“否定しないのが大事だと分かっていても難しい”と感じている方はいらっしゃいますよね?
繰り返される訴えや矛盾する主張に直面すると、時間も心も削られます。現場では正しさを伝えたくなる一方で、関係がこじれる経験も珍しくありません。否定しない対応を続けるための根拠と具体策を、ここで整理します。
結論
日本認知症学会のガイドラインでは非薬物的介入を第一選択としています。厚生労働省の意思決定支援ガイドラインでは、本人の意思を丁寧にくみ取ることが基本とされています。さらに、厚生労働省の身体拘束廃止・防止の手引きでは、尊厳の保持と非拘束の姿勢が示されています。これらの整合する方針に基づき、安心の提供を優先し、原因評価と環境調整を前提に、一貫した言葉がけで対立を避けることが、現場で再現性のある実践につながります。

💡この記事を読んで分かる事
本稿では、日本認知症学会や厚生労働省のガイドラインを根拠に、否定しないコミュニケーションの実践方法を整理します。読むことで、現場ですぐに使える声かけのコツや環境調整のポイントが分かります。
結論:正しさより安心を先に渡す――“否定しない”を仕組みにする
毎日の現場で「つい否定してしまう」瞬間は必ずあります。まずは安心を先に渡す手順を共有し、同じ言葉・同じ流れで再現できる形に整えましょう。
現場で最初にやるべきこと:評価→調整→言葉がけ→提案→記録
「原因評価→環境調整→否定しない言葉がけ→安心の提示→行動提案→記録と再評価」を実施します。日本認知症学会のガイドラインでは、BPSD対応の第一選択は非薬物的介入と示されています。厚生労働省のガイドラインでは、本人の意思を丁寧にくみ取る標準プロセスを明確化しています。まず事実の訂正より不安の軽減を優先し、短い定型句で関係を保ったうえで次の行動に橋渡しします。
- 手順の合言葉:評価→調整→受容→提案→記録
- 事実訂正は安全確保後に短く
- 記録はトリガー(時間・場所・前駆要因)まで残す
※エビデンス
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
本人の意思を可能な限り尊重し、情報の理解を助ける工夫、継続的な説明、関係者の協働、記録の重視を定める。対立を避け、安心を担保しながら合意形成へ進む流れを提示。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
否定しないケアの基本フレーズを標準化する
短く一貫した言葉を全員で共有します。例:「そう感じたのですね」「一緒に確認しましょう」「ここで落ち着いてからにしましょう」。厚生労働省の事例集では、情報の見える化と繰り返し説明が有効と示されます。フレーズを個人技にしないことがポイントで、同じ言葉が安心を生み、同意や受け入れにつながります。
- まず感情を言語化して受容
- いま・ここ・一緒にを核にする
- 次の行動は2択で提示(例:お茶か体操)
本稿で示す「短い定型句」「二択提示」「週1ミニカンファ」などは、厚生労働省や学会のガイドラインに逐語で定められているものではありません。
著者による現場での実装提案であり、厚労省『意思決定支援ガイドライン』(理解できる説明・継続的支援・記録)や『身体拘束廃止・防止の手引き』(体制整備・記録・非拘束の原則)の趣旨に基づいて整理しています。
実際の運用は各施設の体制や状況に合わせて調整してください。
※エビデンス
厚生労働省
意思決定支援ガイドラインをより理解するための事例集(令和7年3月)
具体事例を通じて、情報の見える化、繰り返しの説明、関係者の調整、記録の要点を提示。本人の不安や目的に沿って合意まで導く実務のヒントを整理。
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484892.pdf
チーム運用で再現性を高める:交代・見守り・ミニカンファ
交代ルールと見守り体制を事前に決め、週1回のミニカンファで記録を振り返ります。身体拘束廃止・防止の手引きでは、尊厳の保持と非拘束の方針を明確化し、安易な抑制に依存しない環境調整と個別ケアを推奨しています。手順の共有と役割の明確化が、夜間や不穏時でも否定しない対応を継続させます。
- 交代の合図と時間の目安を事前合意
- 見守り位置と導線を固定し混乱を減らす
- 記録テンプレで学びを循環
※エビデンス
厚生労働省
身体拘束廃止・防止の手引き(改訂版)
尊厳の保持を目的に、非拘束の原則、緊急やむを得ない場合の要件、組織的取り組み、記録と評価の流れを示す。環境調整と体制整備で安心と安全の両立を図る。
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001248430.pdf
この結論セクションでは、評価→調整→受容→提案→記録という核の流れをそろえました。次セクションから、具体的事例にこの手順を当てはめ、現場での再現性をさらに高めていきます。
事例:現場で“否定しない”を当てはめる5つの場面
入浴拒否、物盗られ訴え、帰宅願望、食事・服薬の否認など——日常で起きやすい瞬間に、認知症 ケア 否定しない 方法をそのまま当てはめた具体例です。声のトーンや一言の違いで、受け入れがやさしく変わります。

物盗られ訴えが続く
利用者:「財布を盗られた!」
介護士:「それは心配ですね。一緒に確認しましょう。」
(保管場所をいっしょに確認/“確認ノート”に記録)
- ポイント:まず感情を言語化して受け止める→安心を提示→行動提案(いま・ここ・一緒に)
- 環境調整:財布の定位置を写真で見える化。職員間で場所・手順を統一。
- 記録:時間・前駆要因・対応後の変化を残す。次回のトリガー読みに役立ちます。
合言葉:受容→安心→提案(事実訂正は安全確保後に短く)
🔹 帰宅願望が高まり落ち着かない
利用者:「もう帰る。家に行かないと。」
介護士:「帰りたいお気持ちなんですね。ここでお茶にしましょう。そのあと体操に行きましょう。」
- ポイント:気持ちの言語化→短い提案→小さな目標へ置換(お茶→体操→面会の電話など)
- 環境調整:玄関周辺の刺激を減らし、座位導線を確保。落ち着く写真や好きな音楽も有効。
- 記録:時間帯・場所・誰といたか・奏効した声かけを共有。
“いま・ここ・一緒に”を核に、次の行動を2択で提案。
🔹 食事を「食べていない」と主張
利用者:「今日は何も食べていないよ。」
介護士:「まだお腹がすいているのですね。温かいお味噌汁にしますか、それともパンにしますか。」
- ポイント:否定せず空腹感に寄り添い、選択肢2択で意思を引き出す。
- 環境調整:食器色・盛り付け・においで食欲を刺激。席の位置や騒音も点検。
- 記録:食形態・提供温度・反応を簡潔に。次回の成功パターンを残します。
短文・単一情報で伝えると混乱が減少。
服薬を拒否して進まない
利用者:「薬はいらない。」
介護士:「気になることがあるのですね。飲むと楽に過ごせます。お水と一緒にしましょう、牛乳と一緒にしますか。」
- ポイント:目的を短く共有→2択で形を選ぶ→同意が出たらすぐ実施
- 環境調整:服薬場所・時間帯を安定化。医師・薬剤師に相談の上、剤形・用量・時間帯の調整を検討。
- 記録:拒否の前駆・成功条件(人・場所・飲み物)・所要時間を残す。
受容→安心→選択肢の順を一貫させる。
🔹 入浴の拒否が強い
利用者:「お風呂は入らない。」
介護士:「気が進まないのですね。手浴からにしましょう。そのあと髪を整えましょう。」
- ポイント:工程を小刻みにし、成功体験を先に作る→全入浴へ橋渡し
- 環境調整:脱衣室の温度・照明・タオル準備を事前に整え、寒さや不安を下げる。
- 記録:入浴前の表情・声かけ・途中離脱のポイント・実施可否を共有。
小さな達成→次の一歩に必ずつなげる。
どの場面でも、受容→安心→提案という流れは同じです。次セクションでは、こうした事例を裏づける原因評価と環境調整の要点を整理し、日々のケアに落とし込みます。
理由:なぜ“否定しない”が有効か――根拠と背景
「否定しない対応」は気持ちの問題ではなく、原因評価と環境調整を前提にした実践手順です。学会と行政の資料が、非薬物的介入と意思の尊重を土台に置く理由を押さえます。

BPSDは多因子だから“評価→環境調整→受容”が先行する
BPSDは身体・薬剤・環境・心理が絡み合って生じます。まず原因評価を行い、環境調整で刺激を整え、受容の一言で不安を下げてから提案に進みます。日本認知症学会のガイドラインでは、BPSD管理の第一選択は非薬物的介入と位置づけられています。小さな調整が積み重なるほど、対立の回避と受け入れの向上に結びつきます。
- 重点:評価→調整→受容の順を固定
- 刺激(音・光・人)の最適化で混乱を軽減
- 提案は短文・単一情報で届ける
※エビデンス
日本認知症学会
かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
BPSDの原因評価と環境調整を含む非薬物的介入を第一選択とし、薬物は必要最小限・継続評価を求める。病型や薬剤ごとの留意点、実践的アルゴリズムを提示。
https://dementia-japan.org/guideline/
“意思のくみ取り”が合意形成を進める:説明は短く繰り返す
厚生労働省のガイドラインでは、重大な不利益がない限り本人の意思を尊重し、理解を助ける工夫や繰り返しの説明、記録を求めています。否定しない一言は、意思の手がかりをつかむ出発点です。いま・ここ・一緒にの枠で短く確認を重ねるほど、合意形成が前進します。
- 重点:丁寧なくみ取り→短い再説明→小さな合意
- 見える化(写真・メモ)で理解を補強
- 記録で学びをチームに循環
※エビデンス
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
本人の意思尊重を基本に、理解支援、繰り返しの説明、関係者の協働、記録の重要性を体系化。場面ごとの配慮点と標準プロセスを提示。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
非拘束の文化が安心をつくる:体制で“否定しない”を支える
身体拘束は例外的・最小化が原則です。厚生労働省の手引きは、尊厳の保持と非拘束を軸に、環境調整と体制整備(見守り・交代・記録)で安全と安心の両立を促します。チームで交代ルールや導線固定を決めるほど、否定しない対応の再現性が上がります。
- 重点:非拘束を前提に環境×体制で支える
- 見守り位置の明確化で不安を先取り
- 小さな成功を記録し次回へ継承
※エビデンス
厚生労働省
身体拘束廃止・防止の手引き(改訂版)
非拘束の原則、緊急時要件、組織的取り組みと記録の流れを示す。環境調整と体制整備により、尊厳と安全の両立を図る具体策を整理。
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001248430.pdf
手順が評価→調整→受容→提案→記録で一本化されると、迷いが減り、現場でのばらつきが縮まります。次のセクションでは、この骨格を日々の運用フローとして落とし込み、誰でも回せる形に整えます。
よくある質問(FAQ)
- Q認知症 ケア 否定しない 方法の基本手順は?
- A
評価→環境調整→受容→提案→記録の流れで進めます。まず身体・薬剤・環境・心理の要因を評価し、刺激を整えます。次に否定しない一言で不安を和らげ、いま・ここ・一緒にの枠で短い提案へつなぎます。合意や反応は記録し、再評価で手順を更新します。
※エビデンス
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
本人の意思尊重を基本に、理解を助ける工夫、繰り返しの説明、関係者の協働、記録の重視を体系化。否定を避けて安心を提供し、小さな合意を積み上げる流れを明確に示している。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
- Q物盗られ訴えに“否定しない”でどう対応する?
- A
最初に感情を言語化し、「心配ですね。一緒に確認しましょう」と提案します。保管場所の見える化と確認ルーチンを整え、成功例を記録します。事実の訂正は安全を確かめた後に短く行います。選択肢2択(確認ノートを見る/職員と探す)も有効です。
※エビデンス
厚生労働省
意思決定支援ガイドラインをより理解するための事例集(令和7年3月)
具体事例で、情報の見える化や繰り返しの説明、関係者の調整、記録の方法を提示。不安や目的を丁寧にくみ取り、対立を避けて合意形成へ進める実務手順を示す。
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484892.pdf
- Q忙しい時に最短で使える“否定しない”声かけは?
- A
「そう感じたのですね。今一緒に確認しましょう」で十分です。短文・単一情報で伝え、いま・ここ・一緒にを軸に行動へ橋渡しします。反応やトリガー(時間・場所・前駆要因)は簡潔に記録し、次回に活かします。
※エビデンス
厚生労働省
意思決定支援ガイドラインをより理解するための事例集(令和7年3月)
短い説明を繰り返し、見える化で理解を助ける工夫を具体例で提示。同じフレーズを一貫して用いることで安心が高まり、合意形成が進みやすくなる点を解説。
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484892.pdf
- Q夜間不穏や帰宅願望で“否定しない”と安全は両立できる?
- A
非拘束を前提に、照明・騒音・導線を整える環境調整と、見守り位置の明確化、交代ルールで対応します。受容→短い提案→小さな合意の順を保ち、必要な観察を強化します。緊急時は組織手順に沿って記録と評価を行います。
※エビデンス
厚生労働省
身体拘束廃止・防止の手引き(改訂版)
尊厳の保持と非拘束を基本に、環境調整と体制整備(見守り・交代・記録)で安全と安心の両立を図る枠組みを整理。例外的な緊急対応の要件と記録・評価の流れも示す。
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001248430.pdf
- Q薬物療法はいつ検討する?注意点は?
- A
非薬物的介入を第一選択として徹底し、効果が不十分でリスクが高い場合に必要最小限で検討します。用量・副作用を慎重に確認し、継続評価で減量・中止を視野に入れます。病型(例:DLB)による注意点も併せて確認します。
※エビデンス
日本認知症学会
かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
BPSD管理で非薬物的介入を第一選択とし、薬物は必要時に限定。効果・副作用・用量、継続評価と減量・中止の判断、病型別の留意点を詳細に整理した実践的ガイドライン。
https://dementia-japan.org/guideline/
まとめ:手順でそろえる――評価→調整→受容→提案→記録
本記事は、非薬物的介入を第一選択とする学会・行政の資料に基づき、評価→環境調整→否定しない言葉→安心提示→行動提案→記録という流れを標準化しました。現場では、短文・単一情報で伝え、いま・ここ・一緒にを核に小さな合意を積み上げます。手順と記録をチームで共有し、再評価で更新してください。
現場の最小セットを導入する
共通フレーズカード、トリガー記録(時間・場所・前駆要因)、週1のミニカンファレンスを用意します。非拘束の前提で見守り位置と導線を固定し、夜間も同じ手順で回せる体制を整えます。
明日からの実装ポイント
感情の受容を先に置き、事実訂正は安全確保後に短く。提案は2択で、成功条件を記録します。同じ言葉・同じ順序が再現性と安心につながります。
コメントやシェアで、現場で役立った言い換えや環境調整の工夫を教えてください。実装手順の改善に活用し、より良い「否定しない」ケアを一緒に広げていきましょう。
出典:
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
厚生労働省
意思決定支援ガイドラインをより理解するための事例集(令和7年3月)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484892.pdf
厚生労働省
身体拘束廃止・防止の手引き(改訂版)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001248430.pdf
日本認知症学会
かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
https://dementia-japan.org/guideline/
厚生労働省
認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する薬物療法の進め方(リーフレット)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000036k0c-att/2r98520000036k1t.pdf
更新履歴
- 2025年9月28日:新規投稿