食事介助に時間がかかり、他の業務が回らない焦り。
完食を目指したいけれど、誤嚥が怖くてペースを上げられない葛藤。
現場では理想通りにいかないことも多いですよね。
全てのケアを完璧にするのは難しくても、ここだけは外せないポイントがあります。
忙しい現場でも実践できる、安全を守る判断基準をお伝えします。
この記事を読むと分かること
- 食事を「待つべき」サイン
- 急に寝てしまう理由
- 安全な姿勢の作り方
- 食事制限の正しい知識
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:安全を守るための「3つの鉄則」

現場では「食事くらいしっかり食べてほしい」という家族の願いと、「飲み込む力が落ちているのに無理させられない」という現実との板挟みになりがちです。
人員が限られる中、お一人に何十分もかけられないのが正直なところでしょう。
だからこそ、「食べさせる努力」よりも「今は食べさせない(待つ)という勇気」を持つことが、事故防止において非常に重要であると考えられます。
「眠気」は薬のサイン。無理に起こさない
食事中にスプーンが止まり、急に船を漕ぎ出す。
「やる気がない」と思われがちですが、これは病気の症状や薬の影響である可能性が高いです。
エビデンス(医学的根拠)では、加齢や病気の進行だけでなく、治療薬(抗パーキンソン病薬)そのものが「日中過眠」や「突発的睡眠」を引き起こすと指摘されています。
ウトウトしている状態は誤嚥のリスクが非常に高い状態です。
無理に覚醒させるのではなく、「薬の影響が出ている時間だ」と割り切り、目が覚めるまで食事を中断・延期する判断が適切な対応と言えます。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_28.pdf
日中過眠の背景因子には、加齢、パーキンソン病による睡眠-覚醒機構の障害、夜間の睡眠障害、うつ、向精神薬、レム睡眠行動障害(RBD)、睡眠時無呼吸などが挙げられる。これらは抗パーキンソン病薬の使用開始や増量、病気の進行に伴い頻度が増すため、日常診療では薬剤誘発性の眠気の有無を問診で確認する必要がある。
「声」の大きさは飲み込む力のサイン
「今日は声が小さいな」と感じたら、食事介助も慎重になる必要があります。
パーキンソン病では「構音障害(話しにくさ)」が高い頻度で現れますが、これは喉や口の筋肉が動きにくくなっている証拠です。
声が出にくい時は、同様に「飲み込む動き(嚥下)」も悪くなっていると考えるべきです。
無理に一口量を詰め込まず、専門的なリハビリ(言語聴覚療法)などが発声や構音機能の改善に有効とされています。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
構音障害はパーキンソン病患者の70〜90%にみられ、罹病期間が長くなるにつれて増悪する。
自己判断での「食事制限」は避ける
「薬の効きを良くするために、お肉(タンパク質)を減らして」と要望されることがあります。
しかし、自己判断での制限は推奨されません。
ガイドラインでは「低蛋白食に十分な根拠はない」と明記されており、逆に低栄養を招くリスクが指摘されています。
体重減少は体力を奪います。医師の明確な指示がない限り、しっかり食べてもらうことを優先してください。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_27.pdf
低蛋白食に十分なエビデンスはなく、低栄養状態とならないよう注意が必要です。朝昼の蛋白摂取を減らし夕食時に摂取する蛋白再配分療法(protein redistribution diet: PRD)は運動合併症を解消する可能性がありますが、ジスキネジア増悪や体重減少などのリスクがあるため、医師・栄養士と相談しながら行う必要があります。
全部を完璧にする必要はありません。まずは「眠い時は止める」「声が小さい時は注意する」「勝手に食事を減らさない」の3点だけ意識してください。それだけで、重大な事故や体力低下のリスクを減らすことにつながります。
現場でよくある「判断に迷う」3つのケース

「マニュアル通りにはいかない」
これが現場の正直な悩みではないでしょうか。
利用者さんの状態は毎日違いますし、ご家族からの要望と安全管理の板挟みになることもあります。
現場でよく遭遇する、対応に迷いやすい事例を見ていきましょう。
事例1:食事中に突然ウトウトしてしまうAさん
スプーンを持ったまま動きが止まり、カクンと船を漕ぎ出すAさん。
声をかければハッと目を開けますが、またすぐに目を閉じてしまいます。
現場では「夜寝ていないからだ」「気合を入れて」と励まして食べさせようとしがちですが、これは危険信号です。
これは「突発的睡眠」や「日中過眠」と呼ばれる症状の可能性があります。
本人の意思や睡眠不足とは関係なく、薬の副作用で強制的に眠気が起きている場合があるのです。
この状態で食べ物を口に入れるのは、誤嚥のリスクが極めて高くなります。
「今は休憩の時間」と割り切り、完全に覚醒するまで待つなど、安全を優先した対応が考えられます。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_28.pdf
日中過眠の背景因子には、加齢、パーキンソン病による睡眠-覚醒機構の障害、夜間の睡眠障害、うつ、向精神薬、レム睡眠行動障害(RBD)、睡眠時無呼吸などが挙げられる。これらは抗パーキンソン病薬の使用開始や増量、病気の進行に伴い頻度が増すため、日常診療では薬剤誘発性の眠気の有無を問診で確認する必要がある。
事例2:体が斜めに傾いてこぼしてしまうBさん
車椅子に座って食べていると、徐々に体が斜めに傾いてくるBさん。
食べこぼしが増えるため、職員が何度も直したり、クッションで固定しようとしたりします。
これは筋力の問題だけでなく、パーキンソン病特有の運動症状(姿勢反射障害など)が影響していることが多いです。
体が勝手に傾いてしまうため、無理に真っ直ぐ固定しようとしても苦痛を与えるだけになりかねません。
無理に矯正するよりも、こうした姿勢の崩れや震え(振戦)が生活に支障を来している場合は、医師へ相談して治療を検討することが重要です。
また、震え(振戦)などが強く出ている場合は、薬の調整で改善することもあります。
「姿勢が保てない」ことは、医師に相談すべき重要なサインです。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
振戦の治療について、通常のパーキンソン病治療に準じた薬物療法を十分に行い、治療抵抗性かつ生活に支障を来している場合に、改善の程度と満足度を勘案して、抗パーキンソン病薬やその他を併用、あるいは手術療法を考慮するとの回答が示されている。
事例3:「お肉を減らして」と家族に言われたCさん
ご家族から「ネットで見たから、薬のためにタンパク質を減らしてほしい」と要望があったCさん。
本人はお肉が好きなのに、減らすべきか現場判断に迷うケースです。
結論から言えば、独断での制限は避けることが推奨されます。
前述の通り、極端な制限は低栄養を招き、体力や免疫力を落とす原因になる可能性があります。
「薬の効きが悪い」という明確な課題があり、医師が「蛋白再配分療法」を指示した場合のみ、夕食にタンパク質を回すなどの調整を行います。
現場の判断ではなく、必ず医療職の指示を仰ぐ案件として対応しましょう。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_27.pdf
低蛋白食に十分なエビデンスはなく、低栄養状態とならないよう注意が必要です。朝昼の蛋白摂取を減らし夕食時に摂取する蛋白再配分療法(protein redistribution diet: PRD)は運動合併症を解消する可能性がありますが、ジスキネジア増悪や体重減少などのリスクがあるため、医師・栄養士と相談しながら行う必要があります。
「寝てしまう」「傾く」「制限の要望」。これらは現場でよくある悩みですが、自己判断で対応するとリスクが高まります。迷ったときは「無理に食べさせない」「医師に相談する」という基本に立ち返ることが、利用者さんを守るための適切な対応です。
なぜ、「うまくいかない」が起きるのか?

「もっと時間をかけてあげたいけれど、他の方も待っている」
「せっかくの食事なのに、一口も食べずに寝てしまう」
現場では、こうした歯痒さや無力感を感じることも多いと思います。
しかし、うまくいかないのは、あなたの介助技術のせいではありません。
パーキンソン病には、努力だけでは乗り越えられない「構造的な理由」が存在するからです。
「薬」が眠気を呼ぶ構造
「さっきまで起きていたのに」と不思議に思うことがありますが、これはパーキンソン病治療において特徴的な現象です。
治療薬(ドパミンアゴニスト等)を使用していると、その副作用として「日中過眠」や「突発的睡眠」が起こりやすくなります。
これは本人の気合や、夜間の睡眠不足だけが原因ではありません。
「薬で動けるようになる代わりに、強烈な眠気が来ることもある」
このトレードオフ(代償)が起きていることを知っておくだけで、現場のイライラは減らせるはずです。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_28.pdf
日中過眠の背景因子には、加齢、パーキンソン病による睡眠-覚醒機構の障害、夜間の睡眠障害、うつ、向精神薬、レム睡眠行動障害(RBD)、睡眠時無呼吸などが挙げられる。これらは抗パーキンソン病薬の使用開始や増量、病気の進行に伴い頻度が増すため、日常診療では薬剤誘発性の眠気の有無を問診で確認する必要がある。
「脳」が姿勢を崩すメカニズム
体が斜めに傾いたり、首が下がったりするのは、筋力が落ちたからだけではありません。
脳からの指令がうまく届かず、姿勢を保つ反射機能(姿勢反射障害)が働かなくなっているからです。
「まっすぐ座ってください」と声をかけても直らないのは、本人がふざけているわけではなく、脳の神経変性が原因です。
無理に精神論で解決しようとせず、「脳がそういう状態なんだ」と理解し、クッションなどの道具に頼る判断が重要です。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
振戦の治療について、通常のパーキンソン病治療に準じた薬物療法を十分に行い、治療抵抗性かつ生活に支障を来している場合に、改善の程度と満足度を勘案して、抗パーキンソン病薬やその他を併用、あるいは手術療法を考慮するとの回答が示されている。
「時間厳守」のリスクと古い常識
施設の業務は時間通りに進める必要がありますが、パーキンソン病の症状には「日内変動(On/Off)」があります。
薬が効いている時(On)と切れている時(Off)の差が激しいため、「いつも同じ時間に食べる」こと自体が難しいのです。
また、「タンパク質制限」のような古い情報や不正確な知識も、現場を混乱させる一因です。
ガイドラインでは「過度な制限は低栄養のもと」と警告されています。
古い常識に縛られず、目の前の利用者さんの「今の状態」に合わせることが、結果的に安全なケアにつながります。
出典元の要点(要約)
日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_27.pdf
低蛋白食に十分なエビデンスはなく、低栄養状態とならないよう注意が必要です。朝昼の蛋白摂取を減らし夕食時に摂取する蛋白再配分療法(protein redistribution diet: PRD)は運動合併症を解消する可能性がありますが、ジスキネジア増悪や体重減少などのリスクがあるため、医師・栄養士と相談しながら行う必要があります。
うまくいくないのは、あなたのせいでも、利用者さんの努力不足でもありません。薬の副作用や脳の仕組み、そして「時間通りの業務」という構造的な壁があるからです。まずはこの事実を知り、「今は無理だ」と割り切る心の余裕を持ってください。
よくある質問(FAQ)
現場の疑問や不安について、ガイドラインに基づいた回答をまとめました。
「本当にこれでいいのかな?」と迷った時の確認用としてご活用ください。
- Q薬の効きを良くするために、タンパク質(肉や魚)は控えたほうがいいですか?
- Aご自身の判断で制限することは推奨されません。ガイドラインでは「低蛋白食に十分な根拠(エビデンス)はなく、低栄養状態とならないよう注意が必要」とされています。 制限が必要かどうかは、お薬の状況や体重などを総合的に見て医師が判断します。指示がない限りは、しっかり栄養を摂っていただくことが基本です。
出典元の要点(要約)
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_27.pdf
低蛋白食に十分なエビデンスはなく、低栄養状態とならないよう注意が必要です。朝昼の蛋白摂取を減らし夕食時に摂取する蛋白再配分療法(protein redistribution diet: PRD)は運動合併症を解消する可能性がありますが、ジスキネジア増悪や体重減少などのリスクがあるため、医師・栄養士と相談しながら行う必要があります。
- Q食事中にウトウトしてしまいます。起こして食べさせて良いでしょうか?
- A無理に食べさせるのは避けてください。これは「日中過眠」と呼ばれる症状で、お薬の影響で突発的に眠気が起きている可能性があります。 うとうとしている状態は飲み込む力が低下しており、誤嚥のリスクが非常に高いです。完全に目が覚めるまで待つか、時間をずらす対応をご検討ください。
出典元の要点(要約)
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_28.pdf
日中過眠の背景因子には、加齢、パーキンソン病による睡眠-覚醒機構の障害、夜間の睡眠障害、うつ、向精神薬、レム睡眠行動障害(RBD)、睡眠時無呼吸などが挙げられる。これらは抗パーキンソン病薬の使用開始や増量、病気の進行に伴い頻度が増すため、日常診療では薬剤誘発性の眠気の有無を問診で確認する必要がある。
- Q声が小さくて聞き取れません。食事にも影響しますか?
- A影響する可能性があります。声の出しにくさ(構音障害)は、喉や口の筋肉が動きにくくなっているサインでもあり、多くの患者さんに見られる症状です。 リハビリ(発声練習など)が有効とされていますので、専門職と相談の上、無理のない範囲で取り入れてみるのも一つの方法です。
出典元の要点(要約)
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
構音障害はパーキンソン病患者の70〜90%にみられ、罹病期間が長くなるにつれて増悪する。
日本神経学会
パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf
構音障害に対して、LSVT LOUDなどの言語聴覚療法は発声機能や構音機能の改善に有効である。
すべてを解決しようと焦る必要はありません。大切なのは「疑問に思ったらガイドラインや医師の指示に立ち返る」という慎重な姿勢です。ご自身の感覚だけでなく、こうした根拠をお守り代わりに持っておいてください。
まとめ:明日からできる「最初の一歩」
ここまで、パーキンソン病の食事介助について、エビデンス(医学的根拠)に基づいた判断基準をお伝えしてきました。 日々、多くの業務に追われる中で、すべてのケアを完璧にこなすことは困難です。 しかし、利用者さんの命を守るために、決して譲れないポイントは明確です。
それは、「眠い時(Offの時)は食べさせない」という勇気ある判断と、「姿勢(顎を引くこと)」への配慮です。 完食することよりも、安全に一口を食べることの方が、はるかに重要だからです。
パーキンソン病の食事介助は、時には「待つこと」も立派なケアになります。 焦る必要はありません。 今日お伝えした知識が、あなたの迷いを減らし、利用者さんとの穏やかな食事の時間につながることを願っています。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2025年9月17日:新規公開
- 2025年10月21日:一部レイアウト修正
- 2026年1月8日:より詳細なエビデンス(根拠)に基づき解説を充実させるとともに、最新のサイト基準に合わせて構成・レイアウトを見やすく刷新。







