【介護】無理に励ますのは逆効果?パーキンソン病の「動けない」への対応の視点

「さっきまで歩けたのに」の正体

「さっきまで自分で歩いていたのに、トイレ介助の時だけ足が止まる」。急に動けなくなる利用者への対応に、忙しい業務の中で「甘えではないか」と戸惑うことはありませんか?

理想は「待つケア」でも、現場の人員配置では難しいのが現実です。すべてを完璧にするのは無理でも、この時間のズレの正体を知るだけで、無駄な焦りや転倒リスクの軽減につながります。

この記事を読むと分かること

  • 「動けない」のがわがままではなく「ウェアリングオフ」という症状だと区別しやすくなる
  • 無理に動かそうとして転倒させるリスクを回避しやすくなる
  • 医師や看護師に「何時頃に動けなくなるか」を正確に伝え、薬の調整につなげやすくなる

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 食事や排泄の介助中、急に利用者の動きが止まって焦ったことがある
  • 「さっきはできたじゃない」と、つい利用者を急かしてしまったことがある
  • 日によって(あるいは時間によって)利用者の機嫌や調子の波が激しいと感じる
  • 薬を飲んでいるのに、効いていないように見える時間がある

結論:動けない原因は「性格」ではなく「薬の切れ目」

薬の画像

現場では、食事やトイレ介助の真っ最中に突然利用者が動かなくなり、「なんで今なの?」と焦る場面がよくあります。

「ゆっくり待ってあげたい」という気持ちはあっても、次の入浴誘導や他のコール対応が控えている中では、つい「頑張って歩いて」と声を荒らげてしまい、後で自己嫌悪に陥ることもあるでしょう。

しかし、この現象は本人のやる気や性格の問題ではありません。生理現象として今は動くのが難しい時間が存在する可能性を、まずは理解することが大切です。

原因は「ウェアリングオフ現象」という生理現象

パーキンソン病の治療において、L-ドパ製剤は非常に効果的な薬ですが、治療を長く続けていると、薬の効果が持続する時間が短くなってくることがあります。

これにより、次の薬を飲む前に薬効が切れ、手足の震えや体の動かしにくさといった症状が再び現れてしまう現象をウェアリングオフ現象と呼びます。

これは本人の意思や「甘え」ではなく、薬の効果が切れたことによる身体的な症状の悪化と考えられます。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

ウェアリングオフ現象は、L-ドパの効果持続時間が短縮し、次の服薬前にパーキンソン病症状が増悪する現象と定義される。

観察すべきは「気分」ではなく「時間」

この現象の特徴は、薬が効いている時間(オン)と、効果が切れて症状が悪化している時間(オフ)が、一日のうちで変動することです。

「さっきはできていたのに」と感じるのは、その時がたまたまオン(効いている時間)だった可能性があります。

逆に「今は動かない」のは、オフ(切れている時間)に入ったためかもしれません。利用者の気分や性格ではなく、時間の経過による「日内変動」として捉える視点が重要です。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

運動合併症(ウェアリングオフ現象など)が発現した場合、L-ドパの頻回投与や他の薬剤の併用などが検討される。

現場でできる最大の支援は「記録」

医師が診察室で確認できる利用者の姿は、ほんの一瞬に過ぎません。生活の場である施設や自宅で「いつ、どのような症状が出るか」を知っているのは、現場の介護士だけです。

「何時ごろに動きが悪くなったか」「薬を飲んでから何時間後に動けなくなったか」という具体的な情報を症状日誌(ダイアリー)として記録することは、治療方針を決める上で極めて有用です。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

症状日誌(ダイアリー)をつけることは、患者の状態を把握するうえで極めて有用である。いつ、どのような症状が出現するかを把握し、適切な治療法を選択する。

無理に動かそうと焦る必要はありません。まずは時計を見て「今は薬が切れている時間かもしれない」と冷静に判断し、その時間を記録に残すことが、結果として利用者と自分自身を守るケアにつながります。


現場でよく見る「困った」は薬のせいかもしれない

女性の介護職員の画像

「なぜこの人は、こんなに言うことを聞いてくれないのだろう」。そう感じてしまう場面も、ウェアリングオフの視点で見直すと、全く違う景色が見えてきます。

ここでは、現場で頻発する3つの典型的な事例を紹介します。「あるある」と感じる場面があれば、それは対応を変えるチャンスかもしれません。

事例1:トイレ誘導のタイミングで足がすくむ

さっきまでレクリエーションで座って手拍子をしていたのに、トイレに行こうと立ち上がった瞬間、まるで床に足が張り付いたように動けなくなることがあります。

これはすくみ足と呼ばれる症状で、進行期によく見られます。

「早くして」と焦らせたり、無理に引っ張ったりすると、逆効果で余計に足が出なくなります。足が出ない状態で無理に動こうとすることは、転倒につながる恐れがあります。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

すくみ足は、歩行開始時や方向転換時に足が床に張り付いたようになり、前に出なくなる現象である。進行期パーキンソン病でしばしば認められる。

事例2:食事の後半でスプーンが止まる

食事介助中、初めはスムーズに食べていたのに、半分ほど食べたところで急に動きが止まり、口を開けなくなることがあります。

これを「満腹になった」「遊び食べをしている」と誤解して食事を下げてしまうことがありますが、病気の進行や、食事中に薬の効果が切れた(オフ)ことなどが影響している可能性が考えられます。

この状態で無理に食べさせると、飲み込みが悪くなっている恐れがあり、誤嚥(ごえん)のリスクが高まる可能性があります。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_25.pdf

嚥下障害は病期の進行に伴い高頻度に出現し、誤嚥性肺炎の原因となるため注意が必要である。

事例3:日によって「できる・できない」が激しい

「昨日は着替えが自分でできたのに、今日は手伝わないと全くやろうとしない」。このようなムラがあると、つい「昨日はできたでしょ!」と励ましたくなります。

しかし、パーキンソン病には日内変動があり、日によって、あるいは時間によって状態が大きく異なります。

できない日は「やる気がない」のではなく、身体的に『オフの状態にある』可能性を考慮し、介助量を増やす判断が必要です。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

ウェアリングオフ現象などにより、症状の日内変動(オン・オフ)が生じ、運動機能が時間帯によって変化することがある。

「足が止まる」「食事が止まる」のは、利用者からのSOSサインです。無理強いや叱咤激励をする前に、「今はオフの時間かもしれない」と一呼吸置くことが、双方の安全と精神的な安定につながります。


なぜ「急に」動けなくなるのか? その医学的な理由

女性の介護職員の画像

「さっきまで笑っていたのに、急に無表情になって固まってしまった」。まるでスイッチが切れたような変化に、現場では「精神的な問題では?」「嫌がらせ?」と疑ってしまうこともあるでしょう。

しかし、これは心の問題ではなく、脳内で起きている物質的な変化によるものです。この仕組みを知ることで、「不可解な現象」は「予測可能な生理現象」へと変わります。

薬の「有効時間」が短くなっていく

パーキンソン病の特効薬であるL-ドパ製剤は、服用し始めて数年は一日中安定して効いています。これをハネムーン期と呼びます。

しかし、病気が進行し治療期間が長くなると、薬の効果が持続する時間が徐々に短縮されていきます。

その結果、次の薬を飲む時間になる前に体内の薬の効果が切れてしまい、ウェアリングオフ現象が発生します。つまり、薬を飲んでいないわけではなく、薬の貯金が持たなくなっている状態なのです。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

ウェアリングオフ現象は、L-ドパの効果持続時間が短縮し、次の服薬前にパーキンソン病症状が増悪する現象と定義される。

特に「若年発症」や「重症例」で起きやすい

すべての利用者に同じように起きるわけではありません。

エビデンスによると、若年で発症した方や、重症度が高い方L-ドパの服用量が多い方などは、このウェアリングオフなどの運動合併症が出現しやすいとされています。

「あの人は大丈夫なのに、なぜこの人だけ?」という現場の疑問の背景には、こうした個人のリスク因子の違いが関係していると考えられます。

出典元の要点(要約)

日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_25.pdf

運動合併症の発現リスク因子として、若年発症、パーキンソン病の重症度、L-ドパ投与量、罹病期間が挙げられる。

「なぜ?」の答えは、薬の効果時間の短縮という身体的な変化です。「私のケアが悪いから」でも「本人の性格が悪いから」でもありません。このメカニズムを理解することが、感情的な消耗を防ぐ第一歩です。


現場の「これってどうすれば?」に答えます

「エビデンスは分かったけれど、実際の現場ではどう動けばいいの?」という疑問に対し、ガイドラインに基づいた視点でお答えします。

判断に迷った時、立ち止まるためのヒントとして活用してください。

Q
Q1. 動けなくなった時、頑張らせて歩かせてもいいですか?
A
原則として無理強いは避けてください。『すくみ足』や『オフ』の状態で無理に動こうとすると、足が出ないまま重心だけが前に行き、転倒するリスクが高まる可能性があります。その場での休息や、転倒を避けるための対応を検討することが考えられます。
出典元の要点(要約)
日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

すくみ足は、歩行開始時や方向転換時に足が床に張り付いたようになり、前に出なくなる現象である。進行期パーキンソン病でしばしば認められる。

Q
Q2. 食事の内容で薬の効き目が変わるって本当ですか?
A
本当です。食事に含まれるタンパク質がL-ドパの吸収を妨げることがあります。薬の効きが悪い場合、タンパク質の摂取時間を調整する(夕食に回す等)「蛋白再配分療法」が有効な場合がありますが、自己判断せず必ず医師や管理栄養士の指示を仰いでください。
出典元の要点(要約)
日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_27.pdf

朝昼の蛋白摂取を減らし夕食時に摂取する蛋白再配分療法(protein redistribution diet: PRD)は運動合併症を解消する可能性がありますが、ジスキネジア増悪や体重減少などのリスクがあるため、医師・栄養士と相談しながら行う必要があります。

Q
Q3. 「動けない時間」があることを、どう記録すればいいですか?
A
「動けなかった」という事実だけでなく、「いつ、どのような症状が出たか」を記録する「症状日誌(ダイアリー)」が非常に役立ちます。薬を飲んでから何時間後に動きが悪くなったか等の情報は、医師が適切な治療薬やタイミングを調整する上で重要な判断材料になります。
出典元の要点(要約)
日本神経学会

パーキンソン病診療ガイドライン2018

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

症状日誌(ダイアリー)をつけることは、患者の状態を把握するうえで極めて有用である。いつ、どのような症状が出現するかを把握し、適切な治療法を選択する。

現場で「おかしいな」と感じた違和感は、医学的に説明できることが多くあります。一人で抱え込まず、記録に残して医療職につなぐことが、利用者にとっても、あなた自身にとっても安心できるケアへの第一歩です。


まとめ:まずは「時計を見る」ことから始めましょう

忙しい現場の中で、すべての変動に合わせて完璧なケアをすることは不可能です。動けない利用者を見て「待ってあげられない自分」を責める必要はありません。

明日から、一つだけ意識を変えてみてください。利用者が急に動けなくなったり、不調を訴えたりした時、まずは時計を見て時間をメモすること. これがケアの大切な第一歩になります。

あなたが残したその「時間の記録(症状日誌)」は、医師が薬の効果時間を判定し、適切な調整を行うための重要な根拠の一つになります。正確な情報が伝われば、薬の調整によって「動ける時間」が増え、結果として利用者と、現場で支えるあなた自身を守ることにつながります。

最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。



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  • 2026年2月1日:新規投稿

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