認知症ケアにおける「その人らしさ」とは?―自己実現につなげる実践ポイント

日々のケアで「その人らしさ」を大切にしたいと思う一方、 多忙な業務の中で「これでいいのか」と迷う瞬間はありませんか?

「お茶は熱い方が好きだったはず」 「この役割は、かえって負担になっていないだろうか」 そんな小さな迷いや不安は、多くの方が共通して持っています。

この記事では、そうした現場の迷いに対し、 厚生労働省の指針や学術研究など、 ご提示いただいたエビデンス(根拠)のみに基づき、 専門的な実践手順を整理します。

この記事を読むと分かること

  • 国や学術研究が定義する「その人らしさ」の本当の意味がわかります。
  • 厚生労働省が示す「意思決定支援」の具体的な4ステップを理解できます。
  • 「安全確保」と「自己実現」を両立させるための、根拠ある視点がわかります。

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 「その人らしさ」を支えたいが、具体的な方法がわからず不安になる
  • 日々のケアが「作業」になっていないか、ふと立ち止まることがある
  • 利用者さんの言葉にならないサイン(表情・視線)をどう解釈すればよいか迷う
  • 「役割」を持ってもらいたいが、安全(転倒など)を考えると躊躇してしまう
  • 自分のケアが「思いつき」でなく「専門的」であるという根拠が欲しい

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結論:「その人らしさ」の支援は、根拠に基づく専門実践

高齢者と介護職員

忙しい現場の中で、「その人らしさ」を支えるとは何か、 迷う日もあるかもしれません。

しかし、この記事で確認してきたように、 あなたの行う小さな実践の一つひとつには、 国の指針や研究に基づいた確かな「根拠」があります。

日々の「小さな選択」こそが、国の「意思決定支援」の実践

私たちが日常的に行う「お茶にしますか、コーヒーにしますか?」という問いかけ。 これは、厚生労働省の「意思決定支援ガイドライン」が示す、 「本人の意思形成」「意思表明」を支える、 専門的な技術(ステップ)そのものです。

言葉にならないサイン(非言語)を読み取ろうとすることも、 ガイドラインが求める「意思表示として読み取る努力」であり、 決して「思いつき」ではありません。

  • 現場の実践とガイドラインの対応
    • 「どちらがいいですか?」と聞く → ステップ2:意思形成支援(選択肢の提示)
    • 表情や視線を観察する → ステップ3:意思表明支援(非言語サインの読み取り)
    • 選んだものを実現する → ステップ4:意思実現支援
出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf

本ガイドラインは、認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定を支援することを目的とし、「認知症の人」を単に支える対象ではなく、一人の尊厳のある人として個性と能力を十分発揮し、経験や工夫を活かしながら共に支え合って生きる存在として位置づけている。認知症の人が自らの意思に基づいた生活を送れるよう、意思決定支援の基本的考え方や姿勢、方法、配慮すべき事柄を整理し、標準的なプロセスと留意点を示している。

ケアのゴールは「自己実現」と「社会参加」

なぜ、「意思決定」を支える必要があるのでしょうか。 それは、国の「認知症施策推進基本計画」や「介護予防マニュアル」が、 ケアのゴールを「お世話」に留めず、 「自己実現」「生きがい」「社会参加」に置いているからです。

認知症になっても「できること・やりたいこと」があるという 「新しい認知症観」のもと、本人が「自分で選んだ」という実感を 積み重ねることが、このゴールにつながります。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症施策推進基本計画(第1期)

https://www.mhlw.go.jp/content/001344090.pdf

基本計画では、誰もが認知症になり得ることを前提に、自分ごととして認知症について考え、認知症の人や家族等、保健医療福祉の関係者だけでなく、広く国民が「新しい認知症観」を理解する必要があるとされる。その上で、認知症の人と家族等の参画・対話を基に施策を立案・実施・評価し、地域住民、教育関係者、企業等地域の多様な主体が新しい認知症観に立ち、それぞれ自分ごととして連携・協働して施策に取り組むことが重要であると記述している。

厚生労働省

介護予防マニュアル 改訂版(平成24年)

https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-1_1.pdf

マニュアルは、介護予防を、高齢者が主体的に地域の住民主体の活動や地域支援事業を活用し、活動的で生きがいのある生活や自分らしい人生を送ることができるようにする取り組みと位置づけている。生活習慣病の発症予防や重症化予防などに関わるあらゆる人々が互いに協力し、それぞれの役割を果たしながら協働を図ることで、介護予防が実効性の高いものとなると強調している。

視点を変える:「支援される側」から「貢献する主体」へ

「その人らしさ」を支えるとは、その人の「人生史」や「価値観」に 敬意を払うことでもあります。

国立長寿医療研究センターの「互恵ケア」の視点は、 単に「支援される側」として接するのではなく、 その人の人生史(例:元料理人、元教師)に基づいた 「小さな役割(貢献の機会)」を設計することの重要性を示しています。

  • 「その人らしさ」の背景(看護学の研究より)
    • 積み重ねてきた人生史
    • 積み重ねてきた生活歴
    • 従事してきた職業

「ありがとう」と言われる側から、「ありがとう」と 言う側(貢献する主体)になる体験こそが、 「その人らしさ」と「自己実現」を強く支えます。

出典元の要点(要約)

看護学分野における『その人らしさ』の概念分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/40/2/40_20161207005/_pdf

本論文は、『その人らしさ』の先行要件として【生きてきた過程における体験の蓄積】を挙げ、積み重ねてきた人生史、積み重ねてきた生活歴、従事してきた職業、人生における取組みなどの下位カテゴリで構成されることを示している。あわせて、他者との関わりや関係性の中で形成される要件として位置づけられており、こうした要件を背景に『その人らしさ』が形づくられていく構造が図示されている。

国立長寿医療研究センター

研修教材「パーソンセンタードケアから互恵ケアへ」

https://www.ncgg.go.jp/hospital/kenshu/news/documents/16_ninchisho_B5_P03_P18.pdf

本研修教材は、パーソンセンタードケアの考え方を基盤としながら、認知症の人と介護者が一方向的な関係にとどまらず、互いに支え合う「互恵ケア」という視点を導入する必要性を示している。認知症の人を常に「支援される側」として扱うのではなく、その人が持つ力や経験を活かし、日常生活の中で小さな役割を担えるよう支援することが重要であるとされ、具体的な実践例を通じて、場の雰囲気や本人の自己効力感が変化していくプロセスが紹介されている。

日本看護研究学会雑誌

「その人らしさ」の支援は、決して特別なことではありません。 国の指針(エビデンス)に裏付けられた、 日々の「小さな観察」と「選択肢の提示」、 そして「役割の提供」の積み重ねです。
自信を持って、明日からの専門的なケアに つなげていきましょう。


よくある事例セクション(エビデンスに基づく場面別実践)

国の指針や研究が示す「意思決定支援」は、 決して特別な場面だけで行うものではありません。

厚生労働省のガイドラインでも示されているように、 食事や服装、趣味、家事といった日々の生活場面こそが、 その人らしさを支える最も重要な実践の場です。

ここでは、現場でよくある3つのケースを取り上げ、 ご提示いただいたエビデンスに基づき、 具体的な支援のポイントを解説します。

ケース1:日常生活の場面(食事・衣服の選択)

「何を食べるか」「何を着るか」といった日常生活の選択は、 本人の意思を尊重する第一歩です。

厚生労働省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」では、 こうした場面で、「これまで本人が過ごしてきた生活」「できること・やりたいこと」を尊重することが原則とされています。

本人の意思決定能力は「ある/ない」の二者択一ではなく、 その時の状態や環境、支援者の関わり方によっても変化します。 言葉での表明が難しくても、実物を見せる、2択で提示するなど、 本人が選びやすい工夫をすることが求められます。

  • 支援のポイント
    • 本人の生活歴や好み(例:「いつも朝はパンだった」)を事前に把握しておく。
    • 言葉だけでなく、実物や写真、図などを使って視覚的に選択肢を提示する。
    • 一度に多くを提示せず、2択などシンプルな選択から始める。
    • 選んだ時の表情や視線といった非言語サインも「意思表明」として受け止める。
出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf

日常生活・社会生活における意思決定支援として、食事・入浴・衣服の好みや外出、排せつ、整容など身近な場面が挙げられ、これまで本人が過ごしてきた生活やできること・やりたいことを尊重することが原則とされる。仕事や趣味、家事、地域での活動など、家事や他者の世話、教育、仕事、経済生活、地域・社会・市民生活等の社会参加の機会を確保することが重要であり、認知症になってからも一人一人が個人としてできること・やりたいことを続けられるよう支援する枠組みを示している。

ケース2:社会参加の場面(趣味・地域活動)

本人が「趣味の活動に参加したい」「外出したい」と 希望された際、安全(転倒など)への懸念から、 支援をためらってしまうことがあります。

厚生労働省の「意思決定支援ガイドライン」では、 「安全のみを優先すること」が、かえって本人の希望を制限し、 生活の質や意欲の低下につながるおそれがあると指摘しています。

大切なのは、リスクをゼロにすることではなく、 本人が得られる利益(満足感、生きがい)とリスクのバランスを チームで検討することです。

  • 支援のポイント
    • まずは「小さく試してみる」こと。例えば、短時間、安全な環境(スタッフの増員など)で体験してもらう。
    • 体験利用などを通じて、本人の実際の様子や感想、表情の変化を再確認し、支援内容を調整する。
    • リスクを許容できる範囲に抑える工夫(例:滑りにくい靴の提案、動線の整備)をチームで検討する。
出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf

本ガイドラインは、認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援では、安全のみを優先して本人の希望を過度に制限することが、生活の質の低下や意欲の喪失につながるおそれがあると指摘している。そのうえで、リスクと利益のバランスを丁寧に検討しながら、まずは小さな範囲で試み、様子を見て調整していくことを推奨する。リスクを許容できる範囲に抑える工夫を行いながら、本人の「やりたいこと」が実現できるよう支える姿勢が重要であるとされる。

ケース3:役割(家事・仕事)の場面

「何か役割を」と思っても、何を任せればよいか 迷うこともあります。

国立長寿医療研究センターの「互恵ケア」の教材では、 本人を「支援される側」に固定せず、 「貢献する主体」として捉え直す視点を提案しています。

また、看護学の研究では、「その人らしさ」の背景に 「従事してきた職業」「人生における取組み」といった 人生史があることが示されています。

  • 支援のポイント
    • 本人の人生史や生活歴、職業歴(例:「元々料理人だった」「ずっと専業主婦で家事をしていた」など)をヒントにする。
    • 偉大な役割である必要はなく、「小さな役割」(例:テーブルを拭く、洗濯物をたたむ)を設計し、成功体験を積んでもらう。
    • 本人が持つ力や経験を活かせるよう関わり、「ありがとう」と伝える相互的な関係を築く。
出典元の要点(要約)

国立長寿医療研究センター

研修教材「パーソンセンタードケアから互恵ケアへ」

https://www.ncgg.go.jp/hospital/kenshu/news/documents/16_ninchisho_B5_P03_P18.pdf

本研修教材は、パーソンセンタードケアの考え方を基盤としながら、認知症の人と介護者が一方向的な関係にとどまらず、互いに支え合う「互恵ケア」という視点を導入する必要性を示している。認知症の人を常に「支援される側」として扱うのではなく、その人が持つ力や経験を活かし、日常生活の中で小さな役割を担えるよう支援することが重要であるとされ、具体的な実践例を通じて、場の雰囲気や本人の自己効力感が変化していくプロセスが紹介されている。

日本看護研究学会雑誌

看護学分野における『その人らしさ』の概念分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/40/2/40_20161207005/_pdf

本論文は、『その人らしさ』の先行要件として【生きてきた過程における体験の蓄積】を挙げ、積み重ねてきた人生史、積み重ねてきた生活歴、従事してきた職業、人生における取組みなどの下位カテゴリで構成されることを示している。あわせて、他者との関わりや関係性の中で形成される要件として位置づけられており、こうした要件を背景に『その人らしさ』が形づくられていく構造が図示されている。

このように、日々の生活場面こそが、 エビデンスに基づく専門的なケアを実践する 重要な機会となります。


理由:なぜ今、「その人らしさ」の支援が重要なのか

女性の介護職員の画像

日々のケアで「意思決定支援」や「その人らしさ」が 重要だと言われるのは、なぜでしょうか。

それは、個人の努力目標というだけでなく、 国の施策や専門的な研究によって、 「ケアの質」そのものとして明確に位置づけられているからです。

その背景にある3つの大きな理由(エビデンス)を解説します。

理由1:国の施策が「新しい認知症観」へ転換したから

最も大きな理由は、国の認知症施策の考え方が 大きく転換したことです。

厚生労働省の「認知症施策推進基本計画」では、 従来の「保護・管理」の視点から、 「新しい認知症観」へと移行することを明確に示しています。

これは、「認知症になったら何もできなくなる」のではなく、 「認知症になってからも、一人一人が個人としてできること・やりたいことがあり、自分らしく暮らし続けることができる」 という考え方です。

この「自分らしく」を実現する具体的な方法が、 「その人らしさ」を尊重した意思決定支援なのです。

  • 施策が求める視点
    • 認知症の人を「支える対象」としてだけでなく、「共に支え合う」存在として捉える。
    • 本人の「できること・やりたいこと」に着目する。
    • 施策の立案や評価に「認知症の人や家族等の参画」を求める。
出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症施策推進基本計画(第1期)

https://www.mhlw.go.jp/content/001344090.pdf

本計画は、誰もが認知症になり得ることを前提に、「新しい認知症観」を自分ごととして理解する必要があるとし、認知症の人や家族等、保健医療福祉関係者だけでなく広く国民に対して理解の浸透を求めている。そのうえで、施策は認知症の人と家族等の参画・対話を基盤として立案・実施・評価されるべきであるとし、地域住民、教育関係者、企業など地域の多様な主体が「新しい認知症観」に立って、それぞれ自分ごととして連携・協働して認知症施策に取り組むことが重要であると記述している。

理由2:『その人らしさ』は「尊厳の保持」と直結するから

「その人らしさ」を支えることは、 その人の「尊厳」を守ることに直結します。

ある看護学の研究では、「その人らしさ」を構成する 核となる要素(属性)の一つに、 「人間としての尊厳が守られている状態」を挙げています。

これは、私たちが「その人らしさ」を支援するとき、 単に好みや個性を尊重するだけでなく、 その人が「一人の人間として認められ、尊重・信頼されている」 と感じられる状態を守ることが、 ケアの核となることを示しています。

出典元の要点(要約)

日本看護研究学会雑誌

看護学分野における『その人らしさ』の概念分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/40/2/40_20161207005/_pdf

論文は、『その人らしさ』の属性として【人間としての尊厳が守られている状態】を挙げ、〔人としての尊厳が守られていること〕と〔人として認められること・尊重・信頼〕という2つの下位カテゴリから構成されることを示している。個人の尊厳が守られ、人として認められ尊重・信頼されることが、『その人らしさ』の重要な側面であると整理されており、看護実践において尊厳や尊重・信頼をどう保つかが、対象者の「その人らしさ」を支えるうえで重要であるという視点が示されている。

理由3:『その人らしさ』は「人生史」の積み重ねでできているから

では、私たちが「その人らしさ」を知るためには、 何を手がかりにすればよいのでしょうか。

先の看護学の研究では、「その人らしさ」の 土台・背景(先行要件)として、 「生きてきた過程における体験の蓄積」が 最も重要であると整理しています。

私たちが日々のケアで何気なく行っている 「生活歴の聴き取り」や「職業歴の確認」は、 その人の「好み」や「こだわり」の根拠を知り、 「その人らしさ」を理解するための 最も重要なアプローチであると言えます。

  • 「その人らしさ」の背景となる体験の蓄積(例)
    • 積み重ねてきた人生史
    • 積み重ねてきた生活歴
    • 従事してきた職業
    • 人生における取組み
出典元の要点(要約)

日本看護研究学会雑誌

看護学分野における『その人らしさ』の概念分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/40/2/40_20161207005/_pdf

本論文は、『その人らしさ』の先行要件として【生きてきた過程における体験の蓄積】を挙げ、積み重ねてきた人生史、積み重ねてきた生活歴、従事してきた職業、人生における取組みなどの下位カテゴリで構成されることを示している。あわせて、他者との関わりや関係性の中で形成される社会的作用として位置づけられており、こうした要件を背景に『その人らしさ』が形づくられていく構造が図示されている。

このように、「その人らしさ」の支援は、 国の施策(新しい認知症観)、ケアの核(尊厳)、 そして本人の背景(人生史)という 確かな根拠(エビデンス)に基づいています。


FAQセクション

女性の介護職員の画像

現場でよく出会う具体的な疑問に対し、 ご提示いただいた厚生労働省の「意思決定支援ガイドライン」などの エビデンスに基づき、誇張や解釈をせず、 事実のみを整理して回答します。

Q
言葉が出にくい方の意思は、どう読み取ればいい?
A

厚生労働省のガイドラインでは、 言語による意思表示が難しい場合も想定されるとしています。 そのうえで、「身振り手振り、表情の変化」といった 非言語的な反応も、本人の「意思表示」として 読み取る努力を最大限に行うよう求めています。 日々の観察で得られた「その人らしさ」(例:生活歴や価値観)と 照らし合わせながら、丁寧にサインを読み解くことが重要です。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf

本ガイドラインでは、自ら意思決定できる早期の段階で本人の意思を確認し、できる限り具体的な内容を記録として残しておくことも考えられるとし、事前の記録の意義を示している。また、認知症の人は言語による意思表示がうまくできないことが多く想定されることから、意思決定支援者は身振り手振り、表情の変化も意思表示として読み取る努力を最大限に行うことが求められるとしており、非言語的なサインを含めた意思の理解を重視している。

Q
安全(転倒など)が心配で、本人の希望を叶えられません。
A

厚生労働省のガイドラインでは、このジレンマについて触れています。 「安全のみを優先すること」が、本人の希望を過度に制限し、 生活の質の低下や意欲の喪失につながるおそれがあると指摘しています。 大切なのは、リスクをゼロにすることではなく、 リスクと利益のバランスをチームで丁寧に検討することです。 そのうえで、まずは「小さな範囲で試み」、 状況を見ながら調整していく姿勢を推奨しています。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf

本ガイドラインは、認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援では、安全のみを優先して本人の希望を過度に制限することが、生活の質の低下や意欲の喪失につながるおそれがあると指摘している。そのうえで、リスクと利益のバランスを丁寧に検討しながら、まずは小さな範囲で試み、様子を見て調整していくことを推奨する。リスクを許容できる範囲に抑える工夫を行いながら、本人の「やりたいこと」が実現できるよう支える姿勢が重要であるとされる。

Q
意思決定の話し合いは、いつ、誰と行えばいい?
A

厚生労働省のガイドラインでは、 「意思決定支援チーム」による支援の必要性を示しています。 このチームには、本人、家族、福祉・医療・地域の関係者、 成年後見人等が含まれます。 支援は一度きりではなく、本人が自ら意思決定できる 「早期の段階から」今後の生活について話し合い、 継続的に見守り支援を行う体制が求められています。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf

本ガイドラインは、認知症の人の意思決定支援において、本人の意思を踏まえながら、家族や福祉・医療・地域の関係者、成年後見人等が「意思決定支援チーム」を構成し、日常的に見守りと支援を行う体制が必要と述べている。本人が自ら意思決定できる早期の段階から、今後の生活等についてチームで話し合いを行い、本人の語りや表情も含めてできる限り具体的な記録を残すことが推奨される。こうした継続的支援により、変化する状態に応じた見直しがしやすくなるとされる。

Q
一度決めたことでも、本人の気が変わったら?
A

厚生労働省のガイドラインでは、 「本人の意思は変化することを前提」としています。 認知症の人の意思や体調、生活環境は変わり得るものであり、 意思決定支援も一回限りではないとされています。 一度決めた内容に縛られず、状況の変化に応じて 「繰り返し確認し続ける」必要性や、 支援内容を「見直す姿勢」が求められています。 そのための「振り返り」を定期的に行うことが推奨されています。

出典元の要点(要約)

厚生労働省

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf

本ガイドラインは、認知症の人の意思や体調、生活環境は変化し得るものであり、意思決定支援も一回限りのものではなく、繰り返し確認し続けることが必要だと述べている。具体的には、一度合意した生活の方針や支援内容であっても、本人の状態や希望の変化を踏まえて見直す姿勢が求められ、定期的な振り返りの場を設けて「うまくいった点」や「負担となった点」を整理することが推奨される。


まとめ:「その人らしさ」は、根拠に基づく「専門技術」

日々の忙しい業務の中で、「その人らしさ」を支えるとは何か、 時に難しく感じるかもしれません。

しかし、この記事で確認してきたように、 「その人らしさ」の支援は、決して「思いつき」や 「個人の感覚」で行うものではありません。

それは、厚生労働省の指針や学術研究に基づいた、 介護専門職としての明確な「根拠」と「技術」です。

私たちが「その人らしさ」を支えるために、 エビデンスが示す重要なポイントを振り返ります。

  • その人の「人生史」と「尊厳」を知る 「その人らしさ」とは、その人が「生きてきた過程(人生史や職業)」や 価値観、そして「尊厳が守られている状態」そのものであることが、 研究によって示されています。
  • 「意思決定支援」の技術を使う ケアの核となるのは、厚生労働省のガイドラインが示す 「意思決定支援」のプロセス(環境整備、意思形成、表明、実現)です。 これは私たちが日々行う「選択肢の提示」や「声かけ」の 専門的な基盤となります。
  • 「非言語サイン」を意思として読み取る 言葉での表明が難しい場合でも、「表情、視線、身振り」を 本人の「意思表示」として読み取る努力を最大限に行うことが、 ガイドラインで求められています。
  • ゴールは「自己実現」と「社会参加」 国の「認知症施策推進基本計画」や「介護予防マニュアル」が示す通り、 ケアのゴールは「自己実現」や「生きがい」、「社会参加」です。 「互恵ケア」の視点(貢献する主体)も、このゴールにつながります。
  • 「記録」と「チーム」で継続する この実践は一人で行うものではなく、 「意思決定支援チーム」として関わり、 支援のプロセスを「記録・共有」し、 「繰り返し見直す」ことが指針として示されています。

明日から行う一つひとつの観察、声かけ、そして小さな役割の提供が、 国の指針(エビデンス)に裏付けられた専門的な実践です。

自信を持って、利用者さんの「自分らしい生活」を 支えていきましょう。

最後までご覧いただきありがとうございます。



更新履歴

  • 2025年9月6日:新規投稿
  • 2025年11月18日:エビデンスの見直しのため記事全体をリライト

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