介護現場で、大事な報告や相談をしているのに上司がきちんと聞いてくれない…
そんな経験をしたことはありませんか。忙しさを理由に流されたり、
「またその話?」と扱われてしまい、胸にモヤッとした感情が残ることもあります。
一方的に自分の話だけを続けられ、利用者さんの安全に関わる内容なのに
真剣に向き合ってもらえないと感じると、戸惑いや不安が重なることもあります。
この状況は決して珍しいものではなく、環境要因が影響している場合もあります。
この記事では、専門資料に基づき、報告が適切に伝わりにくい背景と、
相手の反応に振り回されず落ち着いて伝えるための基本姿勢を整理しています。
日々の報告・相談の場面でそっと役立ててください。
この記事を読むと分かること
- 上司に話が届きにくいときに起きている背景要因を理解できます
- 忙しさの中でも伝わりやすくする報告の組み立て方が分かります
- 相手の反応に影響されにくい心の保ち方を把握できます
- 利用者さんの安全につなげるための報告の基本視点を確認できます
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:「話を聞かない」背景を理解し、技術で対処する
「ちゃんと聞いてほしい」その切実な思いが届かず、心が疲れてしまうのは本当につらいですよね。まず結論として、その状況を変える鍵は、相手の心理的な背景を理解し、感情的にならず「技術」として対処することにあります。

「聞かない」背景には心理的な理由があるかもしれない
なぜ、上司は真剣に話を聞いてくれないのでしょうか。それは単なる「性格」だけでなく、心理的な特性が影響している可能性も考えられます。
例えば、日本教育心理学会の研究総説では、自己愛傾向が強い人は他者への共感性が低かったり、自分の考えが批判されること(自我脅威)に対して「自己愛憤怒」と呼ばれる強い怒りで防衛的に反応したりすることが示唆されています。 つまり、「話を聞かない」態度は、相手なりの防衛反応や、他者への関心の向け方の特性である可能性もあるのです。
出典元の要点(要約)
日本教育心理学会
教育心理学と実践活動―自己愛をめぐる実践研究と実証研究の交差
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/58/0/58_167/_pdf/-char/ja
誇大性・特権意識や「自己愛憤怒」が自己愛的特徴として示される。威圧・否定的な言動への対応では、反応の高ぶりを前提に事実の記述と境界の共有を軸に、対立のエスカレーションを避けるコミュニケーション設計が求められる。
日本教育心理学会
教育心理学と実践活動―自己愛をめぐる実践研究と実証研究の交差
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/58/0/58_167/_pdf/-char/ja
総説は、自己愛傾向が対人関係や攻撃性と関連する面を指摘。現場の“威圧・理詰め・非傾聴”の背景理解として、自己愛の作動性と共同性のバランスに注意し、共同性を高める表現や役割の再確認を提示する。
対処法は「我慢」でも「対立」でもなく「技術(伝え方)」である
「どうせ聞いてもらえない」と諦めて我慢したり、感情的に反発したりするのは、状況を悪化させる可能性があります。
有効なのは、「自分も相手も大切にする伝え方(アサーション)」というコミュニケーションの技術を用いることです。日本教育心理学会の研究では、この方法は相手を尊重しつつ、自分の意見も適切に主張するための心理教育として効果が示されています。感情的にならず、伝えるべきことを冷静に伝える。これは特別な才能ではなく、練習によって身につけられる具体的なスキルです。
出典元の要点(要約)
日本教育心理学会
大学新入生に対するアサーション・トレーニングの効果
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep/67/4/67_317/_pdf/-char/ja
アサーションは相手尊重を前提とした自己主張の心理教育である。攻撃的にならずに境界や要望を伝える標準手順(事実→感情→要望→結果)の導入に適する。
最終目的は「自分の心を守ること」(バーンアウト予防)
なぜ、わざわざ技術を使ってまで伝える必要があるのでしょうか? それは、あなた自身の心身の健康を守るためです。
上司とのコミュニケーション不全は、介護現場における大きなストレス要因です。日本老年社会科学会の研究によれば、こうした対人関係のストレスは「情緒的消耗感」を高め、バーンアウト(燃え尽き症候群)につながる重要な要因となります。「話を聞かない上司」への対処法を身につけることは、あなたが燃え尽きずに、介護の仕事を長く続けていくための自己防衛術なのです。
出典元の要点(要約)
日本老年社会科学会
介護職員におけるバーンアウトとワークエンゲイジメントの関係性—JD-Rモデルによる検討—
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rousha/42/3/42_188/_pdf/-char/ja
バーンアウトは三つの側面からなる症候群で、情緒的消耗が中核とされる。人間関係の不調や否定的態度は個人特性だけでなく症候群の表現であり、休息や支援導入の判断根拠となる。
相手を変えることは難しいかもしれません。しかし、相手の心理を理解し、伝える技術を磨くことで、あなたが受けるストレスを減らし、状況を少しでも改善することは可能です。
よくある事例:「話を聞かない」はこんな場面で起きていませんか?
ここに掲載する事例は、特定のケースを記録したものではありません。あくまで、様々な研究(エビデンス)が示す「コミュニケーションの課題」や「心理的な背景」を理解しやすくするための「例え話」として参考にしてください。
介護現場で「上司が真面目に話を聞いてくれない」と感じる具体的な場面を振り返ってみましょう。これらの場面には、上司の特定の心理的な特性が影響している可能性も考えられます。

事例1:重要な報告をしても上の空、または話を遮る
ヒヤリハットや利用者の急な状態変化など、緊急性の高い報告をしているにもかかわらず、上司がパソコンから目を離さなかったり、「はいはい、わかったから」と話を途中で遮ったりするケースです。
これは、相手の話の内容よりも自分の作業や考えを優先してしまう傾向(「作動性」>「共同性」)や、他者の状況に対する共感性の低さが背景にあるかもしれません。
出典元の要点(要約)
日本教育心理学会
教育心理学と実践活動―自己愛をめぐる実践研究と実証研究の交差
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/58/0/58_167/_pdf/-char/ja
総説は、自己愛傾向が対人関係や攻撃性と関連する面を指摘。現場の“威圧・理詰め・非傾聴”の背景理解として、自己愛の作動性と共同性のバランスに注意し、共同性を高める表現や役割の再確認を提示する。
事例2:相談しても、自分の経験談や武勇伝にすり替わる
業務上の悩みや改善提案について相談を持ちかけても、いつの間にか上司自身の過去の経験談や自慢話(「俺の若い頃はもっと大変だった」など)に話がすり替わってしまい、結局相談に乗ってもらえないケースです。
これは、部下の話を聞くことよりも、自分の経験や能力を誇示したいという欲求(「誇大性」)が強く表れている可能性があります。
出典元の要点(要約)
日本教育心理学会
教育心理学と実践活動―自己愛をめぐる実践研究と実証研究の交差
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/58/0/58_167/_pdf/-char/ja
誇大性・特権意識や「自己愛憤怒」が自己愛的特徴として示される。威圧・否定的な言動への対応では、反応の高ぶりを前提に事実の記述と境界の共有を軸に、対立のエスカレーションを避けるコミュニケーション設計が求められる。
事例3:都合の悪い話や批判的な意見には耳を貸さない
業務上の問題点や改善が必要な点を指摘したり、上司自身の言動について意見を述べようとしたりすると、露骨に不機嫌になったり、話を逸らしたりして、全く聞く耳を持たないケースです。
これは、批判されること(自我脅威)に対する過剰な防衛反応である可能性があります。日本教育心理学会の総説では、このような状況で「自己愛憤怒」と呼ばれる強い怒りを示すことがあると指摘されています。
出典元の要点(要約)
日本教育心理学会
教育心理学と実践活動―自己愛をめぐる実践研究と実証研究の交差
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/58/0/58_167/_pdf/-char/ja
“誇大自己—自我脅威—攻撃性”の連関を示す理論。記事では、威圧的反応を誘発する場面で、場と時間を切り替える、論点を限定する等の具体策の意義を示す。
これらの事例に見られる「話を聞かない」態度は、単なるコミュニケーションスタイルの違いだけでなく、背景にある心理的な特性を理解することで、より効果的な対処法(伝え方)を考えるヒントになります。
よくある質問(FAQ):どうすれば「聞いてもらえる」可能性を高められるか?
「話を聞かない上司」に、どうすれば少しでも効果的に伝えられるか、具体的な疑問にお答えします。これらは、あなた自身を守り、状況を少しでも改善するための「技術」です。

- Q話を聞いてもらうための「切り出し方」のコツは?
- A
まず、相手が比較的落ち着いているタイミングを見計らうことが大切です。 その上で、「〇〇の件でご相談があるのですが、今〇分ほどよろしいでしょうか?」のように、用件と所要時間を明確に伝えて切り出すと、相手も心の準備がしやすくなります。 また、相手の関心がどこにあるか(例:効率、リスク管理、自身の評価)を考慮し、話の焦点を相手の関心事に合わせる工夫も有効かもしれません。これは、相手の心理的特性(例:作動性>共同性)を踏まえた戦略的なアプローチです。
出典元の要点(要約)
日本教育心理学会
教育心理学と実践活動―自己愛をめぐる実践研究と実証研究の交差
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/58/0/58_167/_pdf/-char/ja
総説は、自己愛傾向が対人関係や攻撃性と関連する面を指摘。現場の“威圧・理詰め・非傾聴”の背景理解として、自己愛の作動性と共同性のバランスに注意し、共同性を高める表現や役割の再確認を提示する。
- Q相手を不快にさせずに「意見」を伝える方法は?
- A
ここで役立つのが「自分も相手も大切にする伝え方(アサーション)」の基本です。 まず、相手の意見や状況への理解・配慮を示し(他者尊重)、その上で、「わたし(I)メッセージ」を使って、客観的な事実と自分の意見(主観)を分けて伝えます。 例えば、「〇〇というご指示、承知しました。ただ、現状△△という状況があり(事実)、このまま進めると□□という懸念があると私は考えます(自分の意見)。つきましては、××という方法はいかがでしょうか(提案)?」のように伝えます。日本教育心理学会の研究でも、この方法は自己主張と他者尊重を両立させる効果があるとされています。
出典元の要点(要約)
日本教育心理学会
大学新入生に対するアサーション・トレーニングの効果(記事本文)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep/67/4/67_317/_article/-char/ja/?utm_source=chatgpt.com
本文でも、自己主張と他者尊重の両立や視点取得・怒り表現への効果が明記される。話を聞かない/攻撃的な相手に対しても、相互尊重を保ちつつ目的を達成する対応スキルとして根拠づけられる。
- Q何度伝えても聞いてもらえない場合は、どうすれば?
- A
あなたが「自分も相手も大切にする伝え方」で誠実に伝えようと努力しても、全く状況が改善せず、業務やあなたの心身に深刻な影響(例:情緒的消耗、バーンアウトの兆候)が出ている場合、その上司個人へのアプローチには限界があるのかもしれません。
その場合は、さらに上の役職の上司や、人事部、社内に設置されているハラスメント相談窓口などに相談することを検討してください。 それでも職場全体の状況が変わらず、あなたの健康が脅かされ続ける環境であれば、あなた自身の健康とキャリアを守るために、最終的な選択肢として、働く環境を変える(転職する)ことも真剣に考える必要があります。
出典元の要点(要約)
日本老年社会科学会
介護職員におけるバーンアウトとワークエンゲイジメントの関係性—JD-Rモデルによる検討—
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rousha/42/3/42_188/_pdf/-char/ja
バーンアウトは三つの側面からなる症候群で、情緒的消耗が中核とされる。人間関係の不調や否定的態度は個人特性だけでなく症候群の表現であり、休息や支援導入の判断根拠となる。
厚生労働省
職場におけるハラスメント対策パンフレット(総合版)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf
相談・協力を理由とする解雇や降格等の「不利益な取扱い」は禁止。安全に相談できる導線(守秘、報復防止、二重窓口、記録)を制度として明文化する必要がある。
これらの技術は、必ずしも相手を変えるものではありません。しかし、あなたが状況を変えるために「できること」がある、という主体的な感覚を取り戻す助けになるはずです。
まとめ:「話を聞かない上司」から自分の心を守るために
最後に、「話を聞かない上司」への対応と、あなた自身の心を守るための要点をまとめます。大切なのは、相手を変えようとすること以上に、あなたが消耗しないための術を知ることです。
「聞かない」背景を理解し、冷静さを保つ
上司が話を聞かないのは、あなた個人への否定ではなく、相手の心理的な特性(例:自己愛傾向、共感性の低さ、防衛反応)が影響している可能性があります。
日本教育心理学会の研究総説などを参考に、その背景を理解しようと努めることは、あなたが感情的にならず、冷静かつ客観的に状況を捉える助けとなります。
出典元の要点(要約)
日本教育心理学会
教育心理学と実践活動―自己愛をめぐる実践研究と実証研究の交差
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/58/0/58_167/_pdf/-char/ja
誇大性・特権意識や「自己愛憤怒」が自己愛的特徴として示される。威圧・否定的な言動への対応では、反応の高ぶりを前提に事実の記述と境界の共有を軸に、対立のエスカレーションを避けるコミュニケーション設計が求められる。
「伝え方」の技術(アサーション)を試してみる
「どうせ聞いてもらえない」と諦めて我慢したり、感情的に反発したりする代わりに、「自分も相手も大切にする伝え方(アサーション)」という具体的なスキルを試してみましょう。
日本教育心理学会の研究でも効果が示されているこの方法は、相手を尊重しつつ、自分の意見も適切に主張するための技術です。これは特別な才能ではなく、練習によって身につけることができます。
出典元の要点(要約)
日本教育心理学会
大学新入生に対するアサーション・トレーニングの効果
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep/67/4/67_317/_pdf/-char/ja
アサーションは相手尊重を前提とした自己主張の心理教育である。攻撃的にならずに境界や要望を伝える標準手順(事実→感情→要望→結果)の導入に適する。
自分の心身の健康を最優先する
様々な伝え方を試しても状況が改善せず、あなたが深く消耗し、心身の健康が脅かされている(バーンアウトのリスクが高い)と感じる場合、あなた自身を守ることを最優先に考えてください。
日本老年社会科学会の研究でも示されているように、「情緒的消耗感」は深刻な問題です。信頼できる人に相談したり、必要であれば働く環境を変える(転職する)という選択肢も、決して間違いではありません。
出典元の要点(要約)
日本老年社会科学会
介護職員におけるバーンアウトとワークエンゲイジメントの関係性—JD-Rモデルによる検討—
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rousha/42/3/42_188/_pdf/-char/ja
バーンアウトは三つの側面からなる症候群で、情緒的消耗が中核とされる。人間関係の不調や否定的態度は個人特性だけでなく症候群の表現であり、休息や支援導入の判断根拠となる。
コミュニケーションは一方通行では成り立ちません。あなたが努力しても改善が見られない場合、それはあなたのせいだけではない可能性が高いです。どうかご自身を大切にしてください。
ご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てたら幸いです。
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更新履歴
- 2025年11月18日:新規投稿


