認知症の方の食事介助は、毎日続く大切なケアの一つです。 ですが、「いらない」と拒否されてしまうと、その理由が分からず戸惑ってしまいますよね。
「わがままなのかな?」と感じつつも、無理強いはしたくない。 そんなジレンマに悩む介護士さんは少なくありません。
この記事では、その「食べない」という行動の背景にある「本当の理由」と、ご本人からの「サイン」の見抜き方について、厚生労働省や専門機関のエビデンス(根拠)に基づいて解説します。
この記事を読むと分かること
- 食事拒否が「わがまま」ではなく、「理由あるサイン」であることが分かります。
- 「食べない」背景にある複数の主な理由(意思、体調、環境、食べにくさ等)を理解できます。
- ご本人の「サイン」を見抜くための、具体的な観察の視点が学べます。
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:「食べない」=理由がある「サイン」である

「食べない」という状況は、介護士にとって本当に悩ましい瞬間です。 ですが、それは「わがまま」ではないかもしれません。 ご本人なりの理由が隠されているのです。
食事の目的は「栄養」だけではない
認知症介護研究・研修センターの資料では、 食事の目的を以下の2つだと示しています。
- 「栄養の補給と健康の維持」
- 「生活を豊かにすること」
これらは「食事をする上で必ず満たさなければならない条件」であり、 どちらかが欠けた介護、例えば栄養補給だけを優先するような関わりは 「絶対にやめるべき」と明確に記されています。 栄養補給だけを優先するような関わりは、この原則に反します。
出典元の要点(要約)
認知症介護研究・研修センター(DCNet)
初めての認知症介護解説集 Ⅱ部 解説 食事場面における認知症ケアの考え方
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35_4.pdf
解説では、食事の2つの目的である「栄養の補給と健康の維持」と「生活を豊かにすること」について、「これらの2つの目的は、食事をする上で必ず満たさなければならない条件ともいえます。」と述べている。続いて、この2つの目的のどちらかが欠けると食事をする意味は薄れてしまうこと、必ず2つの目的が両方達成できるような食事ができるようにする必要があることが記載されている。
認知症介護研究・研修センター(DCNet)
初めての認知症介護 解説集 Ⅱ部 解説 食事場面における認知症ケアの考え方
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35_4.pdf
資料は、食事介護において2つの目的である「生命の維持」と「生活を豊かにすること」の両方が達成されているかを常に確認すべきだと示し、「2つの目的を同時に達成できない介護は、絶対にやめるべきでしょう」と明言している。栄養摂取だけを優先し不快感や苦痛を伴う介護、逆に楽しさだけを優先して健康を害する介護はいずれも望ましくないと整理している。
食事拒否は「理由あるサイン」
「食べない」という行動は、ご本人からのコミュニケーションです。 認知症介護研究・研修センターの資料は 「食事を拒否するには必ず理由があります。」と断言しています。
厚生労働省のガイドラインでも「本人の意思の尊重」、 つまり「自己決定の尊重」が基本原則です。
言葉だけでなく、ご本人が表明した意思・選好 (身振り手振り、表情の変化を含む)を確認し、 尊重することから支援は始まります。
出典元の要点(要約)
認知症介護研究・研修センター(DCNet)
初めての認知症介護 解説集 Ⅱ部 解説 食事場面における認知症ケアの考え方
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35_4.pdf
同資料は「食事を拒否するには必ず理由があります」と述べ、認知症の人の食事拒否を行動そのものだけで評価せず、その背景にある理由を探る視点を求めている。味や食感の問題、体調不良、環境への不快感、介助のされ方への不満など、様々な可能性を想定し、無理矢R\x{e…}食べさせるのではなく、理由に応じた対応を検討することが重要であることを示唆している。
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
本ガイドラインは、基本原則の一つとして「本人の意思の尊重」を掲げ、「本人への支援は、本人の意思の尊重、つまり、自己決定の尊重に基づき行う」と明記している。そのため、自己決定に必要な情報は「認知症の人が有する認知能力に応じて、理解できるように説明しなければならない」とされ、説明方法の工夫が求められる。また支援は「本人の表明した意思・選好」や、表明が難しい場合には「推定意思・選好」を確認し、それを尊重することから始まると整理されており、日常生活の場面でも本人の選好を丁寧に汲み取る姿勢が重視されている。
「無理強い」は絶対に避けるべきケア
拒否のサインを無視して食事を強いることは、ケアの原則に反します。 東京都福祉保健局の資料では 「食事の場面で食べることを無理強いしない、 急かさないことが重要である。」 と明記されています。
さらに認知症介護研究・研修センターの資料では、 「絶対にしてはいけない介護」の具体例として、 以下の2点が挙げられています。
- 「高齢者の気持ちを無視し、何がなんでも無理矢理食べさせる場合」
- 「無理矢理、口に食べ物を押し込んで食べさせる」
出典元の要点(要約)
東京都福祉保健局
第2章 認知症ケアに関する知識(食事の強要を避ける)
食事介助の留意点として、「食事の場面で食べることを無理強いしない、 急かさないことが重要である。」と記されている。認知症の人は、自分のペースで飲み込むタイミングを取っているため、急かして次々と食物を口に運ぶと負担になり、誤嚥などのリスクも高まる可能性があると説明されている。無理強いせず、本人のペースを尊重した介助が求められる。
認知症介護研究・研修センター(DCNet)
初めての認知症介護 解説集 Ⅱ部 解説 食事場面における認知症ケアの考え方
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35_4.pdf
同章では「絶対にしてはいけない介護」の一つとして「①高齢者の気持ちを無視し、何がなんでも無理矢理食べさせる場合」を挙げている。これは栄養摂取やカロリー確保だけを重視し、本人の気持ちや嫌悪感を無視した関わりであり、食事の第二の目的である「楽しく、おいしく、生活を豊かにする」ことを完全に損なうものとされる。こうしたやり方は、身体的安全だけでなく尊厳の侵害にもつながるため、食事場面で避けるべき介入として明確に否定されている。
認知症介護研究・研修センター(DCNet)
初めての認知症介護 解説集 Ⅱ部 解説 食事場面における認知症ケアの考え方
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35_4.pdf
資料は「無理矢理、口に食べ物を押し込んで食べさせる」「栄養があるからと、とても嫌いな食物を無理に勧める」といった具体的行為を例示し、これらが「絶対にしてはいけない介護」に該当すると明記している。これらの行為は確かに栄養摂取という目的は達成しうるが、本人の気持ちや嫌悪感を無視し、恐怖や不信感を高めるため、食事の楽しさや生活の豊かさを大きく損なうと指摘されている。
「食べない」理由を探ることは、ご本人の尊厳と 「生活の豊かさ」を守る第一歩です。 次のセクションで、具体的なサインの見抜き方を見ていきましょう。
よくある事例:「食べない」サインの見抜き方

食事を拒否された時、ご本人の様子を注意深く観察することで、 その背景にある「本当の理由」のヒントが見えてくることがあります。
ここに掲載するサインの見抜き方は、厚生労働省や専門機関の資料に 直接記載されている「これが正解」というものではありません。 あくまで、資料が示す「本人の意思を尊重する」 「非言語的なサインを読み取る」「観察する」といった 基本原則を、現場で応用した「視点の一例」として参考にしてください。
サイン1:表情や視線(不安・混乱のサイン)
ご本人の表情や視線は、言葉よりも雄弁に 今の気持ちを伝えていることがあります。
- 観察のポイント例
- 食事や介助者を見て、顔をしかめている
- どことなく不安そうな表情をしている
- 視線が合わない、あるいは一点を見つめている
- 示唆される理由(可能性) これらは、食事内容や介助者への不信感、 あるいは周囲の環境(例:騒々しい、落ち着かない)への 不安や混乱を示しているサインかもしれません。 東京都福祉保健局の資料では、介助者自身が 「食事のおいしさを決める」環境の一部であると示されています。 介護職員が安心できる表情で関わることが重要です。
出典元の要点(要約)
東京都福祉保健局
第2章 認知症ケアに関する知識(食事介助と環境)
テキストは、食事介助において「看護師が認知症の人にとっての環境の一部であり、 食事のおいしさを決めるのは介助する者である」と述べ、介助者の存在そのものが環境要因になると指摘している。介助者の表情や声のトーン、ペース配分などが、認知症の人の食事体験や「おいしさ」の感じ方に直接影響するため、安心して食べられる雰囲気づくりが求められている。
サイン2:姿勢や動作(明確な意思・不快感のサイン)
ご本人の体の動きにも、拒否の理由が表れます。 厚生労働省のガイドラインは、言葉以外の 「身振り手振り」も意思表示として読み取る努力を求めています。
- 観察のポイント例
- 食事を差し出すと、体をのけぞらせる
- スプーンを手で払いのける
- 口を固く閉ざして開けようとしない
- 落ち着きなく体を動かし、立ち上がろうとする
- 示唆される理由(可能性)
- これらは「食べたくない」という明確な意思表示(「自己決定の尊重」)であるか、 あるいは、食事以外の身体的な不快感 (例:トイレに行きたい、座っている姿勢が辛い)を 訴えているサインかもしれません。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
認知症の人の意思決定支援に関する国の公式ガイドラインであり、誰が対象で、誰が支援するのか、そしてどのような原則で支えるのかを体系的に整理している。特に「本人の意思の尊重」を最初に掲げ、本人の能力を過小評価せず、可能な限り自らの意思で選び・決められるように支える姿勢を明確にしている。また、家族や専門職を含むチームによる継続的な支援が重要であると位置づけている。
東京都福祉保健局
第2章 認知症ケアに関する知識(非言語的コミュニケーション)
テキストでは、認知症が進行すると「非言語的コミュニケー ションの比重が高まる。」とし、「言葉だけでなく、 表情やジェスチャーなど織り交ぜて表 現したり」することが推奨されている。単語や短文の理解は可能でも長文での理解が困難になるため、介助者は言葉に加え、表情や動作、相手の口調や前後の行動をよく観察しながら双方向のコミュニケーションを行う必要があると説明されている。
サイン3:食べるペースや口の動き(食べにくさのサイン)
食事の進み方や口元の様子は、 「食べたくない」のではなく「食べられない」という サインかもしれません。
- 観察のポイント例
- 食べるペースがいつもより極端に遅い
- いつまでも口の中にため込んでいる(溜め込み)
- 食事中によくむせる
- 食べ物を舌で押し出してしまう
- 示唆される理由(可能性)
- 眠気や倦怠感(「疲れている時を避ける」)のほか、 食事の形態(硬さ、大きさ、まとまりやすさ)が ご本人の噛む力や飲み込む力に合っておらず、 「食べにくい」と感じているサインである可能性が考えられます。 日本摂食嚥下リハビリテーション学会は、 安全に食べるための「嚥下調整食分類」を定めています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
環境への配慮に関する章では、場所・人・時間が本人の意思表明に大きく影響することを具体的に示している。本人を大勢で囲む状況は圧迫感を生み、自由に意見が言えなくなるリスクがあるため避けるべきだとされる。また、初めての場所や慣れない場所では、支援者が安心できる環境を整え、普段よりも時間をかけて支援することが求められている。さらに、疲れている時や集中しにくい時間帯を避けるなど、意思決定のタイミングにも配慮することが示されている。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食委員会
日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2021-manual.pdf
本資料では、2013年に作成された嚥下調整食分類を改訂し「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食 2021(学会分類 2021)」を作成した経緯が示されている。学会分類2021は「食事の分類およびとろみの分類を示したもの」であり、「学会分類 2021(食事)」「学会分類 2021(とろみ)」として整理される。また、国内の病院・施設・在宅医療および福祉関係者が共通して使用できることを目的とした分類であると述べられ、従来、地域や施設ごとに多様な名称や段階が混在していた状況を改善し、連携時の不利益を減らすための共通基盤と位置づけられている。
これらのサインに気づくためには、 認知症介護研究・研修センターの資料が示すように、 「日頃からご本人の食事の様子をしっかり観察し」、 その人の「いつも」の状態を把握しておくことが大切です。
理由:なぜご本人は「サイン」を発するのか?

ご本人が「食べない」というサインを発する背景には、 「わがまま」とは異なる、ご本人なりの切実な理由が隠されています。 厚生労働省や専門機関の資料(エビデンス)に基づき、 その「本当の理由」として考えられる可能性を探ります。
理由1:「食べたくない」という意思・選好(尊厳)
最もシンプルですが、最も尊重すべき理由です。 「今は食べたくない」「これは好きではない」という 「本人の意思(選好)」かもしれません。
厚生労働省のガイドラインは、介護の基本原則として 「本人の意思の尊重」と「自己決定の尊重」を掲げています。 食事や入浴といった日常生活の習慣も、 「本人の好み」として支援の対象であると明記されています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
本ガイドラインは、基本原則の一つとして「本人の意思の尊重」を掲げ、「本人への支援は、本人の意思の尊重、つまり、自己決定の尊重に基づき行う」と明記している。そのため、自己決定に必要な情報は「認知症の人が有する認知能力に応じて、理解できるように説明しなければならない」とされ、説明方法の工夫が求められる。また支援は「本人の表明した意思・選好」や、表明が難しい場合には「推定意思・選好」を確認し、それを尊重することから始まると整理されており、日常生活の場面でも本人の選好を丁寧に汲み取る姿勢が重視されている。
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
ガイドラインでは、日常生活における意思決定支援として「例えば、食事・入浴・被服の好み、外出、排せつ、整容などの基本的生活習慣」を具体例として示す。これらは本人が過ごしてきた生活の延長として尊重されるべき領域であり、介護側の都合だけでなく、本人の意思や好みに基づく支援が求められている。
理由2:身体的な不調や「食べにくさ」
言葉でうまく伝えられない身体的な理由があるかもしれません。 例えば、以下のような可能性です。
- 便秘、口内炎、歯の痛み
- 倦怠感、眠気(「疲れている時を避ける」)
また、「食べたくない」のではなく「食べられない」という 嚥下機能の問題も考えられます。 日本摂食嚥下リハビリテーション学会は、 安全に食べるための「嚥下調整食分類」を定めています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
環境への配慮に関する章では、場所・人・時間が本人の意思表明に大きく影響することを具体的に示している。本人を大勢で囲む状況は圧迫感を生み、自由に意見が言えなくなるリスクがあるため避けるべきだとされる。また、初めての場所や慣れない場所では、支援者が安心できる環境を整え、普段よりも時間をかけて支援することが求められている。さらに、疲れている時や集中しにくい時間帯を避けるなど、意思決定のタイミングにも配慮することが示されている。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食委員会
日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2021-manual.pdf
本資料では、2013年に作成された嚥下調整食分類を改訂し「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食 2021(学会分類 2021)」を作成した経緯が示されている。学会分類2021は「食事の分類およびとろみの分類を示したもの」であり、「学会分類 2021(食事)」「学会分類 2021(とろみ)」として整理される。また、国内の病院・施設・在宅医療および福祉関係者が共通して使用できることを目的とした分類であると述べられ、従来、地域や施設ごとに多様な名称や段階が混在していた状況を改善し、連携時の不利益を減らすための共通基盤と位置づけられている。
理由3:食事をする「環境」への不適応
ご本人を取り巻く「環境」が原因で、 食事が進まないこともあります。 東京都福祉保健局の資料でも、 「認知症の人にとって環境の影響は大きく」、 症状や生活を左右すると指摘されています。
- 落ち着かない環境
- 認知症介護研究・研修センターの資料では、 「騒々しかったり、静かすぎたり」する環境では 食事を楽しめないとされています。 「大勢で食事をすることが苦手」な方もいます。
- 圧迫感のある環境
- 厚生労働省のガイドラインでは、 「本人を大勢で囲むと、本人は圧倒されてしまい」 安心して意思決定ができなくなると注意喚起されています。
出典元の要点(要約)
東京都福祉保健局
認知症ケアに関する知識 第2章 第4節 環境調整
環境調整の章では、「認知症の人にとって環境の影響は大きく、 認知症症状の出現の有無や生活を左右する。」と環境要因の重要性が強調される。入院などによる環境変化はリロケーションショックとなりうるため、認知機能障害や不安の要因を丁寧に把握し、本人本位の環境を整えることが基本とされている。
認知症介護研究・研修センター(DCNet)
初めての認知症介護 解説集 Ⅱ部 解説 食事場面における認知症ケアの考え方2
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35_4.pdf
同資料は「食事をする際の環境はとても重要です。騒々しかったり、静かすぎたりなど、落ち着けない環境 では十分に食事を楽しむことはできません」と述べ、環境調整の重要性を具体的に示している。テレビの音、人の出入り、照明などが過度であっても不足していても問題となるため、認知症の人が安心して座っていられる雰囲気づくりが、食事支援の一部として位置づけられている。
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
「意思決定支援の人的・物的環境の整備」の説明では、「本人を大勢で囲むと、本人は圧倒されてしまい、安心して意思決定ができなくなる場合 があることに注意すべきである。」と述べられている。また、意思決定の時期を急がせないことや、本人が集中しやすい時間帯を選ぶことなど、環境や時間への配慮も求められている。意思決定支援は内容だけでなく、場のつくり方が重要であることが示されている。
理由4:介助方法への「不信感」や「不安」
介護職員の関わり方そのものが、 拒否のサインを引き出している可能性もあります。 東京都福祉保健局の資料は「食事の場面で食べることを無理強いしない、 急かさないことが重要」と明記しています。
認知症介護研究・研修センターの資料でも、 「職員ペースでの摂取にならないよう」配慮を求めており、 「無理矢理、口に食べ物を押し込んで食べさせる」ことは 「絶対にしてはいけない介護」としています。 介助者への不信感や恐怖心が、拒否につながっているかもしれません。
出典元の要点(要約)
東京都福祉保健局
第2章 認知症ケアに関する知識(食事の強要を避ける)
食事介助の留意点として、「食事の場面で食べることを無理強いしない、 急かさないことが重要である。」と記されている。認知症の人は、自分のペースで飲み込むタイミングを取っているため、急かして次々と食物を口に運ぶと負担になり、誤嚥などのリスクも高まる可能性があると説明されている。無理強いせず、本人のペースを尊重した介助が求められる。
認知症介護研究・研修センター(DCNet)
初めての認知症介護 解説集 Ⅱ部 解説 食事場面における認知症ケアの考え方2
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35_4.pdf
資料では「食べるペースは 人それぞれですし、食べ方も様々です」と述べ、食事行動の個別性を強調している。そのうえで、「摂取を急かしたり、職員 ペースでの摂取にならないよう(業務優先ではなく) 、十分に配慮することが大切です」と記し、介助者側の時間的都合や業務効率だけでペースを決めないよう注意を促す。これは、認知症の人の安心感や自主性を尊重した声かけ・支援のあり方を示すエビデンスであり、食事をめぐる拒否や不信感を減らす視点につながる。
認知症介護研究・研修センター(DCNet)
初めての認知症介護 解説集 Ⅱ部 解説 食事場面における認知症ケアの考え方
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35_4.pdf
資料は「無理矢理、口に食べ物を押し込んで食べさせる」「栄養があるからと、とても嫌いな食物を無理に勧める」といった具体的行為を例示し、これらが「絶対にしてはいけない介護」に該当すると明記している。これらの行為は確かに栄養摂取という目的は達成しうるが、本人の気持ちや嫌悪感を無視し、恐怖や不信感を高めるため、食事の楽しさや生活の豊かさを大きく損なうと指摘されている。
理由5:食事だと理解できない「混乱」
認知機能の低下により、 今が食事の時間であることや、目の前にあるものが 食べ物であることが理解できず、「混乱」している可能性もあります。
厚生労働省の研修テキスト(株式会社穴吹カレッジサービス)では、 「食べることを忘れたり、何を食べているか分からなかったり」 といった、食事行動の変化が具体例として挙げられています。 このような状況では、拒否というよりも、 どうしてよいか分からず戸惑っているサインかもしれません。
出典元の要点(要約)
株式会社穴吹カレッジサービス
認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
資料では食事の困難例として「食べることを忘れたり、何を食べているか分からなかったり、手づかみで食べようとしたり、目が離せません」という訴えを掲載している。これは認知症による記憶障害や実行機能障害が、食事場面で具体的な問題となって現れることを示すエビデンスである。家族や介護職はマナーの問題として叱責するのではなく、行動の背景にある認知機能の変化を理解したうえで、声かけや環境調整、見本を見せるなどの支援を検討する必要があることを読み取れる。
このように、「食べない」という一つのサインにも、 ご本人の意思、体調、環境、介助方法、混乱など、 様々な「本当の理由」が隠されています。
FAQ(よくある質問)
現場でよくある「食事拒否」と「サインの読み解き」に関する疑問に、 厚生労働省や専門機関の資料(エビデンス)を基にお答えします。
- Qサインを観察しても理由が分かりません。どうすればいいですか?
- A
一人で抱え込まず、チームで情報を共有することが重要です。 厚生労働省のガイドラインでは、「意思決定支援チーム」が 「多職種で協働し」て本人の情報を集め、 共有する必要があることが示されています。
介護職員が見た様子や、看護師、栄養士など 他の専門職の視点を加えることで、 「本当の理由」が見えてくることがあります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
ガイドラインは、自発的に形成・表明された本人の意思について、「意思決定支援チームが、多職種で協働して、利用可能な社会資源 等を用いて、日常生活・社会生活のあり方に反映させる。」と述べている。医療・介護・福祉など複数の専門職が協働することで、本人の意思を単発の選択にとどめず、住まいやサービス利用、社会参加など生活全体のあり方に反映させるべきことが示されている。
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
ガイドラインは、日常生活の意思決定支援において「本人の意思や好みを理解するためには、意思決定支援チームで、本人の情報を集め、共 有することが必要である。」と記載している。単独の支援者の判断ではなく、多職種・家族などで構成される意思決定支援チームが情報を集めて共有し、本人の好みや生活歴を共通理解として持つことが、支援の前提として示されている。
- Q「食べにくさ」のサイン(むせ、溜め込み)に気づいたらどうすればいいですか?
- A
介護職員が自己判断で食事の形態を変更するのは危険です。 まずは、観察した状況(いつ、何を、どのようにむせる・溜め込むかなど)を 正確に記録し、看護師やケアマネージャー、 言語聴覚士(ST)などの専門職にすぐに相談してください。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会は、 「嚥下調整食分類」という専門的な共通言語を定めています。 専門職と情報共有することで、ご本人に合った安全な食事形態を 検討することにつながります。
出典元の要点(要約)
日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食委員会
日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2021-manual.pdf
本資料では、2013年に作成された嚥下調整食分類を改訂し「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食 2021(学会分類 2021)」を作成した経緯が示されている。学会分類2021は「食事の分類およびとろみの分類を示したもの」であり、「学会分類 2021(食事)」「学会分類 2021(とろみ)」として整理される。また、国内の病院・施設・在宅医療および福祉関係者が共通して使用できることを目的とした分類であると述べられ、従来、地域や施設ごとに多様な名称や段階が混在していた状況を改善し、連携時の不利益を減らすための共通基盤と位置づけられている。
- Q栄養が心配でも、本人の拒否(サイン)を受け入れるべきですか?
- A
「本人の希望」と「健康維持(栄養)」の どちらか一方だけを選ぶのは適切ではありません。 認知症介護研究・研修センターの資料では、 「2つの目的を同時に達成できない介護は、絶対にやめるべき」であり、 「利用者主体」とは、必ずしも本人の希望だけを優先するのではなく、 「本人にとって最も良い状態を最優先に考えて介護すること」 と定義されています。
栄養が心配な場合は、無理強いするのではなく、 拒否の理由を探りながら、チームで対応 (例:環境調整、食事形態の見直し、別の時間での提供など)を 検討することが求められます。
出典元の要点(要約)
認知症介護研究・研修仙台センター
初めての認知症介護 解説集 Ⅱ部 解説 食事場面における認知症ケアの考え方
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35_4.pdf
資料は、食事介護において2つの目的である「生命の維持」と「生活を豊かにすること」の両方が達成されているかを常に確認すべきだと示し、「2つの目的を同時に達成できない介護は、絶対にやめるべきでしょう」と明言している。栄養摂取だけを優先し不快感や苦痛を伴う介護、逆に楽しさだけを優先して健康を害する介護はいずれも望ましくないと整理している。
認知症介護研究・研修仙台センター
初めての認知症介護 解説集 Ⅱ部 解説 食事場面における認知症ケアの考え方
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35_4.pdf
本解説集は、食事介護における「利用者主体」の考え方として、高齢者の気持ちや要求を大事にすることは重要だが、「結果的に、健康を害したり、命に関わるような状況を作っているとしたら、本当 の、利用者主体とはいえません。」と述べている。そして「利用者主体とは、必ずしも本人の希望を優先するだけで無く、本 人にとって最も良い状態を最優先に考えて介護することです。」と記し、希望と健康・安全を両立させる視点が必要であることを示している。
このように、「食べない」というサインには様々な背景があり、 一方的な判断ではなく、チームでのアセスメントと対応が重要です。
まとめ
認知症の方が「食べない」時、それは「わがまま」ではなく、 ご本人なりの「理由」があるという大切な「サイン」です。
この記事で紹介したように、 そのサインを「観る、聴く」(厚生労働省の研修テキストより)努力をし、 背景にある「本当の理由」を探る視点を持つことが、 適切なケアへの第一歩となります。
食事の目的と理由あるサイン
認知症介護研究・研修センターの資料では、 食事の目的は「栄養の補給」と「生活を豊かにすること」の両立であり、 「食事を拒否するには必ず理由があります。」と明記されています。
また、厚生労働省のガイドラインは「本人の意思の尊重」を 基本原則としています。 無理に食べさせるのではなく、ご本人のサインを読み解き、 安心できる環境を整えることが重要です。
出典元の要点(要約)
認知症介護研究・研修仙台センター
初めての認知症介護 解説集 Ⅱ部 解説 食事場面における認知症ケアの考え方
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35_4.pdf
解説では、食事の2つの目的である「栄養の補給と健康の維持」と「生活を豊かにすること」について、「これらの2つの目的は、食事をする上で必ず満たさなければならない条件ともいえます。」と述べている。続いて、この2つの目的のどちらかが欠けると食事をする意味は薄れてしまうこと、必ず2つの目的が両方達成できるような食事ができるようにする必要があることが記載されている。
認知症介護研究・研修仙台センター
初めての認知症介護 解説集 Ⅱ部 解説 食事場面における認知症ケアの考え方
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center3/35/35_4.pdf
同資料は「食事を拒否するには必ず理由があります」と述べ、認知症の人の食事拒否を行動そのものだけで評価せず、その背景にある理由を探る視点を求めている。味や食感の問題、体調不良、環境への不快感、介助のされ方への不満など、様々な可能性を想定し、無理矢R\x{e…}食べさせるのではなく、理由に応じた対応を検討することが重要であることを示唆している。
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
本ガイドラインは、基本原則の一つとして「本人の意思の尊重」を掲げ、「本人への支援は、本人の意思の尊重、つまり、自己決定の尊重に基づき行う」と明記している。そのため、自己決定に必要な情報は「認知症の人が有する認知能力に応じて、理解できるように説明しなければならない」とされ、説明方法の工夫が求められる。また支援は「本人の表明した意思・選好」や、表明が難しい場合には「推定意思・選好」を確認し、それを尊重することから始まると整理されており、日常生活の場面でも本人の選好を丁寧に汲み取る姿勢が重視されている。
チームで関わり、理由を探る
観察から得られた気づきは、一人で抱え込まず、 厚生労働省のガイドラインが示す「意思決定支援チーム」で 共有することが大切です。 ご本人にとって安心できる食事のあり方を、 チームで見つけていきましょう。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
ガイドラインは、日常生活の意思決定支援において「本人の意思や好みを理解するためには、意思決定支援チームで、本人の情報を集め、共 有することが必要である。」と記載している。単独の支援者の判断ではなく、多職種・家族などで構成される意思決定支援チームが情報を集めて共有し、本人の好みや生活歴を共通理解として持つことが、支援の前提として示されている。
この記事が、日々奮闘されている皆さんの悩みを少しでも軽くし、 明日からのケアのヒントとなれば幸いです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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更新履歴
- 2025年12月6日:新規投稿


