利用者様同士のトラブルで、相手の名前を記録に書いていいのか迷うことはありませんか?詳細な記録が必要な一方で、プライバシー保護も求められる板挟みは辛いですよね。
完璧を目指さなくても大丈夫。「記録は実名、提出は黒塗り」という単純なルールを知るだけで、自分と事業所を守れます。現場の負担を減らす、現実的な書き分けについて解説します。
この記事を読むと分かること
- 自分を守る「実名記録」の重要性
- 家族トラブルを防ぐ「黒塗り」手順
- 行政も推奨する記録の書き方
- 「書いてはいけない」という誤解
- 迷わず記録できる判断基準
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:記録は「実名」、開示は「黒塗り」。この使い分けが唯一の正解
現場では「プライバシーに配慮して、相手の名前は伏せるように」と指導される一方で、事故が起きると「誰と誰が、どういう状況だったのか詳細に書け」と詰められることがあります。「どっちが正解なんだ!」と叫びたくなるような矛盾ですが、実は法律とリスク管理の視点では、やるべきことは明確に決まっています。
1. 内部記録(原本)には必ず「実名」を残す
日々のケース記録や事故報告書などの「内部記録」には、躊躇せず相手の実名を記載してください。これは個人情報保護法違反にはなりません。むしろ、曖昧な記述は将来のリスクになります。
行政や裁判所の視点では、記録は「事実を証明する唯一の証拠」です。もし数年後に裁判になった際、記録に「他利用者」としか書かれていなければ、施設側は当時の状況(予見可能性や回避義務)を具体的に証明できず、敗訴するリスクが高まります。東京都などの自治体も、有事の際に備えて具体的な個人名の記載を推奨しています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000911083.pdf
介護記録等の作成は、介護サービスの提供や業務管理(事故の状況把握・再発防止等)を利用目的とする範囲内であれば、個人データとして実名を記載・保存することは適法である。
2. 家族に見せる時だけ「黒塗り(マスキング)」する
「書いてもいい」からといって、「そのまま見せていい」わけではありません。ここが最大のポイントです。
被害者の家族等に記録を開示する場合、そこに書かれている加害者の氏名は、被害者にとっては「他人の個人情報」にあたります。これを本人の同意なくそのまま見せてしまうと、個人情報保護法の「第三者提供の制限」に違反します。
したがって、外部に出す直前にコピーを取り、相手の名前を黒塗り(マスキング)や「A様」「他の利用者」といった表記に修正加工する作業が必須となります。
出典元の要点(要約)
法律個人情報の保護に関する法律(第27条:第三者提供の制限)
https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057/
個人情報取扱事業者は、原則としてあらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。家族への説明であっても、トラブル相手の氏名等をそのまま開示することはこれに抵触する可能性があるため、匿名化等の措置が求められる。
この章のまとめ
介護記録における正解は「最初からぼかして書く」ことではありません。「内部では実名で事実を残し、外部に出す時だけ黒塗りで隠す」という、インプットとアウトプットの使い分けこそが、自分たちの身と利用者のプライバシーを守る唯一の方法です。
深刻な「骨折事故」。その時、記録があなたを守れるか?

現場では、忙しい業務の中で「犯人捜しのような記録は書きたくない」「家族関係を悪化させたくない」と配慮して、つい主語を曖昧にしてしまうことがあります。
しかし、その「優しさ」が、いざという時に自分たちを窮地に追い込む原因になることがあります。ここでは、現場で実際に起こり得る深刻な事例をもとに、記録のあり方を考えます。
1. 事例:車いすでの転倒・骨折事故
以下の状況を想定してください。認知症フロアで発生した、入居者様同士の接触事故です。
- 加害者:田中様(認知症あり・徘徊傾向)
- 被害者:小林様(車いす使用)
- 状況:田中様が背後から車いすを押し、小林様が転落して大腿骨を骨折。
この時、事故報告書やケース記録にどう書くかが運命の分かれ道になります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000911083.pdf
介護関係事業者は、事故が発生した場合、その状況や再発防止策を含む記録を保存しなければならない。これらは業務管理(安全確保)のために不可欠な個人情報の利用と認められる。
2. 【NG】「他利用者」と書いてしまった場合
配慮のつもりで、記録に以下のように書いたとします。
「デイルームにて、他利用者が小林様の車いすを押し、転倒された」
この記述は致命的です。もし数年後に裁判になった際、当時の職員が退職していたら、「他利用者とは誰か?」を誰も証明できません。
「誰が危険か特定できていなかった」=「施設の管理体制がずさんだった」と判断され、過失責任を問われるリスクが跳ね上がります。
3. 【OK】「実名」で書き、提供時に「黒塗り」
正しい対応は、以下の通り使い分けることです。
- 記録(原本):「田中様が小林様を押した」と実名で詳細に残す。
- 家族への開示:小林様のご家族に見せるコピーのみ、「田中様」の部分を黒塗りにする。
これにより、「施設の管理義務(記録)」と「個人のプライバシー(非開示)」の両方を満たすことができます。
出典元の要点(要約)
法律個人情報の保護に関する法律(第27条:第三者提供の制限)
https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057/
本人の同意なく個人データを第三者に提供することは原則禁止されている。したがって、事故記録等を家族へ開示する際は、相手方の氏名等をマスキング(黒塗り)する措置が必要である。
事故記録は、未来の自分たちを守るための「唯一の証拠」です。内部資料として残す原本には、遠慮なく事実(実名)を書いてください。そして、家族に見せる時だけ、コピー機の前で黒塗りのひと手間を加えましょう。
なぜ「名前を書くと違法」という誤解が消えないのか

現場では「個人情報保護法=名前を書いちゃダメな法律」というイメージが独り歩きしていませんか?
「万が一、法律違反で訴えられたらどうしよう」という不安から、必要以上に自粛してしまう気持ちはよく分かります。しかし、法律の仕組みを正しく理解すれば、その「漠然とした恐怖」は消え去ります。
法律は「使うこと」と「渡すこと」を区別している
個人情報保護法において、最も重要なのは「利用」と「提供」の違いです。
施設内で職員がケアの質を上げたり、事故を防いだりするために記録へ実名を書くことは、法律上の「利用目的の範囲内」にあたります。これは業務遂行に不可欠な行為であり、法的に全く問題ありません。
むしろ、適切なサービス提供のために必要な情報は、正確に記録・保存することが認められています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000911083.pdf
介護サービスの提供や業務管理(事故防止・再発防止等)を利用目的とする場合、その範囲内で個人データ(氏名等)を取り扱うことは適法である。
「家族」であっても、他人にとっては「第三者」
では、どこで違法になるのでしょうか。それは、実名入りの記録を「そのまま家族に渡した時」です。
例えば、被害者A様のご家族にとって、加害者であるB様は「赤の他人(第三者)」です。
B様本人の同意を得ずに、B様の氏名や状況が書かれた記録をA様のご家族に見せることは、法律で禁止されている「第三者提供」に該当してしまいます。ここで初めて、法律違反のリスクが発生するのです。
出典元の要点(要約)
法律個人情報の保護に関する法律(第27条:第三者提供の制限)
https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057/
個人情報取扱事業者は、原則として本人の同意なく個人データを第三者に提供してはならない。トラブル相手の情報を被害者家族へ開示する場合も、これに抵触しないよう匿名化等の措置が必要となる。
法律が禁止しているのは「記録すること」ではなく、許可なく「他人に漏らすこと」です。この境界線さえ理解していれば、もう記録の手を止める必要はありません。自信を持って事実を書き残してください。
現場で迷うポイントQ&A
「法律は分かったけれど、実際の現場ではどう動けばいいの?」
そんな疑問や不安を解消するために、よくある質問をエビデンスに基づいて整理しました。
- Q内部記録に相手の実名を書いても、本当に個人情報保護法違反になりませんか?
- A
違反にはなりません。
介護サービスにおける事故防止や再発防止策の検討といった「正当な利用目的」の範囲内であれば、個人データとして実名を記録・保存することは認められています。むしろ、詳細な記録がないと適切な業務管理ができないため、必要な情報は具体的に残すことが推奨されます。出典元の要点(要約)
厚生労働省医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000911083.pdf
介護サービスの提供や業務管理(事故の状況把握・再発防止等)を利用目的とする範囲内であれば、個人データとして実名を記載・保存することは適法である。
- Q家族へ記録のコピーを渡す際、具体的にどのような加工が必要ですか?
- A
第三者(トラブル相手等)の氏名や、個人が特定できる情報をすべて「黒塗り(マスキング)」してください。
具体的には、原本をコピーし、該当箇所を黒く塗りつぶした後、透け防止のために「再度コピー」をとったものを渡す方法が確実です。システムから出力する場合は、匿名化機能や置換機能を使用してください。出典元の要点(要約)
法律個人情報の保護に関する法律(第27条:第三者提供の制限)
https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057/
個人データを利用目的の範囲外で第三者に提供する場合(家族への開示等)、原則として本人の同意が必要となる。同意がない場合は、氏名を削除する等の措置を講じなければならない。
- Q被害者家族から「相手の名前を教えろ」と強く求められたら、どう断ればいいですか?
- A
「個人情報保護法により、相手の方のお名前はお伝えできない決まりになっております」と説明してお断りしてください。
同室者やトラブル相手であっても、被害者家族にとっては「第三者」にあたるため、本人の同意なく氏名を伝えることは法令違反となるリスクがあります。出典元の要点(要約)
法律個人情報の保護に関する法律(第27条:第三者提供の制限)
https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057/
個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない(第27条第1項)。被害者家族への説明であっても、トラブル相手の氏名等をそのまま開示することはこれに抵触する可能性があるため、匿名化等の措置が求められる。
現場での判断に迷ったときは、「記録は事実(実名)で残す」「外部には見せない(加工する)」という原則に立ち返ってください。この基本さえ守れていれば、法律は決して怖いものではなく、むしろあなたと事業所を守るためのルールとして機能します。
まとめ:迷いを捨てて、正しい「使い分け」を
介護現場における記録の悩みは、「事実を残さなければならない義務」と「プライバシーを守らなければならない責任」の板挟みから生まれます。
しかし、この記事で解説した通り、法律と行政の指針に基づけば、やるべきことは非常にシンプルです。
- 内部記録(インプット):将来の証拠として、遠慮なく「実名」で事実を詳細に残す。
- 外部提供(アウトプット):第三者提供の制限を守るため、出す直前に「黒塗り」加工をする。
この「使い分け」こそが、利用者様の権利を守りながら、同時に職員であるあなた自身と事業所を守るための、最も現実的で確実な方法です。
明日からできる3つのステップ
いきなり全ての運用を変えるのは難しいかもしれません。まずは、以下の小さな一歩から始めてみてください。
- 意識を変える:「記録に実名を書くことは、決して悪いことではない」と認識する。
- 道具を揃える:事務所に「透けにくい修正テープ」や「黒マジック」があるか確認する。
- 手順を守る:もし開示請求が来たら、迷わず「コピー→黒塗り→再コピー」の手順を実行する。
記録に関する不安が少しでも解消され、皆様が安心して日々のケアに向き合えるようになることを願っています。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2025年12月30日:新規投稿


