習った通りのケアを拒否され、暴言や暴力に直面すると、自分を全否定されたように感じてしまうもの。理想を持ちながらも、止まらないナースコールと多忙さに追われ、余裕を失う瞬間は誰にでもあります。
それは適性の問題ではなく、現場特有のリアリティショックです。全てを我慢するのではなく、脳の限界を知り、プロとして自身の心を守る技術を一つだけ身につけましょう。
この記事を読むと分かること
- 優しくなれない脳の仕組み
- 暴言から心を守る考え方
- 6秒で冷静になる姿勢制御
- 新人が陥る感情の壁
- 燃え尽きないプロの準備
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:新人が「我慢」で壊れる前に。脳の仕組みを知り、物理的に自分を守る

現場では「石の上にも三年」「そのうち慣れる」と励まされることが多いですが、毎日のように暴言を浴び、業務に追われる新人にとって、その言葉は呪いのように響くことがあります。「利用者に寄り添いたい」という理想があっても、実際には終わらない業務とナースコールに追われ、トイレに行く暇さえないのが現実です。そんな極限状態で「もっと優しく」と精神論を重ねても、心はすり減るばかりです。ここでは、根性論ではなく、科学的な視点から自分を守るための現実的な着地点をお伝えします。
イライラや自己嫌悪は「性格」ではなく「悪循環のプロセス」
現場でついカッとなったり、落ち込んだりするのは、あなたの性格が向いていないからではありません。研究によると、介護職員が苛立っていく過程には明確なプロセスがあります。
まず、日々の業務による「心身の不調」や「モチベーション低下」という土台があり、そこに「終わらない業務への焦り」や「利用者への苛立ち」が重なることで、感情が爆発しやすくなります。
最も苦しいのは、その後に「なんであんな態度をとってしまったんだろう」と自己嫌悪に陥ることです。この自分を責める気持ちこそが、精神的な負担を増大させ、さらなる悪循環を生む原因となっていることが分かっています。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本社会福祉学会介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
図1 介護職員が利用者に苛立っていくプロセス(結果図)の【ストーリーライン】として,介護職員が利用者に苛立っていくプロセスは,〈心身状態の不調〉,〈モチベーションの低下〉という苛立ちやすい状態で業務につき,そのなかで〈終わらない業務への焦り〉,〈利用者への苛立ち〉が生起し,〈他職員介護による苛立ち・負担〉が苛立ちを増加させ,〈思い通りにいかない苛立ち〉を生み,最終的に〈自分自身への苛立ち〉となり,諸種の焦りや苛立ちが悪循環していくプロセスとなっていた。
一般社団法人 日本社会福祉学会
介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
“苛立つ自分への嫌悪・否定”とは‘利用者にイライラしてしまった自分に対して嫌悪感を抱いたり,援助者としての自分を否定してしまうこと’であり,「うまくそこができないから(感情コントロール),なんで私はうまくできないんだろうっていう風な思いで悩む」と語られ,介護職員は自己嫌悪・自己否定に陥っており,悪循環していくプロセスの終点であると位置づけられている。
疲れている時に「ポジティブ思考」は脳の毒になる
「暴言も病気のせいだと思えば平気」といったアドバイスを耳にしますが、新人にとってこれは非常に危険な教えです。
怒りの原因を別の視点で捉え直す「再評価」は、脳の前頭前野という部分を使い、大きな精神的努力(認知リソース)を必要とします。
業務を覚えるだけで精一杯の新人や、生理的なストレス状態で余裕がない時に、無理に「考え方を変えよう」と努力することは、脳にとって過度な負担となります。疲弊している時には、思考力を使わない別の方法を選ぶべきだということが研究で示唆されています。
出典元の要点(要約)
日本心理学会怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja
再評価は主観的な怒りを鎮めるための最も有効な方略の1つであるが、即時的な怒りの減少量は気晴らしに劣り、生理的ストレス状態のような個人の認知資源が限られた状況において有効性が減じる。
日本心理学会
怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja
情動の再評価は、背側前帯状皮質、背内側―、背外側―、腹外側前頭前野といった認知制御領域の機能によって実現されることから、感情制御方略の中でも特に努力を必要とする。攻撃衝動の高まりを伴うような強い怒りに対し再評価を試みることは非常に困難であり、怒りの対象との関係が良好な者でなければ攻撃行動は減少しないことや、自由記述において再評価の使用が非常に少ないことは、怒りの再評価には多大な努力が必要であり、その実施には強い動機づけを要することを示唆している。
「思考」ではなく「姿勢」で脳の暴走を止める
では、思考が働かないほど疲れている時はどうすればよいのでしょうか。有効なのは、身体的なスイッチを利用することです。
人は怒りを感じると、対象に向かっていこうとする接近動機づけが高まり、無意識に前のめりになります。この時、あえて椅子に深く座る、あるいは背もたれに体を預けて後傾姿勢をとることで、物理的に「接近」を阻むと、攻撃的な衝動を抑えやすくなります。
また、呼吸数を「1分間に7回未満」に抑えてゆっくり呼吸することも、感情制御に関わる数値を高め、怒りを静める効果があると報告されています。
出典元の要点(要約)
日本心理学会怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja
接近動機づけの高まりは主観的な怒りや攻撃行動を増幅させる内的衝動であるため、特性怒りが高く接近動機づけが高まりやすい人ほど、主観的な怒りの制御にも有効な可能性がある。明所に比べた暗所、座位に比べた後傾座位、物体を手で押しのけ遠ざける動作といった操作を用いて接近動機づけの高まりを妨げると、低い特性怒りを持つ個人に比べ、高い特性怒りを持つ人の状態怒りや攻撃行動がより減少した。
日本心理学会
怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja
感情制御能力のバイオマーカーとされる心拍変動(LFおよびSDNN)は、呼吸数を1分間に7回未満に抑えることで大幅に増加する。呼吸を用いて心拍変動を増加させることで怒りが減少するか検討した研究では、呼吸数を抑えた群においてLFが大きいほど主観的な怒りが減少した。
新人のうちは、業務に慣れるだけで脳の体力を使い果たしています。無理に心を強く持とうとせず、まずは「姿勢を後ろに引く」「ゆっくり息をする」といった物理的な行動で、沸点に達する前の自分を守ってください。それがプロとして長く走り続けるための第一歩です。
新人が現場で直面する「3つの感情の壁」
学校や研修では「利用者様の尊厳を大切に」「傾聴が大事」と教わりますが、いざ現場に出ると、その理想は脆くも崩れ去ることがあります。「習った通りに丁寧に声をかけたのに怒鳴られた」「先輩たちは忙しそうで、分からないことがあっても聞く隙さえない」――そんな経験をして、トイレで一人涙を流したことのある新人は数え切れません。
ここでは、多くの新人がリアリティショックを受け、自信を喪失してしまう典型的な場面を紹介します。これらはあなたの能力不足ではなく、誰もがぶつかる構造的な壁なのです。
事例1:良かれと思ったケアへの「拒絶」
新人のうちは「少しでも役に立ちたい」という一心でケアにあたります。しかし、良かれと思って提案した入浴や、丁寧に準備した足浴などを「いい!(拒否)」「触らないで!」と強く拒絶されることがあります。
この時、単に業務が進まないことへの困りごと以上に、親切心を踏みにじられたような感覚に陥ります。自分が一生懸命行ったケアが無駄になったように感じたり、自分という人間そのものが否定されたように感じたりすることで、利用者に対して苛立ちや悲しみを抱いてしまいます。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本社会福祉学会介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
“拒否的反応への苛立ち”とは‘介護したことやしようとしたことに,利用者が拒否し,その反応に苛立つこと’であり,多忙な業務のなか利用者のことを考えて実施した介護が拒否されると,業務が無駄になったように感じたり,自分が否定されたように感じ,拒否した利用者に対して苛立ってしまっていた。
日本看護科学会
介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja
先行要件【ケアの対象者との意思疎通が難しい】では、説明を理解してもらえないことや、正しいことを伝えても受け入れられず、感謝などの反応が得られない状況が挙げられている。
事例2:暴力・暴言による「恐怖」と「自尊心の傷」
認知症の周辺症状(BPSD)とはいえ、突然叩かれたり、つねられたり、あるいはつばを吐きかけられたりすることは、新人にとって衝撃的な体験です。
身体的な痛みはもちろんですが、「馬鹿野郎」といった暴言や不潔行為は、ケアをする側の自尊心を深く傷つけます。こうした暴力への遭遇はトラウマのような精神的禍根を残す可能性があり、その利用者に関わること自体に強い恐怖や精神的負担を感じるようになります。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本社会福祉学会介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
“攻撃的言動への苛立ち”とは‘介護したことやしようとしたことに対して,利用者からの暴言・暴力行為があり,その反応に苛立つこと’であり,徐々に苛立つというよりは,攻撃的な言動に対して反応するように急激に苛立つという状況であった。
日本看護科学会
介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja
属性【BPSD対応に疲弊する】では、暴力による肉体的苦痛のみならず、言葉の暴力やつばをかけられる行為によって心が傷つき、感情的に疲弊する様子が示されている。
日本看護科学会
介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja
暴言や暴力(つばをかけられる等)は、単なる身体的ダメージだけでなく、実践者の自尊心を損なう点で精神面への影響が大きい。暴力等への遭遇はトラウマティックな出来事となり、ケア実践者にとって精神的禍根となる可能性がある。
事例3:多重業務による「パニック」と「孤立」
新人のうちは業務の手順を追うだけで精一杯です。しかし現場では、食事介助中にナースコールが鳴り止まないなど、〈終わらない業務への焦り〉が常にのしかかります。
「先輩に手伝ってほしい」と思っても、「他の人の負担になるから」と遠慮して言い出せず、一人で業務を抱え込んでしまうことがよくあります。その結果、余裕がなくなり、利用者への対応が雑になってしまったり、手を抜いているように見える他職員に対して苛立ちを感じたりと、精神的に追い詰められていきます。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本社会福祉学会介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
“迫りくる時間への焦り”とは‘自分の担当業務を時間内に終わらせなければならないと焦ってしまうこと’であり,〈終わらない業務への焦り〉の構成要素として示されている。
一般社団法人 日本社会福祉学会
介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
“他職員配慮の負担増”とは‘自分の業務を他職員に手伝ってもらったり,引き継いでもらいたくても,他職員の負担のことを考えて一人で業務をして,自分の負担になること’であり,助けを求められない結果として業務を一人で抱え込み苛立ちやすくなるという悪循環があり,「上下関係もあります(中略).パートさんで強い人とかいるんで」というように職員関係を気にして業務をしている語りもあった。
これらの事例は、決してあなた一人の体験ではありません。〈拒否による自己否定〉、〈暴力による自尊心の傷〉、そして〈焦りと孤立〉。これらは現場に出た瞬間に誰もが直面する壁であり、個人の性格ではなく、環境や病気の症状が生み出す構造的な課題なのです。
なぜ「優しさ」だけでは現場を乗り越えられないのか

現場では「利用者様の気持ちに寄り添って」「プロなら感情をコントロールして」と指導されます。しかし、夜勤明けで思考が止まりそうな時や、食事介助と排泄介助が重なり走り回っている時に、理不尽な暴言を吐かれて、心からの笑顔でいられるでしょうか。
頭では「病気だから仕方ない」「優しくしなきゃ」と分かっていても、心が追いつかない。それは決して、あなたの忍耐力が足りないからではありません。介護という仕事の特性上、どうしても避けられない構造的な限界と、脳の仕組みが関係しているからです。
理由1:脳のエネルギー(認知リソース)の枯渇
アンガーマネジメントでは、「怒りの原因を別の視点で捉え直す(再評価)」ことが有効とされます。例えば、暴言を吐かれた時に「自分への攻撃」ではなく「病気の症状で苦しんでいるんだ」と解釈を変えることです。
しかし、この再評価という作業は、脳の前頭前野という部分を使い、非常に大きなエネルギー(認知リソース)を消費します。
新人のうちは業務を覚えるだけで精一杯であり、さらに現場で疲労困憊し、ストレスにさらされている状態では、この認知リソースが枯渇しています。そのため、頭では「捉え方を変えよう」と思っても脳が機能せず、衝動的な怒りを抑え込むことが生理的に難しくなってしまうのです。
出典元の要点(要約)
日本心理学会怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja
再評価は主観的な怒りを鎮めるための最も有効な方略の1つであるが、即時的な怒りの減少量は気晴らしに劣り、生理的ストレス状態のような個人の認知資源が限られた状況において有効性が減じる。
日本心理学会
怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja
情動の再評価は、背側前帯状皮質、背内側―、背外側―、腹外側前頭前野といった認知制御領域の機能によって実現されることから、感情制御方略の中でも特に努力を必要とする。攻撃衝動の高まりを伴うような強い怒りに対し再評価を試みることは非常に困難であり、怒りの対象との関係が良好な者でなければ攻撃行動は減少しないことや、自由記述において再評価の使用が非常に少ないことは、怒りの再評価には多大な努力が必要であり、その実施には強い動機づけを要することを示唆している。
理由2:感情労働による疲弊と「不全感」
介護職は、自分の本当の感情を抑え、専門職としてふさわしい感情や態度を表現することが求められる感情労働です。
利用者の尊厳を守るために、恐怖や嫌悪感といったネガティブな感情を必死に隠してケアを続けることは、精神的に大きな負担となります。この状態が続くと、専門職として不適切だと分かっていながら感情的な対応をしてしまう自分への嫌悪感や、専門職としての適性を失う感覚である不全感につながります。
また、「もっと良いケアをしたいのに、業務に追われてできない」という倫理的な苦悩も、日々のストレスを蓄積させ、イライラを引き起こす大きな要因となっています。
出典元の要点(要約)
日本看護科学会介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja
属性【専門職としてのあり方に対する不全感】には、専門職として不適切だとわかっていながら感情的な対応をしてしまう自分への嫌悪感や、専門職としての適性を失う感覚が含まれる。
日本看護科学会
介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja
属性【倫理的な苦悩を抱く】には、最善のケアを行いたいという理想と、現実的な制約とのギャップによるジレンマや、個人の尊厳を尊重できないケアへの罪悪感が含まれる。
理由3:自己嫌悪の悪循環
イライラは、ある瞬間に突然湧き上がるものではありません。研究によると、そこには明確なプロセス(過程)が存在します。
まず、日々の激務による「心身の不調」や「モチベーション低下」という土台があり、そこに「業務の焦り」や「利用者への苛立ち」が加わることで、感情が爆発します。
さらに辛いのは、その後にやってくる自己嫌悪です。つい乱暴な言葉を使ってしまったり、態度に出てしまったりした自分を「なんであんなことを」と責めることで、さらに精神的な余裕がなくなり、次なる苛立ちを生むという悪循環の終点に陥ってしまいます。
出典元の要点(要約)
一般社団法人 日本社会福祉学会介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
図1 介護職員が利用者に苛立っていくプロセス(結果図)の【ストーリーライン】として,介護職員が利用者に苛立っていくプロセスは,〈心身状態の不調〉,〈モチベーションの低下〉という苛立ちやすい状態で業務につき,そのなかで〈終わらない業務への焦り〉,〈利用者への苛立ち〉が生起し,〈他職員介護による苛立ち・負担〉が苛立ちを増加させ,〈思い通りにいかない苛立ち〉を生み,最終的に〈自分自身への苛立ち〉となり,諸種の焦りや苛立ちが悪循環していくプロセスとなっていた。
一般社団法人 日本社会福祉学会
介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
“苛立つ自分への嫌悪・否定”とは‘利用者にイライラしてしまった自分に対して嫌悪感を抱いたり,援助者としての自分を否定してしまうこと’であり,「うまくそこができないから(感情コントロール),なんで私はうまくできないんだろうっていう風な思いで悩む」と語られ,介護職員は自己嫌悪・自己否定に陥っており,悪循環していくプロセスの終点であると位置づけられている。
このように、現場での葛藤は「あなたの心が狭い」から起きるのではなく、〈脳の疲労〉、〈感情労働の負担〉、そして〈悪循環のプロセス〉という3つの要因が重なって生じるものです。自分を責めるのをやめ、「今は脳が疲れているんだ」と客観的に自分を見ることから始めてみてください。
現場で迷いやすいポイント(FAQ)

先輩には「慣れだよ」と言われても、実際には心がついていかず、誰にも相談できない悩みがあるものです。ここでは、科学的な研究結果に基づいた「新人が抱きやすい疑問」への答えをまとめました。
- Q暴言を吐かれて、どうしても許せない気持ちになるのはダメなことですか?
- A
決してダメなことではありません。 暴力や暴言は、身体的な痛みだけでなく、ケアをする側の「自尊心」を深く傷つける体験です。疲れている時に、無理に「病気だから」と考え方を変えようとする(再評価する)ことは、脳に過度な負担をかけるため、推奨されません。まずは「自分は傷ついたんだ」と認めることが大切です。
出典元の要点(要約)
日本看護科学会
介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja
暴言や暴力(つばをかけられる等)は、単なる身体的ダメージだけでなく、実践者の自尊心を損なう点で精神面への影響が大きい。暴力等への遭遇はトラウマティックな出来事となり、ケア実践者にとって精神的禍根となる可能性がある。
日本心理学会
怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja
再評価は主観的な怒りを鎮めるための最も有効な方略の1つであるが、即時的な怒りの減少量は気晴らしに劣り、生理的ストレス状態のような個人の認知資源が限られた状況において有効性が減じる。
- Qカッとなった時、その場で思考を変える余裕がありません。どうすればいいですか?
- A
思考ではなく「姿勢」を変えてください。 怒りを感じると、無意識に体が前のめりになります(接近動機づけ)。その場で椅子に深く座り直したり、少し後ろにのけぞる「後傾姿勢」をとったりするだけで、攻撃的な衝動を物理的に抑えやすくなることが分かっています。また、1分間に7回未満のペースでゆっくり息を吐くことも有効です。
出典元の要点(要約)
日本心理学会
怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja
接近動機づけの高まりは主観的な怒りや攻撃行動を増幅させる内的衝動であるため、特性怒りが高く接近動機づけが高まりやすい人ほど、主観的な怒りの制御にも有効な可能性がある。明所に比べた暗所、座位に比べた後傾座位、物体を手で押しのけ遠ざける動作といった操作を用いて接近動機づけの高まりを妨げると、低い特性怒りを持つ個人に比べ、高い特性怒りを持つ人の状態怒りや攻撃行動がより減少した。
日本心理学会
怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討――
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja
感情制御能力のバイオマーカーとされる心拍変動(LFおよびSDNN)は、呼吸数を1分間に7回未満に抑えることで大幅に増加する。呼吸を用いて心拍変動を増加させることで怒りが減少するか検討した研究では、呼吸数を抑えた群においてLFが大きいほど主観的な怒りが減少した。
- Q「自分は向いていない」「辞めたい」と思ってしまうのは甘えですか?
- A
甘えではなく、構造的な負担からくる「反応」の可能性があります。 専門職として理想のケアができないことへの「不全感」や、イライラしてしまった自分への「自己嫌悪」は、悪循環のプロセスの結果として生じるものです。多くの職員が経験する心理状態であり、個人の資質だけの問題ではないと捉える視点が必要です。
出典元の要点(要約)
日本看護科学会
介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja
属性【専門職としてのあり方に対する不全感】には、専門職として不適切だとわかっていながら感情的な対応をしてしまう自分への嫌悪感や、専門職としての適性を失う感覚が含まれる。
一般社団法人 日本社会福祉学会
介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf
“苛立つ自分への嫌悪・否定”とは‘利用者にイライラしてしまった自分に対して嫌悪感を抱いたり,援助者としての自分を否定してしまうこと’であり,「うまくそこができないから(感情コントロール),なんで私はうまくできないんだろうっていう風な思いで悩む」と語られ,介護職員は自己嫌悪・自己否定に陥っており,悪循環していくプロセスの終点であると位置づけられている。
現場での悩みは尽きないものですが、「許せない気持ち」も「辞めたい気持ち」も、過酷な環境に対する正常な反応の一部です。自分を責めすぎず、まずは「脳の仕組み」や「身体の反応」として客観的に捉えることから始めてみてください。
まとめ:明日から「一つだけ」意識してみよう
介護現場でのリアリティショックやイライラは、あなたがプロとして真剣に向き合っているからこそ生じる「脳と身体の反応」です。新人のうちは、業務を覚えるだけで精一杯であり、感情まで完璧にコントロールしようとすれば、いずれ心が壊れてしまいます。
完璧な介護士を目指すあまり、自分を追い詰める必要はありません。まずは明日、現場で心がざわついた時に、以下のどれか一つだけを思い出してみてください。
- 疲れている時は無理に「ポジティブ」になろうとせず、物理的に「姿勢」を後ろに引く
- 「あ、今自分は焦っているな」と、感情が爆発する前のプロセスに気づく
- 「カッとなったら、まずはゆっくり息を吐く」と決めておく
自分自身を守ることは、決して逃げではありません。あなたが心身の健康を保ち、長く現場に立ち続けることこそが、結果として利用者様の安全と尊厳を守る一番の近道になります。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事が、新人の皆様の心を少しでも軽くする一助となれば幸いです。
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更新履歴
- 2026年1月7日:新規投稿


