「タブレットを導入したのに、結局は手書きメモを取ってから入力し直している」「利用者の前で端末を触るのは気が引けるため、記録は後回しになりがちだ」。そんな現場の葛藤は、多くの介護士が抱えるよくある悩みです。
理想のケアと時間の制約の板挟みになる中で、全部を一気に変えるのは難しいかもしれません。しかし、業務手順を少し見直すだけで、その負担は減らせる可能性があります。まずは無理のない範囲で、ここだけ押さえてみませんか。
この記事を読むと分かること
- 二度手間が起きる根本原因
- 記録時間を減らす具体手順
- 直行直帰を実現するコツ
- ケアの時間を作る考え方
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
ICT導入が「現場の負担」に変わる主な原因

現場では「今は忙しいから、新しい機器の使い方を覚える余裕がない」「万が一の入力ミスが怖いから、念のため手書きも残しておこう」といった声がよく聞かれます。
しかし、その慎重さが、結果として二重業務を生み出す一因となり、自分たちの首を絞めてしまっている側面があります。
「丁寧な仕事」をしたいという思いと、現実的な「時間のなさ」の板挟み。この悪循環を断ち切るには、精神論ではなく仕組みの見直しが重要です。
業務改善の第一歩は「3M(ムリ・ムダ・ムラ)」の排除
業務改善を進める上で重要な視点は、現場に潜む3M(ムリ・ムダ・ムラ)を見つけ出し、取り除くことです。
たとえば、ICT機器を導入したにもかかわらず、従来の手書き記録も並行して行っていませんか?これは「ムダ」と捉えられることがあり、業務時間を圧迫する一因となることがあります。
「今までこうしてきたから」という慣習を疑い、本来不要な作業をやめる決断が求められることがあります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
業務改善の基本的な視点として、「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」と「3M(ムリ・ムダ・ムラ)の排除」が挙げられる。これらは製造業などで広く用いられている手法だが、介護現場においても、業務の効率化やサービスの質の向上を図る上で有効である。
「自己流」をやめて手順を標準化する
職員によって記録の書き方やタイミングがバラバラになっていませんか?業務の手順が統一されていない「ムラ」は、ミスの原因になり得るだけでなく、新人の習熟を遅らせることがあります。
誰が担当しても同じ質の業務ができるよう、手順書(マニュアル)を作成し、業務を標準化することが重要です。
標準化は「画一的なケア」を強制するものとは限りません。基本業務を迷わず行えるようにすることで、サービスの質のばらつきを解消する土台になり得ます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
業務の標準化とは、いつ、誰が行っても、同じ手順で、同じ質の業務が提供できるようにすることである。手順書の作成などを通じて業務を標準化することで、職員の熟練度が向上し、サービスの質のばらつきを解消することができる。また、新人職員の教育時間の短縮にもつながる。
効率化の真の目的は「ケアの質」を高めること
生産性向上や効率化という言葉に、「手抜き」や「人減らし」のような冷たい印象を持つかもしれません。
しかし、本来の目的は業務を効率化すること自体ではありません。ムダな時間を削ぎ落とすことで、利用者と接する時間を増やし、介護サービスの価値(質)を高めることにあります。
ICTやロボットを活用して業務を効率化することは、職員が専門性を発揮すべき「直接的なケア」に集中するための手段の一つです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
介護サービス事業における生産性向上の目的は、単なる業務の効率化やコスト削減ではない。業務の効率化を通じて生み出された時間を、利用者とのコミュニケーションやケアの質の向上に充てること, すなわち「介護の価値を高めること」が真の目的である。
現場で見られがちな3つの無駄

「汗だくで走り回ること」や「大量の書類を書き上げること」が、現場では頑張っている証拠とされがちです。
しかし、その苦労の中には、本来なら「しなくていい苦労」が含まれていることがあります。
「うちの施設でもよく見る」と感じる光景の中に、削れる負担が隠れていることがあります。
ケース1:申し送り前の「PC待ち行列」と移動時間
夕方の申し送り前になると、ステーションのパソコン前に職員の列ができていませんか?記録を入力するために、わざわざ現場からステーションまで戻り、空き端末を待つ時間は、よくある「移動と待ちのムダ」です。
「パソコンの台数が足りない」と思われがちですが、一因は「場所」にある場合があります。
タブレットやスマホを活用し、ケアしたその場で入力できれば、移動や待ち時間を減らせます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
業務における「ムダ」の例として、物を探すために動き回る「動作のムダ」や、情報入力のためにパソコンが空くのを待つ「手待ちのムダ」などが挙げられる。ICT機器の活用により、場所を選ばずに記録入力が可能となれば、これらの移動や待ち時間を削減できる。
ケース2:同じ数字を何度も書く「転記のリレー」
バイタル測定の結果をメモ用紙に書き、それを日誌に書き写し、さらに連絡帳へ転記し、最後にパソコンへ入力する。
このように同じ情報を何度も書き写す「転記」は、時間と労力を浪費するだけでなく、書き間違い(転記ミス)のリスクも高めます。
ICTの活用により「一回入力すれば全てに連動する」ようにできる場合があります。転記作業そのものをなくすことが、生産性向上のカギになり得ます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
紙媒体での記録からシステムへの入力といった「転記」は、業務上の「ムダ」の典型例である。測定機器とシステムを連動させ、バイタルデータなどを自動的に取り込むことで、転記作業を廃止し、入力ミスを防ぐとともに業務時間を短縮できる。
ケース3:人によって書き方が違う「自分だけのメモ」
「あの人のメモは略語が多くて読めない」「人によって記録の詳しさが全然違う」。こうした業務のバラつきは「ムラ」と呼ばれます。
個人のやりやすさを優先して手順を統一しないままだと、担当者が不在の時に誰も状況がわからなくなることがあります。
「誰がやっても同じ手順」で記録できるようルール(手順書)を整えることは、チーム全体の負担を減らすために重要です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
特定の職員しか業務を行えない「属人化」や、職員によって業務の質や手順が異なる「ムラ」は、業務効率を低下させる要因となる。手順書を作成し、業務内容を標準化することで、職員間のバラつきをなくし、誰でも一定の質で業務を遂行できるようにすることが重要である。
なぜ「二度手間」はなくならないのか?現場を縛る3つの壁

「ケアの直後に記録すればいい」と頭では分かっていても、目の前の利用者の対応やナースコールに追われ、「とりあえずメモだけ取って後でやろう」と判断してしまう。
この判断は、現場の忙しさを考えれば無理もないことです。しかし、その積み重ねが「メモの山」を作り出し、結果的に残業時間を増やしてしまうことがあります。
なぜ私たちはメモに頼ってしまうのか。そこには個人のスキル以前に、構造的な原因が隠れています。
ケアの場所と記録の場所が「離れすぎている」
入浴や排泄介助などの「直接的なケア」は居室や浴室で行われることがありますが、記録などの「間接打業務」はステーションで行われることがあります。
この「場所の距離」が、記憶に頼る時間を生み出し、忘れ防止のためのメモを誘発することがあります。
業務を切り分けて可視化しなければ、物理的に二度手間は減りにくくなります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
介護業務は、入浴や排泄介助などの利用者に対して直接行う「直接的なケア」と、記録や申し送りなどの「間接的業務」に分類できる。生産性向上においては、これらの業務内容を可視化し、現状を把握することが重要である。
「間違ったら怖い」からメモに逃げる
「どの程度詳しく書けばいいのか」「この表現で正しいのか」という迷いが生じることがあります。
明確な手順書(ルール)がないと、職員は自己防衛のために「念のため詳しく記録する」という行動に出がちです。
いつ、誰が、どのように記録するかを標準化し、迷いをなくすことが重要です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
手順書の作成などを通じて業務を標準化することは、職員の熟練度を向上させ、サービスの質のばらつきを解消する上で有効である。また、業務の手順が明確になることで、新人職員の教育時間の短縮にも寄与する。
「丁寧な仕事」という思い込みが「ムダ」を隠す
時間をかけて丁寧に文字を書くことが、必ずしも「良いケア」とは限りません。
生産性向上の視点では、付加価値を生まない作業は省くことが望ましい「ムダ」とみなされます。
「苦労して書くこと」に価値を置くのではなく、「利用者の変化を正確に伝えること」に価値の基準を変える業務の見直しが必要です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
業務改善においては、「ムリ・ムダ・ムラ」を排除することが重要である。特に、本来必要のない作業や、過剰な手間などは「ムダ」として認識し、業務の見直しを行う必要がある。これにより、業務の効率化と職員の負担軽減を図ることができる。
ICT活用に関するよくある疑問と不安
新しい仕組みを取り入れようとするとき、「本当に現場が回るのか」「利用者様や家族にどう思われるか」といった不安は尽きません。
ここでは、多くの現場で聞かれる疑問について、ガイドラインに基づいた考え方をご紹介します。
- Qタブレット入力が苦手な職員がいて、結局手書きに戻ってしまいます。
- A無理に全員が最初から完璧に使いこなす必要はありません。まずは得意な職員が中心となって進める「役割分担(タスクシェア)」や、簡単な入力から始めて徐々に慣れていく「スモールサクセス(小さな成功)」の積み重ねが定着につながる一つの方法です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
タスクシフト・シェアの視点では、専門職が専門性を発揮できるよう、業務の切り分けや役割分担を行うことが重要である。また、改善活動においては、負担の少ない小さな取組から始め、成功体験(スモールサクセス)を積み重ねることで、職員の意欲を高め、活動を継続させることができる。
- Q利用者の前でスマホやタブレットを操作するのは失礼になりませんか?
- A隠れて操作をするのではなく、「より良いケアを提供するための記録である」という目的(理念)を共有し、利用者や家族に堂々と説明することが大切です。ICT活用もケアの一環であるという姿勢を示すことで、理解を得やすくなることがあります。
出典元の要点(要約)
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介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
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理念や行動指針を徹底し、全職員が日々の業務において実践できるようにすることが重要である。また、トップダウンによるメッセージの発信や、プロジェクトチームによる意識改革を通じて、生産性向上の目的や意義を組織全体で共有する必要がある。
- Q業務手順を変える時間がありません。何から始めればいいですか?
- A大掛かりな変更を急ぐ必要はありません。まずは、現状の業務内容を洗い出し、「どのような業務にどれくらいの時間がかかっているか」を見える化することから始めてみてください。現状を知るだけでも、課題や改善点が見えてくることがあります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局
介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
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生産性向上の取組の第一歩は、現状把握である。業務内容や所要時間を測定し、「見える化」することで、課題や改善点を抽出することができる。また、5Sや3Mの視点を持って業務を見直すことは、大きな投資を必要とせず、すぐに着手できる改善手法の一つである。
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小さな「やらない決断」から始めよう
ICT機器は、業務を効率化するための手段の一つです。
煩雑な事務作業を減らし、皆さんが利用者様と向き合う「ケアの時間」を確保するための手段の一つです。
いきなり全てのメモをなくす必要はありません。「まずはバイタル測定のときだけは、その場で入力してみよう」といった、小さな一歩から始めてみてください。
二度手間をなくして生まれた時間は、直接的なケアや人材育成に充てください。それが、結果として「サービスの質」と「人材定着」を高める好循環につながる可能性があります。
完璧でなくても大丈夫です。今日からできる小さな挑戦が、明日の現場を変えていくきっかけになり得ます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省老健局介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/Seisansei_kyotaku_Guide.pdf
業務改善の取組は、最初から大きな成果を求めるのではなく、小さな成功体験(スモールサクセス)を積み重ねることが重要である。また、業務効率化によって生み出された時間は、直接的なケアや人材育成、職員の負担軽減に充てることで、サービスの質の向上と人材定着につなげることができる。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2026年3月30日:新規投稿







