「本人の意思を尊重したい」と思っても、分刻みの業務や人員不足で、つい先回りして手を出してしまう。そんな理想と現実のギャップに、心を痛めていませんか。転倒などの事故リスクを考えると、安全を優先せざるを得ない場面もあるでしょう。全部は無理でも、まずは日常の小さなケアから見直してみませんか。
この記事を読むと分かること
- 意思決定支援の本当の意味
- 今日からできる日常の工夫
- 認知症ケアの判断基準
- 代行決定が必要なライン
- 自分を守る記録の残し方
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:現場で明日からできる「現実的な」意思決定支援

現場では、ギリギリの人員配置の中で「一人ひとりの思いに寄り添いたい」という理想と、「業務を回さなければならない」「事故は防がなければならない」という現実の板挟みに悩むことが多いのではないでしょうか。「そんな余裕はない」と感じるのが正直なところかもしれません。しかし、ガイドラインが求めているのは、必ずしも大掛かりな会議だけではありません。私たちが日々行っている「小さな関わり」こそが、重要な支援の第一歩と言えるでしょう。
「特別なこと」ではなく「日常の積み重ね」が重要
意思決定支援と聞くと、施設入所や財産管理といった重大な契約をイメージしがちですが、実はそれだけではありません。本人が自信を持って意思を伝えるためには、日頃から「今日何を着るか」「何を食べるか」といった日常的な事柄を自分で決める経験が必要です。たとえ小さなことでも、「自分で決めたことが尊重された」という体験(エンパワメント)を積み重ねることが、いざという時の大きな決断を支える土台になると考えられます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
課題が生じてからいきなり意思決定支援をしようとしても容易ではなく、日頃から日常的な事柄について本人が自ら意思決定をすることができるような支援がされ、そのような経験が蓄積されるという環境が整備されている必要があります。厚生労働省
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本人の自信を持って意思決定を行うためには、日常的に本人が自ら意思決定を行い、「自らの意思決定が他者に尊重された」という経験を得て、自尊心や達成感が満たされるよう、後見人等も含めた支援者らが協力して支援をする(エンパワメント)環境が整備されることが求められます。厚生労働省
意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドラインhttps://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf
従前、本人が自ら意思決定をしたという経験の少ない人については、日常生活において何を食べるか、今日何を着るかなどの身近な決定を支援者らの支援によって繰り返すことにより、自身の意思を尊重される体験を積むことができ、自信を持って意思を表明することができるようになります。
「認知症だから無理」と決めつけない
現場では、「認知症が進んでいるから、もう自分では決められない」と判断してしまうことがあるかもしれません。しかし、意思決定能力は「ある」か「ない」かの二者択一で固定されたものではありません。体調や環境、そして支援の有無によって変動するものです。一見して判断が難しそうな方でも、説明の仕方や環境を工夫することで、その人なりの意思を引き出せる可能性があります。最初から諦めずに、変化の可能性を信じることが大切です。
出典元の要点(要約)
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意思決定能力は法律で定められた概念ではなく、意思能力や行為能力とは異なるものであり、あるかないかという二者択一的なものではなく、支援の有無や程度によって変動するものであるという考え方が採用されています。厚生労働省
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意思決定能力は、あるかないかという二者択一的なものではなく、支援の有無や程度によって変動するものであるため、本人に意思決定能力がないと決めつけることなく、4要素を満たすことができるように後見人等を含めた支援チーム全体で支援をすることが必要です。厚生労働省
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意思決定能力とは、支援を受けて自らの意思を自分で決定することのできる能力であり、意思決定を行う場面では通常、意思決定に必要な情報を理解すること(情報の理解)、情報を記憶として保持すること(記憶保持)、選択肢の中で比べて考えることができること(比較検討)、自分の意思決定を表現すること(意思の表現)の4つの要素が必要と考えられます。
言葉がない時は「過去の姿」をヒントにする
どうしても本人の意思確認が難しい場合、すぐにスタッフや家族の判断(代行決定)で進めてよいわけではありません。まずは、本人の推定意思を探ることが求められます。元気だった頃の言動、趣味、大切にしていた価値観など、過去の生活歴やエピソードを紐解いてみましょう。「あの人ならきっとこう言うはず」という推測をチームで共有し、根拠を持って判断することが重要です。
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第4原則として、意思決定支援が尽くされても本人の意思決定や意思確認が困難な場合には代行決定に移行しますが、その場合であっても、後見人等はまずは明確な根拠に基づき合理的に推定される本人の意思(推定意思)に基づき行動することを基本とします。厚生労働省
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https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf本人の意思決定や意思確認が困難と評価された場合、後見人等を含めた支援チームが集まって、本人の日常生活の場面や事業者のサービス提供場面における表情や感情、行動に関する記録、これまでの生活史、人間関係等様々な情報を把握し、根拠を明確にしながら本人の意思及び選好を推定することを試みることが必要です。
よくある「こんな時どうする?」3つの事例

現場では、教科書通りにいかないことばかりです。「拒否が強くてケアが進まない」「危ないのに歩きたがる」。そんな時、ガイドラインの視点を使うとどう見えるのか、具体的な事例で考えてみましょう。
【事例1】入浴を強く拒否される場合
「お風呂に入りましょう」と声をかけても、「嫌だ!」「うるさい!」と強い口調で拒否されることがあります。忙しい業務の中では、つい「今日は機嫌が悪いから中止しよう」と諦めたり、「清潔のためだから」と無理強いしてしまいがちです。しかし、一見不合理な決定に見えても、それだけで「判断能力がない」と決めつけてはいけません。単なるわがままではなく、「お湯が熱いのが怖い」「裸を見られるのが恥ずかしい」といった本人の価値観に基づいた拒否である可能性があります。拒否の理由を探ることが、支援のスタートです。
出典元の要点(要約)
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不合理と思われる決定であっても、他者に危害を及ぼすものでない限り、それだけで意思決定能力がないと判断してはなりません(第3原則)。厚生労働省
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本人の決定が、周囲から見て不合理な決定に見える場合であっても、それが本人の価値観等に基づいたものであれば尊重されるべきです。
【事例2】「家に帰りたい」と外出しようとする場合
足元がふらつく利用者が「家に帰る」と言ってきかない時、転倒事故を防ぐために「外は危ないですよ」と強く止めることが多いでしょう。もちろん安全は重要ですが、本人の意思を無視して行動を制限することは、代行決定(本人の代わりに決めること)にあたります。代行決定が許されるのは、そのままでは生命や身体に「見過ごすことのできない重大な影響」が生じる場合に限られます。単に「心配だから」ではなく、「明らかに不利益か」「回復困難か」「発生確実か」という基準で冷静に判断する必要があります。
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本人の決定が本人に見過ごすことのできない重大な影響を及ぼす可能性がある場合には、本人の決定をそのまま尊重することは相当ではありません。厚生労働省
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https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf「見過ごすことのできない重大な影響」とは、①本人の決定をそのまま尊重すれば、本人の生命、身体、財産等に明らかに不利益が発生するおそれがあり、②その不利益が回復困難なものであり、③不利益の発生の可能性が確実である場合をいいます。
【事例3】服選びに時間がかかる場合
朝の更衣介助で、「どれにしますか?」と聞いても反応が薄く、時間がかかってしまうことがあります。次の業務が控えていると、スタッフが良かれと思って「今日はこれにしましょう」と決めてしまいがちです。しかし、言葉が出なくても、実物を見せたり、「赤と青、どっちが好き?」と選択肢を絞ることで選べる場合があります。また、その場では決められなくても、時間を空けたり、馴染みのスタッフが対応したりすることで意思が出せることもあります。環境調整も、プロができる重要な支援の一つです。
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本人の意思決定能力は支援の有無や程度によって変動するものであり、環境を整えたり、適切な支援を行うことで意思決定が可能となる場合があります。厚生労働省
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アセスメントに当たっては、本人がリラックスできる環境や時間帯を選び、信頼関係のある支援者が行うなどの配慮が必要です。
なぜ「意思決定支援」は現場でうまくいかないのか?

「研修で言われることは正しい。でも、この人数でどう回せばいいの?」「何かあったら誰が責任を取るの?」現場では、こうした構造的な課題が壁になり、支援を諦めざるを得ないこともあるでしょう。しかし、うまくいかない原因は、個人のスキル不足だけではなく、私たちが持っている「思い込み」にあるかもしれません。
「能力がない」と固定的に考えてしまう
忙しい現場では、一度「理解できない」と判断すると、その後も「この人は何も決められない人」というレッテルを貼ってしまいがちです。しかし、ガイドラインでは、意思決定能力は「ある」か「ない」かの二者択一ではなく、支援の有無によって変動するものとされています。「できない」と決めつけて支援を省略することは、本人の可能性を閉ざすことにつながります。支援の方法を変えれば「できる」かもしれないという視点が必要です。
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意思決定能力は法律で定められた概念ではなく、意思能力や行為能力とは異なるものであり、あるかないかという二者択一的なものではなく、支援の有無や程度によって変動するものであるという考え方が採用されています。厚生労働省
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意思決定能力は、あるかないかという二者択一的なものではなく、支援の有無や程度によって変動するものであるため、本人に意思決定能力がないと決めつけることなく、4要素を満たすことができるように後見人等を含めた支援チーム全体で支援をすることが必要です。
「あなたのため」が「支援者のため」になっている
「転倒したら危ないから」「栄養バランスが大事だから」という判断は、一見本人のためを思っているようで、実は「管理しやすさ」や「責任回避」が優先されている場合があります。本当の意味での「最善の利益」とは、客観的な利益(健康や安全)だけでなく、本人の意向・感情・価値観(主観的利益)を最大限尊重したものです。支援者側の価値観を押し付けず、本人が何を望んでいるかを第一に考える姿勢が求められます。
出典元の要点(要約)
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https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf最善の利益の検討に当たっては、本人の意向、感情、価値観(選好)を最大限尊重することを前提に、客観的利益等も含めて総合的に考慮する必要があります。厚生労働省
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支援者が「良かれ」と思って本人に勧める内容が、一般的な価値観や支援者自身の価値観に基づいた「客観的利益」に偏っていないか、本人の意向や価値観に基づく「主観的利益」が軽視されていないかを常に振り返ることが重要です。
「あの人はこう言った」で方針がブレる
スタッフによって「Aさんは自分でできる」と言う人もいれば、「いや、無理だ」と言う人もいる。このようなバラつきは、本人を混乱させるだけでなく、現場の疲弊を招くおそれがあります。意思決定支援は、特定の誰か一人だけで行うものではありません。チーム支援が基本です。日頃から情報を共有し、「この方にはどういう支援が必要か」というアセスメントの方針を統一することで、より適切な支援を行うことにつながります。
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後見人等は、一人で支援を行うのではなく、福祉関係者や親族等と連携し、チームとして本人を支援する体制(支援チーム)を構築することが重要です。厚生労働省
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後見人等は、支援チームのメンバーと日常的に情報を共有し、本人の変化や支援の方向性について協議を行うことで、より適切な支援を行うことが可能となります。
現場の「迷い」を解消するQ&A
「本人の言うことがコロコロ変わる」「本当にこの対応でいいのか不安」など、現場での判断はいつも迷いと隣り合わせです。ここでは、ガイドラインに基づく判断のヒントを整理しました。
- QQ1. 認知症の方の言うことが毎回変わります。どれを本心と捉えればいいですか?
- A意思の「揺らぎ」は誰にでもあります。直ちに結論を出そうとせず、一定期間見守り、本人の生活歴や価値観と照らし合わせて整合性を確認してください。
出典元の要点(要約)
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意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf 一見すると意思が決定しているように見える場合でも、時間の経過や状況の変化によって意思が変わる(揺らぐ)ことがあり得ることを前提に、直ちに法的な手続きに進むのではなく、時間をかけて本人の意思の変遷を見守ることが重要です。
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意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf 本人の表明した意思が、過去の言動や生活歴、価値観等と整合しているか、あるいは一貫しているかを確認し、本人の真意(選好)を慎重に見極めることが求められます。
- QQ2. 本人の希望通りにすると、命に関わる危険があります。それでも尊重すべきですか?
- Aいいえ。「見過ごすことのできない重大な影響(明らかに不利益・回復困難・確実性)」がある場合は、本人の意思と異なる代行決定を行うことが許容されます。ただし、必要最小限にとどめてください。
出典元の要点(要約)
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意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf 本人の決定を尊重することで、本人の生命、身体、財産等に「見過ごすことのできない重大な影響」が生じるおそれがある場合には、本人の決定と異なる決定(代行決定)を行うことが許容されます。
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意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf 代行決定を行う場合であっても、本人の自己決定権に対する制約は必要最小限度にとどめなければなりません(第6原則)。
- QQ3. 家族が「危ないから施設に入れて」と言っていますが、本人は拒否しています。
- A本人の意思を無視した安易な施設入所は避けるべきです。まずは本人の「推定意思」を探り、本当に在宅生活が不可能か(重大な影響があるか)を慎重に検討してください。家族の安心だけを理由にするのではなく、本人の最善の利益を最大限尊重して検討することが基本となります。
出典元の要点(要約)
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意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf本人の意思決定が困難な場合であっても、まずは明確な根拠に基づき合理的に推定される本人の意思(推定意思)に基づき行動することを基本とします(第4原則)。
厚生労働省
意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン https://www.mhlw.go.jp/content/000750502.pdf 支援者自身の価値観や、家族等の意向(客観的利益)のみに基づいて決定するのではなく、本人の意向、感情、価値観(主観的利益)を最大限尊重することを前提に検討する必要があります。
[迷ったときは一人で抱え込まず、ガイドラインの基準(重大な影響の3要素など)に立ち返ってみてください。根拠を持ってチームで話し合うことが、利用者だけでなく、あなた自身を守ることにもつながります。
まとめ:明日からの現場で、まずは「小さな一歩」から
意思決定支援は、特別なスキルを持った専門家だけが行うものではありません。利用者に一番近くで寄り添う介護職員だからこそ、できる支援がたくさんあります。「完璧」を目指す必要はありません。まずは明日から、以下の3つを意識してみませんか。
- 小さな選択肢を提案する(「お茶にしますか、コーヒーにしますか」と聞くなど)
- 拒否があった時、「なぜだろう?」と一瞬だけ立ち止まって考える
- 一人で判断せず、気づいたことを記録し、チームで共有する
こうした日々の積み重ねが、利用者の方の「自分で決める力」を引き出し、その人らしい生活を支えることにつながるでしょう。最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2026年1月30日:新規投稿







