非常に重要です。

出典元の要点(要約)

国立国際医療研究センター

嚥下造影および嚥下内視鏡を用いない食形態判定のためのガイドラインの開発 令和元年度 総括・分担研究報告書

https://www.hosp.jihs.go.jp/s027/100/R1_Report.pdf

観察評価とVE・VF検査結果の一致率は全体で80.8%であった。重要な観察項目として、湿性嗄声、咳、呼吸の変化などが挙げられている。


まとめ:完璧を目指さず、まずは「ひとまとまり」の工夫から

「刻めば安全」という思い込みを一度手放し、食材が口の中でどう動くか、その「物性」に目を向けることが、誤嚥対策の大きな一歩です。

本記事で解説した重要なポイントを振り返ります。

  • 大きさよりも「舌でつぶせるか」「まとまりがあるか(凝集性)」を重視する
  • とろみは濃すぎると「腹部膨満感」や脱水の原因になるため、摂取量と濃度に注意する
  • ムセない誤嚥を見抜くために、食後の「声(ガラガラ声)」「呼吸」の変化を観察する

明日からすぐに全ての食事形態や調理法を変えることは、設備や人員の都合上難しいかもしれません。しかし、パサつく食材に「とろみあん」をかけてまとまりを出したり、とろみ剤を混ぜた後に「数十秒待って」粘度の安定を確認したりすることは、今の現場でも実践できるはずです。

また、食事のケアや判断は介護職だけで抱え込むものではありません。少しでも不安や迷いを感じたら、歯科医師や管理栄養士などの専門職と連携し、多職種チームで利用者様の「食べる喜び」を支えていきましょう。

最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。



更新履歴

  • 2025年12月26日:新規投稿

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