「心から笑わなきゃ」は間違いだった。介護現場の感情労働を乗り切る「作り笑い」の効能

介護現場では「常に笑顔で」という理想と、業務に追われる現実との狭間で、自分の感情を殺すことに疲れてしまう場面が少なくありません。しかし、心からの笑顔が出せない自分に罪悪感を抱く必要はないのです。

無理をして心をすり減らす前に、まずは「技術としての笑顔」が持つ効果を知ることから始めましょう。全てを完璧にするのは難しくても、この一点を押さえるだけで、現場での振る舞いが少し楽になるはずです。

この記事を読むと分かること

  • 作り笑いが持つ敵意抑制の効果
  • 関係を円滑にする潤滑油の機能
  • 笑顔への罪悪感を消す捉え方
  • 自分を守る感情コントロール術
  • 現場で使える実践的スキル

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 作り笑いに罪悪感がある
  • 職場の人間関係に疲れている
  • 仕事後の無表情が辛い
  • 利用者の対応で顔が引きつる
  • 感情労働に限界を感じている

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結論:「作り笑い」は偽りではなく、高度な社会的スキルである

現場では、認知症の方からの繰り返しの訴えや、ご家族からの厳しい言葉にさらされることも日常茶飯事です。

頭では「プロとして感情をコントロールし、笑顔で接するべき」とわかっていても、心身ともに疲弊し、表情を作る気力さえ湧かない瞬間があるのは当然のことです。

「心からの笑顔でなければ失礼だ」「笑えない自分はダメだ」と自分を責めてしまう方も少なくありません。

しかし、無理に心を込めようとして燃え尽きてしまう前に、まずは「形だけの笑顔」が持つ機能を知ってください。

それは決して偽りではなく、自分と相手を守るための立派なケア技術なのです。

相手の「敵意」を抑え、トラブルを未然に防ぐ

介護現場において、利用者の不穏やご家族の不満など、相手のネガティブな感情に直面することは大きなストレス要因です。しかし、研究によって「作り笑い」には相手の敵意の上昇を抑える効果があることが示唆されています。

ある実験では、話し手と聞き手のペアを作り、「つまらない話」を繰り返すというストレスのかかる状況下で、聞き手が「笑いを多用する場合」と「笑いを禁止する場合」の比較が行われました。その結果、笑顔を見せない(笑い禁止)条件では、相手(話し手)の「敵意」という感情が著しく上昇しました。一方で、意識的に笑いを多用した条件では、同じ状況でも相手の敵意の上昇がわずかに抑えられました。

つまり、心からの笑顔でなくとも、表情として笑顔を作って対応することで、相手の中に生まれる攻撃的な感情やイライラを和らげ、トラブルの芽を摘む効果が期待できるのです。これは、自分自身の身を守るための有効な防衛策と言えます。

出典元の要点(要約)
岩手大学

作り笑いが受け手に与える影響―表出者との相互作用に着目して―

https://iwate-u.repo.nii.ac.jp/record/15847/files/cbsa-n38p33-42.pdf

結果では、「敵意」について群×対話前後の交互作用が有意であり(F(1,18)=5.31,p<.05)、単純主効果の検定から対話後の群の主効果が有意で、笑い禁止群の方が「敵意」が高いことが示された(F(1,36)=7.70,p<.01)。また笑い禁止群では対話前後の単純主効果が有意(F(1,18)=11.84,p<.005)で、同じつまらない話を2度行う場面で「敵意」が著しく上昇したのに対し、笑い多用群では上昇がわずかであった。

作り笑いでも「親しみやすさ」は相手に伝わる

「作り笑いだとバレて、かえって印象が悪くなるのではないか」と不安に思う方もいるかもしれません。しかし、同じ実験において、作り笑いを含む笑いを多用した聞き手は、笑わなかった聞き手に比べて「個人的親しみやすさ」の評価が有意に高くなることが示されています。

この「個人的親しみやすさ」とは、「明るい」「すなおな」「感じのよい」「心の広い」といったポジティブな印象の集合体です。興味深いことに、たとえそれが意図的に作られた笑顔であったとしても、受け手側はそれを肯定的に受け止め、相手に対して好意的な印象を抱く傾向があります。

「心から笑わなければ伝わらない」と思い詰める必要はありません。まずは表情筋を動かして笑顔の形を作るだけでも、利用者や同僚に対して「私はあなたを受け入れています」というサインになり、親しみやすい存在として認識される可能性が高まります。

出典元の要点(要約)
岩手大学

作り笑いが受け手に与える影響―表出者との相互作用に着目して―

https://iwate-u.repo.nii.ac.jp/record/15847/files/cbsa-n38p33-42.pdf

表出者に対して受け手が抱いた印象については、特性形容詞対尺度の「個人的親しみやすさ」で群間差が見られ、笑い禁止群よりも笑い多用群の得点が有意に高いことが示された(t(11.16)=2.33,p<.05)。「個人的親しみやすさ」は明るい・すなおな・親しみやすい・ユーモア・親切な・さっぱりした・感じのよい・心の広いといった項目から構成されており、作り笑いを含む笑いの多用が、表出者への親しみやすさを高める可能性が示唆されている。

コミュニケーションの「潤滑油」として機能する

作り笑いは、気まずい状況や負担のかかる会話において、人間関係を円滑にする「潤滑油」のような働きをします。実験後の感想記述において、笑いを禁止された条件では「相手の顔を見るのが怖かった」「ぎこちなくなった」といったネガティブな反応が見られました。

対照的に、笑いを多用した条件では、たとえそれが作り笑いであっても、相手からは「相づちに優しさを感じた」「楽しそうに聞いてくれた」といった肯定的な感想が得られています。これは、作り笑いが相手の不安や不快感を軽減し、その場の空気を調整する社会的機能を果たしていることを示唆しています。

苦手な相手や緊張する場面こそ、「とりあえずでも作り笑いを浮かべる」という選択は、相手のためであると同時に、その場のネガティブな感情から自分自身を遠ざけ、心理的な安全を確保するための賢い手段となり得ます。

出典元の要点(要約)
岩手大学

作り笑いが受け手に与える影響―表出者との相互作用に着目して―

https://iwate-u.repo.nii.ac.jp/record/15847/files/cbsa-n38p33-42.pdf
群間での「敵意」上昇の差については、笑い禁止群では「相手の顔を見るのが怖かった」「ぎこちなくなった」といった感想がある一方、笑い多用群では「相手の相づちに優しさを感じた」「楽しそうに聞いてくれた」といった記述が見られたことから、作り笑いがコミュニケーションの中で潤滑油のような働きをし、ネガティブ感情を抑制した可能性があると考察している。この結果は、李ら(2011)や押見(2002)が述べた「作り笑いの社会的機能」や「心理社会的効果」を実証するものと位置づけられている。

心からの笑顔が出せなくても、自分を責める必要はありません。作り笑いは「嘘」ではなく、相手の敵意を下げ、関係を円滑にするための「プロの技術」です。まずは形だけでも笑顔を作ることで、自分と相手を守る防壁として活用していきましょう。

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現場で「作り笑い」が自分を助けてくれる3つの場面

女性の介護職員の画像

「笑顔が大事」とは言われますが、実際の現場では、心から笑うことが難しいシチュエーションが多々あります。苦手な相手や、余裕がない状況で無理に感情を込めようとすると、かえって疲弊してしまいます。ここでは、現場でよくある「笑えない場面」において、技術としての笑顔(作り笑い)がどのように役立つのか、具体的なケースで見ていきましょう。

事例1:苦手な先輩や上司と二人きりになった時

  • 状況
    • 休憩室や夜勤の引き継ぎなどで、威圧的で苦手な先輩職員と二人きりになる場面。
  • 困りごと
    • 緊張して表情がこわばってしまい、会話が続かない。「機嫌を損ねないようにしなきゃ」と焦るほど、顔が引きつり、ぎこちない空気になってしまう。
  • よくある誤解
    • 「心から尊敬しているように振る舞わなければ、相手に見透かされて余計に嫌われるのではないか」と思い込み、無理に機嫌をとろうとして空回りする。
  • 押さえるべき視点
    • 研究によれば、たとえ作り笑いであっても、笑顔を多用することで相手からの「個人的親しみやすさ」の評価は高まるとされています。無理に尊敬の念を持とうとする必要はありません。口角を上げ、笑顔の形を作るだけで、相手はあなたに対して「話しやすい」「感じがよい」という印象を持ちやすくなり、攻撃的な態度を軟化させる効果が期待できます。
出典元の要点(要約)
岩手大学

作り笑いが受け手に与える影響―表出者との相互作用に着目して―

https://iwate-u.repo.nii.ac.jp/record/15847/files/cbsa-n38p33-42.pdf

表出者に対して受け手が抱いた印象については、特性形容詞対尺度の「個人的親しみやすさ」で群間差が見られ、笑い禁止群よりも笑い多用群の得点が有意に高いことが示された(t(11.16)=2.33,p<.05)。「個人的親しみやすさ」は明るい・すなおな・親しみやすい・ユーモア・親切な・さっぱりした・感じのよい・心の広いといった項目から構成されており、作り笑いを含む笑いの多用が、表出者への親しみやすさを高める可能性が示唆されている。

事例2:認知症の方から同じ話を繰り返された時

  • 状況
    • 認知症の利用者様から、過去の自慢話やとりとめのない話を、業務中に何度も繰り返し聞かされる場面。
  • 困りごと
    • 忙しさもあって「またその話か」とうんざりしてしまい、つい無表情で聞き流したり、生返事になったりする。その結果、利用者様が不穏になったり、怒り出したりすることがある。
  • よくある誤解
    • 「真剣に聞いている姿勢を見せるためには、真面目な顔で聞くべきだ」と考えたり、逆に「面白くもないのに笑うのは、馬鹿にしているようで失礼だ」と捉えたりする。
  • 押さえるべき視点
    • 話し手は、聞き手の反応が薄いと「相手が飽きている」「話がつまらないのか」と感じ、それがストレスとなって「敵意」につながる可能性があります。実験では、同じ話を繰り返す状況でも、聞き手が笑顔を見せることで、話し手の敵意の上昇が抑えられることが示されています。話の内容そのものに興味が持てなくても、笑顔で頷くことは、相手のネガティブな感情の発生を防ぐ有効なケア技術です。
出典元の要点(要約)
岩手大学

作り笑いが受け手に与える影響―表出者との相互作用に着目して―

https://iwate-u.repo.nii.ac.jp/record/15847/files/cbsa-n38p33-42.pdf

笑い禁止群では対話前後の単純主効果が有意(F(1,18)=11.84,p<.005)で、同じつまらない話を2度行う場面で「敵意」が著しく上昇したのに対し、笑い多用群では上昇がわずかであった。自由記述には「つまらない話をするのが息苦しかった」「難しさを感じた」といった記述があり、自分が不快な話をしている感覚から相手のわずかなネガティブ反応にも敏感となり、「敵意」の悪循環が生じた可能性が指摘されている。

事例3:初対面の利用者や家族と接する時

  • 状況
    • 新規入所者やそのご家族など、まだ信頼関係ができていない相手に対応する場面。
  • 困りごと
    • 何を話せばいいか分からず、沈黙が気まずい。「失礼があってはいけない」と緊張し、表情が硬くなることで、相手にも緊張が伝染してしまう。
  • よくある誤解
    • 「プロとして、最初から完璧な信頼関係を築かなければならない」と気負いすぎたり、「まだ親しくないのに笑顔を見せるのは馴れ馴れしいのではないか」と躊躇したりする。
  • 押さえるべき視点
    • 作り笑いには、気まずい状況におけるコミュニケーションの「潤滑油」としての働きがあります。実験の参加者からは、笑顔のある対応に対して「相手の相づちに優しさを感じた」「楽しそうに聞いてくれた」といった肯定的な感想が挙げられています。初対面で会話の内容に困った時こそ、とりあえず笑顔を作っておくことが、場の空気を和ませ、その後の関係構築をスムーズにする助けとなります。
出典元の要点(要約)
岩手大学

作り笑いが受け手に与える影響―表出者との相互作用に着目して―

https://iwate-u.repo.nii.ac.jp/record/15847/files/cbsa-n38p33-42.pdf

笑い多用群では「相手の相づちに優しさを感じた」「楽しそうに聞いてくれた」といった記述が見られたことから、作り笑いがコミュニケーションの中で潤滑油のような働きをし、ネガティブ感情を抑制した可能性があると考察している。この結果は、李ら(2011)や押見(2002)が述べた「作り笑いの社会的機能」や「心理社会的効果」を実証するものと位置づけられている。

これらの事例が示すように、現場において「笑顔」は単なる感情表現ではありません。相手の不安や敵意を和らげ、自分自身をトラブルから守るための防具でもあります。「心から笑えない」と自分を責める必要はありません。まずは形から入ることで、結果的に良好な関係が守られるのであれば、それはプロとして十分な対応なのです。

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そもそも、なぜ「形だけの笑顔」が自分を守るのか

女性の介護職員の画像

現場では「利用者様の心に寄り添うこと」が理想とされますが、多忙な業務や精神的な疲労の中で、常に心からの共感を持つことは現実的ではありません。「心がこもっていないと意味がないのではないか」「バレて信頼を失うのではないか」と不安になる方もいるでしょう。しかし、心理学的な視点で見ると、笑顔には感情の有無にかかわらず発揮される「機能」が存在します。なぜ、心を込めない「形だけの笑顔」であっても、現場のトラブルを防ぎ、あなたの身を守ることにつながるのか。その構造的な理由を紐解いていきます。

理由1:笑顔の「形」が相手の「敵意」を物理的に抑制するから

人は、自分の話に対する反応が薄いと、相手に対して不安や不満を抱きます。特に認知症の方や不安の強いご家族は、こちらの表情を敏感に察知します。研究では、聞き手が笑顔を見せない(無表情な)場合、話し手の「敵意」というネガティブな感情が著しく上昇することが確認されています。

逆に言えば、たとえ内容に関心が持てなくても、口角を上げて「笑顔の形」を作っておくだけで、相手の敵意の上昇を食い止めることができます。これは「相手を騙す」ことではなく、相手の中に攻撃的な感情が生まれるのを防ぐための、物理的な防波堤のような役割を果たしているのです。

「心から笑う」ことよりも、「敵意を発生させない」ことを目的に表情を作る。そう割り切ることで、笑顔はケアの質を保つための実用的なツールとなります。

出典元の要点(要約)
岩手大学

作り笑いが受け手に与える影響―表出者との相互作用に着目して―

https://iwate-u.repo.nii.ac.jp/record/15847/files/cbsa-n38p33-42.pdf

笑い禁止群では対話前後の単純主効果が有意(F(1,18)=11.84,p<.005)で、同じつまらない話を2度行う場面で「敵意」が著しく上昇したのに対し、笑い多用群では上昇がわずかであった。自由記述には「つまらない話をするのが息苦しかった」「難しさを感じた」といった記述があり、自分が不快な話をしている感覚から相手のわずかなネガティブ反応にも敏感となり、「敵意」の悪循環が生じた可能性が指摘されている。

理由2:自分が思うほど、相手には「作り笑い」とバレていないから

「作り笑いをしたら、不自然で逆に失礼になるのでは」という懸念は、現場でよく聞かれる悩みです。しかし、実際には「自分が思っているほど、相手は作り笑いを見抜いていない」という可能性が研究で示唆されています。

実験において、聞き手自身は「かなり作り笑いをしている(無理に笑っている)」と自覚している場面でも、相手(話し手)からの評価では、単に「よく笑ってくれている」とポジティブに受け取られる傾向がありました。

自分の中にある「嘘をついている」という罪悪感と、相手が受け取る「好意的な印象」にはズレがあります。完璧な笑顔でなくても、表情筋を動かして好意的なサインを送るだけで、相手はそれを「親しみやすさ」として受け取ってくれる可能性が高いのです。

出典元の要点(要約)
岩手大学

作り笑いが受け手に与える影響―表出者との相互作用に着目して―

https://iwate-u.repo.nii.ac.jp/record/15847/files/cbsa-n38p33-42.pdf

作り笑いの認知得点を従属変数とした t 検定では、笑い多用群において表出者(自分)よりも受け手(相手)の得点が有意に高いことが示された(t(15.16)=4.24,p<.005)。一方、笑い禁止群では役割間で有意差は認められなかった。これにより、笑いが多い場面では、表出者自身が認識している以上に受け手が作り笑いを多く行っていると評価している可能性が示され、笑いの中での作り笑い判断の難しさが指摘されている。

理由3:コミュニケーションの「潤滑油」として機能するから

介護現場におけるコミュニケーションは、必ずしも楽しい会話ばかりではありません。言いにくいことを伝えたり、気まずい沈黙が流れたりする場面も多々あります。そうした状況において、作り笑いは人間関係の摩擦を減らす「潤滑油」としての社会的機能を持ちます。

研究の参加者の感想でも、笑いがある対応に対しては「相づちに優しさを感じた」「楽しそうに聞いてくれた」といった肯定的な評価が得られました。これは、笑顔が相手の緊張や不安を和らげ、場の空気を調整する効果があることを示しています。

「心からの共感」ができればベストですが、余裕がない時は「潤滑油としての笑顔」を使う。それだけで、相手との関係悪化を防ぎ、自分自身の精神的な負担を減らすことにつながります。

出典元の要点(要約)
岩手大学

作り笑いが受け手に与える影響―表出者との相互作用に着目して―

https://iwate-u.repo.nii.ac.jp/record/15847/files/cbsa-n38p33-42.pdf

笑い多用群では「相手の相づちに優しさを感じた」「楽しそうに聞いてくれた」といった記述が見られたことから、作り笑いがコミュニケーションの中で潤滑油のような働きをし、ネガティブ感情を抑制した可能性があると考察している。この結果は、李ら(2011)や押見(2002)が述べた「作り笑いの社会的機能」や「心理社会的効果」を実証するものと位置づけられている。

笑顔を「感情の表現」と捉えると、笑えない自分に苦しむことになります。しかし、笑顔を「敵意を防ぎ、関係を円滑にするためのケア技術」と捉え直せば、それはプロとして必要なスキルの一つになります。無理に心を消耗させることなく、技術としての笑顔を使いこなすことが、長く現場で働き続けるための秘訣と言えるでしょう。


よくある疑問

Q
作り笑いだとバレて、逆に印象が悪くなりませんか?
A

(作り笑いだと感じられたとしても)その場の空気を良くしようとする態度として肯定的に受け取られ、好印象につながる

「自分は無理して笑っている」という自覚があっても、相手はあなたが思うほど「作り笑いだ」とは認識していない可能性があります。研究では、話し手(相手)は、聞き手(自分)が思っている以上に「相手はよく笑ってくれている」とポジティブに受け止める傾向が確認されました。

また、作り笑いを含んでいたとしても、笑いを多用する人は、笑わない人に比べて「個人的親しみやすさ」の評価が高くなることが分かっています。「不自然かもしれない」と心配して無表情になるよりも、笑顔の形を作る方が、相手に好印象を与える確率は高いと言えます。

出典元の要点(要約)

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作り笑いが受け手に与える影響―表出者との相互作用に着目して―

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作り笑いの認知得点を従属変数とした t 検定では、笑い多用群において表出者(自分)よりも受け手(相手)の得点が有意に高いことが示された(t(15.16)=4.24,p<.005)。これにより、笑いが多い場面では、表出者自身が認識している以上に受け手が作り笑いを多く行っていると評価している可能性が示され、笑いの中での作り笑い判断の難しさが指摘されている。

Q
嘘をついているようで、罪悪感が消えません。
A

「嘘」ではなく、トラブルを防ぐ「技術」と捉え直してみましょう。

作り笑いには、気まずい空気を和ませたり、相手のネガティブな感情を抑制したりする「社会的機能」があります。実験でも、作り笑いがあることで、相手は「話しやすかった」「相づちに優しさを感じた」といった安心感を得ていました。

あなたの笑顔は、相手を騙すためのものではなく、相手の敵意から自分を守り、その場の関係性を維持するための「ケア技術」です。心からの感情が伴わなくても、その機能を発揮しているのであれば、それはプロとして立派な仕事をしていると言えます。

出典元の要点(要約)

岩手大学

作り笑いが受け手に与える影響―表出者との相互作用に着目して―

https://iwate-u.repo.nii.ac.jp/record/15847/files/cbsa-n38p33-42.pdf

笑い多用群では「相手の相づちに優しさを感じた」「楽しそうに聞いてくれた」といった記述が見られたことから、作り笑いがコミュニケーションの中で潤滑油のような働きをし、ネガティブ感情を抑制した可能性があると考察している。この結果は、李ら(2011)や押見(2002)が述べた「作り笑いの社会的機能」や「心理社会的効果」を実証するものと位置づけられている。


明日から「心の防具」として笑顔を使うために

介護現場における笑顔は、必ずしも「喜び」や「楽しさ」の表現である必要はありません。それは、相手の敵意を下げ、自分自身の心を守るための「防具」であり、円滑なケアを進めるための「技術」です。

「心から笑わなければならない」という呪縛は、真面目な介護職ほど自分を苦しめてしまいます。しかし、研究が示すように、形だけの笑顔であっても、相手の不安を和らげ、トラブルを未然に防ぐ効果は十分に期待できます。

これからは、苦手な利用者様やご家族と接する前、あるいは理不尽な状況に置かれた時、深呼吸をして「よし、防具をつけよう」と意識的に口角を上げてみてください。そこに感情を込める必要はありません。ただ表情筋を動かすという作業が、結果としてあなたと相手を守ることに繋がります。

無理に心をすり減らすのではなく、賢く技術を使って、長く現場で活躍できる自分を守っていきましょう。

最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。



2025年12月10日:新規投稿


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