【介護】「利用者が憎い」は正常な反応。現場で使える科学的な怒り処理法(アンガーマネジメント)

「認知症の症状だから」と頭では理解していても、繰り返される暴言暴力に対し、ついカッとなってしまう瞬間はありませんか?

同僚と愚痴を言い合っても、翌朝にはまた同じイライラがこみ上げてくる。そんな自己嫌悪のループを断ち切るために、現場で使える物理的な対処法だけを厳選しました。

この記事を読むと分かること

  • 愚痴が逆に怒りを長引かせる理由
  • 怒りを静める「物理的な儀式」
  • 「利用者が憎い」は異常ではない
  • 明日から使える気晴らしの技術

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 嫌な出来事を何度も話してしまう
  • イライラすると物に当たりたくなる
  • 利用者の顔も見たくないと思う
  • プロ失格だと自分を責めている

結論:愚痴や物への八つ当たりは逆効果。「物理的に捨てる」が有効

女性の介護職員の画像

ギリギリの人員配置、鳴り止まないナースコール. そんな余裕のない現場で理不尽な暴言を受ければ、誰だって心は波立ちます。

休憩室で同僚に愚痴をこぼしたり、更衣室でロッカーを叩きたくなったりするのは、自分を守ろうとする自然な反応かもしれません。

しかし、良かれと思ってやっているその「発散」が、実はあなたの苦しみを長引かせているとしたらどうでしょうか。

「愚痴」は脳内で嫌な記憶を再生し、怒りを維持させる

「あの時、あんなことを言われた!」と同僚に熱く語っている時、あなたの脳内ではその場面が鮮明に再生されています。

嫌な出来事を繰り返し思い出し、語ることを心理学では反すうと呼びますが、これは怒りの経験を維持させることがわかっています。

結果として、血圧などの生理的反応も長引いてしまい、スッキリするどころか、怒りの火に油を注いている状態になりかねません。

出典元の要点(要約)

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

怒りを反すうすることは、怒りの経験を維持させ、生理的反応を長引かせ、攻撃行動を増加させる 。

「物に当たる」発散は、攻撃性を高めるだけで逆効果

「イライラしたらクッションを殴って発散する」といった行動は、一見するとガス抜きができているように感じます。

しかし、こうした発散(カタルシス)の効果は、多くの研究で否定されているのが現実です。

たとえエクササイズとして物を殴ったとしても、一時的な爽快感とは裏腹に、実際には攻撃行動を増加させるリスクがあることが示されています。

出典元の要点(要約)

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

カタルシス効果(怒りを表出することで攻撃衝動が低減する)は支持されず、むしろ攻撃行動を増加させることが示されている 。

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

エクササイズとして物体を殴打したとしても、怒っている対象を思い浮かべて殴打したとしても、何もしない場合と比べて攻撃性が高まる 。

効果的な対処法は「紙に書いて物理的に捨てる」こと

では、どうすれば怒りは静まるのでしょうか。効果的な方法の一つは、怒りを書いた紙を物理的に捨てることです。

イライラした内容を書き出し、それをシュレッダーにかけたりゴミ箱に捨てたりしてみてください。

脳が「紙」と「怒り」を同一視し、紙と一緒に感情も廃棄されたと錯覚することで、主観的な怒りが静まることが実験で確認されています。

出典元の要点(要約)

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

怒りを書いた紙をシュレッダーあるいはごみ箱に廃棄させることで、保持し続けた場合と比較して、主観的な怒りがベースラインまで減少する 。

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

紙を物理的に捨てるという行為により、物体(紙)と怒りの内的表象(感情)が同一視され、物体と共に感情も廃棄されたと感じられる(マジカルシンキング)ためである 。

感情を無理にコントロールしようとするよりも、紙に書いて捨てるという単純な動作の方が、脳にとっては鎮静の助けになることが期待できます。


良かれと思ってやっているかも? 現場でよくある「逆効果」な3つのケース

女性の介護職員の画像

「今日はもう限界!」と叫びたくなる夜勤明けや、理不尽なクレームを受けた帰り道。

自分を守るためにとった行動が、実は翌日の自分をさらに追い詰めているかもしれません。現場でよく見かける、少し危険なサインを3つご紹介します。

事例1:終わらない「居酒屋の愚痴大会」

仕事終わりに同僚と「あの利用者のあの態度、ありえないよね!」と盛り上がる。その場はスッキリした気になっても、翌日その利用者の顔を見ると、前日よりも強い嫌悪感が湧いてきませんか?

実は、嫌な出来事を何度も話す(反すうする)ことは、脳内でその場面を追体験しているのと同じであると心理学では説明されています。

結果として、怒りの感情が維持されやすくなり、イライラが消えにくい状態を作り出してしまう可能性があります。

出典元の要点(要約)

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

怒りを反すうすることは、怒りの経験を維持させ、生理的反応を長引かせ、攻撃行動を増加させる。

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

反すうにより怒りの主観的経験や生理的反応が維持される。

事例2:隠れた「パンチング・リリーフ」

「我慢できない!」と、休憩室のクッションを殴ったり、更衣室でロッカーを蹴ったりして発散する。一見、ガス抜きができているように思えますが、これは非常に危険な誤解です。

物を叩くなどの攻撃的な発散は、一時的な爽快感と引き換えに、攻撃的な反応を強めてしまうリスクがあります。

次第に些細なことでも手が出そうになるなど、攻撃行動のリスクを高めることがわかっています。

出典元の要点(要約)

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

カタルシス効果(怒りを表出することで攻撃衝動が低減する)は支持されず、むしろ攻撃行動を増加させることが示されている。

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

エクササイズとして物体を殴打したとしても、何もしない場合と比べて攻撃性が高まる。

事例3:「プロ失格」のレッテル貼り

暴力や拒否のある利用者に対し、「この人がいなくなればいいのに」と憎しみを感じてしまう。そして、「プロなのにこんな感情を持つなんて最低だ」と自分を責め、離職を考え始めるケースです。

しかし、看護科学の研究では、ケア対象者にネガティブな感情(怒り・憎しみ・恐れ)を抱くことは、精神的負担の構成要素として定義されています。

それはあなたの性格が悪いからではなく、困難なケア環境における正常な反応であると、概念分析の研究では位置づけられています。

出典元の要点(要約)

日本看護科学会

介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja

対象者へのネガティブな感情(怒り、嫌悪、恐怖など)は、精神的負担の属性(構成要素)の一つとして定義されている 。

日本看護科学会

介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja

利用者に対して陰性感情(怒り、恐れ、話を聞きたくない等)を抱くことへの葛藤や罪悪感も精神的負担に含まれる 。

愚痴や八つ当たり、自分へのダメ出し。これらは現場でよくある光景ですが、科学的には「自分を苦しめるループ」への入り口かもしれません。


なぜ「物理的な対処」が効くのか? 科学的な3つのメカニズム

「我慢する」変動でも「前向きに捉える」でもなく、なぜ「捨てる」という物理的な行動が心のケアになるのでしょうか。

精神論ではなく、脳の仕組みから見た納得のいく理由を知れば、明日からの対処法が変わるはずです。

理由1:「紙=怒り」と脳が錯覚するから

怒りの内容を紙に書き、それをゴミ箱やシュレッダーに捨てる。この一連の動作は、単なる気休めではありません。

物理的な物体である「紙」を捨てることで、脳はそれに書かれた「怒りの感情」も一緒に廃棄されたと同一視する働きがあると考えられています。

「目に見える形で捨てる」という行為が、目に見えない感情を処理するスイッチになっているのです。

出典元の要点(要約)

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

紙を物理的に捨てるという行為により、物体(紙)と怒りの内的表象(感情)が同一視され、物体と共に感情も廃棄されたと感じられるためである 。

理由2:言葉にすることは「再体験」だから

「話してスッキリしたい」と思うのは自然なことですが、言葉にして語る行為は、脳にとってその場面の追体験に他なりません。

自身の視点で語ることで、当時の心臓のドキドキや筋肉の緊張といった生理的なストレス反応まで再燃してしまいます。

一方、物理的に捨てる行為や気晴らしは、感情的な没入を防ぎ、クールダウンさせる効果があります。

出典元の要点(要約)

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

自身の視点から反すうすることによって怒りの主観特な経験や生理的反応が維持される 。

理由3:ネガティブ感情は「構造的」なものだから

こうした研究結果を踏まえると、「私がもっと優しければ」と過度に自分を責める必要はないと言えるでしょう。認知症ケアにおけるネガティブな感情は、BPSDや意思疎通の困難さといった環境要因から生じる必然的な反応です。

これは個人の資質の問題ではなく、ケアの構造が生み出す負担(属性)として定義されています。

だからこそ、個人の精神力で耐えるのではなく、物理的なテクニックを使って淡々と処理することが、推奨されるアプローチの一つです。

出典元の要点(要約)

日本看護科学会

介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja

BPSD(徘徊・不穏・攻撃性等)への対応は多様で正解がなく、実践者に不全感や無力感を与え、精神的負担となる 。

日本看護科学会

介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja

対象者へのネガティブな感情は精神的負担の属性の一つである。

あなたの怒りは、脳の仕組みやケアの構造による当然の反応です。だからこそ、精神論ではなく「物理的な儀式」で対処するのが最も理にかなっています。


よくある疑問:現場で感じるモヤモヤへの答え

「そうは言っても、現場は待ってくれない」「本当にこんなことで変わるの?」

そんな風に感じるのは、あなたが真剣にケアと向き合っている証拠です。現場で湧き上がる疑問に、科学の視点からお答えします。

Q
本当にムカついた時、その場でできることはありますか?
A
怒りの対象から目をそらし、全く関係のないものを見る気晴らしが有効です。窓の外の景色や、手元のボールペンなど、感情を含まない「中立的な対象」を観察することで、即時的な怒りの減少が期待できます。
出典元の要点(要約)
日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

中立的な刺激に注意を向ける気晴らしは、主観的な怒りを即時的に減少させる効果がある 。

Q
利用者に暴力を振るわれそうになった時、どう心を落ち着ければいいですか?
A
安全を確保した上で、可能であれば仰向けに寝転がるか、深くリクライニングして後傾姿勢をとってみてください。攻撃しようとする衝動(接近動機づけ)は身体的な姿勢と連動しているため、物理的に姿勢を変えることで衝動を抑制しやすくなる可能性があります。
出典元の要点(要約)
日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

仰臥位や後傾姿勢をとることで接近動機づけが低減し、攻撃的な反応が抑制されることが示唆されている。

Q
利用者のことを「嫌いだ」と思ってしまう私は、介護職に向いていないのでしょうか?
A
決してそんなことはありません。認知症ケアにおいて、対象者に怒りや嫌悪, 恐怖といったネガティブな感情を抱くことは、精神的負担の構成要素として定義されており、現場の実践者が抱える葛藤の一部です。自分を責める必要はありません。
出典元の要点(要約)
日本看護科学会

介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja

対象者へのネガティブな感情(怒り、嫌悪、恐怖など)は、精神的負担の属性(構成要素)の一つとして定義されている 。

日本看護科学会

介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja

利用者に対して陰性感情を抱くことへの葛藤や罪悪感も精神的負担に含まれる 。

現場でのイライラや葛藤は、あなたの心が狭いからではなく、誰もが感じる自然な反応です。無理に抑え込まず、科学的な対処法で少しずつ心を軽くしていきましょう。


まとめ:全部できなくても「紙に書いて捨てる」から始めよう

ここまで、科学的に正しい怒りの対処法についてお伝えしてきました。忙しい現場ですぐに全てを変えることは難しいかもしれません。

まずは、帰り道のコンビニでメモ用紙を買い、「イラッとしたら書いて捨てる」という物理的な儀式を試してみてください。

「愚痴って反すうする」代わりに「書いて物理的に捨てる」。この小さな習慣の変化が、あなた自身の心を守る大きな盾になるはずです。

認知症ケアの最前線で戦うあなたが、少しでも穏やかな気持ちで明日を迎えられるよう、心から応援しています。

最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。


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更新履歴

  • 2026年2月13日:新規投稿

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