入浴になると拒否が強まり、声掛けのたびに進まない――その焦りや不安を抱えている介護職員の方はいらっしゃいますよね?現場では時間も人手も限られる中で、安全と尊厳の両立に悩みやすいと理解しています。

結論は明確です。入浴時の声掛けは、命令ではなく「本人の意思を尊重した声掛け」とし、短い文・敬語・目線と距離・身振りの併用を基本にします(厚生労働省の資料で推奨)。また、BPSDへの対応では非薬物的介入を第一選択とし(厚生労働省ガイドライン)、安全面では湯温は41℃以下・入浴は10分までを目安・脱衣所の保温を徹底します(消費者庁の注意喚起)。
この方針を一貫して運用することが、拒否の軽減と安全確保につながります。
⚠️この記事を知らないと…
強い口調や急がせる対応を続けると、拒否や不安が増幅し、転倒・失神・入浴事故のリスクが高まります。声掛けの基本原則と安全基準を共有しないことは、介護者と利用者双方の不利益につながります。
💡この記事を読んで分かる事
厚生労働省の声掛け原則、非薬物的介入の位置づけ、消費者庁の入浴安全基準を基に、観察→選択肢→待つ→承認→安全の流れを具体フレーズとチェック項目で学べます。
🔷結論:入浴時の声掛けは「短文の選択肢→間を置く→承認→安全
入浴で拒否が強い場面でも、手順を統一すれば再現性が高まります。以下の5点を全員で徹底し、同じ表現・順序で運用してください。

🔶実践ポイント1
短い文・敬語で声掛けする
「今入りますか?」「足湯にしますか?」のように、短い文+敬語で明確に伝えます。否定語や詰問は避け、目線・距離・身振りも合わせると理解が進みます。🙂
※エビデンス
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
短く分かりやすい言葉、敬語、否定表現の回避、視線・距離配慮、身振りの併用、相手のペース尊重を基本原則として整理。入浴時のコミュニケーションにも適用可能。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
🔶実践ポイント2
具体的な選択肢の提示
どちらも正解の具体的な選択肢を提示し、本人の意思決定を支えます(例:「足湯にしますか?/シャワーにしますか?」)。選択→自発性につながり、反発を抑えられます。🗳️
※エビデンス
厚生労働省
かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
BPSD対応は非薬物的介入を優先。コミュニケーションや環境調整により本人の安心と選択を支援することが推奨され、薬物は慎重適応。
https://www.mhlw.go.jp/content/001518446.pdf
🔶実践ポイント3
一定の間を置く(相手の反応を待つ)
声掛け後は一定の間を置くこと(相手の反応を待つ)を守り、表情・手の動き・姿勢を観察します。反応が出ないときは、より小さな具体的な選択肢の提示(「顔だけ/手だけ」)に縮小します。⏳
※エビデンス
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
相手のペース尊重、短文での提示、非言語の併用が有効とされる。過剰に重ねて話しかけない配慮は理解促進と不安軽減に資する。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
🔶実践ポイント4
行動を言語化して即時に承認する
動きが出た瞬間に行動の名称+承認で返します(例:「今、座れましたね。助かります」)。小さな成功の即時強化が次の一歩を促します。
※エビデンス
東京都福祉保健局
看護職向けテキスト(第2章)認知症ケアに関する知識
安心を高める関わりとして、落ち着いた語りかけ、否定を避ける、位置取りや非言語の活用を提示。肯定的な反応・評価が行動安定に寄与することを解説。
https://www.fukushi1.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/nurse/nursetext/pdf/nurse_2.pdf
🔶実践ポイント5
安全を先に整える(41℃以下・10分までを目安・脱衣所保温)
湯温41℃以下、10分までを目安、脱衣所や浴室を暖かくすることを先に確保。声掛けより前に安全条件を満たすと、不安と事故リスクが下がります。🛡️
※エビデンス
消費者庁
冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!
高齢者の入浴事故予防として、湯温管理(41℃以下)、10分までを目安入浴、脱衣所・浴室の保温、見守りの重要性を周知。ヒートショック等の予防に有効。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_013
5点を同じ表現・同じ順序で回すことが大切です。次章では、この型を実際の場面でどう使うかをケース別に整理します。
🔷事例:入浴でつまずきやすい3つのケースと対応
夕方や寒い日など、同じ手順でも反応が変わることがあります。ここでは「短い文の具体的な選択肢の提示→一定の間を置く(相手の反応を待つ)→承認→安全(41℃以下・10分までを目安・保温)」を崩さずに対応します。

🔶ケース1|
夕方になると拒否が強まる
テレビ音や情報量で注意が分散します。30秒観察後、刺激を1つ減らし、短い具体的な選択肢の提示「足湯にしますか?/シャワーにしますか?」→一定の間を置く(相手の反応を待つ)→動きが出たら行動を言語化して承認「今、立てましたね」。湯温は41℃以下で開始します。🙂
※エビデンス
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
短い文・敬語・否定表現の回避、視線・距離への配慮、身振りの併用、相手のペース尊重を基本原則として整理。入浴場面では環境刺激の調整と短文の選択肢提示、反応を待つ姿勢が有効とされる。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
🔶ケース2|
脱衣所が寒くて進まない
寒冷刺激が不安を高めます。脱衣所を暖かく、開始前に10分までを目安で終える見通しを伝えます。「上着のまま足湯にしますか?/椅子で温まってからにしますか?」→一定の間を置く(相手の反応を待つ)→「今、座れましたね」と承認。湯温は41℃以下を厳守します。🧣
※エビデンス
消費者庁
冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!
高齢者の入浴事故予防として、湯温41℃以下、10分までを目安、脱衣所・浴室の保温、見守りの重要性を周知。温度差やヒートショックの回避に向け、事前の環境調整と時間管理を強調している。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_013
🔶ケース3|
入浴後に「帰る」「出たい」と訴えが強まる
体温変化と不安で落ち着かない場面です。正面〜斜めの位置取りで落ち着いて声掛けし、代替の具体的な選択肢の提示「上着を選びますか?/温かい飲み物にしますか?」→一定の間を置く(相手の反応を待つ)→「今、落ち着いて座れました」と承認。必要時は同僚と速やかに見守り体制を整えます。☕
※エビデンス
東京都福祉保健局
看護職向けテキスト(第2章)認知症ケアに関する知識
落ち着いた語りかけ、否定を避ける姿勢、正面過ぎない位置取り、非言語の活用など、安心感を高める関わり方を提示。興奮や不安時にも短い文とペース尊重が推奨される。
https://www.fukushi1.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/nurse/nursetext/pdf/nurse_2.pdf
入浴時の反応は日々変動しますが、同じ表現・同じ順序で運用すると再現性が高まります。次のセクションでは、なぜこの手順が有効なのかをガイドラインの根拠に沿って解説します。
🔷理由:なぜこの手順が有効か——ガイドラインと統計に基づく背景
入浴時の声掛けは、単なる言い回しではなく、根拠に基づく介入です。ここでは「短い文の具体的な選択肢の提示→待つ→承認→安全」の有効性を、公的エビデンスで確認します。

🔶非薬物を優先する方針が前提になる
BPSDのガイドラインでは、薬物より先に非薬物的介入(環境調整・コミュニケーション・日課の調整)を行うと言われています。入浴拒否もまずは場の整え方と声掛けで対応するのが原則です。
※エビデンス
厚生労働省
かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
BPSD対応で非薬物療法を第一選択と明記。安心を高める声掛けや環境調整を優先し、薬物は効果・副作用を吟味したうえで慎重に適応する立場を示す。入浴拒否の初期介入の基本線となる。
https://www.mhlw.go.jp/content/001518446.pdf
🔶短い文・敬語・目線と距離・身振りの併用が理解を助ける
厚生労働省の資料では、短い文・敬語・否定語の回避・目線と距離・身振りの併用が推奨されています。これらは情報処理の負担を減らすため、入浴場面でも理解が通りやすくなります。
※エビデンス
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
わかりやすい短文、敬語、否定的表現を避ける、視線・距離の配慮、身振りの活用、相手のペース尊重などの原則を体系化。入浴時の声掛け設計に直接応用できる内容。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
🔶一定の間を置く(相手の反応を待つ)ことで本人のペースを尊重できる
重ねて話すと混乱が増えます。一定の間を置く(相手の反応を待つ)ことは、相手の処理速度に合わせるために重要です。反応が出にくい時はより小さな具体的な選択肢に縮小し、過度な刺激を避けます。
※エビデンス
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
相手のペース尊重、過剰な言語刺激の抑制、非言語の補助が有効と記載。待機を含むタイミング調整が、理解促進と不安軽減に寄与することを示している。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
🔶即時の承認が行動の安定と継続を助ける
小さな達成(座れた・立てた)をすぐ言語化して承認すると、安心と予測可能性が高まり、次の行動につながります。肯定的な関わりが行動の安定を支えます。
※エビデンス
東京都福祉保健局
看護職向けテキスト(第2章)認知症ケアに関する知識
落ち着いた語りかけ、否定を避ける姿勢、位置取りや非言語の活用、肯定的評価の重要性を解説。安心の形成が行動の安定・継続を支えるプロセスを示す。
https://www.fukushi1.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/nurse/nursetext/pdf/nurse_2.pdf
🔶安全の先置き(41℃以下・10分までを目安・保温)が事故を減らす
入浴は温度差・長湯・見守り不足で事故が増えます。41℃以下・10分までを目安・脱衣所の保温を先に満たすことが、拒否軽減と安全確保の前提になります。
※エビデンス
消費者庁
冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!
湯温41℃以下、10分までを目安で入浴、脱衣所・浴室の保温、適切な見守りを推奨。温度差による失神・ヒートショック等への注意喚起を行い、具体的な予防行動を提示している。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_013
根拠は「非薬物優先」「理解しやすい提示」「ペース尊重」「肯定的関わり」「安全の先置き」に収束します。次章では、実務の疑問にQ&Aで簡潔に答えます。
🔷よくある質問:認知症介護の入浴と声掛けに関するFAQ
- Q最初の声掛けは何と言えば始めやすいですか?
- A
短い文と敬語で、どちらを選んでも正解の具体的な選択肢にします。例:「今入りますか?/足湯からにしますか?」。声掛け後は一定期間は重ねて話さず、表情や手の動きを観察します。
※エビデンス
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
短い文・敬語・否定表現の回避、視線・距離への配慮、身振りの併用、相手のペース尊重などを基本原則として整理。入浴時の開始場面の声掛け設計に直接応用できる。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
- Q強い拒否が続くとき、どのように進めればよいですか?
- A
非薬物的介入を優先し、環境を整えて段階化します。例:「足湯1分にしますか?/手浴からにしますか?」と小さい具体的な選択肢に縮小。入浴時間は10分までを目安(消費者庁)を先に伝え、できた行動をすぐ言語化して承認します。
※エビデンス
厚生労働省
かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
BPSD対応は非薬物療法を第一選択と明記。環境調整やコミュニケーションによる安心の形成、段階化した関わりを推奨。薬物は必要時に慎重適応とされる。
https://www.mhlw.go.jp/content/001518446.pdf
- Q安全面は何をどこまで整えればよいですか?
- A
湯温は41℃以下、入浴は10分までを目安、脱衣所と浴室は事前に保温し、見守り体制をとります。開始前に温度・時間・保温を確認し、声掛けより先に安全条件を満たしてください。
※エビデンス
消費者庁
冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!
湯温41℃以下、10分までを目安で入浴、脱衣所・浴室の保温、適切な見守りを推奨。温度差やヒートショック、失神・転倒等の予防策を具体的に提示している。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_013
- Q恥ずかしさが強い方への声掛けと配慮は?
- A
露出を最小にし、同性介助の検討やタオル・ガウンの活用を行います。声掛けは短い文と敬語で、正面〜斜めの落ち着いた位置取りにします。例:「顔と手からにしますか?/足湯からにしますか?」。
※エビデンス
東京都福祉保健局
看護職向けテキスト(第2章)認知症ケアに関する知識
安心感を高める関わりとして、落ち着いた語りかけ、否定を避ける姿勢、位置取りや非言語の活用、プライバシー配慮の重要性を示す。入浴時の羞恥心への配慮に適用可能。
https://www.fukushi1.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/nurse/nursetext/pdf/nurse_2.pdf
- Q途中で興奮や不安が高まった場合はどう対応しますか?
- A
いったん待機して刺激を1つ減らし、短い文で再度小さな具体的な選択肢を提示(例:「椅子で休みますか?/手だけ清拭に切り替えますか?」)。位置取りは正面〜斜め、口調は低め・ゆっくり・区切って話します。
※エビデンス
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
相手のペース尊重、過剰な言語刺激の抑制、非言語の補助、環境調整の有効性を提示。再提示は短文で、段階化して不安を下げることが推奨される。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
🔷まとめ:今日から始める——短い文の具体的な選択肢と安全の先置き
入浴時の声掛けは、手順を統一すれば再現性が高まります。現場で同じ表現・同じ順序を徹底し、安全の先置きを忘れないことが要点です。
🔶要点の整理
短い文・敬語→具体的な選択肢の提示→一定の間を置く(相手の反応を待つ)→行動を言語化して承認→安全(41℃以下・10分までを目安・保温)の順で実施します。環境刺激は一つ減らし、位置取りは正面〜斜めで落ち着いて対応します。
🔶明日からの一歩
ユニットで本日の具体的な選択肢のフレーズを共有し、湯温・時間・脱衣所温度のチェック欄を掲示します。声掛け後は沈黙(一定期間)を可視化(短タイマー等)し、できた行動はすぐ言語化して承認します。
🔶チーム運用のコツ
朝のミニカンファで「今日の具体的な選択肢」「待つ秒数」「安全確認」を合わせ、同じ表現で運用します。終業時は成功の記録を次の勤務へ引き継ぎ、方針のぶれをなくします。
現場は日々変化しますが、同じ型を繰り返し運用するほど、拒否の軽減と安全の確保につながります。次の勤務から、まず一つの場面で実践してください。
コメントやシェアで、うまくいった言い回しや改善の工夫を教えてください。現場の知見共有が、介護の質と安全の向上につながります。
出典:
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf
厚生労働省
かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
https://www.mhlw.go.jp/content/001518446.pdf
消費者庁
冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_013
東京都福祉保健局
看護職向けテキスト(第2章)認知症ケアに関する知識
https://www.fukushi1.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/nurse/nursetext/pdf/nurse_2.pdf