現場では「人によってとろみの濃さが違う」という悩みが尽きません。「ポタージュ状」と言われても、個人の感覚に頼らざるを得ないのが実情です。
忙しさからつい濃いめに作りがちですが、それが逆に咽頭残留や拒否の原因になることも。完璧な調整は難しくても、基準を知るだけでケアの質は変わります。
この記事を読むと分かること
- 学会分類に基づく3つの段階
- 濃すぎるとろみの残留リスク
- スプーンでの濃度確認法
- 水分を嫌がる本当の理由
- ダマを防ぐ2度混ぜ法
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:「濃い=安全」は誤解。基準は「学会分類」に合わせる

現場では、「ポタージュ状で」と申し送りをしても、スタッフによって仕上がりがバラバラで困惑することが日常茶飯事です。「誤嚥させてはいけない」という責任感から、つい規定量より多めに入れてドロドロにしてしまい、利用者から「糊みたいで飲みたくない」と拒否され、ジレンマを抱えることもあるでしょう。
個人の感覚に頼った調整は限界があります。咽頭残留などの新たなリスクを防ぐためにも、医学的なエビデンスに基づいた「3つの基準」を共通言語にすることが、安全なケアへの近道です。
3つのとろみ段階(学会分類2013)
とろみの濃さは個人の感覚で決めるのではなく、客観的な指標である「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013(とろみ)」に基づき、以下の3段階で管理することが推奨されています。
- 薄いとろみ(スプーンを傾けるとすっと流れる)
- 中間のとろみ(スプーンを傾けるととろとろと流れる)
- 濃いとろみ(スプーンを傾けても形状が保たれる)
これらに当てはまらない、薄すぎるものや濃すぎるとろみは推奨できないとされています。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
とろみについては、学会分類 2013(とろみ)において、嚥下障害者のためのとろみ付き液体を、薄いとろみ、中間のとろみ、濃いとろみの 3 段階に分けて表示している。これに該当しない、薄すぎるとろみや、濃すぎるとろみは推奨できないとしている。
「濃すぎるとろみ」が招く残留リスク
「とろみは濃ければ濃いほど安全」というのは誤解です。粘度が高くなりすぎると、喉の奥や粘膜への付着性が増してしまいます。
その結果、飲み込んだつもりでも喉にべったりと張り付いて残る咽頭残留(いんとうざんりゅう)を引き起こしやすくなります。この残留した食べ物が、食後のふとした拍子に気管に入り込むことで、かえって誤嚥の原因になる可能性があるため注意が必要です。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
これに該当しない、薄すぎるとろみや、濃すぎるとろみは推奨できないとしている。また市販のトロミ剤はその販売された世代によって分類され、物性が異なる。各商品の使用方法を確認して適切に使用することが必要である。
原則は「薄いとろみ」からの検討
ガイドラインでは、嚥下調整食が必要な場合、汁物を含む水分には原則としてとろみを付けるとされていますが、これは一律に濃くすることを意味しません。
個別に嚥下機能の評価を行い、とろみ付けが不要、あるいはより軽いとろみで十分と判断された場合は、その原則を解除できます。安全を確保しつつ、可能な限り飲み込みやすい濃度(薄いとろみ等)を選択することが、利用者のQOLと水分摂取量の維持につながります。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
本表に該当する食事において、汁物を含む水分には原則とろみを付ける。ただし、個別に水分の嚥下評価を行ってとろみ付けが不要と判断された場合には、その原則は解除できる。
とろみ調整のゴールは「固めること」ではありません。学会分類を基準に、その人にとって「むせず、かつ喉に残らない」ギリギリのラインを見極めることが、プロとして求められるリスク管理です。
よくある事例:良かれと思った「その一手」がリスクになる

現場では、「絶対に誤嚥させてはいけない」という強いプレッシャーから、安全策としてとろみを濃くしがちです。しかし、その「良かれと思ってやったこと」が、かえって利用者さんを苦しめたり、新たなリスクを生んでいたりするケースが少なくありません。
ここでは、多くの施設や在宅介護の現場で見られる、典型的な3つの事例と、そこにある誤解を紐解きます。
事例1:「念のため」の増し増しとろみ
- 状況:
- 「もしムセたら大変だから」と、規定量よりも少し多めに粉を入れて、ボッテリとした餅のような状態にして提供しているケースです。スプーンを逆さにしても落ちてこないほどの粘度になっています。
- よくある誤解:
- 「水っぽいよりは、固形に近いほうが気管に入りにくいから安全だ」と思い込んでいませんか?
- 押さえるべき視点:
- 粘度が高すぎると、喉の奥への付着性が高まります。飲み込んだつもりでも喉にベタリと張り付き、それが食後の呼吸とともに気管へ入り込む(あふれ込み)リスクが生じます。ガイドラインでも、分類に当てはまらない「濃すぎるとろみ」は推奨されていません。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
とろみについては、学会分類 2013(とろみ)において3段階に分けて表示している。これに該当しない、薄すぎるとろみや、濃すぎるとろみは推奨できないとしている。
事例2:「ポタージュ状」という指示の落とし穴
- 状況:
- 申し送りで「とろみはポタージュくらいで」と伝えているものの、Aさんが作るポタージュとBさんが作るポタージュの濃さが全く異なり、日によって利用者の飲み込み具合にバラつきが出ているケースです。
- よくある誤解:
- 「料理の例えなら、誰にでもイメージが伝わりやすいはずだ」と考えていませんか?
- 押さえるべき視点:
- 個人の主観に頼る表現は事故のもとです。「学会分類2013」の3段階(薄い・中間・濃い)を共通言語にし、「スプーンを傾けた時にどう落ちるか」という客観的な動きで確認する必要があります。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013(とろみ)を参照し、薄いとろみ、中間のとろみ、濃いとろみの3段階で管理することが基本となる。
事例3:とろみ茶の全量拒否と脱水
- 状況:
- とろみをつけたお茶を一口飲んだだけで顔をしかめ、その後口を真一文字に結んで拒否されてしまうケースです。「わがままだ」「お茶の味が嫌いなのか」と悩み、水分摂取量が激減してしまいます。
- よくある誤解:
- 「認知症だから気分で拒否しているだけ」「とろみ剤の味が嫌いなのだろう」と決めつけていませんか?
- 押さえるべき視点:
- 味が問題なのではなく、濃すぎて飲み込めない(喉を通っていかない)恐怖を感じている可能性があります。また、濃いとろみは胃に溜まりやすく満腹感を与えるため、食欲不振や脱水の原因にもなり得ます。まずは「薄いとろみ」から試し、本当にその濃さが必要なのか再評価することが大切です。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
個別に水分の嚥下評価を行ってとろみ付けが不要と判断された場合には、その原則は解除できる。
これらの事例に共通するのは、「過剰な安全策」がかえって利用者の「食べる・飲む機能」を阻害しているという事実です。
理由:なぜ「濃いとろみ」がリスクになるのか

現場では、「サラサラだと気管に入りそうで怖い」という心理から、ついとろみを強くしがちです。しかし、医学的な視点で見ると、「とろみ」は濃くなればなるほど良いという単純なものではありません。
なぜ「濃すぎる」といけないのか、そしてなぜ現場で濃度のバラつきが起きてしまうのか。その背景には、とろみ剤が持つ物理的な性質と、基準の曖昧さという2つの理由があります。
粘度が招く「咽頭残留(いんとうざんりゅう)」
とろみ剤を多く入れると、水分の粘り気が強くなります。これにより、液体が喉を流れるスピードはゆっくりになりますが、同時に付着性(ベタつき)も増してしまいます。
粘度が高すぎると、飲み込んだ後も喉の粘膜にベタリと張り付いて残ってしまいます。これを咽頭残留と言います。喉に残った食べ物は、食後の呼吸や会話の拍子に気管へ吸い込まれてしまうことがあり、これが「とろみをつけているのに肺炎になる」原因の一つと考えられています。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
とろみについては、学会分類 2013(とろみ)において3段階に分けて表示している。これに該当しない、濃すぎるとろみは推奨できないとしている。
感覚に頼る「基準の曖昧さ」
「ポタージュ状」「ヨーグルト状」といった料理に例えた表現は、個人の経験や感覚に左右されるため、人によって濃さがバラバラになりがちです。この共通言語の欠如が、不適切なとろみ提供の温床となっています。
ガイドラインでは、客観的な基準として「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013」の使用を推奨しています。
- 薄いとろみ:スプーンを傾けるとすっと流れる
- 中間のとろみ:スプーンを傾けるととろとろと流れる
- 濃いとろみ:スプーンを傾けても形状が保たれる
この3段階の基準を用いることで、誰が作っても同じ安全性を担保できるようになります。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013(とろみ)を参照し、薄いとろみ、中間のとろみ、濃いとろみの 3 段階で管理することが基本となる。
「濃いとろみ」は万能ではない
「濃いとろみ」は、重度の嚥下障害がある方など、適応となるケースが限られています。飲み込む力がそれなりにある方にとって、過剰なとろみは「飲み込みにくい塊」でしかありません。
必要以上の粘度は、喉越しを悪くし、満腹感を与え、結果として水分摂取量の低下(脱水)を招きます。ガイドラインでも、個別に評価を行い、不要であればとろみを外す、あるいは薄くすることが推奨されています。「とりあえず濃くしておく」という思考停止こそが、最大のリスク要因なのです。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
個別に水分の嚥下評価を行ってとろみ付けが不要と判断された場合には、その原則は解除できる。
このように、とろみ調整は「濃くすれば解決する」という単純なものではありません。利用者の喉の状態(残留していないか)と、医学的な基準(学会分類)の両面から判断する必要があります。
よくある質問:とろみ調整の疑問
- Qとろみの濃さはどうやって決めるのが正解ですか?
- A
個人の感覚ではなく、「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013(とろみ)」にある「薄いとろみ」「中間のとろみ」「濃いとろみ」の3段階を基準にします。スプーンを傾けた時の落ち方で判断し、これらに当てはまらない濃すぎるものは避けてください。
出典元の要点(要約)
一般社団法人日本老年歯科医学会
要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013(とろみ)を参照し、薄いとろみ、中間のとろみ、濃いとろみの3段階で管理することが基本となる。これに該当しない、濃すぎるとろみは推奨できない。
- Qむせるのが怖いので、念のため濃くしても良いでしょうか?
- A
推奨されません。粘度が高すぎると喉への付着性が増し、飲み込んだ後に喉に残る「咽頭残留」の原因になります。残留した物が気管に入るリスクがあるため、嚥下評価を行い、必要最小限の濃度にとどめることが原則です。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会
要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
個別に水分の嚥下評価を行ってとろみ付けが不要と判断された場合には、その原則は解除できる。濃すぎるとろみは推奨できない。
- Qどのメーカーのとろみ剤でも、同じスプーン数で同じ濃さになりますか?
- A
なりません。商品によって成分や物性が異なるため、同じ分量でも仕上がりは変わります。必ず使用する商品のパッケージに記載された分量目安を確認し、最終的にはスプーンを傾けて落ち方を目で見て確認してください。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本老年歯科医学会
要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン 2017
https://www.gerodontology.jp/publishing/file/guideline/guideline_20181130.pdf
市販のトロミ剤はその販売された世代によって分類され、物性が異なる。各商品の使用方法を確認して適切に使用することが必要である。
まとめ:感覚頼みを卒業し、「統一基準」で安全を守る
「誤嚥が怖いから」と、とろみを濃くしすぎてしまう気持ちは痛いほど分かります。しかし、その優しさがかえって咽頭残留という別のリスクを生み出している可能性があります。
とろみ調整は、個人の感覚で行うものではなく、医学的な処置の一つです。学会分類にある「3つの段階」を共通言語にし、スプーンでの確認を習慣化することで、スタッフや家族間でのバラつきはなくなり、利用者の安全と「飲む喜び」を守ることができます。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2025年12月23日:新規投稿


