新人介護士のみなさん、毎日お疲れさまです。
目の前の利用者さんの予測できない行動に、「これって“問題行動”? それとも“BPSD”?」と、ふと迷うことはありませんか?
忙しい現場では、つい便利な「問題行動」という言葉を使いがちですよね。 でも、もしその言葉を「BPSD」という“視点”に変えるだけで、あなたのケアがガラッと変わり、心も少し軽くなるとしたら…?
この記事では、約10分でその「決定的な違い」から「現場での具体的な対応」までがわかるよう、信頼できるガイドラインに基づき、ポイントを整理して解説します。
この記事を10分で読むと、こう変わる!
- 「問題行動」と「BPSD」、言葉の裏にある“視点”の違いがスッキリわかります。
- なぜBPSDと捉えることで、ケアの質が上がるのか、その根拠が深く理解できます。
- 明日から利用者さんへの声かけや具体的な対応に、自信が持てるようになります。
結論:「迷惑行動」は主観、「BPSD」はSOSサイン

いきなり結論です。2つの言葉の決定的な違いは、これだけです。
- 「迷惑行動」「問題行動」:あなたの心の中にある“主観的な感情(ラベル)”です。
- 「BPSD」:利用者さんの体や心の中で起きている“症状(SOSサイン)”です。
つまり、「迷惑だ」と感じるのは、あくまで介護する側の受け止め方。一方で「BPSD」は、日本認知症学会のガイドラインでも
医学的な評価・管理の対象とされる、客観的な「症状」を指します。
なぜ症状と捉えるべきか? それは、BPSDは様々な原因が絡み合って起きる「多因子性の症候群」だからです。この視点を持つことが、質の高いケアへの第一歩になります。
出典元の要点(要約)
日本認知症学会 かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
- BPSDの管理は、まず原因を探る「鑑別」から始めるべき対象である。
- BPSDとは別に、せん妄や身体的要因、薬剤性の要因などを区別する必要がある。
https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2025/06/guideline.pdf
日本老年医学会
認知症の BPSD
- BPSDは、生物・心理・社会要因が絡み合う「多因子性の症候群」である。
- 認知症患者のほぼ90%にBPSDが出現するとされる。
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_geriatrics_48_3_195.pdf
なぜ“視点”を変えるだけでケアの質が上がるのか?

言葉を変えるだけで、具体的に3つの良い変化が生まれます。
理由①:あなたの“対応”が「対処」から「原因を探るケア」に変わるから
「迷惑行動」と捉えると、ついその行動を止めさせようとする「対処」になりがちです。しかし「BPSDかも?」と考えると、「なぜこの症状が出ているんだろう?」と
原因を探る視点に切り替わります。日本認知症学会のガイドラインでは、BPSDの対応はまず原因の鑑別(身体疾患・せん妄・薬剤性など)から始めることを徹底しています。
理由②:チームの“言葉”がそろい、連携の質が上がるから
「〇〇さんの問題行動がひどい」という申し送りでは、人によって捉え方がバラバラです。しかし「〇〇さんに焦燥(BPSDの症状名)が見られる」と伝えれば、チーム全員が同じ客観的な事実を共有できます。言葉がそろうことで、記録・申し送り・カンファレンスの質が格段に向上します。
理由③:利用者さんの“安全”を守れるから
ガイドラインが一貫して推奨しているのは「非薬物療法(薬を使わない工夫)の優先」です。 なぜなら、向精神薬には「死亡リスクの上昇」や「脳血管イベントのリスク増加」といった重大なリスクが報告されているからです。BPSDの視点で原因を探り、薬以外の工夫をチームで試すことは、利用者さんを薬のリスクから守ることにも直結します。
出典元の要点(要約)
日本認知症学会
かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
- BPSDの管理においては「非薬物療法が第一選択」である。
- 薬物治療を開始する場合でも、共同意思決定(SDM)を通じて決定するよう努める。
https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2025/06/guideline.pdf日本老年医学会
認知症の BPSD
- BPSDへの対応は、まず「非薬物療法を優先するのが原則」である。
- 非定型抗精神病薬の使用は「死亡率を上昇」させ、「脳血管イベントのリスク増加」につながる可能性がある。
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_geriatrics_48_3_195.pdf
現場での実践プロトコル:対応は「3つのステップ」で考える
では、具体的にどう動けばいいのでしょうか?ガイドラインでは、以下の3ステップで対応するよう示されています。

ステップ①:まずは原因を探る(アセスメント)
症状の裏に隠れた原因を探ります。「BPSD様症状を引き起こし得る病態」として、ガイドラインでは以下のような点の確認を求めています。
- 身体の不調はないか?(感染症、脱水、痛み、便秘など)
- せん妄ではないか?(急に症状が出た場合は特に注意)
- 薬の副作用ではないか?(新しく始まった薬、変更した薬はないか)
- 環境の変化はなかったか?
- レビー小体型認知症の可能性はないか?(幻視やパーキンソン症状がある場合、薬への過敏性に要注意)
ステップ②:薬を使わない工夫を試す(非薬物療法)
原因の見当をつけながら、薬以外の工夫を試します。これがケアの腕の見せどころです。
- 環境調整: 部屋を明るくする、静かな場所に誘導する、トイレの場所を分かりやすくするなど。
- コミュニケーション: 話を否定せず傾聴する(バリデーション)、安心できる言葉をかける、一緒に作業をするなど。
- 活動の工夫: 本人が好きなことや得意なことをする時間を作る、散歩など体を動かす機会を作るなど。
- 睡眠衛生指導: 朝日を浴びる、日中の活動量を増やすなど、生活リズムを整える。
ステップ③:必要時のみ、医師と連携し薬を検討する(薬物療法)
ステップ②の工夫をしても改善せず、本人や周囲の安全が明らかに脅かされる場合に限り、初めて医師と連携して薬の使用を検討します。
その際も、「低用量から」「1つの薬で(単剤)」「定期的に効果と副作用を評価し」「常に減量・中止を検討する」という安全原則を守ることが鉄則です。
出典元の要点(要約)
日本認知症学会
かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
- BPSD様症状を引き起こし得る病態(身体的要因、薬剤性など)の鑑別を行う。
- 病態把握後、まずは環境調整やケアの変更など非薬物的介入を実施する。
- 薬物治療は低用量で開始し、常に減量・中止を念頭に置く。
https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2025/06/guideline.pdf厚生労働省
かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)
- BPSDへの対応は、非薬物を優先し、必要時のみ薬物を段階的に検討する。
- 包括的なアセスメント(身体疾患・薬剤・せん妄・環境)から始めることを記載。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000140619.pdf
【ケース別】“3つのステップ”で考える現場の対応
新人がつまずきやすい3つのケースを、先ほどの3ステップで整理してみましょう。
ケース①:「家に帰る!」夕方になると歩き出す…
- 原因を探る: 「トイレに行きたいのかな?」「脱水気味でそわそわする?」「日中の活動が足りず、エネルギーが余っている?」
- 工夫を試す: まずトイレに誘ってみる。好きだった演歌の音楽をかけてみる。一緒に洗濯物をたたむなど、簡単な役割をお願いしてみる。
- 薬の検討: これらの工夫で不安が解消されず、転倒の危険が著しく高い場合などに、初めて看護師や医師に報告し、次の手を相談する。
ケース②:「いらない!」食事や入浴を頑なに拒否する…
- 原因を探る: 「口の中に痛みがある?」「入れ歯が合っていない?」「便秘でお腹が苦しい?」「浴室が寒くて不快?」
- 工夫を試す: 食事なら、本人の好きなメニューを少しだけ用意してみる。入浴なら、暖かい時間にリビングで体を拭くだけに切り替えてみる(部分浴)。
- 薬の検討: 拒否が続き、著しい栄養低下や衛生問題が生命に影響する場合に、医師に原因の再評価と対応を相談する。
ケース③:「財布を盗られた!」と強く訴える…
- 原因を探る: 「不安が強いのかな?」「自分の持ち物の場所が分からなくなって混乱している?」「レビー小体型認知症の幻視や妄想の可能性は?」
- 工夫を試す: 「それは心配ですね」と絶対に否定せず、まず気持ちを受け止める。「一緒に探しましょうか」と寄り添い、安心感を提供する。
- 薬の検討: 妄想が原因で不眠・食欲不振が続き、心身の消耗が激しい場合などに、専門医への相談を検討する。特にレビー小体型認知症が疑われる場合は、薬の選択に細心の注意が必要なため、慎重な連携が求められる。
まとめ:明日からできる、はじめの一歩
「迷惑行動」と「BPSD」の違いは、単なる言葉遊びではありません。あなたの視点を変え、行動を構造化し、チームのケアの質を高めるための、最もシンプルで強力な道具です。
明日からできることは、たった一つ。
記録や申し送りで「迷惑」「困った」「頑固」といった主観的な言葉を書きそうになったら、ぐっとこらえて「歩行が増えている」「介護への抵抗が見られる」「“盗られた”との訴えあり」のように、見たままの事実(症状)で表現してみてください。
その小さな一歩が、あなたと利用者さんの関係を、そしてチーム全体のケアを、確実に良い方向へ導いてくれるはずです。
出典
この記事は、以下の信頼できるガイドラインに基づき、新人介護士向けに情報を再構成したものです。
- 日本認知症学会
かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2025/06/guideline.pdf - 厚生労働省
かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000140619.pdf - 日本老年医学会
認知症の BPSD
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_geriatrics_48_3_195.pdf
更新履歴
- 2025年10月6日:新規公開