夜勤の忙しさで、つい使用済みのパッドをベッド柵に仮置きしたり、汚れた手袋のままワゴンに触れてしまったりすることはありませんか。理想は分かっていても、人手不足の現場では手順が飛びそうになる瞬間があるでしょう。
全てを完璧にこなすのは困難です。しかし、目に見えない汚れをゾーニングで区切り、「ここから先は汚染区域」という境界線を意識するだけで、リスクは劇的に下がります。
この記事を読むと分かること
- オムツ交換の清潔・汚染の境界線
- 手袋を外すべき絶対のタイミング
- 汚染時の次亜塩素酸の正しい処理
- 現場で使える簡易ゾーニング手法
- 持ち込まない・持ち出さない手順
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:排泄ケアの「見えない汚れ」を断ち切る境界線

現場では、次から次へと鳴るナースコールに追われ、つい使用済みのオムツをベッド柵に仮置きしたり、手袋を変えずにワゴンを動かしたりしてしまう瞬間があるかもしれません。
建前では「不潔」と分かっていても、ワンオペの夜勤などでは物理的に手が回らないこともあるでしょう。しかし、その「ほんの一瞬」が感染を広げるきっかけになります。完璧な動きができなくても、ここだけは守るべき境界線を整理しました。
1. 「全員」を対象とした標準予防策
「この人は感染症がないから大丈夫」という油断が、見えない汚れを広げる原因になります。感染対策の基本は、症状の有無に関わらず、すべての人の排泄物などを「感染の可能性があるもの」として扱う標準予防策(スタンダードプリコーション)です。
特定の誰かだけを特別扱いするのではなく、全員に対して同じレベルの対策(手袋着用・手洗い等)を行うことが、結果として業務を単純化し、自分と施設を守る土台となります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護現場における感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
感染対策は、感染症の有無に関わらず、すべての人が感染症の病原体を持っている可能性があると考え、血液、体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜を感染の可能性があるものとして取り扱う「標準予防策(スタンダードプリコーション)」が基本となる。
2. 接触感染のルートを遮断する
ウイルスは空気中を勝手に飛んでいくのではなく、主に「手」や「物」を介して移動します。これを接触感染と呼びます。
最も注意すべきは、汚れた手袋のままで手すりやドアノブ、ワゴンの取っ手などに触れてしまうことです。そこを介して、ウイルスは次の職員や利用者の手へと移動します。排泄介助中は「汚染された手で環境(家具や建具)に触れない」ことが、感染拡大を防ぐ重要な防衛ラインです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
接触感染は、感染者からの直接的な接触や、ウイルスが付着した手すり、ドアノブ、食器、衣類などを介して起こる。ウイルスが付着した手で口や鼻を触れることによって感染する。
3. 手袋交換と手洗いのセット運用
「手袋をしているから手は汚れていない」というのは誤解です。手袋には目に見えない小さな穴(ピンホール)が開いている可能性があるほか、外す瞬間に手が汚染されるリスクがあります。
そのため、エビデンスでは「手袋はケアごとに交換すること」に加え、「手袋を外した後には必ず手洗いを行うこと」が定められています。手袋は万能ではないと理解し、交換と手洗いをセットで行うことが必須です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
手袋を着用していても、目に見えないピンホール(穴)からの汚染や、手袋を外す時に手指が汚染される可能性があるため、手袋を外した後は必ず手洗いを行う。手袋はケアごとに交換する。
忙しい中でも、「汚れた物を環境に置かない」「手袋を外したら必ず洗う」という標準予防策と接触感染対策だけは死守しましょう。この基本動作の徹底が、見えない汚れを封じ込め、クラスターを防ぐ最大の防御になります。
現場でよくある事例と現実的な解決策

夜勤のワンオペ中、ナースコールが重なり、焦りながらオムツ交換へ。「ワゴンを置く場所がない」「腰が痛くて動きたくない」という状況で、つい使用済みのパッドをベッド柵に仮置きしたり、手袋を変えずに新しいオムツを取り出したりしていませんか?
建前では「ダメ」と分かっていても、現場の忙しさやスペースの狭さがそれを許さないこともあるでしょう。ここでは、そんな現場で起きがちな「うっかり行動」のリスクと、エビデンスに基づいた「現実的な対処法」を解説します。
事例1:置き場に困る「汚れたオムツ」
「床に置くのは不潔だから」という心理から、使用済みのオムツやパッドをベッド柵やオーバーテーブルに一時置きしてしまうケースがあります。しかし、これは感染拡大の典型的なパターンです。
ウイルスは「物」を介して移動します(接触感染)。次にその柵やテーブルを触った職員や利用者の手にウイルスが付着し、口や鼻に運ばれることで感染が成立します。汚染物は「環境(家具や建具)」に触れさせないことが鉄則です。足元や専用カートに廃棄用袋を事前に準備し、体から離したらダイレクトに袋へ密閉する手順を徹底しましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
接触感染は、感染者からの直接的な接触や、ウイルスが付着した手すり、ドアノブ、食器、衣類などを介して起こる。ウイルスが付着した手で口や鼻を触れることによって感染する。
事例2:手袋交換の「もったいない」精神
「便で汚れていないから」「もったいないから」と、排泄介助で使用した手袋のまま、新しいオムツの袋を開けたり、ワゴンの取っ手を掴んで移動したりしていませんか?
見た目がきれいでも、手袋には目に見えない微細な穴(ピンホール)が開いている可能性があります。また、手袋を外す瞬間に手が汚染されるリスクも無視できません。エビデンスでは「手袋はケアごとに交換」し、外した後は必ず「手指衛生(手洗い)」を行うことが義務付けられています。この「交換+手洗い」のセットこそが、見えない汚れを断ち切る唯一の手段です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
手袋を着用していても、目に見えないピンホール(穴)からの汚染や、手袋を外す時に手指が汚染される可能性があるため、手袋を外した後は必ず手洗いを行う。手袋はケアごとに交換する。
事例3:畳や床での対応(グループホーム等)
グループホームや和室のある施設では、「ベッドではないのでゾーニング(区域分け)ができない」「床でオムツ交換をする際の境界線が分からない」という悩みも聞かれます。
設備が整っていなくても、ゾーニングの考え方は応用できます。ケアを行う際、利用者の臀部の下に使い捨てのシートや新聞紙、大きめのビニール袋などを敷くことで、そのエリアだけを「汚染区域」と定義します。汚れた物はそのエリア内だけで処理し、エリア外(畳や床)には一切触れさせないことで、施設全体を清潔に保つことができます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護現場における感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
施設内で感染者が発生した場合、感染者の居室を「汚染区域」、それ以外を「清潔区域」としてゾーニング(区分け)を行う。
物理的な壁がなくても、「袋の中は汚染」「ワゴンの上は清潔」といった見えない境界線を意識するだけでリスクは減らせます。自分の動きがウイルスの運び屋にならないよう、手袋交換と物品配置のルールだけは死守しましょう。
なぜ、気づかないうちに汚染は広がるのか?

現場では、「手袋をしているから大丈夫」「汚れた部分には直接触れていない」と、無意識に安心してしまうことがあります。しかし、実際にはその油断がクラスターの引き金になることがあります。
目に見えないウイルスがどのように移動し、なぜ「手袋」だけでは防ぎきれないのか。その構造的な原因を整理します。
排泄物には「見えない病原体」が潜んでいる
排泄ケアにおいて最も警戒すべきリスクは、利用者が元気そうに見えても、その排泄物にはノロウイルスや大腸菌などの病原体が含まれている可能性があるという点です。
感染症の有無に関わらず、すべての血液・体液・排泄物を「感染源」として扱うのが標準予防策の基本です。「この人は大丈夫」という思い込みを捨て、全員に対して同じレベルの警戒を持つことが、見えない汚染を防ぐ第一歩となります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護現場における感染対策の手引き 第3版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001155694.pdf
感染対策は、感染症の有無に関わらず、すべての人が感染症の病原体を持っている可能性があると考え、血液、体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜を感染の可能性があるものとして取り扱う「標準予防策(スタンダードプリコーション)」が基本となる。
手袋は「魔法のバリア」ではない
「手袋さえしていれば安全」というのは大きな誤解です。手袋はあくまで自分の手を守るためのものであり、手袋の表面は汚染されています。
汚れた手袋のままドアノブやワゴンの取っ手に触れれば、ウイルスはそこへ移動します。これを接触感染と呼びます。手袋はウイルスを運ぶ「媒介者」になり得るため、ケアごとの交換と、環境に触れない意識が不可欠です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
接触感染は、感染者からの直接的な接触や、ウイルスが付着した手すり、ドアノブ、食器、衣類などを介して起こる。ウイルスが付着した手で口や鼻を触れることによって感染する。
ウイルスは自力で飛んでいくのではなく、私たちの「手」や「手袋」に乗って移動します。この接触感染の連鎖を断ち切るには、汚染された手袋で清潔な場所に触れないという、物理的な境界線(ゾーニング)の意識が何よりも重要です。
現場の疑問を解決するFAQ
マニュアルのルールは理解していても、「実際、この場合はどうなの?」と迷う場面は多いものです。ここでは、オムツ交換の現場で特によくある疑問について、エビデンス(根拠)に基づき回答します。
- Q手袋をしたままアルコール消毒をして、次の人のケアをしてもいいですか?
- A
いいえ、推奨されません。 手袋は「ケアごと」に交換することが原則です。手袋をしていても目に見えない穴(ピンホール)が開いている可能性があるため、継続使用はせず、外した後は必ず手洗い(または手指消毒)を行う必要があります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
手袋を着用していても、目に見えないピンホール(穴)からの汚染や、手袋を外す時に手指が汚染される可能性があるため、手袋を外した後は必ず手洗いを行う。手袋はケアごとに交換する。
- Qオムツ交換のたびに、エプロンやガウンも着替える必要がありますか?
- A
はい、処置ごとの交換(または使い捨て)が基本です。 排泄介助は衣服が汚染されるリスクが高いため、手袋と同様にケアごとに新しいものにするか、使い捨て製品を使用することで、感染の媒介を防ぐことができます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf
手袋、マスク、ガウン(エプロン)は、処置ごとに交換するか、または使い捨てにする。
すべてを完璧にこなそうとすると焦りが生まれますが、「手袋とエプロンは一人ひとり変える」という原則は、あなた自身を感染から守るための最も確実なルールです。まずはこの一点から、確実に習慣化していきましょう。
まとめ:見えない「境界線」があなたと利用者を守る
排泄ケアにおける感染対策は、目に見えないウイルスとの戦いです。忙しい業務の中で、すべての手順を完璧に行うことは難しいかもしれません。しかし、「汚れた物を置く場所」と「手袋を外すタイミング」を決めるだけで、リスクは大幅に減らせます。
まずは明日から、以下の2点だけを意識してみてください。
- オムツ交換の前に、廃棄用袋を足元やカートの定位置にセットし、ベッド柵などに仮置きしないこと。
- 手袋はあくまで「汚染されたもの」と認識し、外した直後に必ず手洗い(または手指消毒)を行うこと。
この小さな「境界線(ゾーニング)」の意識が、感染の連鎖を断ち切る大きな防波堤となります。無理のない範囲で、できることから一つずつ習慣にしていきましょう。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2025年12月27日:新規投稿


